無限の剣製……?   作:流れ水

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ハンター試験編 スタート


第6話

 

 ――一ヶ月後。

 ノブナガから貰った情報を頼りに、立派なビルの隣にこじんまりと建っている定食屋の前にサクラは立っていた。

 風にはためく黒のコート。そのコートからチラチラと覗く、両腰に2本ずつ吊り下げた刀。その明らかに平和な町にそぐわない武装が周囲から奇異の視線を集めるが、サクラは気にしない。

 ただ、観察するように定食屋に意識を集中させていた。

 

 本当にここで合っているのだろうか。

 疑わしげに思いつつサクラは定食屋の中に入る。 

 

「ご注文は?」

 

 小太りの料理人が厨房の中から聞いてくる。

 

「ステーキ定食1つ」 

「……焼き方は?」

 

 するりと走る視線を受けつつサクラは答える。

 

「弱火でじっくり」

「あいよ、奥の部屋どうぞ」

 

 奥の扉を開けて、奥の部屋に入る。

 部屋の中にあったのは、簡素な丸テーブルと椅子。それのみ。

 ここが試験会場への道…?こんな感じだったかな。

 前世の記憶を思い返そうとするも、大まかなストーリーの流れを覚えているだけで、そんな細やかなところはとっくの昔に風化していた。   

 

 部屋の中をあてもなく歩いていると、軽い浮遊感と共に部屋が下降。

 部屋がエレベーターのように動き始める。

 

 ああ、これで会場まで行くのか。

 席に座り、しばらく待っていると、チーン!という到着を示す甲高いベルの音が鳴り、扉が開いた。

 扉の外は様々な人が溢れかえる薄暗い巨大地下通路。

 

 部屋から出たサクラに多数の観察するような視線を向けられるが、気にせず足を進め、スーツを着た顔が緑色の豆のような小柄な人から番号札を受け取る。

 番号札のナンバーは324番。それだけ確認すると、サクラは胸にナンバープレートを取り付け、通路の隅へ移動した。

 

「……っ」

 

 …視線。

 流星街の住人の情欲に濡れた視線を何倍にも増幅してナニカを放り込んだような、そんな余りにも気持ち悪い視線に、サクラの肌は鳥肌立ち、手は無意識のうちに刀の柄に伸びていた。 

 そんなサクラの反応を見て、ズボンにテントを立てた奇術師メイクの男は舌なめずりしながら笑い、こちらに近づいてきた。  

 

「君、良いねぇ♥」

「私は良くない」

 

 纏う禍々しい念オーラから念能力者であることは一目瞭然。

 漂う血の香りから判断しても、こいつ相当殺してる。

 

「そうつれないこと言わないで欲しいなぁ…♦ 僕は君と仲良くなりたいだけなのに♠」

 

 そう言いながらも、その身からは殺意が溢れ出ている。

 この特徴的な言葉遣い、右目の下に星、左目の下に涙のペイントをしている特徴的なメイク。

 

 もしかして——

 

「ヒソカ……?」

「何で僕の名前を知っているのかな?もしかして、僕達、昔何処かで会った事がある?」

「ノブナガに聞いたことがある人物に似ていると思っただけ」

 

 確か、ハンター試験で鉢合わせするかもしれないから、注意しとけみたいなこと、ノブナガが言っていた気がする。

 こんな奴なら、もっと注意して欲しかった。

 いや、私がもっと注意して聞いておくべきだった、か……。

 

「君、ノブナガの知り合いなのかぁ♥ 使っている武器は似ているとは思っていたけど、そっかぁ♣ もしかしたら、僕達運命の糸で結ばれてるのかもね♦」

「それは有り得ない」

 

 それきり会話を切り、サクラはヒソカから離れる。

  

「残念、振られちゃったかな♠ せっかく仲良くなれそうだったのに♥」

 

 背後から何か聞こえてくるが、無視してサクラは足を進めた。

 

「試験に来て早々あんな変態に絡まれるとは、災難だったな」

 

 背後からかけられた声に振り返ったサクラが目にしたのは、白髪をポニーに纏めた初老の男性。

 その筋肉質な肉体の質、佇まいからどのくらいの技量を持つのかサクラは無意識に予測。

 おおまかな脅威度、戦意を把握してから、ようやくヒソカの影響で入ってしまった戦闘スイッチを階段でも降りるかのように段階的に緩め、小さく頷いた。 

 

「その刃物のような雰囲気、身のこなし…。それなりの武人とお見受けするが、一体何処の流派の者か教えていただけるか?」

「……色々」

「その、色々とは?」

「名前の分からない流派が多いから色々としか言いようが無い」

 

 踏み込んで聞いてくる初老の男性に、サクラは正直に答えた。

 これまでサクラは、【無限の剣製】の能力により、刀剣の記憶・経験を読み取ることで、過去の英雄、怪物という一種の人の極天から刀剣術を学んできた。

 しかし、その能力故に、誰かに直接指導を受けた事がないサクラは、武術の流派に関する知識が薄く、読み取った記憶・経験の技が何処の流派に属しているのか、そもそも我流か何処かの流派の技なのかほとんど知らないのである。

 

 また、これからライバルになる人間に情報を与える必要もない。

 サクラは、幾ら深く聞かれようが、戦闘技術に関する情報は出来るだけぼやかして伝えるつもりだった。

  

「…ふむ、警戒されてしまったか。純粋な興味本位で聞いたのだが、このハンター試験の場での質問なると、探りを入れていると邪推されても仕方あるまいか」

 

 サクラの言葉をどう解釈したのかは知らないが、初老の男性は頷き、独り言のように呟く。

 

「私の名はボドロ。こんな年にもなっても、大成することを諦め切れないしがない格闘家だ」

「…サクラ」

「おお、サクラか。その特徴的な名と武器、ジャポンの出か?」

「…ん」

 

 その程度の情報なら大丈夫だろうと、サクラは頷く。

 

「その刀、見せて頂いても?」

「駄目」

 

 ボドロが興味本位で聞いてきていることは既にサクラも分かっている。

 だが、それは間合いや念能力を把握される事にも繋がりかねない危険な行為。

 無暗に手をさらけ出すつもりは無かった。

 

「そうか。いや、分かってはいたのだが……」

「駄目」

 

 口惜しそうにコートから覗く刀に視線を送るボドロにサクラはきっぱりと拒否の言葉を告げる。

 刀から溢れ出るオーラを鞘の中に収束する特殊な鞘に納められてもなお微量に漏れ出る妖刀、聖剣、霊剣としての美しくも禍々しい魅力をボドロは無意識のうちに感じ取り、惹きつけられているのかもしれない。

 

「あんまり見ると駄目。引き込まれる」

 

 サクラの冷たいものを滲ませた注意に、ボドロの意識はハッと目覚め、その瞳の色を変えた。

 

「あ、ああ、すまない。失礼した」

「大丈夫そうなら、それで良い」

 

 一欠片も心配の感情が籠っていない声音でサクラはボドロに言う。

 

「それは……いや、何でもない」  

 

 何か聞きたそうにボドロは言うが、サクラは何も説明するつもりはなかった。  

 途切れたボドロの会話の間を挟むように、ハゲが声をかけてきた。

 

「その武器から察するにあんた俺と同郷の侍だろ。実は俺も似たようなもんでな、忍びなんだよ」

「そう」

「……忍び。忍びとは、あの?」

 

 動きや所作から疑いを持ってはいたが予想通りだった。

 

「あの、忍びだ。流石に同郷ならそう驚かねえか。それも裏事情に精通してそうだしな。俺はハンゾーだ。試験じゃライバルになるが、よろしく頼む」

 

 グイグイくる忍びのハゲに戸惑いつつ、サクラは名前を告げる。

 

「……サクラ。よろしく」

 

 そして、手を出したハンゾーに応じ、サクラは軽く握手を交わした。

 握手の際に何か仕込んでくるかと密かに警戒していたのだが、特に何も起こらなかった。

 よくよく考えてみると、そんな事をする魂胆なら最初から忍びということを明かさなかっただろう。

 ヒソカの影響か、敏感になり過ぎていたようだ。

 

 ——ヂリリリリリリ!!

 

 ハンゾーの話にボドロと一緒に付き合っていると、甲高いベルの音が鳴り響き、前方の壁が地響きを立てて上に上がり始め、紫色のスーツを着た特徴的なカイゼル髭の紳士が姿を現した。

 髭紳士はベルを止め、辺りを見渡して口を開いた。

 

「只今をもってハンター試験受付時間を終了し、ハンター試験を開始致します。

 

 最終確認です。この試験は運が悪かったり、実力が乏しかったりすると大怪我をし…最悪死に至ることもあります。それでも構わないという方のみ、私に付いてきてください。そうでない方は後ろのエレベーターで速やかにお帰り下さい」

 

 重々しい言葉が地下空間に広がるが、当然誰も動こうとしない。

 

「承知しました。第一次試験405名、全員参加ですね」

 

 誰も帰ろうとしないことを確認したカイゼル髭の紳士は、反転。

 スキップのような軽やかな足取りで開いた壁の向こうの通路へ足を進め、試験者全員が紳士の後ろを追い始めた。

 少し足取りを速めた紳士は言う。

 

「申し遅れました。私、一次試験試験官のサトツと申します。これより皆様を二次試験会場にご案内します」 

「二次?……ってことは一次は?」 

 

 試験官の言葉に、疑問を覚えたのか、横を走っていたハンゾーがサトツに質問した。

 

「もう始まっているのでございます。二次試験会場まで私に付いてくること。それが一次試験でございます」

 

 ざわつく周囲の中、ハンゾーは更に質問を重ねる。

 

「ついてくるって、ただついて行くだけか?」 

「はい。場所や到着時間はお答え出来ません。ただ付いてきて頂きます」

 

 その言葉にハンゾーが笑みを浮かべた。

 

「それが一次か。ハンター試験、思っていたのより余裕そうだな」 

 

 そう簡単に行くだろうか。

 ハンゾーの言葉に、ぼんやりとそんな思考が浮かぶが、サクラは口には出さなかった。

 

  

 ぼんやりと考え事をして気を紛らわせながら走り続けること数時間。

 一歩一歩を身体を倒すように走り、倒れてゆく身体の力、重力を利用して走り続けてきたサクラは、微量程度しか体力が減っていなかった。

 何時まで変わらない通路の風景を見て走り続けなければならないのだろう。

 数時間同じ景色を見続け、いい加減精神に苦痛を覚えていたサクラの視界に、ようやく何時までも変わらない通路の変化、通路の先から何処まで先の見えない階段が現れた。  

 

「階段かよ。段差もある程度あるな。こりゃあ、ちょいとキツそうだ」

「…ん」

 

 ハンゾーの呟きに、サクラは頷く。

 また、変わらない風景。

 階段を登ること自体はそれほど苦ではないけど、この代わり映えのしない薄暗い風景をずっと見続けなければいけないのが精神的に辛い。

 いい加減彩りや変化が欲しい。 

 愚痴を零しながら走り続けるうちに、通路の先に光が見え、嬉しそうな『出口だ』と叫ぶ受験生の声が木魂する。

 

「やっと出口か。やっぱ少し疲れたな」

「…そうだね」 

 

 ハンゾーに、適当に言葉を返していると、銀髪と逆立った黒髪の少年二人が物凄い速度で階段を駆け抜け、そのまま光の先、出口へ駆け抜けていき——その後を追う形で足を速めたサクラが出口を抜けた。

  

「俺の方が速かった」

「いや、俺だよ」

 

 視界を覆い隠す濃い霧の中、2人の少年がどちらが先に出たのか楽しげに言い争っていた。

 

「ねえ、どっちが早かった?」

「私の眼には同着に見えましたね」

 

 少年の問いにサトツは真面目に答える。

 

「お姉さんにはどう見えた」

「おい、ゴン⁉」

 

 質問してきた黒髪の少年の肩を銀髪の少年が軽く注意するように叩き、こちらの一挙一動を注意深くを観察してくる。

 ……何か警戒されるような事、したかな。 

 内心で首を傾げつつ、サクラは黒髪の少年の質問に答えた。

 

「同着、だと思う」

「そっか~」

 

 純粋に残念そうな反応を見せる黒髪の少年に対し、銀髪の少年はずっとサクラを警戒している。

 その警戒の視線、獣のような蒼い瞳。

 まるで—— 

 

「猫みたい」

 

 子供の頃、流星街でよくネズミを分けてくれた白猫をサクラは思い出した。

 でも、大人達に鍋にされて……その肉の入ったスープを嘲笑しながらサクラに分け与えた大人達の顔を、何も知らずにその肉を獣のように貪った浅ましい自分を、その肉が何なのか後で教えられた時のあの最悪な気持ちまで、サクラは思い返してしまった。 

 

「キルアのこと猫みたいだって」

「いや、お前が言われたんだろ」

「えー、違うよ。キルアのことだよ」

「いいや、お前だね」

「じゃあ、聞いてみようよ」

「なら、俺が猫って言われていたなら、お前にご飯を奢る。お前が猫って言われていたなら、お前が俺にご飯を奢るってことでどうだ?」

「良いよ。絶対にキルアだもんね」

 

 憂鬱な気持ちに浸っていると、黒髪の少年が話しかけてくる。

 

「ねえねえ、お姉さん。さっきの猫みたいって俺たちのどっちに言ったの?」

「…銀髪の少年の方」

 

 そのサクラの言葉に、黒髪の少年は満面の笑みを浮かべた。

 

「やったー、俺の勝ち」

「あーくそ、負けた」

 

 悔しがり、八つ当たりでもするように草むらを蹴っていた銀髪の少年が先程までより明らかに柔らかくなった視線をサクラに向けた。

 

「あんた、名前は?」

「サクラ」

 

 銀髪の少年の問いに、サクラは答えた。

 

「俺は、キルア」

「俺は、ゴン」

 

 銀髪の少年、黒髪の少年の順に口を開く。

 銀髪の少年がキルアで、黒髪の少年がゴン。

 サクラは頭の中で名前を反芻する。

 何処かで聞いた覚えがある気がする……。

 

「あ…」

 

 思い出した。

 HUNTER×HUNTERの主人公だ。

 どうして、顔を見てすぐに思い出さなかったのか。

 

「どうかしたの?」

「…何でもない。ただ、キルアがシルバ・ゾルディックに似ていると思っただけ」

 

 心配げな視線を向けてくるゴンに、サクラは内心の驚愕を滲ませるように言葉を返す。

 

「ああ、それ俺の親父だよ」

 

 そのキルアの言葉に反応したのはサクラでもゴンでもない、第三者。

 

「なにぃ、お前ゾルディック家の子供だったのかよ⁉」

 

 丁度階段を上がってきたハンゾーだった。

 あ、やべっ、とキルアは小声で漏らすが時既に遅し。

 キルアは矢継ぎ早に放たれるハンゾーの質問の嵐に呑まれるしかなかった。 

 

 続々と受験生が階段から登ってくる中、キルアはいまだにハンゾーに話しかけられている。

 助けてくれ、とキルアはゴンやサクラに視線を向けるが、ゴンは苦笑するだけで何も出来ず、サクラは気づかない振りをしてその視線をやり過ごした。

 

「あ、クラピカ」

 

 ゴンが階段を上がってきた金髪碧眼の中性的な容姿の人物に声をかけた。

 その容姿は美少女にも見えるが、少年のような格好、骨格や筋肉の付き方、重心を見るに、男……なのだろうが、やはり姿を見ると男なのか女なのかよく分からなくなり、サクラには性別を断言することは出来なかった。

 

「ここが、ゴールなのか?」

「違うみたい。もっと先だってさ」

 

 クラピカの視線がゴンの横に立っていたサクラに変わった。

 

「そちらは——」 

「名前はサクラ。俺もさっき知り合ったんだ」

「そうか、よろしく」

「……よろしく」

 

 サクラは、クラピカと握手を交わし、小声で呟くように告げた。

 少し前から到着し、息を荒くしながら、こちらを見ていた上半身裸の30代位の男性がサクラに声をかけた。

 

「お嬢さんッ——ハぁッ——ッ俺はッ——ハァッレオリオって——ハァッ——言うんだ。よろしく頼む」

 

 出されるドロリと汗の滲んだレオリオの手をサクラは躊躇せず掴み、気軽に握手を交わした。

 それからその場に座り込み、何気ない会話をしていると、突然クラピカが声をあげた。 

 

「霧が晴れて来たぞ」

「え……本当?」

 

 立ち上がり、霧の向こうを眺めるゴン。

 霧の向こうの景色、不気味な森の風景が映り始め、ずっと森に視線を向けていたサトツが口を開いた。

 

「ヌメーレ湿原、通称詐欺師のねぐら。二次試験会場へはここを通って行かねばなりません。

 

 この湿原にしかいない奇怪な動物達……その多くが人間をも欺いて食料にしようとする狡猾で貪欲な生き物です」

 

 淡々とだが、重く、それが事実であると突きつけるような声でサトツは森の説明をしていく。

 

「十分注意して付いてきてください。騙されると……死にますよ」

 

 サトツの重ねるような重い注意の言葉が受験生の間に動揺を走らせ、背後の地下通路の出口がシャッターで閉ざされていくというギミックが、受験生の動揺を更に増幅させる。

 だが、逃げ口を塞いでいくように閉じていくシャッターに誰も地下通路に逃げ込もうとしない。 

 丁度階段から登ってきていた男が、閉じていくシャッターに手を伸ばし、待ってくれと懇願するが、シャッターは止まらない。

 シャッターは完全に閉じ、その向こう側から男の慟哭の声が響き渡るが、もう後がない事を悟った受験生達のほとんどが自身のことで一杯一杯。その慟哭を聞く余裕はなかった。 

 

「この湿原の生き物はありとあらゆる方法で獲物を欺き、捕食しようとします。標的を騙して食い物に——」

 

 どこか遠くから視線を感じ、その視線の方向に顔を振り向くと、木の上からこちらを縮こまるように観察していたサトツのような顔をした猿と人間のコンビと目があった。

 明らかに怯えたように震える猿と人間。

 何なんだろ。

 サクラは首を傾げ、サトツに視線を再び向け直す。

 その直後、猿と人間の気配が凄まじい速度で動き出し、遠くに去っていくのを感じたが、サクラには訳が分からなかった。

 

「それでは参ります。騙されることのないように、しっかりと付いてきてください」 

 

 それで説明を終えたのだろう。

 背を向け、サトツはスキップをするような独特の歩みで足を進め始めた。

 

 走る、走る、走る。

 森を駆ける中、サクラに一定の距離に近づいた動物達、視線を向けた動物達が凄まじい速度で、森の何処かに去っていく。

 ……何故?

 やはりオーラの禍々しさが原因だろうか。

 サクラが近付いた大抵の動物は、酷い怯えを見せるのである。

 

「うわぁああああああああ」

「がッ——ッ‼」

 

 考え事をしている間も、背後でバタバタと身体からキノコを生やして倒れる受験者達。

 悲鳴があがり、動揺から視野を狭めた受験者達は、更に植物の罠に嵌り、死んでいく。

 走っている途中、後ろの方からヒソカ他、複数の殺意を感じたが、それらはサクラには関係がない殺意。

 特に気にせず、サクラは走り続けた。

 

 段々と霧が晴れ、道とも言えない道から人の通りそうな道に変化した頃、木々で隠れた薄暗い森から突然拓けた広場とゴールらしき建物が現れ、サトツはその建物の前でその足を停止させた。

 

「ここが、ゴールなのか?」

「はい、こちらがゴールになります」

 

 ハンゾーの問いにサトツは息一つ乱していない声音で答えた。

 ゴールだ! やった!! やっと……やっとか……。

 受験生達に嬉しげな声が広がり、もはや精神だけで肉体を動かしていた者達は倒れるように広場に転がっていく中、サトツが広場に到着した受験生達に言葉を告げる。

 

「こちらが一次試験の終着点。ビスカ森林公園が二次試験会場になります。二次試験は正午、12時から始まる予定です。それまでの間、各々自由にお過ごし頂いて構いません。皆様、お疲れ様でした」 

 

 サトツの言葉に受験者達が喜ぶ中、ハンゾーがサクラに近付いてきた。

 

「予想していたより辛かったが、案外余裕の試験だったな。ボドロは?」

「…あそこ」

 

 サクラが指差したその先で、息を荒げたボドロが木を背もたれにする形で座り込んでいた。

 

「おーい、ボドロ。大丈夫そうか?」

「ハンゾーか。暫く休めば動けるようになる、心配は無用だ。そちらは心配するまでもないな。まだまだ余裕そうだ。その体力、少し分けて欲しい位だ」

 

 ハンゾーとサクラに視線を向けるボドロにハンゾーは軽く言う。

 

「ま、幼少期からそれなりに鍛えてますから。そのお陰だろうな」

「私の場合、ただ疲れないように走った。それだけ」

「もしかして、それ、秘伝とか、そういうものか?」

「……?違うけど……」

 

 ギラギラと目を輝かせて言うハンゾーに、サクラは困惑した。

 

「なら、教えて貰ったりは——」

「…無理」

 

 目に見えて残念そうにするハンゾーとボドロ。

 しかし、ノブナガにも理論的な説明をした覚えがないサクラにはどう教えれば良いのか分からず、見て覚えろとしか言いようが無かった。

 

 

 

 


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