リプで来たサーヴァントが二人一組で模擬戦するSSを書く 作:忍野佐輔
その日、戦闘シミュレーターを起動する4柱のサーヴァントがいた。
かたや
かたや
きっかけは極、些細なことだった。
ギルガメッシュが戦闘の際に王の財宝から
無論、本来であればこのような口車に乗るギルガメッシュではない。
だが連日の周回によって疲弊した時を狙って、口の上手い皇帝と悪巧み好きの教授に嵌められてしまったのである。シミュレーターの外ではどちらが勝つのかと、賭けが始まっていることだろう。
こうなってしまっては下手に勝負を下りることも出来ない。
他の木っ端英霊ならいざ知らず、神々まで顕現するこのカルデアで勝負に背を向けることなどできようはずもなかった。
だが――
「……あの小汚い雑種め。何を考えている」
奇妙なのは設定された舞台と条件だ。
最後の海賊を名乗る雑種が提示した条件は二つ。
一つは、賢王ギルガメッシュとエルキドゥの二騎で参戦すること。
もう一つは、シミュレーションの舞台を紀元前2655年の古代メソポタミア――ウルクとすること。
あまりにギルガメッシュ側に有利な条件。
これで怪しむなという方が難しい。
「まあ良いか」
大方、あえて敵方に有利な条件を与えて油断を誘おうとでも考えたのであろう。そうギルガメッシュは結論づける。実際、ギルガメッシュは自身の戦闘意欲が大きく削がれたのを感じていた。そもそも戦闘意欲など、欠片ほどしかなかったが。
だがそれでも問題は無い。
我が友と相対するならばともかく、協力して戦い負けるはずがない。
「これに乗るのも久しぶりだなあ」
ギルガメッシュの隣に立つエルキドゥが髪をなびかせ、大空の風を感じていた。
二騎の英霊がいるのはウルク上空500メートル。
ギルガメッシュが駆るヴィマーナの上だった。
「でもそろそろ身体を動かしたいかな。君の敵はどこに居るんだい?」
「はっ、血の気が多いな友よ」
ギルガメッシュは宝物庫から遠見の水晶を取り出し、深い森の奥を映し出す。
途端、遠見の水晶に二騎の英霊の姿が映り、その声をギルガメッシュとエルキドゥへと届けた。
「いやあ先生! かの聖人が味方についてくれたとなれば、百人力ですぞ」
「なに。新しいカメラを頂けるとあっては、この程度は安いものです」
「デュフフ、それはもう拙者がカメコ達から巻き上げた超高級カメラで良ければ幾らでも――ただ先生、作戦通りにお願いしますぞ?」
「分かっています。あ、お金はきちんと元の持ち主に払ってくださいね」
「え~、なんだか先生冷た~い」
森の中で笑い合う二つの英霊を見つめ、英霊ギルガメッシュは「ふん」と鼻を鳴らす。
「
「ギル、油断しないようにね」
「分かっている。――だが、
「そうだね。その時は僕も本気でやらせて貰うよ」
「おやおやおやおや? 拙者の事は無視ですかい?
寂しいな~、黒髭たん泣いちゃうなあ~ これは是が非でも勝ちたくなってきたぞぉ」
「――はッ ほざけよ」
どうやら外にいる誰かがシミュレーターの設定を弄って、互いの声が届くようにしたらしい。
おどける黒髭の言葉に、ギルガメッシュの瞳が妖しく光を帯びた。
「貴様は
「ほほう、千里眼ってやつですかい?
ならばその未来を変えてしんぜよう。いざ! ダイバージェンス1%の向こう側へ! 助手ちゃん待っててねえ、デュフフフフフ」
ウルクの森が揺れる。
逃げ惑う鳥たちの群れの向こうから、巨大な影が姿を現した。
影は漆黒の帆を広げ、空へと舞い上がる。
「さあ野郎ども! 海賊旗を掲げろい!!」
船長の号令に応じ、海賊の亡霊たちが雄叫びをあげた。
英霊、エドワード・ティーチの恐怖の象徴。
宝具――
「拙者の
「何を企んでいるのかと思えば」
背後にウルク城塞を残し、ヴィマーナで空を飛ぶ賢王は落胆に満ちた声を漏らした。
「英霊を一人抱き込んだ程度でどうにか出来るほど、ウルクの守りは薄くはないわ。
矢を構えよ!」
王の号令に呼応し、背後に聳えるウルク城塞が煌めく。
「至高の財をもってウルクの守りを見せるがいい!
大地を濡らすは我が決意!
――――『
「おっひょー!!」
数多の宝剣を潜り抜ける
だがそれにも限度がある。
一つや二つ、いや数十の矢であろうと黒髭、エドワード・ティーチは避けてみせただろう。
しかしかの宝具の矢は、此の世全ての財を放つもの。たった一度の掃射で七百もの宝剣宝刀を放つものである。
くわえて、
「僕のことを忘れないで欲しいな」
「なに! ここでですか!」
空を飛ぶ
エルキドゥの手刀をゲオルギウスが聖剣で受け止める。敵から守護することにかけては無敵を誇る祝福の剣は、神代の兵器の攻撃を防ぎきってみせた。
――しかしその勢いまでは殺せない。二人は船から投げ出されもつれ合うように墜落する。
「先生ぇ!」
「たわけ、王の御前でどこを見ている」
声を上げる間もない。
遂に避けきれなかった矢の一つに貫かれ、エドワード・ティーチの首がくるくると回転しながら墜ちていった。
「だから言ったであろう
貴様は
英雄王の千里眼は未来をも見通す。
シミュレーターの演算限界により制限されているとはいえ、ギルガメッシュはこの結末を既に垣間見ていた。
しかし、とギルガメッシュは嘆息する。
あまりに拍子抜けだ。あれでも人理を救うために集った英霊の一柱。何か一つくらいは見所があるかと思っていたのだが。
「まあ良い。これで余興は終わりだ。
久しくなかった友との力比べでも――」
ギルガメッシュが見やった先、地上にいる友の顔に浮かんでいたのは失笑だった。
神が作りし兵器が、その瞳だけで友へ語りかける。
まったく、その霊基でも君は君なんだね――と。
そうエルキドゥは肩をすくめて森から飛び出し――――た瞬間、ゲオルギウスに押し止められた。
鎧のあちこちを砕かれてはいる。血も流している。だがそれでも確かに世界宗教の聖人は神が造りし兵器を押しとどめていた。
ゲオルギウスは『守る』という状況においては最硬の英霊。カルデアでは万全の召喚ではなかったはずだが、それでもあのエルキドゥを抑え込むとは。ギルガメッシュはかの聖人の評価を改める。
――だがなんだ。
かの聖人はあの小汚い雑種に雇われただけの男のはず。
雇い主が倒れた後も、戦い続ける理由は何だ?
何を――誰を守っている?
「さぁて、ここでクエスチョン」
遙か彼方。
聞こえるはずのない首の声が、ギルガメッシュの耳に届く。
「とぉっても強い英雄王がウルク城塞に籠もっています。黒髭、エドワード・ティーチがその守りを破るためにしたある事とはなんでしょう? ではスーパー黒髭くんを賭けている黒柳さん正解をどうぞ」
主を失ったはずの
そのままギルガメッシュが切り落とした黒髭の首へ突進。主の首を船首に突き刺し、天空へと舞い上がった。
太陽を背にインメルマンターンを決めた
その船首には、口が耳まで裂けるほど大きな笑みを浮かべた髭面の首。
「正解は――――オレ自身が
いくぜ、超級覇王海賊弾ッ!! ハイィィィィィィィィィィィィィィィィッ!!!!」
「なんなのだ此奴はッ!?」
空に航跡雲を引きながら、
それは黒髭という『身体中に剣と銃弾を受けても死ななかった海賊』と
「いくでゴザる、いくでゴザる! 賢王殿のごちうさBDコレクションはオレが貰ったぁ!」
「そのようなもの、
途端、船首に吊された黒髭の顔が「えー」と不満げに口を尖らせる。
「英雄王ともあろうお方がアニメのBD一つも持ってないでおじゃるか? まあ、ギルガメッシュ王もお歳ですし? アニメという宝が理解できないのは仕方がないでゴザるか。でもジブリぐらいは観ておくべきだと思いますぞ? もの○け姫ならお爺ちゃまでも楽しめる可能性が微レ存――」
「王の宝を漁るしか能のない雑種が宝の価値を説くかッ!!」
たとえ
されど――この程度の荒波に呑まれるようでは、海賊の英霊とは呼べない。
嵐の航海者は下卑た嗤いを高らかに、英雄の王を貶める。
「デュフフフフ、これはいけませんなぁ! こんな『可愛い女の子をいっぱい出せば売れるっしょ』的に爆死する泡沫ソシャゲのような真似をして」
「いいですかな? 女の子は宝。つまり宝は女の子! 一人一人に人生があり、好みがあり、魅力がある。宝を集めるだけ集めて人には見せず貸さず、あまつさえ投げ捨てる輩がコレクターを名乗るなぞ笑止千万!!」
海賊王黒髭は笑う、嗤う、
「オタクなら本編で描かれない部分を薄い本でしゃぶり尽くしてから看取られ妄想で果てるのが礼儀でしょうがぁ!!」
「何を言っておるのか分からんわぁッ!!」
真名開放――
再びウルク城塞から放たれる無数の弩が、
「へっ――だから投げつけるだけの攻撃なんて拙者には……およ?」
しかし――それら全ては苛烈な神代を生き抜いたウルクの民が王に捧げる一矢である。
愛の無い宝具の嵐など物ともせぬと言うならば。
王であり国たる一人へと、人生を捧げ放たれる愛の嵐には負けるが道理――
「これがウルクだ。
――思い知れ、雑種」
至近で放たれた宝具の矢にその身を引き千切られて、
船首に融合していた黒髭の首も無事では済まない。
右眼を潰され、自慢の鬚を焦がし、宙に舞う首。
肉体であり宝具である
魔力の残滓を煌めかせ退去しつつある
「な~んちゃって」
――ニタリと牙を剥いた。
「実は拙者、首が無くても結構イケる口でしてなぁ……」
「――ッ! 貴様、」
エドワード・ティーチ――黒髭にはある伝説がある。
彼を討ち取ったキャプテン・メイナードは黒髭の首をマストに吊るし胴体は海に捨てた。
しかしその胴体は、首を探し求めて船の周りを三周泳いでみせたという。
それは彼への恐怖から生み出された流言なのかもしれない。
されどその恐怖こそが黒髭、エドワード・ティーチにとっての海賊の誉れ。その畏怖ことが英霊としての証。
ならば、その恐怖を再現せずに何が海賊か。
ギルガメッシュが振り向いた先、ウルク城塞の上には地上に墜ちたはずの黒髭の胴体。
その両手が掲げているのは――
「これぞ『自分からデイダラボッチになっちゃうゾ作戦』!
だから言ったでゴザるよぅ。
――――ジブリくらい見ておけってよ」
戦闘:シミュレーション
――〔終了〕
経過:
――ギルガメッシュ及びエルキドゥ、損傷軽微
――エドワード・ティーチ及びゲオルギウス、損耗大につき強制退去
勝者:
――――――〔海賊王〕