「おーっす」
「こういう時は殿方が先に来るものだと思うのですが」
「そりゃ悪かったな」
まだ待ち合わせの15分前なんですけどよー。
そういえば昨日の御坂さんもだけど、なんでこいつら夏休みだってのに毎回制服なんだ?
「思ったんだけど、なんでお前いっつも制服なの?」
「うちの学校の校則ですの。というか、あなただって制服ではありませんか」
なんか御坂さんと白井って会った時いっつも制服だからな。
今日だって俺だけ私服ってのもなんか嫌だし。
しかしなんだぁ?その意味のなさそうな校則。
「厳しいんだな、お前のとこ」
「それはまあ。私もそれを承知で常盤台に行ったので」
常盤台って言ったら超お嬢様学校だしな。
確か在学条件がレベル3以上っていうくらいだから、能力開発に結構力入れてんだろうな。
その証拠に、常盤台にはレベル5が二人いる。
超電磁砲の御坂美琴と心理掌握《メンタルアウト》の食蜂操祈。
心理掌握の方は会ったこともねえし、あんまり詳しくは知らねえが、なんでも記憶の読心やら人格の洗脳やら、精神に関することならなんでも出来るらしいって噂だ。
一体どうゆう原理でそんなこと出来んのかは知らねえが、そんなの絶対に相手したくねえな。
「それより今日どこいく?」
「は……?」
「え……?」
なんだ、この空気。
「今日はあなたからのお誘いを受けて、こうして集まったわけですが」
「あぁ」
「それなら、今日の流れくらいは考えてくるものでしょう。普通」
「いや違うんだ白井。今日はあ、え、て、お前の意志を尊重したいと思う」
決して、そんな発想が浮かばなかったとかそんな訳じゃない。
「絶対何も考えてなかっただけですの!」
「悪かったって。もう昼飯食った?」
「いや、まだ食べてないですの」
「お、ちょうどいいな。じゃあラーメン食い行こうぜ」
「ばっかじゃないですの?こんな暑い日にラーメンなんて食べてられないですの」
「バカはお前だ。暑い日に汗かきながら食うってのもいいじゃねえか」
「意志を尊重したいってのはどうしたんですの?」
「分かったって。何食いたいの?」
「そうですわね……。じゃあ、ラーメン以外で」
「どんだけラーメン嫌なんだよ。じゃあカレーは?」
「却下」
「お前よー、夏はカレーっていうだろ。あのインド人だって毎日汗水垂らしながらカレー食ってんだよ?失礼だと思わないの?」
「別にインド人だからってカレーを毎日食べてるわけではありませんの。とんでもない偏見ですわ」
「そうめんなんてどうですの?」
「おっ、悪くねえな」
本当は俺が今食いたいもんってラーメンやらカレーやら、全部熱々だし。
なんなら、今だって焼肉食いたいとか考えてたし。
まあそんなこと言ったら永遠に決まらなさそうだしなぁ。
「いやー。美味かった」
確かにこんな日にはそうめんってのも悪くねえな。
今まで麺類の下級戦士って呼んでてごめんなさい。
「さて飯も食ったし、白井。どっか行きたいところある?」
「服を見たいですの」
「はぁ?でもお前校則で制服以外着れねえんだろ?」
「ただ見るだけというのも、楽しいものなんですのよ」
うーん。何となくわかるような気がする。
俺もガキのころは親の買い物について行った時は必ずおもちゃ屋のショーケースに張り付いてたもんだ。
買ってもらえないってのは分かってたが、見るだけでも楽しいってんのは確かに分かる。
「まぁ、お前がそう言うなら行くか」
「はいですの!」
そうして俺たちは駅前のデパートにある、女性服売り場へとやって来た。
なんかめっちゃ恥ずかしい。
この階は女性服専門の店しかないから当然といえば当然なんだが、周りに男が一人もいねえ。
しかもこの階には男子トイレすらねえ!
なんだこの男を完全に拒絶しか空間は!
あ、やばいあのお姉さん絶対俺の事を馬鹿にしてるよ。
「何をそわそわしているんですの?」
「い、いや。なんでもない。何か気になるのあったか?」
「んー、どれもイマイチですわねー」
おい!そーゆーのは小さい声で言え。
店員さんの目が怖いから。
「あっ!あれは!」
「おい!走るなよ」
あんだけ走って……そんなに良いもん見つけたのか?
ってなんだあそこ!?
置いてる服どれもこれもが水着並に布面積が異常に少ない……。
なんであんな店がデパートにあんだよ。
「素敵なお店ですわぁ〜」
「まじで言ってる?」
ここ、俺たち以外誰も客いないんだけど。
「お客様ァ!ご来店ありがとうございますゥ!」
店員さんめっちゃ必死じゃん。
このままだと絶対死ぬほど買わされる。
「ここ出るぞ!」
「あ、ちょっと!せめてこれだけでもお姉様にぃ!」
そんなもん買ってたらお前殺されるわ!
「せっかく良い雰囲気のお店でしたのに」
「お前がどういう趣味を持とうが俺には関係ねえのかもしれねえが。あーゆう服はせめてあと10年くらい年取ってからにしろ」
「失礼ですわね。だいたいあなたに私の趣味を否定する権利はないんですの」
「いや、まぁそりゃそうなんだが。それでも言う!お前にはまだ早い」
「早いですって!?」
「早いの。そーだなぁ。お前なら……あっ、あそこの店なんていいんじゃねえの?」
選んだのは清楚系のお淑やかな女の子が着てそうな服が並んであった店。
一応服装には気を使ってるが、女物なんて選んだことは無い。
ただ何となく白井に似合いそうなジャンルを自分なりに選んでみただけだ。
見た目は悪くねえし、あーゆうの来た方がこいつにも似合うだろ。
「ふーん」
ん?なんか不味かったか?
こいつのことだから……。
(ふん!人に偉そうに言うのでどうかと思いましたが……。大したことないですわね)
とか言われそう。
お前には言われたくねーが。
「あなたはこういうのが好きなのですわね。まあ、せっかくなので見るくらいならいいですわよ」
お?
なんだなんだ?この満更でもないような感じ。
へっ、やっぱりお前もこういうの好きなんじゃねーか。
「ふんふふーっん」
しかしこいつ楽しそうだなぁ。
まぁこいつくらいだとやっぱりお洒落とかしたい年頃だろうしなぁ。
校則のせいで私服着る機会がない分、見るだけでも相当楽しいんだろうなぁ。
「なんか良いのあったか?」
「うーん、あなたはどれが似合うと思いますか?」
「え?」
「大体、このお店を選んだのはあなたですの。私に似合うと思ってこのお店を選んだのならば、是非あなたの意見も伺いたいですわ」
「いきなり言われてもなぁ」
「それともまさか……、適当に選んだのということはありませんわよね?」
「違えよバカ。テキトーになんか選んでねえ」
「では別に問題ないですの」
まあ元々こいつに似合いそうな服が置いてあったからここを選んだわけだし。
うーん、そうだなぁ。
俺は、シンプルなロゴが胸の部分に入った白のビックTシャツに、ベージュのタイトスカートを手に取って白井に渡した。
ぶっちゃけ俺の好みで選んだが、白井なら似合うだろ。
「これちょっと試着してみてくれ」
「わ、分かりましたわ」
白井は俺が持ってきた服を持って試着室へと入っていった。
なんかちょっと緊張するな。
早く出て来ねえかなぁ。
少し待つと、試着室から声がした。
「あの……。一応着替えましたの」
「お、おう。出てきてくれ」
白井は、少し恥ずかしそうに試着室から出てきた。
「ど、どうですの?」
こ、これは……。
「すいませぇぇぇん!これ下さーい!」
「ちょっ、ちょっと!やめなさい!」
似合いすぎだろ……。
特にTシャツのブカブカ感が最高だ。
彼氏のTシャツを着たような、まさに俺のイメージ通り。
そしてキレイめなイメージのベージュのスカートがめっちゃ良い。
靴が制服のローファーだから若干違和感があるが、それでも充分過ぎるほどに似合っている。
今月厳しいってのに思わず買っちまいそうになったぜ。
「絶対こっちの方が良い!」
「そ、そうですか……」
ち、今ここで顔赤くして照れられるのは不味い。
こいつが変態ってこと忘れてうっかりプロポーズしちまいそうになる。
「なんかちょっと照れますわね」
くそ可愛い。
「でも勿体ねえなぁ。こんなに似合ってんのに校則で私服禁止なんて」
「まあこればっかりは仕方がないですわね」
なんかちょっと可哀想だな。
あんだけ楽しそうに服見てたんだしどうにか出来ねえか。
校則に引っかからない物……、髪飾りとかか?
「それでは着替えて来ますわ」
「おう」
出来れば白井が試着室で着替えているうちに探さねえと。
俺は辺りを見回すと、シュシュやヘアゴムなどが沢山置いてあるコーナーを見つけた。
あいついっつもツインテールだし、こーゆうのも悪くねえな。
俺はたくさんあるものから割と真剣にあいつに似合いそうなものを1つ選び、急いでレジに持っていた。
買い物を終えてデパートを出ると、空はすっかり赤く染まっていた。
「もうこんな時間か」
確か常盤台の門限は20時20分だったか。
今は18時54分。
もうちょっとくらい連れ回しても大丈夫かな。
「おい白井」
「なんですの?」
「お前まだ門限大丈夫だろ?夜飯でも一緒にどうだ?」
「別にいいですわよ」
「おっし!何食いたい?」
「ラーメン」
「え?」
「ラーメンが食べたかったんじゃありませんの?」
「いや、そうだけど、あんなに嫌がってたじゃん?」
「お昼はそういう気分じゃなかっただけですの。早くしないと気が変わってしまいますわよ?」
なんだぁ?
まあ、俺はラーメン大歓迎だけど。
「よし!なら取っておきの所に連れてってやるよ!」
「期待しておきますわ」
「うえぇ。もう当分ラーメンは食いたくねえ」
て言っても明日になればまた食いたくなるんだよなぁ。
「それはあれだけ食べれば……。見てるこっちまで気持ち悪くなってしまいましたわ」
いや、2杯目までは結構余裕なんだよ。
でも3杯目を少し食ったところで、さっきまであんなに美味かったラーメンが不思議に思えるくらい不味くなっちまう。
「でも美味かっただろ?」
「まあ。正直あんなボロッボロのお店に連れてこられた時は殺してやろうかと思いましたが」
「分かってねえなぁ。あのボロさが良いんだよ」
「たまにならああいう所も悪くないですわね。気が向いたらまた誘って下さいな」
「毎日でも誘ってやるよ」
「それは遠慮しておきますの」
「ははっ!それじゃあそろそろ帰るか」
楽しい時間はすぐに終わるって言うけど、俺はそれを今日、初めて体感した気がした。
こんなに時間が経つのが早いと感じたのは今日が初めてだ。
第一印象はめんどくさくてウザイ変態って思ってたやつと、1ヶ月後にへこうして仲良くやってんだから、人間ってのはどうなるか分かんねえなぁ。
「では、私はこっちですので」
あれ、もうそんな所まで来てたのか。
ただ、並んで歩いてただけだってのに、何がそんなに楽しいんだか。
自分でも分からなかった。
「白井!」
「はい?なんですの?」
「これ、受け取ってくれ!」
俺は、デパートで買ったものを白井に渡した。
「開けてよろしいですの?」
「ああ」
白井の手で小さな紙袋が開けられていく。
袋の中に白井の手が近づいていくほど、俺は自分の心臓の音が速くなっていくのを感じた。
恥ずかしいな、この状況。
綺麗な夕焼けの空に、帰り道の別れ際。
まるで学校の帰り道に告白してるみてえだ。
「シュシュ?」
「あ、あぁ。服見てた時楽しそうだったし。お前だってやっぱりお洒落とかしたいんじゃねーの?やっぱり。お前いっつも髪結んでるし、こうゆうのなら校則違反にもならねえだろ?」
「ありがとうございます……」
夕焼けのせいか、白井の頬は赤く染まって見えた。
「付けてみてもよろしいですか?」
「あぁ。勿論」
俺が答えるのを待ってから、白井は髪をほどいた。
女ってのは髪型1つで印象がごろっと変わる。
いつも結んでる女が髪を下ろした時は最高って話はよく聞くが、俺も今その気持ちが分かったぜ。
「どうですの?」
「可愛い……」
「ちょっ、何言ってますの!」
「いや、本当、マジで似合ってるよ」
髪型自体はいつもと変わらないはずなのに。
自分が選んだのはシュシュを嬉しそうに付けてくれていると言うだけで、いつもの数倍も白井が可愛く見えた。
俺じゃなかったら惚れちまうね。
「えへへっ……」
今その顔は卑怯過ぎるぜ。
明日になってしまえば、命懸けの戦いが始まり、自分は死んでしまうかもしれない。
生き残ったとしても、今日みたいに自由に会ったりすることは許させれないかもしれない。
ただ、今この瞬間。
またこの笑顔を見たいと思った。
今はこの気持ちがどうゆうものかなんて、分からなくていい。
ただ、今みたいな平和な日常を過ごしたい。
それだけで俺は、絶対に生きて帰って来れるような気がした。
ちょっと格好悪いかもしれねえが、それで良いじゃねえか。
「白井、ありがとう」
今回もお読み頂きありがとうございます!
少し間が空いてしまって申し訳ないです!