無限の剣製……?   作:流れ水

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第8話

 

 夢から目覚めたサクラは、何かに突き動かされるかのように借りた広場で刀を振るっていた。

 垣間見た一つの真髄。

 体感した圧倒的な技にサクラの中にあった堅い扉が開けた気がした。

 

 上段から真っ直ぐ刀を振るう。

 刀から生じた衝撃波が大気を駆け抜け、地埃を巻き起こす。

 

 昨日と比べ、一閃の持つ単純な力強さと速度は上昇している。

 だが、それと反比例するようにサクラの技量は低下、刀に乗る力が分散し、大気を衝撃波となって駆け抜けていた。

 【黒のコート(バブレバヤーン)】によって向上した身体能力にサクラの身体制御能力がついていけていないのだ。

 

 故に、サクラは剣を一閃しながら、体内を満たすオーラを円のように用いる事で、肉体の骨の動きから筋線維一本一本に至るまで把握、納得出来るまで修正を重ねていく。  

 

 回数を重ねるうちに、段々研ぎ澄まされる意識と感覚。

 

 水の中にでも居るように重くなる大気。

 

 凝縮される体内時間。

 

 それらが一定まで高まった瞬間、肉体の動きのみに収束されていた意識が剝離、急速に外側に広がってゆく。

 

 まるで機械のように、意識を向けるまでもなく、剣を動かすための効率的な動きに修正されていくされていく肉体。

 

 そんな自身の肉体に、僅かな違和感を感じる。

 けれど、更に深く沈み込むことで、感じていた違和感もすぐに気にならなくなり、自分という意識そのものが虚空に消え去っていく。

 

 消え去る意識に呼応するように、膨れ上がり、おぞましさを増していくサクラのオーラ。

 

 白昼夢でも見ているような不思議な意識の中、サクラは世界が真っ白に染まっていくかのような感覚に落ちてゆく。

 

 サクラの一閃から音が消えた。

 

 何も感じない。

 何も思わない。

 

 無我。

 

 無意識の領域に入ったサクラの一閃から音が消え、衝撃波は生まれなくなった。

 

 収束。

 一閃の度に生じる力を全て刀の上に乗せたのだ。

 

 サクラの一閃が大気を割り、大気はすぐに割った空隙を埋めていく。

 

 いまだに空は斬れず、大気を割るのみ。

 

 それでも、サクラの肉体は空を割り続ける。

 

 

 どれほど大気を斬り続けただろうか。

 

 冷たい風がサクラの頬を撫で、ふわふわと浮き上がっていた意識が身体に戻った。

 

 

 上段から剣を振るう。

 流れるように動く負の感情に染まり切ったオーラ。  

 

 剣に収束した力が——空を、切断した。 

 虚空に刻まれた一閃が、周囲の大気に呑み込まれず、そのまま傷跡として残り続けるのを見て、サクラは刃を鞘に納めた。

 

 

 

 

 美しい少女だった。

 

 綺麗ではない。可愛いでもない。

 

 美しい、その言葉が一番似合う、不思議な少女だった。

 

 腰まで伸びた艶やかな鴉色の髪は、夜の街を歩く人々の瞳を惹きつける。

 

 黄金色に焼けた肌は、妖精の如くきめ細やかく、艶めかしい。

 

 細く見える手足はどうしてか雌馬の足のような、可憐さと力強さを併せ持っていた。

 

 その雰囲気は何処までもおぞましく、仄暗い。

 

 それでもなお、人を惹きつけて止まない妖しい美が宿っていた。

 

 

 そして、何よりも人々を魅了するのが、少女の動き、動作、歩き方に宿る理。

 

 ある種の極限まで達した理。

 

 達人の舞い、踊り、武、技。

 

 それらを人が美しいと感じるように、少女の所作一つ一つに美が宿っていた。

 

 

 それは、少女が持つ美ではなかった。

 

 人が持つ美でもなかった。

 

 

 まるで、妖刀のような、破滅すると分かっているのに手に入れずにはいられないような、魔性の美が、そこにあった。

 

 

 

 カキン帝国。

 開催される刀剣展覧会に訪れるためにカキン帝国へ入国していたサクラは、何故か夜の街でナンパを受けていた。

 

 

「君、可愛いね。海外からの旅行者?」

「……?」

 

 スーツを着こなした優男からの唐突な問いに、サクラは首を傾げた。

 

「何で、この国に来たの?やっぱり観光目的?」

「…武器」

「武器……?」

 

 問い返してくる優男に特に思いもなくサクラは答える。

 

「そう、武器を見に来た」

「へ、へぇー…武器なんか見に来たんだ。こんな国まで来て一体どんな武器を?」

「刀剣」

「刀剣か~。俺そういう武器とかに詳しくないんだよね。ちょっとそこの店とかで教えてくれない?」

「嫌」

 

 優男が親指で、すぐ近くの怪しげな店を指し示すが、サクラは即座に断った。 

 

「えー、ちょっとは考えてくれても良いじゃん。悲しいなあ」

 

 ふわりと服から漂う尋常ではない血の香り。

 優男から滲み出る薄暗い雰囲気。

 十中八九、裏に属する人間。体捌きから察するに戦闘に関わる者ではないのだろう。

 関わっても良い事はなさそう。

 

「あ、俺、結構良いホテルに伝手を持ってるんだけど、良かったら紹介してあげようか?」

「必要ない」

 

 肩に手を置こうとする優男の手をすり抜けるように避け、サクラは歩き始める。

 

「ちょっ、ちょっと待ってくれ」

 

 空を切った腕を見て間抜け面を晒す優男。

 必死に呼び止める声が背後から聞こえてくるが、サクラは足を止めなかった。

 

 

 そんなサクラと優男の様子を覗いていた視線が険吞染みたものに変化していく。

 

 …そろそろか。

 臨戦態勢に入る思考とは逆にリラックスした態度で足を進める肉体。 

 

 店と店の間にある薄暗い通路。

 その奥からぞろぞろと現れたスーツ姿の厳つい男達が、緩慢かつ威圧的な態度でサクラの進む通路を塞いだ。

 道を塞いだ厳つい男たちの中から一歩前に進み出た禿頭に鳥の入墨を入れた男が、無知な子供に言い聞かせるように口を開いた。

 

「お嬢ちゃん、少しそこのホテルまでついてきてくれないか?私達も手荒な真似はしたくないんだ。……出来る限り、ではあるんだがな」 

 

 禿頭の言葉に、背後で幾人かの厳つい男が嗜虐的な笑みを浮かべ、その力を誇示するように暴力的な気配を漂わせる。

 

「沈黙は同意と取らせて貰うが、良いよな」

 

 もう堪え切れないとばかりに、禿頭の男の背後から進み出る厳つい男達を前に、サクラの腰に納められていた刀【小烏丸】が反応。

 黒い翼のみをサクラのコートから飛び出すように具現化。

 その翼を羽ばたかせ、黒い颶風を巻き起こした。

 

 黒翼から放たれた羽に反応すら出来ず、ソフトボールほどの穴を体中に空ける厳つい男達。

 飛び散る脳漿と血肉が棒立ちで立っている禿頭の男に降りかかり、そのスーツの白シャツを真っ赤に濡らした。

 

「……は?」 

 

 血に濡れた全身を触り、真っ赤に染まった掌や服を見て、膝を震わせる禿頭の男は一歩その足を後ろに進め、ずるりと肉片の中にこけた。

 自身の足元まで長く伸びた人の腸、誰かの手足や目玉を見て、禿頭の男の顔にようやく理解が浮かび、恐怖の色がその表情を染め上げる。

 

 何処からかあがる悲鳴。

 何が起こったかも理解出来ずに逃走する人々の濁流がその夜の街の通路を呑み込む中——

 

「ひっ…あっ……」

 

 人混みに紛れた禿頭の男は声にもならない悲鳴を漏らし、人混みの障害をすり抜けるように近づいてくるサクラから必死で四つん這いになって逃げようとするが、すぐにサクラの掌に首を掴まれ、持ち上げられた。

 

「誰の差し金?」

 

 サクラの問いに、禿頭の男は涙を流しながら首を振る。

 

「そ……」

 

 言わないなら、生かしておく意味はない。

 サクラはその首から手を離し、手刀で、その首に雷光のような一閃を放った。

 受け身も取れずに地面に倒れ伏す禿頭の男。その地に落ちた衝撃でコロリと禿頭が胴体から離れ、ボールのように転がった。

 人々の足の中を転がる禿頭は、より人々にパニックを引き起こし、何度も蹴られ、踏み潰され、その形をただのミンチに形を変えていくが、すでに人混みに紛れ、その場から去っていたサクラが、それを見ることはなかった。

 

 

 

 ——カキン帝国古代武器展覧会、会場。  

 世界の武器マニアが会場に集い、武器を食い入るように見ていく中、サクラもまた会場で展示された武具を眺め、歩いていた。 

 

 見る。

 視る。

 観る。

 

 その武具の材質を、その武具の構造を、その武具の記憶を、サクラの目は読み解き、念空間の中の砂漠に寸分の違いもなく、武器を模造し突き立てる。

 

 そうして一通り展覧会を見終えた頃、サクラを見ていた金髪の男がようやく動き出した。

 隠し切れないとばかりに、ニマニマとした笑みを浮かべ、近付いてきた金髪の男はサクラに口を開いた。

 

「やあ、お嬢さん。刀剣展覧会は楽しんでる?」

「…貴方、誰?」  

 

 その金髪の男から漂う腐敗した血肉の香りにピクリと眉をひそめ、サクラは無表情で名前を問う。

 だが、その内心、サクラは金髪の男から漂う戦乱の時代の英雄と比肩する血の濃さに、驚愕を抱いていた。

 

「ツェリードニヒ。それが俺の名前だ、サクラ・ハバキリ」

「そう」

 

 僅かに顔を変化させたサクラにツェリードニヒはニタリと笑みを深くした。

 

「警戒しなくて良い。俺はあんたの熱烈なファンだからな、敵対するつもりであんたに会いに来たわけじゃない。ただの一ファンとしてあんたに、あるお願いをしに来たんだけだ」

 

 その話を聞きながら、サクラはツェリードニヒを観察していた。

 肉体そのものは非常に鍛え上げられているが、技量はそれほどでもない。

 体内から溢れ出る生命オーラは凄まじいが、念能力者ではない。

 こいつ、一体、何?

 サクラはツェリードニヒの存在に戸惑っていた。

 

「偶然、あんたの殺す手際を監視カメラで拝見させて貰ったんだが……俺には衝撃的だったよ。最初見た時は訳が分からなかった。一体何が起こって人が死んだのかさっぱりだった。だが、何度も映像を見るうちに気付いたんだよ。あんたが単純に人の眼では視認出来ないほど速く動いただけってことになッ‼」

 

 まるで未知に遭遇した子供のような笑みを向けてくるツェリードニヒに、サクラはひいていた。

 

「それからだ。問題は。部下に解析させた映像を見たんだが、俺はもっと訳が分からなくなった。

 

 背中から黒い翼が生える?人にか?

 手刀で人の首を落とす?ははっ、化物かよ。

 

 原理は不明。種も仕掛けも理解不能。ああ、もう余りの理解不能さに感動したよ、世の中にはこんな訳が分からない殺し方をする奴が存在するのかってな」

 

 

 独白するように、その時の想いを吐き出すように、ツェリードニヒは感情豊かに話を続けていく。

 

 

「だから、あんたの過去について調べさせたんだが、ほとんどが不明のブラックボックス状態。生まれも育ちもほとんどが偽造された偽物だった。

 

 それでも、数少ないあんたの過去から情報を得ようとした結果、俺は天空闘技場200階でのあんたの闘いから、そこで不思議な力を使う闘技者に目を付けた」

 

 

 自身の世界に入りきり、酔いしれたように言葉を続けるツェリードニヒに、サクラはこの場から離れたい気分に陥っていた。

 

 

「200階層の闘技者といっても、所謂、あいつらは名誉欲しさに闘っていた連中だ。少し、餌をぶら下げただけで、俺が欲しかった情報はすぐに手に入った。

 

 その不思議な力で攻撃を受けた者は、その力に覚醒する可能性がある事。それが洗礼と呼ばれている事。手足の一本を失うような重症を負う事。本当に色々な事を知る事を出来たが、そいつら、その不思議な力の知識については全くのド素人だった。

 

 ま、それでも、世の中にはそういう不思議な力がある。それを知れただけでも俺としては僥倖だった。そういう力に詳しい奴に聞けば良いだけだからな」

 

 

 突如、ツェリードニヒは怒りに表情を歪ませる。

 

 

「だが! だがッ! だがッッ‼

 

 そういう不思議な力について幾ら調べようと、それ以上の情報は全く出てこなかった。

 

 誰が小細工をしているのか大体予想は付く」

 

 

 スゥと息を吸い、吐いた頃には心の整理を付けたのか、ツェリードニヒはその狂相を元の平坦な表情に戻していた。

 

 

「だが、今の俺には正直どうしようもないだろうな。

 

 そんなこんなで、今日、俺はあの不思議な力について知ってそうなあんたに直接教授を願いに来たって訳だ」

 

 真剣な表情でサクラを見つめるツェリードニヒ。

 その瞳には狂気染みた情熱の感情が渦巻いている。

 仮に断ったとしても、ツェリードニヒは絶対に諦めないだろう事をサクラの経験が囁いていた。

 こんな人間に目を付けられた不幸に、ため息をつきたくなるも、サクラは重く口を開いた。

 

「……教えるのは構わない。その代わり、この国にある刀剣という刀剣武具を見せて欲しい」

「ああ、出来る限りだが、どうにかすると約束しよう」

 

 上機嫌で笑みを浮かべ、サクラに他に何かないかと聞くツェリードニヒに、サクラは教える条件を幾つか追加した。

 その条件の中には、ツェリードニヒの心臓をサクラの用意した短剣で突き刺す事も入っていたが、その短剣で心臓を刺されても死なない事をサクラに確認した後、ツェリードニヒは笑顔で快諾した。

 そんなツェリードニヒの事をサクラは理解出来そうになかった。

 

 …どうしてこんな狂人ばかりに目をつけられるのだろうか。

 サクラは心の中で嘆きの声を叫ぶが、目の前の現実は何も変わらなかった。

 

 

 

 

 




 容姿がないという感想から、取り敢えず、サクラの容姿について描写を入れておきました。

 追伸、前半のサクラの美しさを説明しているのは、ツェリードニヒです。


 今回の話はサクラの強化回であり、不幸ぶりを示す物語でした。

 何故かツェリードニヒが話しまくっていますが、諦めて下さい。
 この後の話しで、ツェリードニヒが直接関わる予定は、今のところありません。

【血濡れた花嫁の束縛】(メリーバッドエンド)死者の念 操作系  放出系×具現化系の複合

 ツェリードニヒの気配を警戒して、その心臓に突き刺した短剣。

 具現化した短剣で、心臓に突き刺した対象に2つの命令を与える 
 1、対象は私に対して誠実でなければならない。
 2、対象は私を裏切ってはならない。 
 対象が命令を破れば、即時対象の心臓の鼓動は停止し、死亡する。 

 制約
 この具現化した短剣は、人を傷つける事は出来ない。
 この具現化した短剣の刃を対象の心臓に突き刺した場合のみ、能力を発動する。


 色々と薄暗い逸話のある短剣。

 元々は対象の命令に制限など無く、ある程度自由に命令出来る短剣でした。
 現在は、命令に制限が課された代わりに除念が非常に難しくなっています。
 また、与える命令は、信用出来ない取引相手に使用する場合、非常に有用です。
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