私はウルトラ・スーパー・デラックスマン   作:しゃしゃしゃ

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二日目


「平和である国」―Hunting Game―

 

 

 次の日の朝、

 

「やぁ」

「こんにちは」

「どうもー」

 たくさんのホヴィー(注・『ホヴァー・ヴィークル』。浮遊車両のこと)が並ぶ街の広場でキノとエルメスとクラークは再開のあいさつを交わした。

 並んでいるホヴィーは3ダースほどで、その内の半分にはオープンデッキ左右に全自動連射式の弾丸ベルト付きパースエイダーが備え付けられ、クラークはひどい物々しさを感じた。

 

 眺めていると、『スペクテイター』*1と書かれたホヴィーが二台飛んできて、キノたちの正面に降下した。

 

「キノさんとエルメスさん、それにクラークさんですね? 話は館長さんからうかがっております。今日は自分たちが案内役を勤めさせていただきます。キノさんとエルメスさんはこちらのホヴィーに、クラークさんはもう一台のホヴィーにどうぞ。モトラドのエルメスさんでもあの荒れ地は進めないでしょうからね」

 

 積載量の問題だとかで、キノたちとクラークは別のホヴィーに乗ることになった。

 

 乗り込んでしばらくすると、門が開き、全てのホヴィーが浮かび上がり、 広場の周りに集まった国民が盛大な拍手で見送った。

 

 

 

 

 途中、食事休憩を挟みながらホヴィーの一行は茶色い荒野を飛んで、国から山を四つ越えたところで停止した。

 しばらく待つと、色合い以外はそっくりなホヴィーの集団が反対方向からやってきた。そのホヴィーの一団にも、やはり同じようにパースエイダーが備え付けられていた。

 いやな予感がどんどん膨らんでいくクラークは自身の乗っている『スペクテイター』の兵士に質問をした。

 

「すみません、あの一団は一体何なのですか。こちらと同じように武器を持っていますが、まさか撃ち合いをするつもりではないでしょうね」

 兵士はその質問に笑って答えた。

「まさか! 撃ち合いだなんて、そんな前時代的な戦争はしませんよ。

 彼らはレルスミスの国防軍です」

「レルスミスというと、15年前まで戦争をしていた国でしたか」

「ええそうです。彼らとは今から『戦争』です。ああ、ご心配なく。戦争と呼ばれているだけで お互いが殺し合うわけではありません。我々は安全ですし、兵士もだれ一人死にません」

 兵士はそう付け足した。

 

(誰も死なない戦争…ああ、なるほど。そういうことか)

「そういうことですか。ゴーグルとかは付けないのですか? 弾丸が眼に入ったら危ないでしょう」

「眼に弾丸…? いえ、そういった事故は聞いたことがないですね」

「それはすごい。でもやっぱり危ない気がしますね」

 クラークと兵士はそうしてしばし微妙に食い違う雑談に花を咲かせた。

 

 

 やがて太陽が中天に輝いたとき。

 2つの国のホヴィーで、パースエイダーを装備しているものだけが動き出し、国一列ずつに一直線に並んだ。そしてその二ヶ国の先頭の間に特別な一台がついた。

 そのホヴィーに乗っている司祭らしき装束の男が口上を述ベ始める。

 

「ただ今より! 『第百八十五次 レルスミア・ヴァルデルヴァル戦争』を! 始めさせていただきます! なお、ルールはいつも通りであります! 」

 

 口上を述べ終えたと同時にその一台が動き出し、双方の国のホヴィーも列のままそれを追う。

「さぁ、つかまっていてください。上昇しますよ」

 

 キノやクラークの乗るホヴィーは列になって走るホヴィーの群れに追従はせず上昇を始め、上から列を追った。

 やがて上空高く浮かんだホヴィーは列を追い越し、しばらく飛んで、なだらかな丘を越え、空中で停止した。

 

「クラークさん、あれ、あそこ見えますか? 」

 兵士が指差す方向には、一つの大きな集落があった。

 丘を越えた辺りにオアシスがあり、泥で作られた簡単な家がかなりあった。それらは通りを持たずバラバラに建てられていて、文明的にレルスミア・ヴァルデルヴァルの二国と大きな差があるように見て取れた。

 ちらほら見える動く人影も、身にまとう服はシンプルなもので、手に持つ道具もまた簡単なものだった。ホヴィーは駆動音が小さいため、上空や、迫りくるホヴィーの列にまだ気づいてはいないようだった。

 

「あれは、このあたりの部族、タタタ人です。ほら、北の地表をご覧ください」

 

 クラークが北を向くと、先頭の一台が猛スピードで、地表スレスレを何かを撒きながら飛んでいた。

 そのホヴィーが撒いていたのは大量の赤い粉だった。集落を真北から真南へ一気に飛びぬけたホヴィーは、撒いた赤い粉で集落の中心に南北の赤い線を描いた。

 ホヴィーに驚いて家から飛び出す何人かのタタタ人の姿が見て取れた。

 

 

「あの線から東側(こちら)が我々、西側(むこう)がレルスミアの『戦場』」

 兵士がそこまで説明したところで、ホヴィーに乗せられたスピーカーから勇ましい音楽が流れ始めた。

 

「お! 『戦争』が始まります! 」

 戦争が始まった。

 

 列を組んで浮かんでいたホヴィーの群れが集落に殺到。縦一列から綺麗に散会。兵士たちがパースエイダーを構え、躊躇なく発砲した。

 

「………」

 

 甲高い連射音が響き、外に出ていたタタタ人を撃ち抜き彼らに赤い華を咲かせた。発砲されたのは銃弾で、人を殺傷たらしめるに十分あ威力を持った弾丸だった。

 クラークは目の前の凄惨な光景、初めて見る「人が情け容赦なく殺されていく様」に茫然自失となって何も考えられなかった。

 

 ホヴィーは癒えに当たらない程度の低高度で浮遊したまま集落を飛び回り、タタタ人を見つけ次第撃ち抜いて殺していった。

 逃げ回るタタタ人に向けて銃弾が発射され、彼らの使ていた粗末な木の桶が粉砕され、洗濯物が穴だらけの布になる。

 

 小さな女の子を庇って父親が撃たれ、逃げのびて家に閉じこもった母親と女の子は家ごと押しつぶされ殺された。

 

 老人を庇う男性が木に隠れると木に銃弾が撃ち込まれ、やがて倒れた木の裏には二つの死体が並んだ。

 橋を渡って逃げようとしたものは橋ごと粉砕され死体はオアシスに沈んでいった。

 子どもを庇おうとした女性は踊りながら倒れ、小さな子供の頭は消し飛んでなくなってしまった。

 足が速く必死で逃げた男性はホヴィーの横に逃れたが、急旋回したホヴィーに捕捉され銃弾を足に受けた。倒れた男性は一斉掃射を受け、びくびく撥ねながら血を噴き出し動かなくなった。

 

「………」

 

「クラークさん? 」

 声も出ないくらい夢中なのかと判断した兵士は、彼が『戦争』をより楽しめるように、高度を下げてあげた。

 

 

 クラークが現実を拒む間も、パースエイダーの連射音は集落に響き続けた。

 

 

 オアシス近くの林に逃げたタタタ人が撃たれていた。林は赤い線で東西に分断されていて、林の東側と西側できっちり撃つ国が分かれていた

。連射音が響くうち、木々はすべてうちたおされ、赤い線以外の赤色が大地をおびただしく染め上げた。

 橋が壊された後もオアシスに飛び込んで助かろうとするタタタ人がいた。しかしそんな彼らは、オアシスの上空に陣取ったホヴィーからの乱れうちで赤い肉片に変えられた。

 クラークが見ると、粗末な作りの斧を投げつけるタタタ人がいた。低飛行中のホヴィーに乗った兵士の一人に命中するも、命を奪うまでには至らず、斧を投げた彼は次の瞬間には血煙と化してしまった。

 

 集落から逃げ出す者もいた。多くは一番外側で旋回するホヴィーに撃たれるものの、ほとんどが集落内部でタタタ人を殺しているため手が足りず、逃亡を許していた。しかし、誰も多くの関心を持たず、遠ざかっていく必死な形相のタタタ人を見逃していた。

 死体が多くなると、ホヴィーはそれらの上を浮遊し、銃弾を撃ち込んでいった。死体たちは撃ち込まれた瞬間何人かが飛び跳ね血を流した。そんな死んだふりをしたタタタ人には、さらに銃弾が撃ち込まれることになった。

 

 しばらくして、集落の中で動く者はいなくなり、発砲音も散発的なものになった。

 開始の向上を述べた先導機が、笛を鳴らして集落を北から南に飛びぬけた。そのの音とともにホヴィーは射撃を止め、集落の端に集合した。

 

 

「時間です。『戦争』は終わりました」

 兵士がそう言うと、上空にいたホヴィーは全て集落に降りていった。

 クラークは相変わらず無言でただただ呆然としていた。

 キノとエルメスの乗ったホヴィーも見えた。キノは『戦争』が始まる前と何一つ変わらない表情で彼らについた兵士の説明を聞いていた。

 

「見えますか、彼らは『カウンター』です。これから双方の『戦場』の死体を、計測用のホヴィーに載せていきます。そしてセンサーで死体の重さを量ります。その計測結果が多い方が、この『戦争』の勝利国となります。我々は、先ほどの集合地で待つしきたりになっていますので、そろそろいかなくてはなりません。よろしいですか? 」

 クラークは辛うじて頷いた。

 

 

 『カウンター』以外のホヴィーは全て先ほどの集合地に戻り、計測結果を待った。

 兵士たちの表情は晴れやかで、一言も口をきかないでいた相手国の兵士たちとさえ肩を並べて談笑するほど陽気な様子であった。足に斧を受けた兵士が急ごしらえの壇上に登り、将校にバッジのようなものを与えられ、兵士たちにはやし立てられる一幕もあった。名誉の負傷、戦功とでもいうかのようだった。

 

 そうしている間に『カウンター』が戻ってきた。計測を行うホヴィー達には死体が山積みにさせられ、血がしたたり落ちていた。

 

 

 

 戦争の開始を宣言した男が、ホヴィーのデッキにたって叫んだ。

 

「計測の結果…、十対九! 第百八十五次『戦争』勝利国は! ヴァルデルヴァル! 」

 

 その結果発表にヴァルデルヴァルの兵士たちは沸き上がり歓声と拍手喝采で喜びを叫んだ。反対にレルスミアからは落胆と無念の声が聞かれたものの、すぐに勝利国に対する敬礼の姿勢をとった。

 それに対しヴェルデルヴァルの兵士も敬礼を返し、穏やかな空気のまま双方のホヴィーは帰路につくこととなった。

 

 

 

「………」

「あれ、クラークさん。どうしたんですか? あ、もしかしてレルスミアを応援していたりしたんですか? わかりますわかります。自分の友人にも祖国ではなく隣国レルスミアを応援するのが趣味な人間がいますから。でも確かに今回のレルスミアはなかなかうまかったですよね。もう少しで我々も負けていたかもしれません。いやー、こんな白熱した『戦争』は久しぶりですよ」

 

 

 クラークは兵士の言葉に何も返さず、無表情でただただ涙を流すだけだった。その涙にはいったいどのような思いが詰まっているのか。それはクラーク本人にさえわからないことだった。

 

 

 

 

 

 

 一方、キノとエルメスの乗ったホヴィーでは、兵士が興奮を隠そうとせずに言葉を発していた。

「やった! やりましたよ キノさん、エルメスさん! 国に還ったら大騒ぎだ! ああ 嬉しいなあ!

 そうだ! 何か旅のものを備えるなら絶対今日がいいですよ! 国中お祭り騒ぎですから! 」

「………。ねえ、一つ聞いていい? 」

 エルメスが兵士に聞いた。

「どうぞどうぞ! 」

「死体はどうするの? まさか持って帰るわけじゃないでしょ」

「あれは国の東方に捨て場があるんですよ。そこに適当に放り棄ててくるんです」

「やっぱり? そうじゃないかと思ってたんだー」

 

 

 

 エルメスが質問をしている間、キノは『戦争』の最中に見たクラークの表情を思い出していた。

 あれはとてもひどいものだった。まるで人が死ぬところを初めて見るとでもいう様な、そんな顔だった。

 衝動的に自殺でもしてしまいそうだなと思うものの、本人の問題であって自分にはどうすることもできないのでキノは彼のことを考えるのをやめた。

 

*1
(スポーツ・ショーなどの)見物人、観客






 アンケートご協力ありがとうございました。次回の参考にさせていただきます。

 原作の「平和な国」、ビターエンドというか、いろんな意味でのやりきれなさ・救われなさが好きなんですよね。なので、そこらへんを殺すことなく、クラークもとい句楽兼次としての答えを出そうと思っています。


 あ(唐突)。これを書くにあたり、キノの旅(2003年版)6巻を借りて見たんですが、いやー、悠木碧さんもとい八武崎碧ちゃんさん! 自分は割とダメ絶対音感もってる人だと思っていたんですが、知らなきゃわからなかったですね、あれは。やっぱり声変わりなのかな。ただまぁ普通に上手だったけれども。いや、全然違和感がなかった。あれで初とはやべぇわ。そんなふうに思いぽやぽやする午前0時。



 次回、3日目でありひとまずのお終い、平和と復讐のお話。
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