流れ星が夏の大三角をめちゃくちゃにした。デネブとアルタイルの中を引き裂き、ベガの隣をぶつかりそうな勢いで通り過ぎる。
「エヴァ少尉、隊列が乱れている。修正しろ」
隊長の言葉で現実に引き戻される。確かに自分の機体が遅れているので元の位置に戻る。もう一度、夏の大三角に目を向けると、流れ星は既に消えていた。
「すみません隊長。気をつけます」
僚機からの通信が入る。スクリーンに映し出された顔には不安の色があった。
「大丈夫?なんか調子悪そうですけど」
トレンが心配している。このままではイカンと、ヘルメットの上から顔を叩く。
「大丈夫だ。問題無い」
深呼吸して心を落ち着かせる。3機のバーザム改で編成された俺達のアイヴィ隊、その横にはブライアン・エイノー提督率いる艦隊がいる。数隻のサラミス級率いる艦隊のその圧巻の姿につい見とれてしまう。
「そろそろ例のポイントを通る。2人とも注意しろ!!」
隊長の言葉がコクピットに響く。計器や機体、弾数に問題ないかチェックし、一通りチェックが終わると改めて気合を入れた。ここから先は敵機が出る可能性が高い。今までの安全地帯での護衛任務とは違う。人生初の実践の場がここになるかもしれない。
ゆっくりと目を閉じる。緊張で少し手が震える。命をかけた戦いをするのは怖い。だが敵機が出てきて欲しくないかというとそういう訳では無い。ここからのし上がっていくには"罪滅ぼしの実績"が必要なのだ。大きく息を吸って、覚悟を決めて、目を開けた。
U.C.(宇宙世紀)0087年3月2日、地球連邦軍内でスペースノイド(宇宙出身、主にコロニー出身)派のエゥーゴとアースノイド(地球出身)派の内部争いが勃発した。この争いは次第に激化し、途中からアクシズ(新ジオン)も交えた三つ巴の戦いになった。
グリプス戦役と呼ばれるこの戦い、俺達の全ての始まりはここからだった。当時ティターンズの士官学校を卒業したばかりの俺とトレンは、教官であるコナー大尉と共にゼダンの門(グリプス戦役の最終決戦地)に向かう卒業生の船団の護衛を行っていた。MSによる護衛、結局俺達の船団が戦地につく前にグリプス戦役は終わってしまったため戦う事は無かった。
ティターンズはエゥーゴに敗れた。しかもティターンズはスペースノイドを弾圧し、多くの民間人を虐殺してきた。そのスペースノイドに敗れたのだ。スペースノイド派に傾いた地球連邦軍内で、元ティターンズという肩書きは想像以上の重荷だった。元ティターンズというだけで辺境の基地に送られる。送られる事がないにしても、もう日の目を見る事はないに等しかった。俺とキサラギ、そしてコナー大尉もその影響を受けたが、運良くブライアン・エイノーの部隊として配属されることになった。
そんな俺達の新たな任務。それはニューディサイズ討伐に向かうブライアン・エイノー提督率いる艦隊の護衛をする事、といっても戦場に向かう訳では無い。戦闘中域に入るまでの護衛だ。
元々ニューディサイズは連邦に残ったティターンズ派の将校達が連邦を裏切って出来たものだ、とすればニューディサイズの仲間がまだ地球連邦軍内に残っているかもしれない。だからこそ後ろから寝首を搔かれないようにするにも護衛が必要だった。
ニューディサイズ・・・それは地球至上主義が諦めきれない者達の組織。ティターンズの成れの果てともいえる相手に元ティターンズの俺達が討伐に少なからずも関わった事に皮肉を感じていた。しかしこれはある意味チャンスともいえる。もしここで大いに活躍し、お偉いさんに"罪滅ぼし"と感じてくれれば、まだ俺にも輝けるチャンスがある。そうすれば俺は・・・ガンダムに・・・。
「はァ・・・」
結局何事もなく、無事艦隊はポイントを通過。そのままアイヴィ隊は帰路についた。何事も無かった事にため息と認めたくはないが安心している所にキサラギから通信が入る。通信ウインドを開くと眩しい光がパッと広がり、思わず目を瞑る。
「写真を撮るな。トレン」
画面の向こうでは一眼レフカメラを構えて笑っているトレンの姿があった。
「いいものが撮れました。少尉の落ち込んでる顔は珍しいですからね」
「少尉呼ばわりもやめろ。名前でいい」
「いいじゃないですか・・・別に・・・」
「駄目だ」
少尉呼ばわりは気に食わない。俺とトレンは士官学校に入る前からの中だ。古い友達とは名前で呼び合うのがいい。
「分かりましたよ。ガルニュ・エヴァ・パシジョレック」
「フルネーム呼びもやめろ。しかしお前だって悲しいだろ。貴重なチャンスだったのに・・・」
「まぁ、確かに貴重なチャンスでしたけど次がありますよ。死んでなきゃチャンスはいくらでもあるものです」
ふとモニターに映るトレンが別の方を向く。どうやら隊長からの通信が入ったようだ。
「・・・はぁ・・・すみません・・・はぁ・・・分かりました。フラッシュ消します・・・はぁ・・・すみませんコナーさん・・・」
どうやら隊長が先程のやりとりを聞いていたらしい。写真の事で怒られているらしい。そりゃそうだ、フラッシュは目に悪い。隊長のお叱りが終わると今度はこっちに通信が入った。
「エヴァ少尉、そろそろ母艦につく。着艦の準備をしろ」
「了解しました」
モニターに母艦のサラミス級が映し出される。隊長、キサラギ、俺の順番に着艦シークエンスに入り、無事着艦した。着艦後、計器等のチェックをしてコクピットのハッチを開ける。するとまた眩しい光に晒されて目を瞑る。
「やめろって言って・・・」
文句を言おうとして光の正体がキサラギでないことに気付く。よく見ると光の先には拳銃を向けた複数の男、その真ん中にはスーツを着た男が立っていた。
「お前を連邦政府反逆罪で拘束する」