日向であるという事   作:nyaa

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プロローグ

 

 火の国木ノ葉隠れの里。

 

 五大国の中で、最強の里と誉れ高い忍里。

 

地形的に森林が多く穏やかな気候であるが、今日に限っては天は曇り強い風が吹き荒れていた。

 

 この里の入口にある巨大な鉄扉に風が叩きつけ耳に痛い程の音を鳴らしていた。

 

 「どうしても・・・いってしまうのですか」

 

 だから、必死に声を大きくしなければ相手には伝わらない。

 

 未だ幼い少女が大声を上げて少年に話しかけた。強い風が少女の黒髪を巻き上げ、澄み切った純白の瞳がまっすぐに少年に突き刺さる。

 

少年よりも頭一つ分小さな少女の表情は、不安と後悔に揺れながらも少年を見つめていた。

 

 少年は困った顔で、里の入口と少女を見比べた。里の入口はすでに開かれており、門の前には額に木ノ葉隠れの額宛をつけた忍が二人チラチラと此方の様子を盗み見をしていた。

 

 「トキにい様!」

 少年・・・・日向トキは少女の大声で入口から視線を外した。

 

 漆黒の黒髪、反対に白の瞳。十代前半の未だ幼い表情には気弱い笑みが張り付いている。

 

 「それでも、僕は行かなければいけないんだよ。・・・ヒナタ」

 

 トキは声を張り上げず、ヒナタの頭を優しく抱き寄せ囁いた。ヒナタはその小さく震えるちいさな手でトキの服を精一杯握り締めた。

 彼女の訴えるような瞳が近くに見え、震える吐息を肌で感じた。

 

 「でも、わたしのせいなのに・・・もういちどお父様にお願いすれば。にい様がいくことなんて」

 

 その先にどんな言葉があったとしても、トキの決意が変わることはない。それを示すために、この小さく愛おしい従兄弟にゆっくりと首を振った。

 

 「出発をやめる事なんてできない」

 

 小さく・・・それでもはっきりと伝える。ヒナタが息を呑む。傷ついた顔で、揺れる瞳が自分を見つめるのに耐えられなくて、トキは彼女の肩に、そこに載せた自分の手に視線を注いだ。日々の修行で皮の厚くなった、ごつごつとした手だ。それは努力の証、それでも未だ未熟な手だ。

 

 「もう決まった事なんだ。覆すことはできないし、それを誰も望んでいないんだ。僕も望んでいない。火影様にはとてもお世話になった。火影様は約束を守ってくれ、日向家のだれもが死なずにすんだ。僕がここにいることを望んではいないんだよ。」

 

 「わ・・わたしは、のぞんでいます」

 

 ヒナタの、揺れながらも強さを感じさせる言葉に、今度はトキが息を呑む番になった。

 

 「わたしは、にい様といっしょにいたいです。・・・わたしがのぞんでるだけじゃ、だめですか?」

 

 トキは、ずるいと感じた。日頃は引っ込み事案であり、おどおどと何かに怯えているようなのに彼女の訴えかけるヒナタの瞳と言葉に取り繕うための言葉を探そうとして、それが無い事に気付かされる。言わなければならないという事に痛みを感じる。

 

 トキの唇が震える。ヒナタの唇もまた、震えていた。

 

 お互いに言葉を探していた。

 

 そして、結局、取り繕うための都合のいい言葉なんてないのだと気付かされる。誰が何を望もうとも、トキがこの里を離れるのだという事実はもう覆せない。トキにその気がないのだから、覆せるはずもない。

 

 それを望まないヒナタを傷つけないままに納得させるなんて、できないのだ。

 

 強く冷たい風が背を撫でる。トキは目を閉じ両手に力を込め、そして手を解いた。

 

 トキの唇の震えは止まっていた。足元に置いていたバッグを持ち上げ背に背負う。

 

 持っていく物はただこれだけ、分家の家に置いていた物は弟のネジが使いまわすか。あるいは捨てられるだろう。

 

 「僕はいくよ」

 

 わずかに赤らんだヒナタの瞳に、トキはまっすぐな言葉を向けた。ヒナタからの返事はなかった、ただ赤らんだ瞳だけが、トキを見つめている。

 

 「もう決まった事だという以上に、僕も外の世界を見てみたいんだ。もう。日向の家には戻れないし、木ノ葉隠れにもいれない。それは僕のした事だし、あの夜攫われたヒナタにも、警護を担当していた暗部にも責任なんてない。火影様の尽力があったからこそ僕は未だに生きていられる。代償として数年間の追放だとしても。」

 

 トキは自分の未熟な、だが人を守る事の出来た手を握り締めた。

 

 「僕は強くなりたいんだ」

 

 トキは未だ沈黙を守るヒナタに向け静かに宣言した。

 

 「行くよ」

 

 痛む心を無視し、トキはヒナタに背を向けた。

 

 「ま・まって・・」

 

 細い声と背中に感じる熱がトキの足を止めさせた。

 

 あたたかい熱と共にヒナタの気持ちがトキの心に伝わるように、暫しの間二人は暖かさを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 「わ・・わたしも」

 

 一瞬だったのかそれともとても長い時間が経ったのか、ヒナタが呟く

 

 「わたしも、強くなります」

 

 それは小さくも強い宣言だった。

 

 

 

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