私の名前は句楽兼次、何の因果か生まれ変わり、第二の人生を送っている普通の人よりちょっぴり強いウルトラ・スーパー・デラックスマンだ。
私が二度目の産声を上げたのはもう三十年ほど前のこと。何の因果か人生二周目を経験することになり、最初のころは戸惑っていたものの、今は慣れたもので、平凡な人生を送っている。
今何をしているのかって? 特に何もしていない。これはそのままストレートに働いていないということだ。
金はある。
この世界に生まれてから直感が冴えわたって仕方がなくて、学生時代もテストでヤマ勘を外したことは一度もなかった。
その直感のおかげで私はギャンブルを天職とすることができた。
適当に稼いで、適当に生きている。特にやりたいこともないしね。
そんな感じに日々を過ごしていたら、あっさりアラサーになってしまった。両親からはそろそろちゃんとした仕事にとか、結婚はとか、孫の顔はとかせっつかれる毎日。
緊張感があった。いつか見つかるんじゃないか、正体を見破られ命を狙われるんじゃないか、という恐れが私を常に締め付けてきていた。
怪しまれないように力を使うことなく、普通の仕事を普通にこなし、平凡に堅実に生きていた。凡庸だが満ち足りた毎日だった。
だが
あくせく働かないでも金が手に入り、いざとなればなんだってできるという確信がある。句楽兼人のように正義のヒーローを名乗る大量殺戮者にもなれるし、血を与えて人を癒し神のごとくあがめられることも簡単にできるだろう。
でもしない。おっくうだから。
自堕落な毎日で私はすっかり腐ってしまった。
今の私に何かをしようという気概はない。
三十年、三十年だ。
それだけの時間を非凡ながらも退屈に過ごした結果私はただのウンコ製造機になってしまった。
無駄に冴えわたる直感のせいで何やら興味を抱いてもすぐに“終わり”が見えてしまう。女性を好きになりそうでも、結末を直感的に感じ取ってしまう。
空はこんなに青いのに、私の心は曇り空。
いつになったらこの雲は、吹き飛ばされてくれるのだろう。
「―――! 」
「―――…」
ん、と目が覚める。あくび。
公園のベンチで眠っていた所を、どうやら階段上からの声に起こされたようだ。
あ、落ちた。
………気まぐれだ。気まぐれに、死にかけの少女を助けるとしよう。
「え、あ、や、サ、サラ…? 」
「おい」
超スピードで血をぶっかけて階段を駆け上がり、少女を突き落とした少年に声をかける。
振り返った少年に九割九分加減したパンチをお見舞する。
少年は「っげふぅ」と息が押し出された声を発して壁面にたたきつけられた。
死なない程度にぶん殴り、バトルアニメのごとく壁にたたきつける。
ぴくぴくしているが生きているだろう。手足の二三本はじいてやりたいが、そこまで機嫌が悪くはないのでやめておく。
人一人殺しかけたんだ。というか自分が助けなかったら確実に殺していたんだ。このぐらいの報いは当然だろう。
救急車は呼ばない。
呼んでやらない。
死ぬかもしれないが知ったこっちゃない。
周辺に監視カメラはなく、人もいない。
さて、少年は死なずに済むのかな?
少年くんはもういいや。興味なし。少女ちゃんだ、少女ちゃん。
「………」
ふむ。
……ずっと流されて、でも本当は辛くて、しんどくて、しんどくて。
どうしてこうなったんだろう。
何を間違えたんだろう。
≪むかしむかし、あるところにサラという少女がいました≫
≪サラは恋人や仲のいい友人に囲まれて、楽しく高校生活を送っていました≫
≪ところがある日、サラは階段から落ちて死んでしまいます。彼氏であった少年に突き落とされたのです≫
≪サラに愛を求める松木くん、気まぐれな友達、自分に興味のない母親、それらに振り回される中、やっとのことで本音を言えた矢先でした≫
≪突き落とされた瞬間、サラはうまくいかなかった前の彼とのことを思いました。前の前の彼のことを思いました。前の前の前の彼のことを思いました≫
≪サラには、これまで5人の恋人がいましたが、お付き合いを始めると、なぜだか全員人が変わったように不仲になるので、結局持て余してはお別れするということを繰り返していました≫
≪そして6人目の彼氏・松木くんに「俺のこと好き? 」と気味悪く尋ねられて、初めて気づくのです≫
「好きってなに? 」
≪その答えをサラが得ることはありませんでした≫
「何が何だかわからないまま死んでいった哀れな少女のお話……ッか。 かわいしょ~~~! 」
謎空間で謎生物が訳の分からない理由で大号泣。
「あんまりかわいそうだから助けに来たよ! この神が! 」
「か、……神…………? 」
神を名乗る謎生物を見つめ、戸惑うサラ。
「…ぬいぐるみみたいなのに、しゃべるん、ですね? 」
「そうだよ! なんでも話して! 」
「…なんで私のことそんなにご存じなんですか? 」
「生まれた時から見てるからね! 」
………。
「…なんで私なんか助けてくれるんですか? 」
「もちろん、大好きだからだよ」
(神って……うさんくさいなぁ。………にしても、死んだんだ 私)
「ほあーーーー。
ずっと思ってたけど、悲しくないの? サラちゃん」
「え? だってもう死んだんでしょ? …だったらもう騒いだって……」
「辛抱強いのはサラちゃんのいいところだけど、自分の死にすら泣けないとは…よっぽどだね! 」
じょばじょばと謎生物が液体を垂れ流します。汚い。
「今は泣けなくても、ほんとはずーっと辛かったんじゃない? 」
その言葉に、サラは あぁ、と納得を感じた。
(あ…私 辛かったんだ)
(そうだ、今まで、一度だって―――)
「私ちゃんと、ちゃんと空気読んだのに」
「………なるほどねー。サラちゃんがそんなにつらかったの、なんでだと思う? 」
「! 」
「呪いだよ」
「え…呪い? 」
「人と真剣に向き合いたくない。でも嫌われるのが怖い。だからその場その場を適当に合わせてやり過ごす。さびしがりのくせに人と向き合えないから逃げてしまう。人に心を開けない。そういう呪い」
謎生物がいやらしくねちねちとサラを責めます。
「………わ、…私の何がわかるの」
「わかるよぉぜんぶ。神だからね」
「その苦しいの、なんとかできるって言ったら? 」
「! できるの? 」
「当然!………?」
急に“神を名乗るくそ不細工なぬいぐるみ生物”の動きが止まった。
「………どうしたの? 」
「なんだ? なにが…、死んでない? 生き返った? そんな、ありえない。馬鹿な、おかしい。こんなことが、いや、いやいやいやいや! 馬鹿な! 」
―――バキン!
謎空間に亀裂が走る。それは瞬く間に全体に波及し、
「っ! きゃあ! 」
サラは崩壊する空間に巻き込まれて消えた。
あとには間抜け面の神(笑)だけが残った。
「………くそ」
切りよくここらへんで締め。
転生はしたものの退屈で腐った超人と、神を名乗る不審者に目をつけられた愛知らぬ少女のお話は次回。
下はちょっとかかるかもしれない。ごめんなさい。忙しいのが始まるから大変なのです。
追記:
原作のほうでちょっとしたどんでん返しが起きて、あちゃちゃーってなったので打ち切ります。