「はぁっ、はぁっ……」
結局御坂さん見つからなかったなぁ。
まあ、あとはあいつらに任せて俺は一方通行のとこに向かうだけだ。
普段は学生たちで溢れている学園都市も、夜になればその姿を変える。
完全下校時刻を過ぎた今、ほとんどの住人が学生のこの第7学区は、昼間とは打って変わって静寂に包まれていた。
繁華街を駆け抜けていたはずだったが、気付けば街の中心部からとっくに離れていた。
肺が痛い。
自分がどれほどの時間走っているのかも分からなかった。
けれどその脚に篭った力を弱めることはしない。
早くしねえと!
激しい足音と青息が、ガラリとした夜の街に静かに響き渡っていた。
少し走ると、鉄橋が見えてきた。
街の中心部から離れた鉄橋には街灯もなく、薄暗い。
人工物の塊みてえな学園都市にも、こんなとこがあったのか。
ここで星でも見たら良いもんだろうなぁ。
「ッ!?」
寂れた鉄橋にはとても似合わない、不自然なほど青白い光ともに、ドゴン!という爆音が鳴り響いた。
「あれは……」
あれほどの現象が自然に起こるとは思えない。
しかし、この街ではそれほど不思議な事でもない。
一般的に非日常と言われることだって、この街では日常なのだ。
あれほどの現象を引き起こせるほどの力を持った人間を、俺は知っている。
「御坂さんか!」
俺は爆音の発生源へと向かって全力疾走した。
御坂さん……と、向こうにいるのは誰だ?
俺は御坂さんたちから距離を空けて立ち止まった。
どうやら誰かと戦闘しているようだ。
さっきのは御坂さんが相手に放った雷撃だろう。
となるとあのウニ頭が一方通行か?
でも少し様子がおかしい。
敵意剥き出しの御坂さんに対し、ウニ頭の方は右手を横に広げているだけだった。
敵意も殺気も感じられない。
「ざっけんなぁっ!戦う気があるなら拳を握れ!戦う気が無いなら立ち塞がるな!半端な気持ちで人の願い踏みにじってんじゃないわよ!」
御坂さんの狂犬のような絶叫が、夜空へ響き渡る。
近くの鉄骨へと雷撃が放たれるが、ウニ頭はピクリとも動かない。
ウニ頭は残った右手と対になるように、残った左手を上げた。
まるで、お前と戦う意思は無い、というように。
何かの攻撃の予備動作か。
それとも本当にこいつには戦う意思がないというのか。
「戦えって言ってんのよっ!!」
ついにウニ頭に向かって電撃が放たれた。
瞬間、俺は驚愕した。
ウニ頭はなんの抵抗もせず、雷撃に直撃した。
しかし、それに驚いた訳では無い。
一方通行の能力であれば、御坂さんが放った雷撃など、1歩も動かずに反射することが出来るからだ。
なら何故驚いたのか。
さっきまで一方通行だと思っていたやつが数メートル吹っ飛ばされていたからだ。
体は地面へと叩きつけられ、その勢いでゴロゴロと1メートルほど転がり、ぐったりとうつ伏せで倒れ込む。
こいつは一方通行じゃねえのか?
じゃあなんで御坂さんはこんなにキレてこいつには攻撃してんだよ。
それにあいつもあいつだ。
あの様子だと、御坂さんは本気で電撃を放っていた。
レベル5の本気なんざ、まともに食らって無事でいられるわけがねえ。
防ぐ手段もねえくせに、なに無抵抗で突っ立ってやがる。
最悪死んだな、ありゃ。
そう思った瞬間。
ウニ頭は立ち上がった。
「マジかよ……」
あんなのまともに食らって生きてるだけでもラッキーだってのに、立ち上がるのかよ。
足はガクガクと震え、腰は曲がっている。
まるで生まれたての子鹿のようだ。
自分と同年代に見える男がやるにはあまりにも滑稽な姿。
しかし、俺にはあの男を笑う気は起きなかった。
「戦いたい理由なんてわかんねえよ。他に良い案があるのかどうかも分っかんねえよ!けど嫌なんだよ、お前が傷付くところなんえ見たくねえんだよ!自分でも何言ってっか分かんねえよ!けど仕方ねえだろ、お前に拳を向けたくねえんだから!」
男は、今にも崩れ落ちそうな体で必死に叫んでいた。
「もうこれ以外に方法がなくたって、他にどうして良いのか分からなくたって、それでも嫌なんだよ!何でお前が死ななきゃいけねえんだよ!どうして誰かが殺されなくちゃならないんだよ!そんなの納得出来るわけねえだろ!」
そういう事か。
この男が何者なのかは知らねえが、どこかで実験のことを知り、自分の命を掛けてまで実験を止めようとしている御坂さんを止めようとしているのか。
こいつなら引き出せるかもしれない。
俺は勿論、御坂さんの両親や初春さん、佐天さん、そして白井でさえも引き出せなかったたった一言を。
「私には、今更そんな言葉かけてもらえる資格なんてないのよ!仮に、誰もが笑って過ごせるような幸せな世界があったとしても、そこに私の居場所なんてないのよ!」
御坂さんはもう大丈夫だろう。
そのまま全部吐き出しちまえ。
──助けて。
その一言を聞けば、あの男はどんな奇跡だって引き起こすだろう。
まあしばらくかかりそうだし、今のうちに俺は一方通行のとこに向かうか。
橋は御坂さんたちがいるから通れないし。
となると。
「マジか……」
結構高ぇなぁおい。
一方通行と戦う前に死なないかこれ?
高さによってはコンクリート並の硬さって聞くしなぁ。
柵から身を乗り出す。
眼下の川は黒に染まり、底が見えないせいで余計に恐怖を倍増させる。
行くしかねえか……。
「くそったれェッ!!」
一瞬の浮遊感の後、体はどんどん落ちていく。
勢いよく飛び込んだせいで、空中で体は勢いよく回転していた。
やばい死ぬ!助けて!マジでこれ死ぬって!
そんな思いとは裏腹に、容赦無く水面は近づいていく。
直後、バシャーン!という音ともに、俺は水面に叩きつけられた。
何とか水中で目を開けるが真っ暗でどっちが水面かも分からない。
俺が死んだら後は任せたウニ頭……。
今回は展開に悩みましたが、やっぱり御坂さんを救うのは上条さんですよね!
今回お読み頂きありがとうございます!