海軍本部准将シア。その肩書きは私がガルドを討伐したときのものですね。
今でこそ大将という、海軍でも元帥の次に高い位に据わっていますけど、6年前までは准将だったんですよ?それが今では大将。
我ながらとんでもない出世をしたものだと思います。
それで、私が中将に昇進するきっかけとなったのが先のガルド討伐任務です。
その当時、ガルドの悪名は新世界中に轟いていたと言っても過言ではありませんでした。
誰に聞いてもその性格は残虐で暴虐、最低最悪の人柄だったと言えます。
いろんな町を襲っては略奪と破壊の限りを尽くす、幾ら私でもこれは死んだ方が良いだろうと思った数少ない海賊の一人ですからね。
で、当時新進気鋭で尚且つセンゴク元帥に妙に気に入られていた私に白羽の矢が立った訳でして、何故か准将の私が懸賞金五億の超大物のしかも悪名高い海賊を討伐することになってしまったのですよ。
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新世界のとある島
「おい!!てめぇら!!さっさと取るもん盗ったらさっさと町に火ぃ着けてずらかるぞ!!」
あちこちから悲鳴の上がるこの町で一際目立つ野太い怒号が聞こえる。
その声は黒爪海賊団船長の千爪のガルドの声だった。
その声に反応した船員達は、町から略奪した家財や金品、食糧から果ては奴隷商に売り飛ばすために連れ去った見た目の良い女や、男の姿もあった。それ以外の町民は老若男女問わず虐殺されている、地獄以外に形容する言葉がないくらいの惨状であった。
連れ去られた男女以外の町民は既に殆ど息絶えて、何とか隠れてやり過ごそうとした町民も家ごと焼かれる寸前、地獄に一筋の希望の光が差した。
「貴様が黒爪海賊団船長のガルドだな」
「俺がそのガルドだが、貴様海兵か?」
「そうだ。海軍本部准将シアだ」
「はっ、准将ごときが俺を倒しに来たか?笑わせてくれる。俺を倒したきゃそれこそ大将でも連れてきやがるべきだったな」
ガハハハハハ!!!と汚く笑うガルドをシアは冷たく見ていた。
それもそのはず、シアがこちらの世界に転生してきて以来、最低最悪の惨状を産み出していたのが目の前の男だったからだ。
心の底から沸き上がる怒りと殺意を何とか己の自制心を働かせて押し留める。
「クズが······」
シアはそう吐き捨てる。己の我慢の限界を越えた怒りをガルドへの罵倒と変えたのだ。
「けっ、何とでも言うが良い。どのみち貴様もこの俺が殺すんだからな······ほぅ、良く見れば貴様、中々良い見た目してんじゃねぇか。どうだ?俺の性奴隷になるってんなら殺しはしないでやるが?」
「その薄汚れた汚い口を閉じろ、クズが!!よくもまあこの地獄のような有り様を作り出しておいてそのような減らず口が言えたものだな!!?当初は捕縛だけにするつもりだったが、もう許すことは出来ん。貴様は私自ら首を落としてやることにしよう。喜べ、私をここまで怒らせた奴は貴様が初めてだぞガルド」
「ハハハハハハ!!とんだ大言壮語を吐く海兵も居たもんだな!!准将ごときが俺を殺すだと!?冗談も大概にしとけよ?······奴隷にするのはやめだ。貴様が無様に命乞いをするまで地獄を味合わせてやるからな·····!!」
「遺言は言い終えたか?それでは行くぞ!!」
シアがそう言ってガルドの元まで剃を使って一気に近付くと、ヤミヤミの実の能力の吸収を使ってガルドを自らの元まで引き寄せると、納刀していた刀を抜刀してガルドの腹に打ちつけた。
「ぐぇ!!」
ガルドはカエルの鳴くような悲鳴を上げて後方の民家までぶっ飛んで、民家を数軒壊して漸く勢いが止まった。
刀を諸に受けたガルドの腹は見事に血で染まっており、ガルドが咄嗟に武装色で腹を防御しなければ今頃上半身と下半身がお別れしていただろう。
「くっ、貴様ぁ!!」
ガルドが瓦礫から抜け出し、シアに向かって吠える。口から腹から血を流して吠えるその様はまるで負け犬の遠吠えのようだとシアは感じていた。
それだけガルドの武装色が弱かったのだ。普通、五億ともなれば准将程度の武装色では通用しない。だが、シアという規格外であったとは言え、あまりにもガルドの武装色は弱かったのだ。ガルド程度が五億もの賞金首になったのは他でもないガルドの所業のせいだった。
「ふ、無様だな。貴様程度の二流····いや、三流以下の海賊にお似合いの姿だ」
「何だとぉ!?貴様、絶対にただで殺してやると思うなよ!!」
「全く、弱い犬ほど良く吠えるとは言ったものだな。今の貴様がどれだけ吠えたところで意味はない。貴様が私に勝てないのは既に自明の理だからな」
そう言いきると今度は月歩で空中に飛び上がり、ヤミヤミの実の吸収能力を発動させる。すると、空中に月歩で留まっているシアの元にガルドが浮かび上がった。
そうやって空中に放り出されれば、空中で戦う術の無いガルドはあまりにも無力で、防御することすら叶わない。
ガルドの武装色はまるで無いかのように、シアが振るう刀はガルドの身体の隅々まで刻み、その度に血飛沫が宙を舞った。
やがて、地面にはガルドの血で出来た池が広がり、ガルドはピクリとも動かなくなった。
「おっと、やり過ぎてしまいましたか······まぁ良いでしょう。首は原型を留めていますからこれで討伐したことの証明は出来るでしょう」
シアはそう言い残すと、用が無くなったのかその場を離れて、ガルドが乗っていた海賊船に向かった。
そこには連れ去られた町民が居り、中には抵抗したのか暴力を振るわれた痕の残る町民も居た。
シアはそれを一人一人丁寧に解放すると、自ら簡易的な応急処置を施した。