少女に手を引かれながら『アナタ』はマサラタウンの外へとやってきた。
トキワシティまでの道のりはある程度柵などで舗装されており、道なりに進めば辿り着けるようになっている。
「ではトキワシティへ向かう道すがら、ポケモンバトルに関する説明をさせていただきますね」
そう言って少女は『アナタ』の隣を歩きながらその指先をピンと伸ばした。
「ポケモンバトルとはその名の通り、ポケモンとポケモンを戦わせることですがバトルの形式は大きく分けて三種類に分かれています」
バトルの種類?
シングルバトルだとかダブルバトルだとかそういうことだろうか。
そんな『アナタ』の思考を読んだかのように少女は首を振り。
「一つはトレーナーバトル。つまりトレーナー同士でのバトルですね。二つ目が野生バトル、野生のポケモンとのバトル。三つ目が……まあこれに関してはいずれ、ですね。それから……そうですね、少しだけ表示してみましょうか」
告げて少女が指先をついーと動かすと、ぴこん、と電子音が響いて目の前に二つのホロウィンドが表示される。
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アルセウス Lv:1
HP▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬
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片方のホロウィンドには実機で見るようなHPバーにレベル表記。
=====【戦技】=====
『かくとう』ちきゅうなげ*1
『エスパー』コスモパワー*2
『ノーマル』しぜんのめぐみ*3
『あ く』おしおき*4
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そしてもう片方のホロウィンドにはセットされた技の一覧とその効果。
「これがバトル時の基本画面になります。それぞれの説明は必要ですか?」
『アナタ』は首を振る。大よそ実機と同じ形式のため見れば分かる。
そんな『アナタ』の言に分かりましたと少女は頷き、話を続ける。
「従来のシリーズとの差異として、今作はリアルタイムバトル形式で行われます。つまりターン制という概念がオミットされています」
イメージとしてアニメのような感じだろうか、と『アナタ』は考えた。
しかしそうなるとターンカウントで発揮されたり消去されるような類の効果はどうなるのだろうと尋ねてみる。
「そういった物には秒数が設定されています。大よそのイメージですが従来シリーズでの1ターンが12秒ほどと考えください」
となると5ターンで1分。
特性などを考えるとそれくらいだろうか。
「次に注意点ですが、全ての技には発動時間が設定されています」
発動時間、という聞きなれない言葉に『アナタ』は首を傾げた。
「分かりやすく言うと技の優先度になります。トレーナーがポケモンに技を指示して実際に発動するまでの時間ですね。優先度の高い技ほどこの発動時間が短く、優先度の低い技ほど長くなります」
つまり技を連打したりとかそういうことができない、ということだ。
ターン制が無い代わりにこの発動時間で実質的ターンを再現しているのだと考えれば納得もいった。
そんな『アナタ』の考えに少女が頷く。
「大よそそんなところです。ただバトル自体はリアルタイムで進行するため優先度の低い技を二度三度繰り出す間に優先度の高い技は三度、四度と繰り出すことも可能になります」
とは言え優先度の高い技は反面、威力が高い物が多くない。
逆に優先度の低い技は威力が高かったり、強力な追加効果があったりするので良し悪しなのだろう。
「注意点ですが、従来とは違い今作には『距離』の概念があります。戦技の欄に表記されはいませんが、技にも射程というものがありますので、距離が離れすぎていると届かない、ということもあります。逆に相手から距離を取って技から逃れるということもできます」
まあ普通にバトルする分には難しいですが、と少女が付け加える。
「また周囲の環境を利用して戦うこともできます。例えば……」
きょろきょろと少女が周囲を見回し、道から外れたところに生えている木を見つける。
「ああいった木を遮蔽物として使ったり、逆に木を足場に上から攻撃したり、ですね」
本当にアニメみたいだ、と『アナタ』は思ったがそれはそれで楽しそうだったので良い。
「他にも水辺や森、洞窟など環境によって戦い方も異なります。そこはトレーナー様が体験して覚えていく部分となりますので、お楽しみに」
確かに『みず』ポケモンなら水辺のほうが戦いやすいだろうし、『くさ』ポケモンなら森が、『いわ』ポケモンや『じめん』ポケモンなら洞窟などのほうがやりやすいのかもしれない。
そういう細かいところに拘っているのは中々面白い。
とは言え。
説明はそろそろ聞き飽きた。
そんな『アナタ』の内心を読み取ったかのように少女がくすりと笑い。
「では、そろそろ実際のバトルに移りましょうか」
そう言って道を一歩外れる。
「こういう人工的に敷かれた道は比較的野生のポケモンが出て難くなっています。そのため野生のポケモンと遭遇したい場合は……」
少女の呟きを遮るように、がさり、とすぐ傍の草むらが揺れて。
「あ、ちょうど来ましたね」
呟きと共に一匹のポケモンが飛び出した。
* * *
「ギャゥ!」
飛び出してきたのは紫色の鼠のようなポケモン、コラッタだ。
コラッタが『アナタ』を認識し、警戒するように頭を低くする。
「ギャゥゥ!」
そうして威嚇するように鳴き声を上げる。
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コラッタ Lv:2
HP▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬
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そうしてコラッタの頭上に表示されるウィンドに気づく。
どうやらこちらよりレベルが高い相手らしい。
―――直後。
『アナタ』の目の前に突如として大きなホロウィンドが表示がされた。
驚く『アナタ』の隣で少女がホロウィンドを指さす。
「スタンバイフェイズです。ポケモンバトル開始前の準備期間ですね。約10秒程度続きまして、この間にトレーナーはポケモンを選択し、ボールを投げる必要があります、もし10秒以内にこれを行わなかった場合」
目の前のホロウィンドが消えていく。
と同時に腰のホルスターに刺していたボールから突如光が飛び出し、隣に立っていたはずの少女がボールの中へと吸い込まれていき。
ぽん、と再びボールから光が飛び出して『アナタ』の目の前に少女が出現する。
「と、スタンバイフェイズ中にポケモンを選択していない場合、このように強制的に先頭のポケモンが飛び出します」
そうして少女がコラッタのほうへと向き直り。
「バトル開始です。指示をください」
スタートの表示がまるで画面が砕けるようなエフェクト共に消えていき。
―――コラッタの『たいあたり』!
視界の端にそんなログが見えたと思った直後。
コラッタが僅かな間、全身を屈め溜めを作り。
「ギャァ!」
放たれた矢のように勢いよく走り出す。
すでにバトルが始まっているのだから当然攻撃してくる、そのことに気づき。
「トレーナー様……まずは攻撃技を選択しましょう」
直後聞こえた少女の声に、『アナタ』は咄嗟に技の一つを選択する。
―――アルセウスの『ちきゅうなげ』!
少女が拳を握り、その手を伸ばす。
直後にコラッタの全身が激突し、少女が片目を閉じその痛みに耐え。
その体を掴む。
そうして。
「えいっ!」
可愛らしい掛け声と共に体を逸らせ、両手で掴んだコラッタを背後へ、そのまま地面に激突させる。
ジャーマンスープレックス?!
唐突なプロレス技に『アナタ』が目を白黒させていると。
「あっ」
少女が何かに気づいたように、声を挙げる。
直後に地面に叩きつけられたコラッタが何事も無いように起き上がり。
「ギャゥ!」
全くダメージが見受けられない様子でコラッタが再び攻撃を姿勢を取る。
そうして直後に『アナタ』は気づいた。同時に少女が何に対して声を漏らしたのかも理解した。
たった今『アナタ』が選択した『ちきゅうなげ』とは。
『かくとう』ちきゅうなげ
威力- 自分のレベルと同じ値の固定ダメージを与える。
こういう技で。
今の少女の【Lv】は1である。
つまり―――。
「これ、負けたかもしれません」
呟いた少女の声と共に、コラッタが再び全力の『たいあたり』を繰り出した。
アルセウスとは『伝説のポケモン』の一体ではあるが、それでも【Lv1】だ。
当然ながらその本来の能力を全くと言って良いほど発揮できない。
単調な攻撃しかできない低レベル帯ではたった一撃のアドバンテージが覆しがたい差を生むことにも繋がりかねず。
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アルセウス Lv:1
HP▬▬▬▬▬▬▭▭▭▭
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ぱっと見たHPゲージが大きく減っていることに気づいた『アナタ』は、咄嗟に躱せ、と叫ぶ。
従来のシステムにそういう機能は無いが。
―――コラッタの『たいあたり』!
「っと」
『アナタ』の指示に従って、少女はコラッタの動きを見切り、その一撃を躱す。
驚く『アナタ』だったが、さらに次の指示を出し。
―――アルセウスの『おしおき』!
「こらっ」
少女が拳を握り、コラッタの頭を叩くようにこつん、と叩く。
それほど強く叩いているようには見えなかったが、先程とは違いダメージを受けた様子でコラッタが怯む。
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コラッタ Lv:2
HP▬▬▬▬▬▬▬▭▭▭
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先ほどよりも大きくHPが減っている、のだが。
与えたダメージと受けたダメージを考えるとこのまま素直に殴り合うと負ける。
アルセウスが、コラッタに、正面から戦って負ける。
そんな事実に『アナタ』がため息を吐きたくなった。
とは言え、しっかり見て良ければ攻撃を躱せるのならば、『アナタ』がちゃんと指示できれば勝機はあるだろう。
そうこうしている内にコラッタが立ち止まり。
―――コラッタの『しっぽをふる』!
ぶんぶんと尻尾を振って、こちらの『ぼうぎょ』を下げてくる。
とは言えこちらが使える技など実質一択なので指示は変わらない。
―――アルセウスの『おしおき』!
これでようやく半分超えたと言ったところか。
だが自身の危機に気づき、コラッタの目が怒りに燃える。
攻撃してくる、その『意思』のようなものが何となく感じられる。
故に少女に様子を見るように指示を出すと。
―――コラッタの『たいあたり』!
突撃してくるコラッタをひょいと躱す。
レベルが低いからなのか、ただ無策に突撃してくるだけなので、様子見に徹していれば躱すことはそれほど難しくは無いようだった。
そうして入れ替わりに『アナタ』は少女へと攻撃を指示し。
―――アルセウスの『おしおき』!
少女の攻撃がコラッタへと命中し。
―――きゅうしょにあたった!
そんなシステムメッセージが表示されると同時に、コラッタが目を回して崩れ落ちる。
疲れた、そんな風に『アナタ』が肩の力を抜いていると。
テテテーン♪
聞き覚えのある音が耳に入り、『アナタ』は視線を上げる。
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アルセウスは経験値を得た。
特殊効果:初期ポケモンによって経験値が僅かに増えた。
アルセウスはLv2に上がった。
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「あ、レベルアップですね」
少女がシステムメッセージを読み取り、そう告げる。
しかし最初のポケモンバトルはみんなこんなにシビアなのだろうか、と『アナタ』は少女へと尋ねると、少女は苦笑して首を振った。
「いえ、チュートリアルで選ぶ最初の三匹は初期【Lv】が5から始まるので本当はもっと簡単なんですが」
『アナタ』は本来想定されていなかったはずの少女を捕まえたために【Lv】1からスタートし、これほど苦労したと。
「とは言え、レベル上限が最初から高いので、最終的な苦労を考えるとお得ですよ?」
別に他が良かった、というわけではないと『アナタ』は少女に伝える。
少なくとも『アナタ』は少女が隣にいてくれることを嬉しく思っている。
「そ、そうですか……それは、少し、その。照れますね」
端正な顔を薄っすらと朱に染めて頬を掻く少女に『アナタ』は笑みを浮かべた。
まあそれはそれとして技を何とかしなければならないのだが。
「それは……そうですね」
現状使える技が『おしおき』一択なのは如何ともし難い。
だがレベルアップで技を覚えるにして、まだまだ先の話になりそうであり。
何か良い方法はないか、と『アナタ』は少女に尋ねた。
「そうですね……なら」
少女が少し考えて。
「ラーニングシステムを使いましょう」
ぴん、と指を立ててそう告げた。
実機のダメージ計算機使って計算してみた結果。
アルセウスLv1『おしおき』→コラッタLv2→乱数4発
コラッタLv2『たいあたり』→アルセウスLv1→乱数3発
よって素急所引かない限り、アルセウスLv1はコラッタLv2に『絶対に』勝てません。