「19、もう行くの」
「えっ、?ちょっとまってよ、どういう事?」
「イクは、旅に出なきゃいけないの、いままでお世話してくれて、ありがとうなの
でも、これでさよならなの」
それだけ言うと、伊19、通称イクは
僕を抱き寄せて、口づけをくれた
「最後だから、ちょっぴりわがままになるの
ごめんね?」
僕から離れたイクは、いつものように
ほにゃっ、と笑って
「じゃあね」
僕たちの秘密基地を出て行った
僕たちが一緒に作った秘密基地
思い出のある、秘密基地
その、最後のメンバーが離れて行く
瑞鶴姉さんも、南方不敗マスター瑞雲師匠も、松輪ちゃんも、そして、最後のイクも
みんな、みんな行ってしまった
「なんで、、なんでだよ
みんなで一緒に作った基地なのに…
みんながいなきゃ意味が無いのに!」
ドン!と床を叩く
どれだけダンボールを叩いても、
子供の小さな手では、ただ
手を痛めるだけだった
「ごめんね、提督
イクはもう、限界なの…」
ザァザァと体に走るノイズ
失われるデータ、
もう、以前の力も、速さも失った
最後に、みんなとの最後の思い出すら
失ってしまった……
でも、、それでいいの
彼は離別を糧にした、私のこともきっと、ちゃんと糧にしてくれる
報われぬ諦めだけど、悔いはない
彼と触れ合えないのは残念だけど、これからはずっと、電子の海で見守っているから、
イクの言葉は届かなくてもいいの
想いが伝われば、それでいい
もう行かなきゃ…こんな姿
提督には見せられないから
「さよなら…提督 イク、往くの」
最後の一声と共に、
急激に崩壊が進み始める
「イク!!」
背後から聞こえた声…誰の?
「提…督?」
「イク!僕、何も出来なかった!
君が居なくなっちゃうのに!何も、何も出来なかったんだよ!」
泣き叫びながら、提督はこちらに走り寄って…手を伸ばして、でも、もう触れられない
「イク…?」
もう、体が0と1へ、
本来あるべき無機質なデータへ
分解されているから、実体がないから
彼に触れることは叶わない
「提督 何で来ちゃったの?
こんなところ、見せたくなかったの」
「見るに決まってるよ!
友達なんだよ!いなくなっちゃうなら
最後まで……見送るもんだろ!」
声が揺らぐ…涙が溢れた少年の目に
再び、一瞬だけ
少女の姿が、しっかりと映る
「イク!」
そして、伸ばされた、二人の手が
運命に分かたれてしまった二人が
再び繋がった
「提督…無理しない方がいいの
提督まで消費しちゃうの」
私の存在に消費される力、それはもう
私自身では支払えない
ならば、イク自身が存在する理由は一つ
提督が存在を代替しているから
このままでは、
いずれ提督自身が消えてしまう
でも、
諦めたはずの手が、振りほどけない
何度手を引こうとしても
繋がった手は、強く彼の手を握って
私の意思に逆らって、
決して離そうとしなかった
「提督、、一日だけなの
提督が手を繋いでいてくれれば
一日だけ一緒に居られるの」
「一日、、」
彼の瞳に、絶望と渇望が映る
そして、
「じゃあ最後の一日で、
新しい思い出を作ろう」
「うん、一緒にいくの!」
残された時は短いけど、
それでもとても、充実したものになる予感がした
「イク!征くの!」
夜は…まだ遠い