外道、フォドラに立つ〜召喚士と英雄の日常外伝〜 作:(TADA)
「……なるほどねぇ」
シェイカーは学級の部屋の中でシャミアから報告を聞いていた。部屋の中には他の白虎の学級の生徒もいるが、シェイカーが張った消音結界のおかげで、二人の会話は聞こえていない。
「アランデル公は何かをやっている。それは間違いないだろう」
シャミアの報告をシェイカーは指先でこめかみを叩きながら考えている。それを見ながらシャミアは報告を続ける。
「私が調べた限りでは最低でも人体実験。これは確実だろう」
そのシャミアの言葉にシェイカーの指が止まる。
「ふむ、人体実験ね」
「おや、師父は否定派かい? てっきり『必要なことならやる』と言うと思ったんだがね」
シャミアの言葉にシェイカーはニヤリと笑う。
「やるさ。しかし、実験台にするのは使っても問題のない人間を使うがね」
「例えば」
「犯罪者」
その言葉にシャミアは軽く肩をすくめる。
「やれやれ、師父は怖いね」
「去るというなら止めないぞ?」
「まさか。せっかく師父のおかげで面白いことになりそうなんだ。特等席で見学させてもらうよ」
「残念ながら特別席はない。シャミアには参加してもらうぞ」
シェイカーの言葉にシャミアは楽しそうに笑った。シェイカーも笑い返しながら張っていた消音結界をとく。
「あ、先生終わりましたか?」
そしてシェイカーに声をかけてきたのはメーチェが作ってきたお菓子をぱくついているリシテアだ。
「お前何をやってんの?」
「? お菓子を食べていますが?」
「……一応、今日は女神再誕の儀に襲撃があるってタレコミがあったから戦闘準備しとけって言ったよな?」
シェイカーの言葉にリシテアは心外そうな表情になる。
「どうせ内政担当の私やマリアンヌ、メルセデスには出番ないでしょう。うちのクラスの武闘派が張り切ってますよ」
その言葉に必然的に視線が白虎の学級の武闘派に向かう。
イングリッドはガルグ=マクの地図を見ながら襲撃者の侵入ルートや逃亡ルートを考えており、ペトラは張り切って剣を振っている。そしてラファエルは一心不乱に筋トレをしていた。
満場一致で見なかったことにして白虎の学級の面々の視線が今度はシャミアに向かう。
「……あのシャミアさんは……?」
「うちのクラスの特別教員です。仲良くしてあげてね!」
「師父!? いや!! 聞いていないが!!」
マリアンヌの言葉にシェイカーが即答すると、シャミアが焦った様子で言う。その言葉に白虎の学級の内政担当達からシェイカーは半目を向けられる。
シェイカーは落ち着けというジェスチャーを出しながらシャミアに話しかける。
「シャミア、引き受けてくれたら特別給与をやろう」
「やろうじゃないか」
『結局金か!!』
硬い握手をしているシェイカーとシャミアに向かって突っ込みが飛ぶ。
「おいすー、なんだ随分とヒマそうですね」
そしてそこにやって来たのは白虎の学級では株価大暴落が止まらない大司教レアであった。
「レア様、お仕事は?」
「侵入者があったということで逃げて来ました!!」
メーチェの言葉にレアがいい顔で即答すると、メーチェは即座にレアを正座させて説教を始めた。
「師父、いいのか?」
「いつものこと、いつものこと」
「え〜」
シャミアの言葉にシェイカーが軽く答えると、シャミアは軽く引いていた。
シェイカーはレアが投げてきた紙片を見ながらイングリッドに声をかける。
「イングリッド」
「はい!!」
「連中の侵入経路だ」
そう言いながら紙片をイングリッドに渡す。白虎の生徒もレアからシェイカーに何故その情報を渡されたか考えない。
どうせ二人でバッチリ暗躍しているんだろうと思っているからだ。
シェイカーはニヤニヤしながらイングリッドに声をかける。
「どうだ? 予想とあっていたか?」
「……まさか、一番簡単な方法で侵入してくるとは思っていませんでした。大修道院に侵入を企てるのですからもっと計画的に来るかと……これでは思いつきと変わりません」
どこか不満そうなイングリットをシェイカーは笑い飛ばす。
「全ての相手を自分と同じ基準で考えるな。相手には相手の思考がある」
「それを見抜くためにはどうすればいいのですか?」
「情報を集めろ。戦略や戦術、政略、謀略、果ては個人の行動にその人物の全てが入っている」
シェイカーの言葉にイングリッドは不思議そうに首を傾げる。
「先生はどうやって今回の相手の情報を集めたんですか?」
「は〜い!! 私!! 私が頑張って集めました!! お仕事したから許してメーチェちゃん!!」
「あらぁ、どうせそれを集めてまとめたのはセテス様じゃないかしら」
メーチェの言葉に冷や汗を垂らしながら視線を逸らすレア。説教が追加された瞬間だった。
「師父」
「慣れろ」
「……これはカトリーヌには見せられないな」
シャミアの心配は無意味である。なにせ白虎の学級に頻繁にレアが顔をだすと聞いて意気揚々とカトリーヌが顔を見せた時に見たのはシェイカーとレアによるダブル腹踊りであった。
それを大爆笑しながら見ている白虎の学級の生徒を見たことも含めてカトリーヌは卒倒したのであった。
「さて、イングリット。相手の侵入経路、そして外の連中の陽動。そこから導かれる相手さんの逃走経路はどこだ?」
その言葉にイングリットは地図の一箇所を指差す。それに満足そうに頷くシェイカー。
「捕縛しますか?」
「降伏して来た奴は捕縛してやれ」
「反抗した場合は?」
イングリットの言葉にシェイカーは笑みを浮かべる。
「殉教者にしてやれ」
イングリットがそれに頷くと、ペトラとラファエルに声をかける。
「ペトラ!! ラファエル!! 行きますよ!!」
「はい!! 師匠!! 行って、きます!!」
「おぉぉ!! ようやくオデの出番かぁ!!」
イングリットの言葉にペトラとラファエルが笑顔で部屋から出ていく。
「……師父の教えが行き届いているね。子供にも関わらず死に対する忌避感がない」
「死ぬ時は誰だって簡単に死ぬものでしょう」
シャミアのつぶやきに答えたのは相変わらずお菓子をぱくついているリシテアだった。
「王も貴族も平民も死ぬ時は死ぬ。戦場だろうが戦場外だろうがそれは変わらない。死ぬ時に満足して死ねればそいつは幸せ者だ」
「誰の言葉だ?」
リシテアの言葉にシャミアが尋ねると、リシテアは顎でシェイカーを示す。
リシテア、シャミア、マリアンヌの視線がシェイカーに集中する。
メーチェから見えない位置でレアをクソ煽りしているシェイカーがいた。
三人とも見なかったことにして会話に戻る。
「あの……私達は先生に常日頃からそう教えられています……ですので……あの……」
「次の瞬間に死んだとしても満足して死んでいけるような生活を常にしているんです」
マリアンヌの言葉にリシテアが補足すると、マリアンヌはコクコクを頷いている。
(ほう)
シャミアは『上に立つならもっと毅然とした態度を』とマリアンヌに説教を始めたリシテアを尻目に一人ゴチる。
シャミアにとってシェイカーは色々な意味でお世話になった人物だ。命の恩人と言ってもいい。そして『最悪はレア……あぁ、大司教に頼め。俺の名前を出せばあいつも受け入れるから』と言われ、その通りにしたら本当に教会に匿われた。
(恐らくはレア様と師父には何かある……いや、恐らくはセテス様とフレンにも関することだな)
「それを見つけるのも一興か」
メーチェに見つかって正座が増えた光景を見ながらシャミアはそう呟くのであった。
リシテア、マリアンヌ、メルセデス
白虎の学級内政担当
イングリット、ペトラ、ラファエル
白虎の学級戦争担当。今回は黒鷲からにげきった連中をデストロイした。
シャミア
白虎の学級特別教諭
ベレス率いる黒鷲の学級
教会地下で侵入者と戦った。
侵入して来た過激派
すべてシェイカーとレアの掌の上
そんな感じで青海の節の課題戦闘『女神再誕の儀襲撃戦』でした。白虎の学級は基本的にバックアップ。こいつら投入すると死神騎士が本当に死神のお迎えにあっちゃうんで。
ちなみに死神騎士さんはベレス先生にぶっ飛ばされた模様。さすがはベレスてんて〜。
というか作者は今回『さ〜、ゴーティエ家のイザコザだよなぁ。どうすんべぇ』と思って攻略本を見たらまさかの女神再誕の儀襲撃戦が先だったことに愕然としました。ゴーティエのイザコザが先だと思っていましたよ。延命したなマイクランくん
あ、それとシャミアさんを特別教諭という枠で正式に白虎の学級にスカウト。流石に生徒は無理があるぞ公式。