どうでもいい短編集   作:魚介(改)貧弱卿

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第二章 出会い
白露改二


「僕は……悪くなんてない筈なのに……」

 

連日のように無理な主張を繰り返されて、なんど言い返しても結局は無意味

所詮この世界は金と力のあるやつが有利になるように出来ている、資本主義(ブルジョワジー)万歳だ

 

「……クソッ!」

 

地面を蹴っても、自分の足が痛むだけ

なにも意味はない

 

「なにが『俺より前にこいつが手を出した』だ……僕は手を握っただけだしおまえは僕より前に泥を投げてきた癖に」

 

鬱々とした気分を適当に路面にぶつけながら、赤信号に立ち止まる

 

「いや……」

 

ここは行くべきだろうか

先生もまともに取り合いはしないし

アイツらの天下の教室でなにをやっても無意味になる、たとえ本当に殴っても僕の力じゃ対して痛くもないだろう

 

僕が死んでも先生は痛ましい事故で済ませるだろうし、アイツらも憎たらしいやつが居なくなって清々するだろう

成績上位者が全員死ねばアイツらが1.2.3位独占だ……猿山の猿の方がまだ品性もあるだろうけど

 

「こんなくだらないこと考えてる時点で僕も同類か」

 

軽く笑って、足を踏み出す

クズは掃除しなきゃいけない

それが自分自身であっても

 

トラックのヘッドライトに笑顔を送って

最期のために目を閉じる

 

「ダメぇぇっ!」

 

その瞬間、強い衝撃を感じた

 

「ぐぇっ!」

 

我ながら最後の言葉は情けないな

いやそれ以前に痛い

 

なんて考えながら、ようやくそれに気づいた

「生きてる……?」

「生きてるよ!バカっ!アンタなにしてんのっ!」

 

グイッ!と強く引き起こされて

反射的に視線を向けた先には

 

「赤信号渡っちゃダメなんだから!

ちゃんと見なさいよ!」

 

茶髪の、僕と同じ歳頃の

黒い服を着た少女がいた

 

「返事は!」

「……僕は」「返事は!」

 

「だから」「返事はッ!!」

 

その気迫に圧されて、僕は反射的に答えてしまった

 

「……分かってる」

 

「分かってない!おバカ!」

「バカだと……!!」

 

一方的にバカなどと決めつけてくるその女に、瞬間的に視界が赤く染まる

 

人のことを勝手に断定して詳しく知ろうともしないクズどもの同類が

「なら僕とテストで勝負しよう

全国模試の過去問題は入手済みだ!

僕の方が頭が良いって事をわからせてやる!」

「勉強なんてのはどうだっていい!

勝手に死ぬような真似をするからバカなんだよ!」

 

怒りに身を任せた僕の言葉に

少女は強く反論してくる

でもそれは違う

 

「勉強ができない奴はクズだ!人類としての活動を放棄したゴミに過ぎない!成績が良ければ!勉強さえできれば社会では優位を保証された人間(キャリア)なんだ!

勉強を否定するな!勉強から逃げるな!」

 

転がるように立ち上がって、歩道で叫ぶ

 

「成績なんてどうだって良いんだよ!

勉強がどうは知らないけど、赤信号に突っ込むのはバカだよ!

そんなことしないでよ……!」

 

女の子は涙声になりながら

こっちに歩み寄ってくる

 

反射的に拳を受けるために腕を上げて顔と頭を守るために腰を屈める

予測していた痛みと衝撃ではなく

きたのは、柔らかな感触

 

「死んじゃったらなんにも出来ないんだよ?美味しいおやつ食べれないし

一緒に遊んだりもできない、お線香なんていくらあっても美味しくないし楽しくもないよ!」

 

「…………」

抱きしめられている、それに気づいた時はもう遅かった

 

「生きててよかった……助けられてよかった……」

 

僕を抱き締める女の子は

一頻り泣いた後、ようやく僕を離した

 

「ねぇ、本当に、死んじゃわないでね?」

「分かったよ……」

 

まさかこんなことになるなんて思っても見なかったと息をついて

視線を戻した

 

「……ん」

 

女の子は、僕に向かって右手を差し出しながら、一声を上げる

 

「ん、じゃわからないよ」

「指切り、して」

 

「……仕方ない」「んじゃ、指切拳万嘘付いたらハリセンボンのーます!指切ったっ!」

 

女の子は一方的に小指を引っ掛けてきて

そのまま一方的に言い切った

 

「もう、赤信号渡ったりしないでよね

建物飛び降りたり首吊ったりもダメだよ!」

「……それは自殺の手段としてはよろしくない部類のものだと思う」

 

建物だって持ち主はいるし、悪い噂が絶えない建物に住もうとする人はかなり限られるだろうから結果的に売り上げに響いてくる

 

そこまで考えたところで、自分自身の盲目にも気づいた

 

「トラックの運転手も似たようなものか」

 

日本国内に限っても事故は1分に一回以上のペースで起きているとはいえ、人身事故は特に重い扱いになりやすい

たとえ僕が10割悪いとしても、交通安全の観念からは原則、自動車の運転手の側の責任が追及される

『トラックの運転手』など、ただでさえ実績が重視される職業なのだから、きっとクズでも人を轢いたら干されてしまう

 

「……あぁ」

 

過失致死(結果的に死んだだけ)でも殺人犯(ひとごろし)扱いされる世の中、運転手が両親(遺族)からなにを言われるかもわからない

僕は運転手の人に多大な借金と周囲からの厳しい視線を押し付けてしまうところだったわけだ

 

「これは確かにバカだよなぁ……」

 

「……死んじゃダメだよ?」

「分かったよ」

 

「……むぅ……分かってない感じ」

「君はバカだな、僕が分かったと言った以上分かっているかいないかは僕の行動以外で証明できないんだよ?」

 

女の子の言葉に煙に巻くように応える僕に、不服そうな様子

 

「なら……んっ!」

 

女の子は、自分の髪の毛を数本抜いて

 

「いったた……」

ちょっと涙目になりながら、僕の指に巻きつけてきた

「ちょっと、なにを」

 

「髪は女の命、だからあたしの命をあなたにあげる、あなたが死んじゃったら

私の命も一緒に終わる……これなら、自殺なんてできないでしょ?」

細い茶色の髪の毛を

器用にに結えた女の子は、僕の目を真っ直ぐに見つめて

 

ちょっとだけ痛そうに、笑った

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