探偵少女シャーロック   作:ささもり

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プロローグ

プロローグ

 

 

 

「―君、そこでタバコを吸うのはやめてくれないかね?」

 

 

 

 学校の屋上でこそこそとタバコをふかしていたら、急に頭上から声が落っこちてきた。

 

可愛らしい女の子の声だ。

 

 

 

「煙がこっちに上ってきて堪らないんだ」

 

 

 

 声の聞こえてきたほうに視線を向けると、塔屋の縁に腰をかけた少女と目が合った。

 

惚れ惚れするほどに綺麗な緋色の瞳。陶器のような白い肌。はちみつ色をした細やかな金髪。

 

先ほどの変な話し方からは想像できないような美少女が、クリっとした目を細めこちらを

 

睨みつけてきている。

 

 

 

「...聞こえてないのかい?今すぐその安物たばこの火を消せと言っているんだ。

 

もしくはもっとあっちのほうに行って吸え、ここで吸われると臭くてかなわん」

 

 

 

「あ、あぁ悪い」と一言謝り、手に持ったパーラメントの火種を急いでつぶす。

 

吸殻を持ち運びの灰皿にしまい、金髪の少女に一瞥をくれると既に彼女は手に持っている本に

 

視線を落としていた。

 

 ただ本を読んでいるのに随分と絵になるもんだ。と思うのと同時に一つの疑問が

 

浮かぶ。

 

 

 

(こいつ、なんでこんな変な格好してんだ?)

 

 

 

 さっきはその優れた容姿に見惚れて気づかなかったが、彼女は学校の制服でなく

 

茶色を基調としたインバネスコートにミニスカートという、まるでミステリ映画に出てくる

 

探偵のような恰好をしている。

 

 

 

「初対面の少女を視姦するのが趣味なのかなんなのかしらないが、あんまりジロジロとみられると

 

気が散るから遠慮してくれると助かるよ」

 

 

 

 あまりにも異質な光景だったからか、どうやら自分でも気づかないくらい

 

長く彼女のことを見ていたみたいで反感をかってしまった。

 

確かに、初めて会う少女のことをまじまじ見るのは失礼だしキモかったかも...。

 

 

 

「悪かったよ、もう行くから気にしないでくれ」

 

 

 

 随分と嫌われたみたいだし、さっさとこの場から離れてしまおう。と

 

入口のドアのほうへ向かうと「ちょっと待ちたまえ」と呼び止められ、もう一度

 

そちらを見るが、彼女は依然本から目を離さずに口だけを動かしていた。

 

 

 

「気まぐれで忠告しておいてやると、今の時間は時計塔にはいかないほうがいい。

 

講師のメアリーとダンが使用している、タバコなんかが見つかったら面倒なことになるぞ」

 

 

 

 いま、こいつなんて言った?

 

 

 

「お前...なんでその事知ってんだ?」

 

 

 

「ん?あぁ前に噂で聞いたんだよ。なんでも逢引きしているらしいぞあの二人

 

いやぁ、いい歳なのにお盛んだねぇ」

 

 

 

「いや、そっちじゃなくて。なんで俺が時計塔に行くこと知ってたんだ?」

 

 

 

 俺はさっきの会話の中で時計塔に行くなどとは一言も言ってないし、それっぽいことを

 

匂わせてもいないと思う。にもかかわらず彼女は『時計塔にはいかないほうがいい』と

 

言ってきた。俺がこの後、時計塔に行くことなど知るはずもないのに。

 

 

 

「知っていたって表現は間違いだな、私は占い師じゃないんだ。君の行動なんて知る由もない」

 

 

 

 文末に「君のことなんて毛ほども興味ないしね」と辛らつな一言が添えられる。

 

なんで俺は初めて会う子にここまでの扱いを受けなければならないんだ...。

 

 そんな俺の思いなど知ったこともないというように話が続けられる。

 

 

 

「これはそんなオカルティックなものじゃないよ、単純な推理というやつさ」

 

 

 

 彼女は言いながら本を置いて、俺の足元を指さした。

 

 

 

「君の靴に泥がついている。この学園で舗装されてない道があるのは時計塔への道だけだ。

 

昨日から明け方にかけて雨だったからね、道がぬかるんでたんだろう」

 

 

 

「俺が学校サボって街に出かけたって可能性もあるだろ、偉そうに披露できるような推理じゃないな」

 

 

 

「まぁ待て、推理とは複数の要素から結論を導き出すものだ。落ち着いて続きを聞きたまえ」

 

 

 

「それじゃあ、続きなんだが二つ目の要素は匂いだな」

 

 

 

「匂い?」

 

 

 

 嘘?もしかして俺臭い?

 

少し不安になって制服の袖をかいでみた。臭くはない...多分。

 

 

 

「体臭の話じゃないよ、私が今言ってるのは古い油の匂いだ。

 

人の体に匂いが染みつく程となれば、相当な量の油が使われている場所

 

に限られる」

 

 

 

「この学園内でそんな場所があるとすればボイラー室か時計塔の二択。

 

そして先ほどの推理と組み合わせれば答えは時計塔一択になるわけだ」

 

 

 

「答え合わせはこれでおしまいだが、どうかね?」

 

 

 

「...あってるよ、大正解だ」

 

 

 

 どや顔でこちらを見ているのが少しむかつくが、彼女の推理は正しくて

 

俺はそれを肯定することしかできなかった。

 

 彼女は推理を披露できて満足したのか鼻歌なんか歌っている。

 

 

 

「にしてもなんで時計塔なんかに通ってるんだい?たばこを吸いに行くには遠いだろう」

 

 

 

「俺に興味なんてないんじゃなかったのか?」

 

 

 

「別に君に興味があるわけじゃないよ、私が興味あるのは時計塔のほうさ

 

わざわざ足を運ぶ何かがそこにはあるんだろう?」

 

 

 

 先ほどまでの不愛想な態度から打って変わって、彼女はその緋色の目をキラキラと輝かせている。

 

 

 

「別に大した理由じゃねーよ。ただ最近、野良猫が迷い込んだみたいだから餌を持っててやってるだけだ」

 

 

 

「なんだつまらん、もっと死体遺棄とかインパクト強いことしていてくれよ」

 

 

 

「インパクトのためだけに人を殺しててたまるか」

 

 

 

 どうやら、俺の答えはお気に召さなかったようでつまらなそうな反応をされてしまった。

 

 

 

「...俺からも質問してもいいか?」

 

 

 

「物によるな」

 

 

 

「なんでお前そんな変な格好としゃべり方してるんだ?」

 

 

 

 俺だけが質問に答えるのも不公平だと思ったので、最初から気になっていたことを

 

尋ねてみると彼女の顔色がだんだんとこわばっていく。

 

 もしかしたらなにかの地雷を踏んでしまったかもしれない。

 

 

 

「変な格好とは失礼だな。私の格好は上から下までどこをとっても高級品のオートクチュールなんだぞ!?」

 

 

 

「それただ高いだけの変な格好だろ?」

 

 

 

「だから変じゃないと言ってるだろう、いいか?この衣装はかのシャーロック・ホームズを

 

模して造られた限定品なんだ!お前の美的センスが腐ってるだけで素晴らしい服なんだよ!」

 

 

 

 本当にさっきまでの少女とおんなじ人間か?と疑いたくなるほどに目の前の彼女は年相応に

 

声を荒げ、顔を真っ赤にして自らの服のすばらしさを説いてくる。

 

 だが残念なことに、俺に服飾の知識はないのでどんなにその服が素晴らしかろうと

 

まったく理解できない。

 

 

 

「まぁそういう年ごろなのもわかるけどさ、流石に探偵服はへんだからやめておいたほうがいいぞ?」

 

 

 

「わからないやつだなぁ!ほら、もっとちゃんと見ろよ!よく見れば良さがわかるはずだからッ!

 

...んなッ!!?」

 

 

 

 よっぽど頭にきたんだろう。少女は塔屋の上に立ち上がりその衣服を主張してくる。

 

だが、俺の目に入ってきたのは主張された探偵服ではなく...

 

 

 

 

 

 風によってめくられたスカートの中にある、乙女の秘境だけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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