誰か手を
差し伸べて
くれてたら
No.237.if 『志村転孤:オリジン3』
家族を殺した。
あの後、逃げるように家を出た。どうしたらいいのかわからなかった。
これからどうしたらいい?
誰か…誰でもいいから教えてくれ。たすけてくれ。
罪悪感が喉に張り付いて、声が出なかった。
「ボク? 」
「大丈夫? どうしたの、そんなボロ…―――」
「す………すぐヒーローか警察か、
消えたハズの痒み―――
「困っているんだね? 助けてほしいんだね? 大丈夫。わかってる。迷子か虐待かネグレクトか病気か何か知らないが、安心して良い。私は君の味方だ」
痒みが………。
「ちょ、ちょっと、あなたこの少年のなんなんですか? まさか誘拐犯………! ヒーローか警察なら証明書を―――ッ」
「黙れ。見てみぬふりをしていたやつらが偉そうに…。何もしようとしなかったやつが…叩けそうなやつを見つけたら、ここぞとばかりに歪んだ正義感を振りかざして足を引っ張ろうとする………。随分と良いご身分だなぁおい。ヒーローの証明書? 訳が分からないが名乗れということか」
「私は ウルトラ・スーパー・デラックスマン。
今は彼だけの
「は? 聞いたことないし、そんな格好のヒーローがいるもんか! 」
「話にならないな。さて、少年くん。どうする? 」
僕に、差し伸べられた手。
格好も名前も知らない人で、怪しくて、
でも僕にとっては―――。
差し伸べられた手。僕を助けてくれる“だれか”。
痒みはもう、感じなかった。
―――シュワッチ!!
「モンちゃんと、華ちゃんと、」
「モンちゃんと、華ちゃんと、お母さんと、」
「モンちゃんと、華ちゃんと、お母さんと…!」
「モンちゃんと、華ちゃんと、お母さんと、おじいちゃんとおばあちゃんと………‼ 」
「モンちゃんと華ちゃんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんとモンちゃんと華ちゃんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんとモンちゃんと華ちゃんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんとモンちゃんと華ちゃんとお母さんとおじいちゃんとおばあちゃんと」
「お父さんと」
ふむ………。困った。
助けるといって連れてきたものの、ずっとこの調子だ。
とりあえず迷子ということではないのは分かったが………。若返ったことで精神も二十歳そこそこだった頃に戻ってしまったのか、売り言葉に買い言葉で飛んで行ってしまったのは間違いだったのか。
とはいえ、この少年くんの手についていたのは間違いなく血だったし、何か事件に関わって一人になってしまったことは間違いないだろう。
銭湯で洗ってやって適当に買った服に着替えさせたら落ち着いた様子で言葉を発するようになったけど、トラウマか何かなのかコミュニケーションが取れないでいる。
さて、どうしたものか。
この世界の警察の捜査力のレベルは分からないけど、ずっと隠れていられるわけもないだろう。
県境を越えたから管轄云々でごたついて捜査が進んでいなければいいとは思うが、監視カメラが町中にある現代で一体いつまで隠れていられるか………。
私の名前は句楽兼次。ウルトラ・スーパー・デラックスマンこと句楽兼人の孫にあたる者だ。
忌まわしくも世紀の大犯罪者の血と能力を受け継いだ私だが、生涯それを行使することなく、隠し続け死んだ。
………死んだはずなのだが、気づくと二十歳前後に若返った状態で見知らぬ街に立っていた。
訳が分からぬまま歩いていると、ボロボロの少年を見つけた。周りをよく見れば、彼以上に異常な人間―――角が生えているもの、獣のような耳の生えているもの、人間とは思えないキューブのような体つきをしたもの―――が大勢いたのに、なんとなく気になって「大丈夫? 」と声をかけた。
その後は、色々あって、少年を抱えて空を飛んで離れた。助けたいという気持ちが私の心の中で膨れ上がってどうにかなりそうだった。これが“ウルトラ・スーパー・デラックスマン”の正義感なのだろうか。
なにはともあれ、適当なビルの屋上で二人きりで事情を聞こうとしたが、少年は何も言ってはくれなかった。
腹が減っているのか、どこか痛いのか、汚れが気になるのか、と思い銭湯に行ってファミレスにも行った。
お金? もちろん持っていなかったので、少年を連れて空飛んでる時に見かけた化け物みたいな悪者の財布から出している。“ウルトラ・スーパー・デラックスパンチ”でぶち上げて懐探って落とした。死んではいないだろう。
彼は依然として何も話してはくれなかったが、風呂に入ったりお子様ランチを食べたりに満足げな雰囲気を漏らしていたしと安心していたのだが、目を覚ましたらこうなっていた。
悪夢でも見たのか、こちらから声をかけても反応がない。ただ家族のことを繰り返し繰り返し呟いている。
困った。
こんな状態で一人にはしておけないし、隣で昨日買った「個性のいま・むかし」という本を読もう。
触れるのは逆効果かもしれないから、ただ隣に。
「………」
ん。
訂正。
触れるのは、大丈夫なようだ。
「大丈夫。私は君のヒーローだからね。いなくなったりはしないよ」
何をそんな驚いた顔をしているのかわからないが、とりあえず彼の手を握り返す。
そういえば握られたときピリッとしたな。もしかして少年くんの「個性」は静電気とかなのだろうか。
「―――なんてな」
分かってる。薄々そうなんじゃないかなと思っていたことだ。
ファミレスで食事をしたあと、彼の持っていたフォークがボロボロになっていた。スプーンに至っては形を保っていなかった。気づいていないというよりは、気づかないようにしているという感じだったから、彼がそうしようとしてそうなったわけではないのだろう。
「ヒーロー百科」
「ヴィラン百科」
「ヒーロー社会学概論―第8版―」
「マンガで分かる! 超常犯罪
などなど。
少年くんが眠った後もウルトラ・スーパー・デラックスマンの基礎体力に任せて買った資料を読みまくったおかげで個性とか超常社会とか、この世界についても知ることができて、予想も立てられた。
少年くんの個性は名づけるなら“風化”とか“分解”とかそういうものなのだろう。―――突然変異。コントロールのできない個性。才能の暴走。
要するにそういうこと。金属類をあっけなくボロボロにできるんだから当然人の体なんて簡単にボロボロにできることだろう。
私の勝手な想像でしかないが、きっとこの子は無意識で家族を
個性の発動は大体このくらいの年で起こるというし、調べた中だと、ヒーローにしろヴィランにしろ、強力な個性を発現させた人間は、個性発現時にその強力さゆえに周囲の人間――特に家族――を傷つけてしまった過去を持つ者も多いという。少年くんの場合は………、おそらく家族は亡くなっている。
少年くんの体についていた返り血は固まり黒くなっていた。つまり、傷つけてから時間が経っていた。
家族や警察なんかが連れ戻さなかったということはそういうことなんだろう。
(子どもの足で捕まえられないほど遠くに行くということはないと思うし)
(お、ピリピリしてたのも収まった。適応したか)
Q.少年くんの個性がそういう危険な破壊の力だというのならなぜ私は平気なのか。
A.私がウルトラ・スーパー・デラックスマンであり、私を構成するウルトラ・スーパー・デラックス細胞はミサイルの直撃を受けてもびくともしない上、生半可な攻撃はシャットアウトし適応する。
どうしたもんか。
私はこの子のヒーローになると言った。
一度口を突いて出た宣言を撤回する気はないし、助けるといった以上、この子が独り立ちできるようになるまでは――もう私の助けがいらないようになるまでは側にいようと決めている。
(………だがなぁ)
金無し戸籍無し家族無し、3K揃いの三重ハンデ。
金や
この子は心的外傷を負ってしまっているわけだし、そういうカウンセリングとか心療内科にも行かせてやりたい。
学校とか行きたいと思うかもしれないし、将来就きたい仕事があるかもしれない。そんなときに、公的に存在しないものである私は、彼の
情けない。
成り行きとはいえヒーローを名乗ったなら、そのくらいできなければ。
「ウルトラ……」
―――!
そうだ、私は大馬鹿だな。
「ぁ、…ああ、そうだった、自己紹介をする暇がなかったね。改めて私はウルトラ・スーパー・デラックスマン。句楽兼次だ」
「ウルトラ・スーパー……? 」
「名前でいいよ。そうだな、兼次でいい」
「兼次、さん」
「うんうん。じゃあ、今度は君の名前を教えてくれるかな」
「僕は、………」
大丈夫。大丈夫。
そうだ。何が簡単なことだ、愚か者。
この子を見ろ、この子を見ろ。
この、今にも崩れてしまいそうな、壊れそうな少年を見ろ。
彼を助けることが「それくらい」だって?
馬鹿を言うな。
人一人助けることが、簡単であるわけがないだろう。
この子は、もしかしたら一生このままなのかもしれない。罪悪感と後悔に苛まれ、人と関わることもできず一生何かにおびえて生きていくことになるかもしれない。
逆に振り切れて犯罪に走ったり、誰かを助けたり、そういう前向きさを発揮するかもしれない。
前向きさなんて発揮せず、閉ざされたコミュニティーで花や音楽を愛してささやかな喜びに満ちた日々を送ることになるかもしれない。
なんにしても幸せになってほしいと思う。
この子なりに、この子が幸せだと思える人生を送れるようにしてやりたいと思う。
それが私なりに考えた、【この少年を助ける】ということだ。
(一つ一つ解決していこう。少なくとも、この子には傷をいやす時間が必要だ。たとえこの子が高みを目指したり走り出したりできなくても、目標を持ったり歩きたいと思うようになったり。それを待つのが大事だ)
「………僕は志村―――」
knock knock
「………」
………。
「誰か来たみたいだ。安心して、私はどこにもいかないから」
当然私はルームサービスなんか頼んでいない。
生前、実家暮らしで出張の類もしたことがなかったからホテルの仕組みはわからないのだが、そういうものではないはずだ。誰が来た?
警察か、ヒーローか。
対処できるように、離れないように少年を抱えてドアの前に立つ。
「どちら様ですか」
「失礼、少し話がしたいのだが」
扉の向こうから聞こえる声は、何とも威厳とオーラに満ち溢れたものだった。少なくとも生前にこういう人間に出会ったことのない。厚みのある声。
貫禄というものが扉越しにも伝わってくるようだ。
「………名前を名乗っては頂けませんでしょうか」
私の直感が告げていた。『危険』『
「ああ、それはそうだ。名乗りもせずに要件を告げるのは不作法だったね」
「私は“オール・フォー・ワン”。ただのしがない
私は私の直感を信じる。
「………」
扉を開けた先には、仕立てのいい黒スーツを着こなした紳士が立っていた。
(ああ、間違いない。この男は本物だ)
「ここで立ち話というのもなんだ。外に車を置いてある」
頷き、男について歩き始める。
道の先がどこに繋がっているのか、バットエンドに向かているかもしれないが、関係ない。
私はウルトラ・スーパー・デラックスマン。
今も私を頼って縋りつくこの子を守るためならなんだってやってやろう。
きっと続く。