「『クエスト』は全ての地方各地で突発的に発生するイベントですね。クリアすると相応の報酬が獲得できます」
はて、失敗した場合どうなるのだろうか、と『アナタ』は首を傾げる。
「失敗した場合、再挑戦は可能です。破棄することもできまして、その場合クエスト報酬は獲得できませんがクエスト発生以前の状態まで戻すことができます。えーっと、つまり今クエストを破棄すると図鑑が戻ってきますね。どうしましょうか、マスター様」
当然クエスト続行であることを『アナタ』は告げる。
折角のイベント。ここで退く理由など一つとしてありはしない。
「分かりました。では逃げて行ったピカチュウを探しましょう」
そう言って歩き出す少女の後を『アナタ』は追っていく。
とは言え、どこに行ったのかアテがあるわけでもなし、この広い森の中をあてずっぽうに……というのも中々に現実的ではない。ゲームだが。
そう、ゲームなのだ。
これはゲームのイベントなのだ。
つまり何らかの解決手段があり、プレイヤーがそれを解くことを前提にされている。
その解決手段を探すことが『アナタ』の役割になるのだろう。
どこかにヒントでも無いだろうか、と『アナタ』は周囲を見渡して。
「ピカ?」
草影からこちらを見つめるつぶらな瞳と視線が合った。
>>クエスト更新『ピカチュウのワクワクおにごっこ』
┗①ピカチュウを見つける
┗②ピカチュウを追いかける
「ピ~カ~♪」
『アナタ』に気づかれた瞬間、ピカチュウが脱兎のごとく逃げ出す……ネズミなのに。
待て、と追いかける『アナタ』だったがあっという間に見えなくなる。
「えっと、あっちに行きましたね」
野生のポケモンがいるため少女に先導してもらいながら木々を掻き分けて進む。
そう道中に何度かピカチュウを見つけ、その度に逃げ出す。
クエスト名を見る限り、どうやら『おにごっこ』をしているらしい。
それは良いのだが、問題はこれがいつまで続くのか、ということだ。
パターンとしては二つ。
ピカチュウが満足するまで相手をすれば終了。
これなら別に良いのだ、こうして追いかけ続けていればいつかは終わるのだから。
問題はもう一つだった場合。
即ち、ピカチュウを捕まえるまでは終わらない場合。
こっちだった場合、延々と森の中を彷徨った挙句に、タイムオーバーか、或いは徒労ということになってしまいかねない。
だったらピカチュウを捕まえてしまえば良い、と思うのだがそれはそれで問題がある。
あの『でんこうせっか』のごとく素早い動きのピカチュウをどうやって捕まえるのか、だ。
馬鹿正直に真正面から行っても絶対に捕まえられないと『アナタ』は思った。
だがクエストである以上、何らかの『正解』があるはずだ。
そうしてしばらくピカチュウに付き合って森の中を彷徨い、何度となくピカチュウに遭遇しては逃げられるを繰り返す。
その内やがて『アナタ』は気づく。
ピカチュウを見失ってから再び出現するタイミングに規則性があることに。
時間……というより実機的に考えれば歩数だろうか?
ピカチュウが逃げ出してから大よそ100歩。それだけ歩くと再びピカチュウが近くからこちらを覗き込んでいる。そうしてこちらと視線を合わせると逃げ出す。
そして再度現れたピカチュウに気づかない、或いは視線を合わせないとそのうち自分から草むらを揺らして存在をアピールしだす。
故にまずは足元に転がる適当な木の枝を拾って適当な方向に投げつける。
そうして。
「捕まえましたよ」
「ピカッ?!」
無意識的にそちらに注意を向けるピカチュウの視線がほんの僅かの間『アナタ』から外れている間にボールに戻した少女をピカチュウに向かってひょい、と投げ……飛び出した少女がピカチュウを両手に抱える。
「これは返してもらいますよ」
「ピーカ♪」
ひょい、と少女が図鑑を取り上げるも楽しそうにピカチュウが鳴き声をあげる。
これでクエストクリアかと思った『アナタ』だったが。
>>チェインクエスト『ピカチュウのドキドキかくれんぼ』
┗①ピカチュウが30秒数えている間に隠れよう
┗②15分間ピカチュウに見つからないようにしよう
続いて出現したホロウィンドウを読み、まだ終わりではないことを『アナタ』は悟る。
「ピ~カ~♪ ピーカー♪」
楽しそうに木の幹に顔をつけて視界を隠しながら鳴き声をあげるピカチュウ。
同時に『アナタ』の視界に28,という数字が表示されている。
ピカチュウの鳴き声と共に27,26とカウントダウンされているのでこれが隠れるための制限時間、ということだろう。
さてどこに隠れるべきか?
『アナタ』は取り合えずできるだけ離れた場所へと走り、カウントダウンギリギリに草むらに隠れた。
「ピーカーピーカー♪」
そうして5分どころか1分もしない内にピカチュウの鳴き声が聞こえてくるとがさがさと目の前の草むらが揺れて、ぴょこり、と黄色いラブリーな顔が飛び出してくる。
「ピーカー♪」
見つけた、とでも言いたげなピカチュウの笑みと同時にクエスト失敗の表記。
===========
>>クエストに再挑戦しますか
はい ←
いいえ
===========
失敗表記の後に再挑戦画面が出たので当然『はい』を押すと、先ほどと同じようにピカチュウが木のほうを向いてカウントを始める。
先ほどは草むらに隠れて失敗したことを反省した『アナタ』は今度は少し離れた木の上に登って隠れる。
「ピーカーチュ~♪」
あっさり見つかった。
再挑戦。
ならば灯台もと暗し、とピカチュウが伏せている木の裏に隠れて。
「ピカチュ~♪」
当然見つかる。
再挑戦。
ならば十五分間動き回れば、とカウントダウンが終わっても走り続けて。
「ピ~カ~!! チュ~♪」
『でんこうせっか』がごとき速度で『アナタ』に駆け寄ってきたピカチュウに発見されて失敗。
再挑戦。
失敗。
再挑戦。
失敗。
再挑戦。
失敗。
それから何度となく再挑戦し、その度にピカチュウに見つかって失敗する。
無理ゲーでは?
そんな思いが『アナタ』に去来する。
隠れても隠れてもどうやってかは知らないがピカチュウはこちらの居場所をあっさりと見つけてくる。
だからと言って走って逃げても『でんこうせっか』がごとき速度で迫って来てあっさり捕まる。
果たしてこれはクリアする方法があるのだろうか?
「トレーナー様、ヒントをご利用になりますか?」
そんな『アナタ』に少女がそんなことを告げる。
どうやら少女の『メタ』な部分でヒントが出せるらしい。
どうにも手詰まり感があるためヒントをもらうことを少女に告げれば、分りました、と少女が一つ頷く。
「このクエストの正答はいくつか存在しますが、一つ言えることは『見つかってはいけないのはクエストを発生させたトレーナー様である』ということです」
一瞬意味が分からない、そんな当たり前のことを、をも思ったがすぐにその言葉の意味に『アナタ』は気づく。
少しばかり思案し、一つ作戦を思いつく。
試す価値はあるだろう。
* * *
「ピーカー、ピーカー、ピーカーチュウ!」
カウントが0になる、と同時にピカチュウがばっと振り向く。
すぐさまその全身から微弱な電波を飛ばし、周辺に飛ばしていく。
その反射波によって大まかな地形と周辺の存在を感知する様は完全にレーダーである。
「ピカチュ~♪」
見つけた、と楽しそうにピカチュウがレーダーで人の存在を感知した方向へと走りだそうとして。
「はい、捕まえました」
その体を少女が抱える。
「ピカ?」
「少しばかり大人しくしてくださいね。『きのみ』もありますよ?」
「ピ~カ~♪」
少女が告げながら抱えたピカチュウを膝の上に乗せて、先ほど森で集めてきた『きのみ』を差し出せばピカチュウが破顔して『きのみ』を受け取り、ポリポリと齧りだす。
そうして少女の膝の上でお腹一杯になるまで『きのみ』を食べ、その背をゆったりと撫でられて眠くなったピカチュウがすやすやと寝入ってしばらく。
>>クエスト『トキワのもりのちいさなどろぼうをさがせ』【クリア】
カウントが0になると同時に近くの草むらから『アナタ』が姿を現す。
同時に少女の膝の上のピカチュウが目を覚ました。
「ピ~カ~!」
散々遊んでもらったピカチュウが嬉しそうに『アナタ』の足元をぐるぐると周り。
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>>クリア報酬選択
┗【わざマシン『10まんボルト』】
┗【かみなりのいし】【でんきだま】【じしゃく】
┗【ピカチュウ】
===============
『アナタ』の目の前にホロウィンドウが表示される。
どうやら今回のクエストのクリア報酬らしい。
この中から一つ選んで報酬を受け取るらしい、が。
―――報酬【ピカチュウ】が選択されました。
「ピ~カ~♪」
足元で『アナタ』に懐いていたピカチュウが嬉しそうに鳴き、そのまま近くの草むらに飛び込んで姿を消す。
報酬選択したのだがまさか報酬の『ピカチュウ』というのは別固体なのだろうか、と『アナタ』が目を丸くしているとがさがさと草むらが揺れ、再び先ほどのピカチュウが戻って来る。
「ピカチュ~!」
その手元にはどこから持ってきたのかモンスターボールがあり、ピカチュウが『アナタ』にボールを差し出してくる。
その意味を理解し、『アナタ』はボールをピカチュウのほうへと向けると、ピカチュウが先端のスイッチを押し、自らボールの中へと入っていく。
かたり、かたり、かたりとボールが三度揺れて、かちん、とロックのかかる音が鳴る。
同時に『アナタ』の手元の図鑑がぴこん、と電子音を立てる。
画面を覗き込めば『ピカチュウのデータが登録されました』と表記があった。
「二匹目のポケモンゲットおめでとうございます、マスター様」
傍らの少女が『アナタ』に向かってそう告げると、『アナタ』は早速ボールからピカチュウを出す。
「ピカ~♪」
人懐っこい性格なのかさして警戒する様子も無く『アナタ』の足元に体をこすりつけるその様は愛らしい。
と同時に、先ほどまでイベント補正だったのか一度もポケモンに出会わなかったのだがイベント補正も終わったのか草むらから巨大な緑色の芋虫のようなポケモン……キャタピーが飛び出してくる。
================
キャタピー Lv:4
HP▬▬▬▬▬▬▬▬▬▬
================
こちらに気づき、戦闘態勢に入るキャタピー。
その直後。
バトル準備に入る。
少女に頼もうかと思ったが、今ゲットしたばかりのピカチュウも使ってみたいと思いピカチュウのデータを確認する。
===========【ステータス】=============
| 名 前 | ――― |
| 種 族 | ピカチュウ/原種 |
| 性 別 | ♀ |
| レベル | 8/100 |
| 能力① | HP:D こうげき:D ぼうぎょ:D |
| 能力② | とくこう:D とくぼう:D すばやさ:C |
| B P | 35 |
| 特 性 | わるいてぐせ |
| 戦 技 | でんきショック/でんこうせっか/かげぶんしん/???? |
| 旅 技 | ――― |
| 特 殊 | ちいさなどろぼう*1 |
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やはり低めのステータスではあるが、相手がキャタピーであるならば問題無い。
寧ろ問題なのは特性である。『せいでんき』と『ひらいしん』はどこに行ったのか、そして『わるいてぐせ』なんてどこから持ってきたのか。
取り合えずピカチュウで問題は無さそうなのでピカチュウを選択し、次のフェイズへ。
「ピーカピーカー!」
ふんす、と鼻息を荒くしながら大地に四つん這いになり臨戦態勢のピカチュウがキャタピーを見やる。
そうして。
バトルスタートと同時に先手必勝とばかりに『アナタ』はピカチュウへ指示を出す。
―――ピカチュウの『でんこうせっか』!
「ピカピカピ~カ~!!」
================
キャタピー Lv:4
HP▬▬▬▬▬▭▭▭▭▭
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実機でも優先度の高かった出の早い技で一瞬にしてキャタピーとの間を詰め、その体ごとぶつかっていく。
キャタピーが吹き飛ばされるがすぐに態勢を立て直し。
―――キャタピーの『いとをはく』!
キャタピーの口部から放出された糸だが『でんこうせっか』の硬直からすでに抜け出していたピカチュウはその場から移動している。
実機だと『すばやさ』が下がるだけの技ではあるが、現実にこれだけの量の糸に絡めとられると行動不能に近いのではないか、と『アナタ』は思った。
当たれば危険な技だがもう問題はない。
先の『でんこうせっか』が真っ芯を捉えたお陰ですでにキャタピーのHPは半分近い。
「ピ~カ~!」
―――ピカチュウの『でんきショック』!
今使える最大威力の技を指示する。
ピカチュウがその頬の電気袋を両手で擦るようにするとバチバチと電気が放出されて。
「チュ~!!」
放たれた電撃がキャタピーを捉え、キャタピーが『ひんし』となる。
ピカチュウの完勝だった。
『アナタ』がしゃがみ、そっと手を出せばピカチュウも嬉しそうにこちらに駆け寄って来て。
「ピーカーチュ~!」
ぱん、と『アナタ』とピカチュウの手が叩き合って小気味良い音を立てた。
というわけで特殊個体のピカチュウゲットです。