「そりゃあ、あんたが悪いね」
私は、おつるさんに叱責されたことを慰めてもらおうと行ったら、結局おつるさんにも叱責される羽目になってしまった。
「そんなぁー·······おつるさんまで······」
多分、今の私の顔は全てに絶望したような顔をしているのだろう。
そんな私の様子を見かねてか、おつるさんは盛大に溜め息を吐いてから言った。
「はぁぁー、いいかい····今回はあんたのこれまでの功績を鑑みて処分を免除されたんだろう?そもそも、四皇と戦うようなイカれた精神をしているあんたもどうかと思うけどね。まあそれは置いておくとして、良く四皇と戦っておいて無傷で帰ってきたものだね」
「ええ、その事でしたらご心配なく。センゴク元帥にはお話ししましたが、シャンクスとしたのは死合いじゃなくて試合ですので」
「全く、そういう問題じゃ無いんだけどね。大体、四皇と戦う時点で自分がどうかしていると思うべきだね」
「そんなにボロクソ言わなくても良いじゃないですかぁ······私、おつるさんにまでそんなこと言われたら精神的に死にそうです。ですから、なでなでしてください」
私がそう言っておつるさんが私の頭を撫でやすいように、姿勢を低くすると拳骨を落とされた。
「良い歳した大人が何言ってんだい······そもそもあんたは大将だろう?そんなので大将がよく務まるものだね。私が上司ならとっとと解任してるよ、こんな部下だったら」
「嫌ぁー!!それ以上言わないで!!ホントに死んじゃうから!」
「はぁー。仕方の無い子だね。こっちにおいで」
おつるさんに呼ばれたので、素直におつるさんの下まで近寄った。
「ほら、撫でてあげるから機嫌を直しとくれ」
そう言いながら、細い手で私の頭を優しく撫でてくれるおつるさん。
うへへ、作戦成功。おつるさんは大体こうして手間をかけさせたら撫でてくれる。まあ、女の子限定だけど。
「全く、どうしてこんな子になったのかねぇ······昔は真面目で元気な子だったんだけどねぇ。そのあんたは何処に行ったんだい」
「初めから私は甘えん坊ですよー。私はおつるさんにこうして撫でられるのが好きなんです」
「猫みたいな子だね、あんたは」
「猫じゃなくて狐ですけどねー」
そうして、そのまましばらくしておつるさんに頭を撫でてもらう至福の時は過ぎ去った。
「はい、これでお仕舞い。あんたもそろそろ仕事に戻りなよ。これ以上無断休暇は誰も許してはくれないと思うけどね」
「ああ、そうでしたね······名残惜しいですが私はこれから仕事に戻るとしましょう」
■■■■
「シア大将殿。良ければお茶をお入れしますわ」
現在私は書類を相手に地獄の執務中。そんな中唯一の癒しはセリカ准将が時々こうしてお茶を淹れてくれたり、マッサージをしてくれること。
多分、セリカじゃなかったら癒しにはならなかっただろう。
「ああ、宜しく頼んだ」
それだけ返事をしてまた書類に目を向ける。
こうして私に上がってくる書類は一旦私が目を通してからセンゴク元帥の元に上がる。それが他の大将全員分なのだから、元帥の仕事量は想像を絶する。
「こちらに置いておきますわよ」
「ありがとう」
一言お礼を言ってから私はセリカの淹れてくれたお茶───今回は紅茶───を口に含む。
「ふふ、相も変わらずセリカの淹れてくれるお茶はとても美味いな。これに菓子があればもっと良いのだが······」
「そう言われると思いまして、既に用意していますわ。今回はこちら、チーズケーキを用意いたしましたわ」
「流石だ······」
そうしてセリカが用意してくれた茶菓子を一口食べる。
「手作り、だな」
「お分かりですか。流石はシア大将殿ですわ」
何を誉めてくれているのか。私はただセリカの作ってくれたチーズケーキを食べているだけなのだが。
「一体何を誉めてくれているんだ?私がセリカの作ってくれたチーズケーキを美味しいと評価しているが、私が誉められるようなことは何もしていないのだが」
「わわ、私の作ったケーキが美味しいと······私、とても嬉しいですわ」
私に誉められたことが嬉しいのか、顔をほんのり赤らめて喜ぶ様子を見せるセリカ。
まあ、そんな一幕もありながら私が書類と格闘を始めて三時間程度で全ての書類が片付いた。
「お疲れ様ですわ、シア大将殿。この後はどうされるんですの?」
「この後、か。この後は数年前に科学班に解析を任せた能力不明の悪魔の実の解析がついに終了したらしいからな。私はそれを確認しに行く」
■■■■
「これはシア大将閣下。今日はようこそいらっしゃいました。以前から続けていた悪魔の実の能力解析がつい先程終わったのですよ。ご確認されますか?」
科学班研究員の一人が私に話し掛けてくる。
「勿論だ。今から確認させてもらう」
「分かりました。それではこちらにどうぞ」
そうして案内された先は、ひとつの研究室で、そこには手に入れたときそのままの悪魔の実の姿があった。
「えー、それではご報告致します。端的に申しまして、この悪魔の実の能力は自身をあらゆる面で倍加させる、通称バイバイの実と名付けました。その名の通り、自身の身体能力から精神面に至るまで全て倍加できます。倍率は不明です」
研究員からもたらされた悪魔の実の能力は私の想像の遥か上をいく代物だった。バイバイの実は食べた者の力量によって効果が大きく変わる。元々身体能力の低い人がこれを食べても意味がないが、これをガープさん等の実力者が食べたら目も当てられない状況になる。
なんせ、素で元々高い身体能力がさらに倍加されるのだ。そうなればもう悪夢でしかない。
取り敢えず、ヤミヤミの実の能力でこのバイバイの実の能力を吸収しておいた。
まあ、バイバイの実よりもヤミヤミの実の方が圧倒的にチートなんだけどね。何せ、通常は一個しか手に入れられない悪魔の実の能力を、上限は不明だが複数もの能力を有することが出来るのだ。
「大将閣下、何を······?」
「この悪魔の実は破棄してくれ。元々私に全てが任せられていた悪魔の実だ。破棄は問題ないだろう?」
「ええ、それは勿論ですが、宜しいのですか?」
「ああ、構わない。破棄してくれ」
「分かりました」
まあ、能力を抜き取った悪魔の実はただのクソ不味い果物でしかないからな。
万が一誰かが食べても能力を得られずに食べ損するだけだ。