遂に原作開始一年前。既にルフィの兄エースは白ひげ海賊団の一員として、スーパールーキーとして名を馳せていた。
その事は海軍の中でも話題のひとつで、エースを捕縛しようという話も、既に白ひげ海賊団の一員であることから手出しはやめようという意見もある。
私は手を出すべきではないと思っている。
エースが海賊になってから一度も一般人に対して悪事を働いていないのと、何より四皇の一角で最強と名高い白ひげことエドワード・ニューゲートを敵に回すのは今の海軍にとって些か荷の重いものでもあったからだ。
サカズキさんは相も変わらず全ての海賊の殲滅を目標としているようだが·······
まあ、掲げる正義は人それぞれだから私がサカズキさんに何か含むところはないが、思うところはあったりする。でも、サカズキさんを怒らせるのは非常に怖いので特に何も言っていない。
海賊以前に私の身の安全ですよ!!
実はですね······この間の任務でシャボンディ諸島に寄ったときに偶然にも天竜人に遭遇してしまいましてね。もう最悪以外の言葉が浮かばない。
幸いにも犠牲者こそ居なかったけど、被害者は生んでしまったし、私は腸が煮え繰りそうな思いを天竜人に対して抱いた。
本当に、アレは何なんでしょうかね?容姿は醜悪そのもの。性格は最悪。それに人を殺してもそれを悪いことだとも思わない傲慢な精神力。
ここまで来ると流石に呆れるしかなくなりますね。ホントに。
久し振りに本気で殺意を覚えました。その場で殺してやりたかったのも本心ですが、残念ながら私は無法者の海賊ではなく、命令に従う軍人。それも海軍大将という地位にあるのだから下手に手を出すわけにはいかなかったので、その場はグッと堪えて我慢。それしか出来ませんでした。
その天竜人の護衛には海軍の方々も居たのですが、やはりその面持ちは皆、神妙なものばかり。やはり内心では快く思っていないのでしょうね。
流石に将官にもなると顔には嫌悪を出さないものの内心ではとても怒っている筈です。何せ、本来守るべき筈の市民が虐げられているのに、それを黙って見ているしかないのだから。
かく言う私も、表情にこそ出していなかったと思いますが、本当に歯を食い縛る思いでしたよ。
ああ、叶うならば二度と天竜人となんか会いたくありません。あれは比類なき権力を持って暴走した人間の末路なんです。きっと。願わくば、天竜人の中でも良識ある方々が台頭することを願わずにはいられないものですね。
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はぁー········ガープさんの頼みとはいえ、何故私がこのようなことを。
皆様こんにちは。海軍大将シアです。私は現在東の海はゴア王国辺境、フーシャ村に来ております。
大将である私が何ゆえ最弱の海でも尚、その辺境であるフーシャ村に来ているのかと言えば、ガープさんにルフィに会ってくれと頼まれたからというのが大きい。
て言うか、ガープさんも来ている。
「がっはっは、久しぶりじゃのう、村長」
「ガープ!!今度はいったい何をしに帰ってきたんだ?」
「なあに、ちょいとルフィの様子を見に来ただけじゃ」
「そうか······ルフィならまだ海賊になると息巻いておるわ。あの赤髪が帰った後は余計悪化してしまってな。いつも海賊になるなどと言っておる」
「何ぃ?ルフィはまだそんなことをぬかしておるのか!!これはまたルフィに愛の拳を叩き込まねばならんな!!」
「あの、ガープさん。そろそろ私の方の紹介を。村長さんが気にしています」
どうやらガープさんは私の存在を村長さんと話している内にすっかり忘れてしまっていたようなので、しかも村長さんも私のことが気になって仕方がないようなのでガープさんに声を掛けた。
「おおっ!そうだったそうだった。すまんなシア。お前のことをすっかり忘れておった。村長、紹介しよう。わしの隣に居るのは海軍本部大将のシアじゃ」
「どうも。シアです。若輩ながら海軍本部にて大将の位を預かっております。どうぞよろしくお願いしますね」
と、そう挨拶すると、村長さんはあんぐりと口を開いてそのまま気絶してしまった。
「あらら······これどうしましょう、ガープさん」
「そうじゃな·····取り敢えずマキノの店に寝かせておこうかの」
マキノさん、迷惑かけてごめんなさい。
内心で勝手にも迷惑をかけることになってしまったマキノさんに謝りつつ、ガープさんが気絶した村長を背負って意外と近くにあるマキノの店に運び込んだ。
マキノさんは気絶した村長を見ると驚くが、事情を説明すると納得すると共に、私が海軍大将であることに対しても驚いていた。
もう、私が大将だと初めて知った人が驚くのには慣れてきた。まあ、見た目だけは幼さの残る美少女だからね。私は。······って、自分でこんなことを言ってたらナルシストだと勘違いされそうだ。
「それで、ガープさん。私に会わせたいというお孫さんは今どちらに?」
「それならダダンという山賊の一味の住みかに預けておる」
「山賊······」
「山賊がどうかしたのか?」
「いえ、何でもありませんよ。さ、時間も押していることですし早く向かいましょう」
山賊·······ね。
ダダンに思うところがあるわけではないが、ルフィが海賊を志す一因として山賊に預けたこともあるのではないかと思う。
まあ、預けなかったとしてもシャンクスと出会う時点でルフィが海賊に憧れるのは確定事項だったのかもしれないが。
しばらく森の中を歩くと一つのボロボロの山小屋が目に入った。もしかしなくともアレが山賊のアジトだろう。
そんなボロい小屋のボロいドアをガープさんがドンドンと叩くと、目付きの悪い太った山賊の女がめんどくさそうに出てきた。
その女はガープを見るなり「げぇっ!」と曲がりなりにも女としてどうかと思う奇声を上げながら少々後ずさった。
「おう、久しぶりじゃのうダダン。ちょいとルフィに会いに来た」
「ガープさん······やっと引き取りに来てくれたか。最後の問題児を」
「何を言うとるんじゃ?引き取りに来たのではなく会いに来たと言ってるじゃろう」
「ちっ、でも今はルフィはここには居ねぇ······居ないです。今は森に修行に行ってます。はい」
ちょっとガープさんに対する態度がなってなかったので私がちょっと殺気を出して一睨みするだけで急に態度を改めてしおらしくなる山賊。
ふ、他愛ない。
「で、ガープさん。その隣にいる海兵は誰なんですか?」
ガープさんがまた私のことを紹介してくれようとしたが、今回は私が手でそれを制し、自ら自己紹介する旨をガープさんにアイコンタクトで伝えた。
するとガープさんもその意図を理解したのか少し頷くと開きかけた口を閉じた。
「どうも初めまして。ガープさんとお知り合いの山賊さん達。私は海軍本部大将のシアです」
「何ぃっ!!!!大将だってぇぇぇぇぇぇぇ!!!!??」
と、山賊は絶叫し、その声はこの森に木霊した。