外道、フォドラに立つ〜召喚士と英雄の日常外伝〜 作:(TADA)
街道を行く馬車に乗っているのは三人。シェイカー、マリアンヌ、リシテアである。
彼らの向かう目的地は教会に対し反乱を起こしたロナート卿の居城である。
「先生、なんのためにロナート卿の居城へ向かうのですか?」
当然の質問をしたのはリシテアである。彼女の疑問は最もだ。いつも通りに授業を受けるためにリシテア達は教室に入ると、突然シェイカーが「あ、今節の課題をこなしに行くぞ。随員はマリアンヌとリシテアな」とだけ告げてさっさと出発してしまったのだ。
「それじゃあ確認だ。現在のロナート卿の立場は? マリアンヌ」
シェイカーの言葉にマリアンヌは慌てながらも、頭の中でロナート卿の立場を思い出す。
「きょ、教会に対して反乱を起こし、王国と教会の双方から討伐軍を組まれています。確かアドラークラッセが課題として討伐に赴いていたかと」
「その通り」
シェイカーの言葉にマリアンヌは安堵する。これで間違えればいつもの殺人級授業の課題の量が致死量になってしまう。
「さて、そんなロナート卿の防衛状況は? リシテア」
「はい。まず全軍を持って戦意の低い王国軍に対しこれを撃退、教会の討伐軍に対しても濃霧を利用したゲリラ戦を行っております」
「勝てると思うか?」
「不可能です」
「何故?」
「理由は二つ。まず圧倒的な兵力不足。民兵が加わることで少し増えていますが、焼け石に水の状態。次に教会は力攻めと同時に兵站を切っています。今節の頭から始まった兵站を切る作戦によってすでに城には兵糧は残っていないでしょう」
リシテアの言葉にシェイカーは満足そうに頷く。
「その通りだ」
「しかし、それだと何故私達が行くんですか? アドラークラッセや他の教会の軍から戦功の横取りだと思われませんか?」
リシテアの言葉にシェイカーは面倒そうに手を振る。
「問題ない。この戦いの絵図を描いたのは俺だ。まぁ、ロナートが無能であったならもう終わっていたんだけどな。どうやら意外と有能な人間であったらしい」
「それならば私達の課題とは?」
リシテアの問いにマリアンヌも頷く。ロナートを討つだけならば時間はかかるが教会軍やアドラークラッセが行うだろう。
リシテアの問いにシェイカーはニヤリと笑う。
「ロナート卿を降伏させる」
その言葉にリシテアとマリアンヌは絶句する。
ロナートは嫡子クリストフを教会によって処刑され、それを恨んでの今回の決起だというのがティーガークラッセの総意だ(シェイカーの授業で『ロナート卿は何故反乱を起こしたのか』という課題が出た)。恨みが深い教会に対してロナート卿が降伏するとは思えない。
「無理では?」
だからリシテアは簡潔に自分の教師に聞く。隣のマリアンヌも小さく頷いている。
それに対してシェイカーは講義を行うように軽く手を振る。すると空中にロナートの顔が浮かび上がった。
「さて、世間で言われるロナート卿の評価は? マリアンヌ」
「は、はい」
突然の指名でマリアンヌは少し慌てるが、すぐに調べた情報を脳内で開く。
「王国でも屈指の有力貴族とされている人物で、それを証明するように彼の領内では賊は少なく、民も彼を慕っていると聞きます。それを証明するように彼は民を今回の戦に巻き込まないために避難させましたが、民の方が彼を守るべく武器を取って民兵として参加しています。これもこちらの軍の苦戦の要因になっています」
「その通りだ」
マリアンヌの言葉にシェイカーは満足そうに頷いて空中に浮かんでいるロナートに有能という言葉を付け足す。
「さて、今回のロナート卿の反乱は教会に殺された嫡子の恨みとされる」
シェイカーの言葉にリシテアとマリアンヌは頷く。ディーガークラッセでも内政担当の二人は各国の政治、経済、貴族や貴族同士の結びつきなどをシェイカーに叩き込まれている。だからロナートが教会を恨んでいる理由もわかる。教会によって『ダスカーの悲劇』に加担したとして嫡子が処刑されたからだ。
「だがまぁ、実際のところは違う」
「「?」」
「ロナート卿の嫡子クリストフがしようとしたのは大司教レアの暗殺だ」
「なぁ!?」
思わずリシテアは立ち上がり、マリアンヌも信じられないと言った面持ちで手を口に当てている。
その言葉が真実であるならば、ロナート卿は嫡子どころか自分や自分の縁者も処刑されていてもおかしくない。それほどまでに大司教の暗殺未遂は重罪だ。
「だがレアはロナートを潰しての王国の混乱を考え、嫡子の処断だけで手を打った。だがまぁ間違ったのはせめてロナート卿だけには真実を伝えておくべきだったな。それをしなかったからロナート卿は教会を恨んだ」
「しかし、それだけでは説得には弱いと思いますが……」
マリアンヌの呟きにシェイカーはジロリとマリアンヌを見る。それを見てマリアンヌは小さくなろうとする。だが、シェイカーは笑みを見せた。
「いい判断だ、マリアンヌ。確かにこれだけじゃあロナート卿の説得はできない」
「先生がそう言うってことは何か他にも真実があるってことなですね」
リシテアの言葉にシェイカーは上機嫌に笑う。
「いい読みだ、リシテア。さて、俺が持つ説得材料とは何だと思う?」
シェイカーの言葉にリシテアは考えこむ。
教会に恨みが深いロナート卿を説得できる材料。ロナート卿は死ぬ覚悟を持って教会に対して反乱を起こした。それが無駄死にだと気づかせる……?
「……何故ロナート卿が無駄死にになるのか……」
リシテアの呟きにマリアンヌが何かに気づいたのか口を開いた。
「ロナート卿の嫡子の暗殺未遂には黒幕がいて、その黒幕はまだ生きていると言うことですか?」
マリアンヌの言葉にリシテアは驚いたようにシェイカーを見る。二人の視線にシェイカーは楽しそうに口を開く。
「その通りだ」
「しかし! それはおかしいです! それを知っているなら教会が黒幕を放っておくわけがない!!」
リシテアの言葉にシェイカーは楽しそうにする。
「さて、教会が手を出せない黒幕とは誰だろうな」
その言葉にマリアンヌとリシテアの思考が一致する。
教会が手を出せないのは国。同盟は力が弱いからありえない。だとしたら王国か帝国だ。
「せ、先生はどちらだと思うんですか?」
マリアンヌの問いにシェイカーはなんでもないように答える。
「さて、俺はすでに黒幕の証拠も抑えているから答えを知っている」
その言葉にリシテアとマリアンヌは今度こそ絶句する。シェイカーは何でもないように言っているが、今まで教会が調べていなかったとは思えない。教会が調べられなかったことをシェイカーはあっさりと調べてみせたのだ。
「情報は全てにおいての命だ。それを手にいれる方法はいくつも持っていて損はない。お前達も情報をどうやって手にいれるかよく考えておけ」
その言葉と同時に馬車が止まる。目的地に着いたのだ。シェイカーが最初に降り、マリアンヌとリシテアが続く。
「ひどい濃霧ですね」
リシテアの呟きの通り、あたりは濃霧に覆われていた。
「その声、リシテアか」
「ベレス先生」
そこに濃霧をかき分けてやってきたのはアドラークラッセ担任のベレスであった。ベレスの後ろからはエーデルガルトが目つきを険しくしてついてきている。
「先生、先生に言われた通りにロナート卿を城に追い返しておいた」
「よくやった。追撃軍なんか出していないな?」
「この霧じゃ出したくても出せないわよ」
エーデルガルトの言葉にシェイカーは軽く片方の手を振る。
それだけで覆われていた霧が晴れていく。
それに唖然としたのは教会の軍だけじゃない。濃霧に紛れて奇襲をかけようとしていたロナート軍も唖然としていた。
それを見てシェイカーは胡散臭い笑顔を浮かべる。
「さて、ロナート卿に従う諸君。私を主人のところに連れて行ってくれるかな? ああ、安心したまえ。君たちの主人を害そうと考えているわけではない。むしろ君達の主人を助けに来たんだ」
応接間のソファーに座っているのは二人。片や反乱の主導者であるロナート。もう一人は降伏を勧める使者としてやってきたシェイカーだ。
リシテアとマリアンヌは随員という立場のためにシェイカーの後方に立っている。
ロナートは不機嫌な表情を隠すこともなく口を開く。
「貴様は降伏勧告の使者であったな」
「ええ」
シェイカーの笑みを浮かべながらの言葉にロナートは乱暴に席を立つ。
「ならば私の答えは決まっている。拒否だ。クリストフを殺した教会に降伏などせん」
「さてさて、このままロナート卿が死ねばそれこそクリストフ殿の汚名をそそげる方がいなくなりますが?」
シェイカーの言葉にロナートは激昂する。
「クリストフの汚名を被せたのは他でもない教会であろうが!」
ロナートの激昂もシェイカーは気にした風もなく笑みを浮かべ続ける。
「ロナート卿、こちらをご覧になってください」
シェイカーが手渡した書類をロナートは胡乱げに受け取る。だが、その書類に目を通す内に顔が青褪めていく。
「く、クリストフが大司教を暗殺しようとしただと……!?」
「ええ、その通りです」
「ありえぬ!! 私から見てクリストフはそこまで大それたことをする器ではない!!」
「私はクリストフ殿の人となりを知りませぬ。しかし、父であるロナート卿が仰るのならそうなのでしょう」
「……まさか利用されたのか!?」
ロナートの言葉にシェイカーは笑みを深くする。それにロナートは顔を覆って「あのバカ息子が……」と呟いた。
それを見ていたシェイカーはゆっくりと言葉を続ける。
「ロナート卿。真実を知る覚悟はおありですか?」
「真実とは?」
「クリストフ殿を利用し、大司教を殺そうとした者達のことです」
シェイカーの言葉にロナートは冷や汗を流す。
「これを聞いたらロナート卿には私達に協力をしていただきます。もちろん断っていただいても結構です」
「断ればどうなる」
「別になんてことはありません。王国の貴族が一つ地図から消えるだけのこと」
シェイカーの言葉にロナートは苦々しげな表情になる。
「それでは私に拒否権などないだろう」
「いえいえ、私達に協力していただければ全てが終わったあと、再びこの地にロナート卿のお家を再興させていただきましょう」
シェイカーの言葉にロナートは少し瞑目するが、少ししてため息を吐いた。
「貴殿達に協力する」
「ありがたい。それでは最初の取引と言っては何ですが、こちらが黒幕の者達になっております」
そしてシェイカーはロナートに一枚の書類を渡す。ロナートは刻み込むようにそれを見つめた後、書類をシェイカーに返してくる。
「これは返しておいたほうがいいだろうな」
「お話が速くて助かります」
シェイカーは笑顔でそれを受け取ると自分の懐にしまう。
「それで? 私はどうなる?」
「ロナート卿は同盟にありますエドマンド辺境伯預かりとなります」
突然出てきた養父の名前にマリアンヌは驚くが、それをなんとか表には出さないようにする。
「エドマンド辺境伯も貴殿の協力者ということか」
「エドマンド辺境伯だけでなく、大司教も私の協力者です」
その言葉にロナートは驚いた表情になるが、リシテアとマリアンヌは当然だと思う。
「そこで私にどうしろと?」
「エドマンド辺境伯は辣腕家でありますが、優秀な家臣や協力者がおりません」
シェイカーの言葉にロナートは納得した表情を見せる。
「私にエドマンド辺境伯領の発展をさせる、か」
「ロナート卿には客将としての立場をご用意しております」
シェイカーの言葉にロナートは少し考えるが、力なく頷いた。
「承知した。貴殿の降伏勧告を受け入れる」
「ありがたく」
ロナート卿の言葉にシェイカーは文官としての礼を返す。
「しかし、貴殿達に協力するのはクリストフを利用した者達を倒すためだ」
ロナートの言葉にシェイカーはにこやかな笑みを浮かべる。
「ご安心を。奴らは生かしておく価値のないゴミでございます」
シェイカーの言葉にリシテアとマリアンヌは背筋が凍る思いをしたのであった。
シェイカー
今日も元気に暗躍暗躍ぅ!
リシテア&マリアンヌ
ティーガークラッセの内政担当のために連れて来られた。
エドマンド辺境伯
すでにシェイカーが味方につけていた模様。
ロナート卿
やったね! 生存したよ!
クリストフを使用した方々
闇を蠢く何ちゃらって奴ら
そんな感じでシリアス政治パートですよ!! ぶっちゃけ書いていて楽しかったです。
クリストフくんが闇に蠢く者に利用されていたっていうのは独自設定。どっかで明言されていたかもしれませんが、この作品で悪いことは大体あいつらのせいになります。
そして個人的に有能だと思ったのでロナート卿はスカウト。これにはアッシュくんもにっこり。でも普通に考えて民にあれだけ慕われているって名領主だと思うんですよね。
そしてさらっとエドマンド辺境伯を味方につけているシェイカーくん。こいつ本当に有能だな。