その指揮官、助平につき   作:暑坊/atuboo

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その指揮官、助平につき

「くっ、殺せ!」

 

 執務室に響き渡る怒号と悲鳴が入り混じったわたくしの声に場の空気が張り詰める。

 

「よ、よくわからないが待ってくれ!」

 

 目の前の男は返す。だがわたくしはお前の言いなりになるつもりはない。

 

「待つつもりはありませんわ!さぁ早く!その腰から下げている銃でわたくしを撃ちなさい!お前に穢されるくらいなら今すぐ殺された方がマシですわ!」

 

 目の前の男は目を白黒とさせている。なんて事、この男は自分の指揮官という立場を利用してわたくし達戦術人形を手篭めにするクセにいざこうも強く出られると日和るのか。見下げ果てた男だ。軽蔑の眼差しを向けていると目の前の男は何かに気がついたらしい。

 

「待てStG44!たぶん何か勘違いをしている!」

 

 勘違い?勘違いですって?冗談ではない。元の部隊からはぐれ彷徨ってる所をこの基地の部隊に救出され、幸いにも損傷の少なかったわたくしは直接この執務室に通され指揮官が戻ってくるまで待機を命じられた。しかし指揮官の机を見てみたらどうだ。机の上に置かれているネームプレートには【助平】と書かれているではないか。

 その文字の羅列を見た瞬間は解らなかったが、崩壊液の流出で滅びた遠い極東の国の文字であるとわたくしのデータは判断して意味を調べて絶句した。

 好色家、性的な事にだらしのない、目の前にいる男は自らそう名乗っているのだ。おそらく指揮官という立場を利用して戦術人形達にいやらしい事を迫り強要しているのだろう。きっとそうだ。わたくしはこんな男にこの身を穢されるのなんてまっぴらごめんだ。

 でも執務室に通される時にわたくしの分身は一度手放してしまって手元にない。それならばいっそ、腹わたが煮えくりかえるがこの男に殺されようと声を張り上げた。

 それなのにこの男は未だたじろいでいて腰に下げている銃を抜こうとはしない。まさか今のわたくしのこの姿を楽しんでいる?だとしたら最低で最悪だ。ならばわたくし自身でその銃を奪い自らを撃とう、そう思ってその男に近づこうとした時だった。

 

「一体なにがあったのですか!」

 

 その声の主はこの基地のMP40だった。わたくしを救出してくれた部隊の部隊長である。この男が執務室に入ってくる時にドアが開きっぱなしだったから、わたくしの声が外の廊下にも聞こえたのだろう。そしてまだ武装を解除しておらず彼女の分身であるMP40が肩から提げられて鈍く光っている。

 

「MP40、いいところに来た!あいつを説得するのを手伝ってくれないか!?」

「MP40さん、お願いですわ!その男を今すぐひっ捕らえてください!」

 

 ほぼ同時にわたくしと男は声を発する。二人同時に言われたMP40さんは少し混乱してるようだったのでわたくしは更に続けた。

 

「MP40さん、その男はわたくしを手篭めにしようとするつもりですの!わたくしを助けてほしいのですわ!」

 

 その言葉にMP40さんは、えっという顔をして男の顔を見た。男の方も困った顔をしながらMP40さんの顔を見返す。わたくしの言葉を信じてほしい。そう思いながら5秒程、しかしわたくしにとってはとても長い間の様に感じたところでMP40さんは口を開いた。

 

「指揮官さまはそのような事をする人ではありませんよ」

 

 足元が崩れていくような深い絶望感がわたくしを襲いその場に立ち尽くす。まさかMP40さんはこの男と繋がっているのか。ぐんにゃりと歪んでいくような意識と視界を引き戻したのはわたくしの肩に手を置いたMP40さんの言葉だった。

 

「まずは落ち着きましょうStG44さん。大丈夫です。この指揮官さまはとても優しい人です。優しすぎて優柔不断かつ臆病でヘタレで意気地無しなくらいです」

「ちょっ、MP40ひどっ……」

 

 後ろで男が何か零したのが聞こえたが、わたくしはそれでもまだ疑念を晴らす事ができない。でもMP40さんがそう言うのなら、いやしかし。

 

「StG44さん一つお伺いしますけど、どうして指揮官様に乱暴なことをされると思ったのですか?」

 

 MP40さんが優しく問いかける。わたくしは机の上の【助平】と書かれたネームプレートを指差した。

 

「そこのネームプレートに助平(すけべえ)と……つまりここの指揮官はそういう人でわたくし達に非道い事を強いてくるのかと思って……」

「StG44さん、それ『すけべえ』じゃなくて『すけひら』って読みますけど」

「えっ」

 

 すけべえじゃなくてすけひら。

 わたくしは人様、しかも自分より上官に当たる指揮官の名前の読み方を間違えた挙句に一人で勝手に暴走したのだ。恥ずかしさに顔の温度が上がっていくのが自分でも解る。この死にたくなるような羞恥に誰が耐えられようか。

 

「くっ、殺せ!!」

 

 執務室にStG44の声が響いた。

 




恥ずか死
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