無限の剣製……?   作:流れ水

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第4話

 振動操作により、増大した心拍が体内に爆発的な速度で血流を巡らせ、運動能力を一時的に上昇させる。それがこの場でどのくらい役に立つのか分からないが、まあないよりはマシだろう。

 

 既に後の先による狙い撃ちで徹底的に相手の手を初動から潰していくサクラの手の内は見られている。

 故に、シルバは、サクラが攻撃を仕掛けてくるのを待ち、その攻撃に呼吸を合わせることで後出しじゃんけんのようにカウンターを放っていくが、当たらない。

 当たれば即死の剛拳はサクラの身体をすり抜けるように通り過ぎていく。

 

 だが、全く攻撃が当たらないのはサクラも同じこと。

 刀の斬撃軌道線を避けるように、攻撃を仕掛けてくるシルバの魔技に、サクラは歯嚙みしていた。

 踏み込み、シルバがカウンターの攻撃を仕掛けてきたところを更にナイフでカウンターを仕掛けるも、やはりというべきか、届かない。

 

 圧倒的に身体能力が劣るサクラ。

 そんな存在がシルバの近接戦闘で拮抗していられるのは、サクラが刀を一閃するという一工程で攻撃している間に、シルバはその一閃の軌道線を見切り、避け、その後カウンターを仕掛けるという最低でも三工程を強いられているからであり——感知に秀でたサクラがシルバの攻撃を見切り、カウンターを放つ、又は最小限の動作で回避を行い、次の攻撃に繋げていくからである。

 

 必滅の力を持ちつつも、決定打に欠ける両者は止まらない。

 狂った暴走列車のように止まれない。

 

 刻々と時間が経つにつれて、サクラの肉体は崩壊していく。

 限界以上に駆動した筋線維が引き千切れ、骨はひび割れ、振動操作で爆発的に上昇している血流が肉体の血管を中から削り取り、毛細血管は血流の圧に耐え切れず破裂していく。

 サクラの纏う黒コートが、壊れる度に肉体の損傷を癒していくがそれはそれだけオーラが消費されていくということ。

 

 たったの30秒ほどの攻防でサクラの肉体は骨の髄まで削り取られていた。

 

 だからこそ、前へ、前へ、前へ……。

 生命を文字通り燃やしながらサクラは、ただ敵を撃滅することだけを考え、無数の剣閃を振るう。 

 何か他のことを考えてしまえば、悪い方向のことばかり浮かんでしまうから。 

 少しでも下がれば、ひたひたと迫る死に怯えて動けなくなってしまうから。

 だからこそ、サクラの意識は機械のように精密に肉体を動かすことに没頭し、目の前の戦闘のみに思考を傾けていた。

 

「——っ‼」

 

 前から槍の如く放たれた致死の抜き手が、ライフルの弾丸だろうと受け止めるサクラのコートを紙屑のように削り取り、掠っただけで捲り上がった肌から赤い肉を覗かせる。 

 肌に走る怖気。生存本能の警告が脳裏に走る。 

 

 ——見切られた

 

 何の根拠をもなくそう確信した、その瞬間……音を超え、大気を引き裂きながら迫る五指が軌道を捻じ曲げ、蛇がくねるようにサクラの心臓めがけて放たれた。 

 

 脳裏に過ぎる『死』の一文字。 

 既に次の攻撃に移行している身体は止まらない、止められない。

 

 しかし……心臓めがけて吸い込まれていくその一撃は、サクラの腰から現れた黒い1対の翼と衝突。

 轟音と甲高い金属音を立てて、ぶつかり合い——次の攻撃に移行していたサクラの一閃が自身を守るその翼ごと両断せんと振るわれた。

 サクラの一閃が熱したナイフでバターを切り裂くように黒翼を焼き斬り、切断、シルバの肉体を竹割に両断したかに見えた……が、それはサクラの肉眼ではシルバの動きを捉えきれなかっただけであり、残像。  

 

 すぐさまサクラは、【静刃咆震】の高周波で把握していた本物の居場所、あの一瞬で五メートルギリギリほどまで距離を開けたシルバに視線を向けた。

 

 

 サクラが付けれたのは、最後の奇襲染みた一撃による肩の薄皮一枚を切り裂いたような傷とも言えない傷のみ。

 だというのに、シルバはサクラから視線を外し、その傷に視線を向け……鋼鉄すら両断するであろう手刀で肩の傷周辺を丸ごと抉った。

 

「毒……か?」

 

 シルバの問うような独り言にサクラはゆっくり口を開く。

 

「放射性分裂光。核兵器の炎の疑似再現。それがこの刀の纏う光」

 

 サクラは淡々と種明かしをするが、シルバの表情は揺るがない。

 ただ、刀に向ける目が少しだけ変わっていた。

 

 オーラによって疑似再現された放射性分裂光のようなナニカ。その光に僅かでも触れれば、触れた部位から光が浸透し、細胞単位で肉体を破壊する。

 もう少し深く切り裂けていたら、腕一本丸ごととは言わないが、腕の機能を妨げる程度の手傷は負わせていただろう。

 

 本当に……惜しかった。

 

 自身の技量不足を悔やみつつ、サクラは腰の刀の姿を変え、3メートル以上の大鴉の念獣に変化させる。

 

 刀の性能を話し、呼吸を落ち着け、大鴉という手を見せることでシルバに警戒させ、少しでも体力を回復する時間を稼ぎたいところだが……サクラの思惑とは裏腹に、シルバの殺意が、身の雰囲気が、冷たく、鋭く研ぎ澄まされていく。

 その殺意に比例するように、サクラの感覚と思考速度が走馬灯のように凝縮され、いまだに底を見せていなかったシルバの実力がサクラの精神に重圧を与える。

 

 これは、死ぬかもしれない。

 

 その死の覚悟に呼応するようにサクラの筋骨が軋み声をあげた……その瞬間。

 

 ——プルルル、プルルルッ……‼ 

 

 断続的に鳴り響く着信音に、緩む殺意。

 サクラに警戒の視線を向けたまま、シルバはポケットから電話を取り出し、通話し始める。

 

「親父、ミルキだけど。親父の依頼主、けっこう良い賞金がかかってたから殺っちゃったんだけど……ヴィットーリオ・ルッケーゼってまだ生きてる?」

「まだ殺していない。要件はそれだけか?」

「うん。殺してないか聞きたかっただけ」

「…なら、切るぞ」

 

 電話を切り、ポケットに仕舞うシルバに殺意は無かった。

 

「…闘らないの?」

「俺の依頼主が死んだからな」

 

 それだけ言うと、シルバは背を向け、扉の向こうへ去っていく。

 その遠ざかっていく背中に、サクラの全身の力が抜け、独りでに抜刀され、その白刃を覗かせていた背中の大太刀が鞘に納まる。

 

 もつれるように、崩れる膝。

 

 回転する天地。

 

 頭蓋に響く衝撃。

 

 頬を伝わるひんやりとした感触に、サクラは自分の身体が倒れていることに気が付いた。

 

 動かない手足。

 

 押し寄せる疲労感に呑まれ、サクラの重たい瞼が眼を閉じた。

 

 

 

 薬品の香り。

 骨の芯まで走る痛みにサクラの意識は急速に目覚めた。

 

 白い天井。

 机の上に飾られた白い花。

 

 ——ピッ、ピッ、ピッ……

 

 サクラの心臓の鼓動に連動して断続的に響く電子音。

 腕に刺された点滴。

 すぐそばで椅子に腰をかけて眠っている黒服の強面の男。

 硬いベッドと薄い布団に、サクラはようやく寝ていたことに気が付いた。

 

 此処は……病院だろうか?

 

 身体に走る痛みを無視し、上体を起こして周囲の状況を確認すると、鞘に納められ、ベッドの端で転がっていた刀【小烏丸】(ヤタガラス)が巨大な鴉に変貌を遂げ、大きくその嘴を開いた。

 大鴉の口から吐き出されるように、出てきたのは、サクラが帯びていた刀やコート。

 

 布団の上に積み上げられたそれらをサクラは順番に身に着けてゆき、最後に刀に戻った【小烏丸】(ヤタガラス)をいつもの定位置、腰に身に着けた。

 

 

「起きたのか、というかもう起きれるのか」

 

 衣擦れや鞘を挿した時の音で目覚めたのか、眠気眼ねむけまなこの黒服の男は呆れたように言う。

 

「今、ボスに電話するから少し待っていてくれ」

 

 口から出た大きな欠伸を噛み締め、男は電話で話し始めた。

 しばらくベッドに腰を据えて待っていると、ようやく話を終え、男がサクラに視線を向けて言った。ボスが礼をしたいそうだから、会ってくれ、と。

 

 

 

 髪をオールバックにきめた白髪の青年とサクラは向かい合うような形でソファーに腰をかけていた。

 ルッケーゼ一家のボス、ヴィットーリオ・ルッケーゼは葉巻を吹かし、軽く口を開いた。

 

「結構な重症だと聞き及んでいたけど、案外無事そうじゃないか。もしかして、報告に不備でもあった?」

 

 チラリと視線を向けられたヴィットーリオの視線に、ドアで待機していた男が小さく首を振る。

 

「……だよねぇ。君が少し特殊なだけか」

 

 ヴィットーリオに珍獣でも見るような眼差しを向けられ、サクラは小さく眉を歪めた。

 

「ごめん、ごめん、何か気を悪くさせちゃったみたいだね」

「……別に」

 

 一言呟くように言葉をこぼし、サクラはヴィットーリオに鋭い眼差しを向けた。

 

「はい、はい、余計な話はこれまでにしろ、とね。分かったよ」

 

 降参とばかり両手をあげ、ヴィットーリオは半笑いで言葉を続ける。

 

「報酬の話に入る前に、一つ君に話をしておかなければならない事がある。そもそもの話、どうして私が君に報酬を渡すことになったかの話さ。

 

 普通なら私が情報屋に、情報屋が君に報酬を渡すというものが筋というもの。けれど、君の雇い主である情報屋が君に暗殺者を仕向けちゃってねぇ」

 

 やれやれと肩を竦めるヴィットーリオ。

 

「一応、私も部下に警護をお願いしていたんだけど、あんまり役に立たなかったみたいで……結局、暗殺者に警備網を抜けられちゃって……何かよく分からないうちに、その暗殺者の前にどデカい大鴉が現れて、暗殺者を惨殺していって消えたって、部下から報告が来たんだんよね。

 

 部下の報告にあった大鴉って君の能力でしょ?」

 

 そのヴィットーリオの問いに、サクラは少し躊躇うも頷く。

 

「やっぱりね~。で、その時は誰が君に暗殺者を仕向けたのか分かんなかったんだけど、調べてみたら君の雇い主、『古時計』だっていうじゃないか。

 

 ま、彼は大方不都合な依頼をした君を消したかったみたいだけど、もう少し上手いやり方は無かったのかな。

 

 いや、消したかったから、死亡確率の高いゾルディック家からの護衛の重要な位置に配置したんだろうけど……そう考えると上手いやり方だったのかもしれないね。普通は死ぬし」

 

 ヴィットーリオはクスクスと笑みを吊り上げ、楽しそうに情報屋について話す。

 

「その暗殺がきっかけで彼のことを色々調べてみたんだけど、あの『古時計』、どうやらどっかの弱小マフィアと結託して我々のことを嵌めようとしてたみたいで、ね……捕まえちゃったんだよねぇ、君の雇い主。

 

 問題は君の雇い主を私達が捕まえた事で、君は『古時計』から報酬を貰えなくなっちゃったことなんだ。流石にゾルディック家の暗殺者を撃退して貰っているのに報酬なしというのは、私のマフィア組織の評判が悪くなるというか、色々困った事になるんだ。ほんと、面倒なことに」

 

 ヴィットーリオはニコニコと笑いながらも、ここではない何処かを見つめるような眼差しをサクラに向ける。

 

「というわけで、私は君に『古時計』の総資産の半分をあげようと思いま~す」

 

 パチパチパチと手を叩くヴィットーリオに合わせるように、右横の扉前に居る黒服の男が手を叩く。

 

「更に、更に、私からもポケットマネーを入れようと思いま~す」

 

 大げさに手を掲げるヴィットーリオに合わせるように、黒服の男がパーティー用のクラッカーを鳴らす。

 ……けれど、部屋の空気は冷たく、どこか空虚だった。

 

「で、他に何か欲しいもの無い?」

 

 ずいっとテーブルに手をおいて、身を乗り出すヴィットーリオを前にサクラは考える。

 ……欲しいもの。それは決まっている。

 けれど、情報屋みたいに弱みに漬け込んできたりは……無いか…。

 

 一抹の不安を滲ませるも、ヴィットーリオに限ってはそんなことしないだろう。

 不思議とそういう面ではヴィットーリオのことをサクラは信頼出来るように思えた。

 ヴィットーリオのサクラを見る視線に、蔑みや侮蔑が一欠片も乗っていないからだろうか。

 

 何故か?

 そう信頼出来る理由を問われても、サクラにも明確な答えを出すことは出来ない。

 もしかしたら、それこそがヴィットーリオがボス足らしめている魅力なのかもしれない。

 

「……戸籍」

「戸籍ね。了解。一週間後には用意させるよ」

 

 にこやかに了承するヴィットーリオ。その姿は何処か空虚で、捉えどころがなかった。

 

「他には?」

「……ない」

「そうかい。なら、今から食事でも洒落こもうか。君、寝たきりだったから何も食べてないだろう?」

「……ん」

 

 ヴィットーリオの言う通り、丁度お腹が空いていたサクラはその提案に二つ返事で乗った。

 何か良いものでも出ないだろうか?

 のっぺらぼうのように空虚な表情を張り付けたサクラは内心ワクワクしながら、席を立った。

 

 食事の席で、サクラはシルバ・ゾルディックが撤退した理由を聞いた。

 ゾルディック家は、一度依頼されれば、その依頼の雇い主が死なない限り狙い続ける伝説的暗殺一家として裏社会では有名らしい。

 彼らに暗殺対象として狙われた者が生き残るためには、何らかの理由で雇い主が死亡するか、雇い主が依頼を取り下げるかのどちらか。

 

 ヴィットーリオは、ファミリーお抱えの情報屋からゾルディック家に依頼された事を知ったらしく、即座にその雇い主の暗殺依頼、多額の懸賞金を出し、もしもの時のための護衛を手配した。

 いやぁ、本当にギリギリだったよ、とカラカラ笑っているヴィットーリオに、サクラは呆れるしかなかった。

 もしかしたら、ヴィットーリオは自分の死をそれほど恐れていないのかもしれない。

 それほど楽しそうに、ヴィットーリオは自身の危機を語るのだ。

 

 ……壊れてる。

 サクラにはヴィットーリオの思考が理解出来なかった。

 それは、サクラがまだ狂人ではない事の証明なのかもしれない。

 

 でも……狂人と正常な人間の違いって何なのか?

 その2つの境界線が何処にあるのか、サクラには分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




【静刃咆震】 死者の念 具現化系 
 一昔前の戦争で特殊部隊が使っていた軍用ナイフ、グリーンベレー・ナイフ。
 所有者にオーラを介した振動操作能力を付与する。

 制約
 柄を手で握っていない限り、能力は発動しない。

 生前の所有者は具現化系であったが、能力の根幹である振動操作は操作系、振動の増幅は強化系、振動の遠隔操作には放出系と操作系を必要としていた為、手数は多くとも、精度や威力に欠けていた。
 死者の念によって能力に大幅な補正が入っているが、強化系と相性最悪のサクラが使用すると、やはり威力に欠ける。しかし、応用性では他の武器よりも格段に優秀である為、サクラはこのナイフを常時隠し持っている。



【雷切】(レールガン) 具現化系
 鞘に納められた刃渡り80㎝の刀。
 刀と鞘は磁石に似た性質を付与されている。
 磁石の性質であるS極とN極を自在に切り替えることで吸着と反発を操作でき、磁力の強さは刀に流すオーラの量により変化する。

 磁力操作を用い、最高速度の抜刀を放てる。
 オーラの量を誤れば、自身の筋骨を破損する可能性がある。

 
【貧者の薔薇】(ガンマレイ)死者の念 特質系
 鞘に納められた刃渡り80㎝の刀。元々は刃渡り1メートルの直剣。
 オーラを流すことで刀身に光熱を纏う。
 その光熱はオーラによって疑似再現された放射性分裂光のような効果を持つナニカ。その光に僅かでも触れれば、触れた部位から光が浸透し、細胞単位で肉体を破壊する。
 斬撃と共に刀の切っ先から刀身に纏う放射性分裂光を放出する事が出来る。射程距離は最大4m。
 放出された放射分裂光は即座に消滅する。

 燃費が悪く、特に光の斬撃のオーラ消費量は酷い。
 但し、即死系の能力の為、刀身に薄く光熱を纏うだけで十分効力は発揮する。
 光熱によって焼き斬るという方法で切れ味を上昇させることが可能。


【小烏丸】(ヤタガラス)死者の念 具現化系
 念を帯びた刃渡り60㎝の刀。
 3メートル以上の大鴉の念獣に変化する。
 念獣の耐久性、嘴、かぎ爪などの鋭さは刀に依存する。
 胃袋にある程度の物品を納めることが出来る。



 ヴィットーリオ・ルッケーゼ
 自身に与えられる痛みも苦しみは全て愛だと考える真正のドМであり、SMプレイをしていたら何時の間にか組織のボスになっていた愛の殉教者。
 死に対しては自身が抗ってこそ、死のSとMの自身が生まれるのだと信じている。つまり、死とSMしているド変態。
 サクラがいたことでシルバという絶対の『死』に抗え、人生最高のSM体験が出来たと、ヴィットーリオ本人は本気にサクラに感謝している。
 出来れば何回もシルバに命を狙われたいが、一度命を取られればもう2度とあの時の興奮を味わえない、とのことで現在、死に対して変則的な恐怖と葛藤を覚えている変態である。

 
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