どうでもいい短編集   作:魚介(改)貧弱卿

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5000文字くらい伸びたので前半と後半に分けます

例によって唐突に思い浮かんだ『美大生と島風』の組み合わせ



島風と邂逅

私、島風!とーっても速いんだよ!

 

「ぴゅーん!」

 

私は足が早くて、この足があれば

どこへでも走っていける

どんな障害でも乗り越えられる

 

だから、私は走っている時が1番幸せ

何もかもを置き去りにして

どんなしがらみも無視して、

私を自由にしてくれるから

 

だから今日も、私は走り続ける

 

川辺を走って、ビル街を走って

橋を走って、原っぱを走る

どこでも、どこへでも走り続ける

 

「あ……日が暮れる」

 

もうすぐに夜になってしまう、帰らないといけない

 

せっかくこんなに調子がいいのに

 

「君……いい脚をしてるね」

「え?」

 

突然声をかけられて、振り向いた先にいたのは

くたびれてシワのついた紫のロングTシャツに褪せたジーパン、それに

鼻の半分くらいまでずり下がった眼鏡

お前に半年は切っていないだろうバサバサの髪の青年

 

「僕は大学で美術を専攻しているものなんだけど、君の走る姿に『美』を感じた

だから、君が良ければ

僕の絵の、モデルになってくれないか?」

 

正直に言って、カッコよくはない

端的に言えばダサいその人は

私に手を差し伸べてきた

 

「モデル?それってなにするの?」

「あぁ、えっとね……君が走っている姿を映像で撮る、その姿を絵に描く

だから君は走ってくれれば良いよ」

「ふぅ〜ん?わかった、良いよ!

それじゃあよーいどん!」

 

「うわぁちょっと待ってまだカメラ出してないっ!」

 

私が走り出したその後ろから

引き止めるような声が聞こえて

 

「おっそーい!何してんのぉ?」

「ちょっと待ってカメラ……あれ?カメラ?」

 

その人はカバンのなかを少し漁って

 

「ごめん、家に置きっぱなしだ」

「もう!待つ意味なかったじゃん

で、もういい?私帰るよ?」

 

「あ、ごめんよ……そうだ、また明日

ここに来られるかな?そしたらカメラを持って来るから」

「わかった、また明日ね?

忘れちゃダメなんだから!」

 

私はそのひとに背を向けて

また思いっきり走り出した

 

「忘れないよ、大丈夫」

 

そんな声が、聞こえた気がした

「はやく明日にならないかな〜」

 

 

 

というわけで、学校の授業もなにもかもを置き去りにして昨日の河原まで来てみたんだけど

 

「もしかしてまだ来てない〜?

おっそーい!」

 

サボったわけじゃなくちゃんと諸事情って事にして休んだのに

今日会ったら写真撮ってくれる約束なのに

そこには彼の姿はなかった

 

「しょーがないなー……

全く、まぁいっか」

 

あの人が来るまで、走って(自由で)いられるから

 


 

「君、今月これだけしか入れないの?

バイトの自覚ある?」

「ぇ、でも大学の講義の関係で」「講義の関係なんてどうだっていいんだよ!

わかる?こっちは商売してんの

君にだってバイト代払ってんの!

少しはこっちの都合に合わせられるように努力しろよ」

 

「最大限努力してそれなんですよ」

「はぁ……辞めたら?

なに、籍は置いときたいの?」

 

「っ!!」

 

バイト先の店長は相変わらず僕に当たりが厳しい、初日に凄まじい目で睨まれてからずっとこう

もう一年以上ずっと絡まれている

正直、毎日こんな絡みからをされているからストレスが溜まって仕方がない

 

「やる気あんの?こんなスッカスカのシフトでさ」

「…………」

 

そして僕は

 

「おい、なんとか言えよ、え?

やる気あんのかよ」

「……やめます、雇用契約破棄なので今月の給料は要りません」

 

ついに、この日限界を迎えた

なにをする気も起きず、

ぼんやりと景色を眺めていた

 

そのとき、視界を金色の輝きが駆け抜けた

 

気がついたときには

僕は走ってその輝きを追いかけていた

 

「君……いい脚をしてるね」

「え?」

 


 

ずっと走っていたけれど

もうすぐ夕方になってしまう

結局あの人は来なかった

 

「はぁ〜……あの人も、か」

 

結局、私は一人ぼっち

ずっと1人でいるべき存在なんだ

 

「帰ろ……」

 

別になんとも思ってないけど

なんとなく家に帰りたかった

 

「はぁ……」

 

ため息をついて、振り向いたその時

耳に飛び込んできたのは

原付のエンジン音

 

「君!……1日ぶりだね、約束は覚えていてくれたようだ、よかった」

 

「……こんなに遅く、なにしにきたの?」

 

エンジンを止めて降りてきたそのひとに、冷たく返す

ずっと待たせて、

なにもなかったかのように呼ぶなんて、さすがに私は許せないから

 

「いや、昨日と同じ時間に来たんだけど……」

「……あっ」

 

そうだ、そもそも()()()()()()()()()()()

あの人が昨日と同じ時間にくるのも当然のことだと思う

 

「ごめんなさい」

「いや良いよ、それより今からでも大丈夫かな?カメラは持ってきたから」

 

「うん、今帰ろうと思ってたけど

いいよ、もう一回走ってあげる

みててね?よーい、どん!」

 

あの人がカメラを構えると同時に

私はスタートを切った

 

「どう?綺麗に撮れてる?」

「あぁ、よく写っている、綺麗だよ」

 

そう答えられて、私はほっぺたが赤くなっていることを自覚しながら

それを必死に走りすぎたせいだと思い込んだ

 

「そう?そうなんだ……それじゃあ私

もう帰るね?」

「あぁ、来週の日曜日、またここにきてくれ

今度は12時くらいからいるから」

 

「来週?ずいぶん先だね」

「あぁ、それまでに仕上げるよ、これの絵を」

 

楽しみだから、また来週が待ち遠しい

この人はどう私を見るのか、

どういう風に私を描くのか

 

「わかった!楽しみにしてるね

じゃーねー!」

 

「あぁ、ありがとう」

 

気弱そうな笑顔を最後に見て、私はまた家への道の、その第一歩を踏み出した

 

「いっくよーっ!」

 

「また今度、ね」

 


 

「僕はなにを言ってるのか……」

 

深く、ため息をつく

やってしまった

いくら限界が来ているといっても

突然やめてしまうのは失敗だった

 

いくら多少の蓄えがあるとはいっても

それはあくまで『多少の』という範囲

大学生活残り一年を満足に終えられない程度しかない

 

「……はぁ……」

 

深く、ため息をついて

立ち上がった

 

折り畳みできるアルミのイーゼルと

カンバスを鞄に押し込んで、それを肩にかける

 

「よし」

 

彼女が来ている事と、来ていない事のどちらも願って、僕はバイクのキーを回した

 

 

 

「君!……1日ぶりだね、約束は覚えていてくれたようだ、よかった」

 

少女の背中を見かけて

僕はそこに声をかけた

 

覚えていてくれた、美しい少女が

わざわざ来てくれた、僕のために

それがとても嬉しくて、思わず声が弾む

 

「……こんなに遅く、なにしにきたの?」

 

その冷たい声を聞くまでは

 


 

「おっそーい!一週間長すぎ〜っ!」

 

ずっと必死に走り回って

ようやく3日

 

遅い、遅すぎる

私の周りの時間が遅すぎる

 

こんなにも遅い時間の流れの中で、ずっと私は生きている

 

絵のことは楽しみだけれど、それでも長すぎる

 

「なっが〜い……」

 

「最近ずっとそれ言ってるわね

何かあったのかしら?」

「う〜……待ってるの!」

 

キッチンの方から、姉さんが出てきた

私と同じ金の髪を編み込んでまとめている、複雑な髪型……いつもだけど

崩れないか心配になる

 

「待ってるって?」

姉さんにはなにも言いたくなかったけど

ここまで問い詰められたら仕方ない

 

「絵をね、描いてもらってるの」

 

「へぇ、なんの絵を描いてもらってるの?」

「私!モデルやってるんだよ!

カメラで走ってるのも撮ってもらった!」

 

「なるほど、分かったわ

それで絵が書き上がるまでの時間が暇だったのね?」

「うん!」

 

「私はモデルとかやった事がないから、よくわからないけれど、その絵、私も見せてもらって良い?」

「わかんない、あのひとに聞いてみなきゃ」

 

「連絡先、持ってるの?」

「ん〜ん、持ってないよ

待ち合わせなの、でもそれも日曜日のお昼って言われた」

 

「そっか……そういうアナログも素敵だとは思うけれど、少し心配ね」

 

風流ねぇ……なんてつぶやきながら、姉さんは笑って

 

「じゃあその人のお名前は?」

 

「……知らない」

 

特大の爆弾を投げてきた

 

「ねぇ、私が言えた事じゃないのかもしれないけれど、あなた大丈夫?

へんな人にひっかけられていない?」

「大丈夫だもん!あんなダサいのに引っかけられたりしない!」

 

大丈夫だよ、ダサいし

おんなのこを釣るならもっとカッコよくないとダメ、だからそんな事はあの人には無理

 

「……うん、決めた」

「なにを?」

 

姉さんの声に、抜けている主語を捉えて聞き返したところで、姉さんは私の目を見つめる

 

「私も、その人と合わせて

そこで見定める、その人がどんな人か」

「え?……うん、わかった」

 

姉さんは無計画な行動は多いけど、無鉄砲なことはしない、だからきっと大丈夫

 

「よし、じゃあ一緒に行くわよ」

「うん」

 

そうして、姉さんはキッチンに戻っていった……

あっシチューおいしそう

 


 

「やっべ、インク切れてんだった」

 

愛用しているコピックのインクが切れてしまって、ついため息をつく

たまたまだろうけれど

こんなに悪いことが重なると嫌な気分になって来る

 

「バイト辞めたって聞いたぞ?どうした急に」

「いびり、流石に限界」

 

突然話しかけられて、僕はその友人に答える

 

「そうか〜……男だもんな」

「露骨……まぁ事実か」

 

店長は男女差別主義者……というか

単純に女性に甘い人で、男女で明らかに待遇が違う、まぁ今の僕にはもう関係のないことだけれど

 

「そういうわけだ、僕にコピックを奢れ」

「ちょ!俺今月ヤベぇんだからやめろよそんな不穏なこというの!」

 

「ひとの時と対応が違うが?誠実な対応を求める」

「我が国はこの横暴に対して厳重に抗議していく!」

 

突然国際問題にされてしまったようだが、まぁそもそも期待していない

別に構うことでもないだろう

 

「んで、お前課題は?終わった?」

「今日の課題は『雪』テーマだろ、終わってるよ」

 

さらっと書き上げた絵を見せる

カンバスに挟んだまま来たから取り出すのはすぐだ

 

「ほら、これでいいか?」

 

あんまり好みな絵ではない、がそれでも提出には堪える程度の出来だ

 

「ふーん、女の子と雪景色か

でもお前、風景画専門じゃなかった?」

「以前はな、だが人物も良いと思えただけだよ」

 

「ほぉ〜?……ロリコンは良くないぞ」

「うるさい、それに俺はロリコンじゃない

それはお前も知ってるだろ」

 

10年来の友人なんだから、と続けて

カンバスを閉じる

 

「んで、その金髪の子は誰?

どっからモチーフ出してきた?またピクシー?」

「pixiyじゃない、実在する

……あ」

 

「へぇ〜〜……?

どこで知り合ったんだこんな子、めっちゃ可愛いじゃん」

「黙秘する、というかお前はコピックを奢れ、まず話はそこからだ」

 

「わかった、でもさ」

「ん?」

 

意味深な『でも』に問い返すと

奴は笑って

 

「お前、今のは本題じゃないだろ

本気で描いてるやつがあるな?

そんでまだ未完成とみた!」

「…………」

 

時々勘が異様に鋭くなるのはなぜなのか

なんて表情だったのが悪かったのか

そのまま僕に指を向けた浩太は、ニヤけながら告げる

 

「この子のモデル、会わせろよ

んでついでに絵も見せろ」

「そりゃコピック一本じゃ収まらないな」

 

「わかった、んじゃ1万出す!」

「突然だな」

 

「2万!」

「吊り上げろと言ったわけじゃない」

 

「2万五千……!」

「苦しくなってきたか…

どうしても会いたいんだな?」

 

指を増やしつつ苦しげに声が震える浩太

大丈夫とは言えなさそうだ

 

「よし、来週の日曜を空けろ、

午後から完成した絵を見せに行く」

「わかった!よっしゃ!」

 

露骨にテンションを上げた浩太と

その周囲の数人……そろそろ一限始まるってのに、元気な連中だな

 

「俺は金髪美少女とお知り合いになる!」

「……ロリコン」

 

今度は僕がそれをいう番だった

 


 

「やっとこの日になったね!」

「えぇ、それじゃあそろそろ出かけましょう、お昼頃に約束しているのなら

お弁当はどう?って言って良かったわ」

 

気分良く飛び出そうとした私に待ったをかけて、姉さんが玄関を出る

その手には4人分くらいなら充分なサイズの重箱

 

どう見ても重いよねあれ

 

「もう!マックでいいのに」

「だ〜め、お腹でちゃうわよ?

油脂に糖分をまぶしたようなものを食べてはいけませんっ」

「姉さんはドーナツ大好きじゃん」

 

「っ!」

 

姉さんは硬直して、表情が凍りつく

 

「姉さん、大丈夫姉さん?」

「だ……大丈夫よ、このパース、そう簡単に太ったりは……っ!」

 

「こんなにお肉ついてるのに?」

「やめなさい恥ずかしい!」

 

むにゅ、と柔らかさを主張するそのお肉を摘んでやると、それが決め手になったのか

ついに頭をはたかれる

 

「むぅ……って、もう11時だよ、早く行かなきゃ!」

「……はぁ、全く

私は車で行くけど、あなたは?」

「走る!だってそっちのほうが早いもん!」

 

これは本当、自己ベストは時速50キロくらい出ているから、本当に(普通車道の)車より早いんだから!

 

「よし、いっくよーっ!」

 

私は愛用の運動靴を鳴らして

勢いよく走り出した




パース姉、島風妹

……このパース愛宕が化けてるな(名推理)
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