【月光の神】ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 作:クックダッセ
僕の魔法は、光の
詠唱すると、身体の奥にすっと光が流れ込んでくるみたいな感覚がある。
全身が軽くなる。
地面を蹴る足が、いつもより深く沈んで、いつもより遠くまで届きそうな気がする。
力も。
速さも。
身体の丈夫さまで。
全部が底上げされてる、そんな感じだった。
すごい魔法だと思う。
思うんだけど───僕にできるのは
この魔法は絶対にもっと先がある。
それは直感したけれど、それが何なのかは分からない。
僕のLvが足りないのかもしれないし、使い方が悪いのかもしれない。
もしかしたら、何かきっかけが必要なのかもしれない。
ただ、胸の奥で誰かが静かに微笑んでるような気がした。
ルナさん、なのかな……?
そんなふうに思うと、少しだけ変な感じがする。
なんだか、見守ってくれてるみたいで、少しだけ安心した。
「大丈夫ですか?ベル」
「う、うん」
考え込んでいたところに声をかけられて、僕は顔を上げた。
「レフィーヤも、なんだか納得いってない顔してるけど……大丈夫?」
「え、そんな顔してました……?」
レフィーヤがぱちぱちと目を瞬かせる。
どうやら自覚はなかったみたいだ。
僕たちは並んで歩きながら、たぶん同じように新しい力のことを考えていたんだと思う。
神様はそんな僕たちを見て、小さく笑った気がした。
「まだまだだな……」
ぽつりと零れたその言葉は、呆れてるっていうより、なんだか嬉しそうだった。
実際、レフィーヤも僕と同じで、新しい力をうまく扱いきれていなかった。
でも困ってる内容は、僕と真逆だった。
僕は力を引き出しきれなくて困ってる。
でもレフィーヤは、逆に出力が高すぎて困っていた。
ほんの少し魔法を流しただけで、周りの空気が震えるくらいの威力が出る。
見ていて本気でひやっとした。
あれ、もし加減を間違えたら、レフィーヤごと吹っ飛びそうなくらいだった。
僕は火力不足。
レフィーヤは火力過多。
極端すぎる……
「な、なんていうか……ほんとに真逆だね……」
「笑い事じゃないんですけど……」
レフィーヤがじとっとした目でこっちを見る。
でもその顔にも、少しだけ困ったような色が混じっていて、なんだかちょっと安心した。
森を抜けると、止めておいた馬車が見えてきた。
木漏れ日から一気に開けた空の下に出たせいか、さっきまで祠の中にいたのが急に遠い出来事みたいに感じる。
僕たちは馬車に乗り込んだ。
手綱はもちろんレフィーヤが握る。
神様と僕は荷台に乗って、オラリオへ向かうことになった。
馬が地面を蹴る音。
車輪がごとごと揺れる音。
風が頬を撫でていく感触。
なんだかその全部が、僕の頭の中を少しずつ現実に引き戻してくれるみたいだった。
******
オラリオを目指して、一時間くらい経ったころだった。
「止まれ!」
「は、はい!」
神様の声が飛ぶ。
レフィーヤが慌てて手綱を引いて、馬車ががくっと止まった。
何があったんだろうと思って前を見ると、街道の先で二人の女の人がこっちへ手を振っていた。
止めてほしい、ってことだよね……?
「あの、すみませ───」
「これはオラリオに向かう馬車なのかしら!」
「ちょっとアリーゼ……」
「あ、え、はい……」
赤い髪の女の人が、ぐいっと荷台に身を乗り出してきた。
ち、近い!
満面の笑みで、いきなり顔がすぐ目の前に来る。
僕は思わずじりじり後ろに下がってしまった。
とても綺麗な人だった。
赤い髪が明るくて、表情もころころ動いて、なんというか太陽みたいな感じがする。
もう一人の女の人は、その赤髪の人をたしなめるように肩を引いていた。
こっちは小人族だろうか。身体が小さい。
栗色の髪に、目元を隠すような白い仮面をつけていて、金の飾りが装飾されていた。
……仮面つけているけど、前見えてるのかな?
そんなことを考えてると、神様が口を開いた。
「それで、馬車を止めて何の用だ」
さっきまでの空気が、ぴんと張る。
すると仮面の女の人が、すっと前に出てきて丁寧に頭を下げた。
「失礼いたしました、女神様。私はリリルカ・アーデ。私たちはオラリオを目指して旅をしている途中でして、よければ乗せていただきたいと思い、お止めさせていただきました」
すごく丁寧だった。
言葉遣いも、仕草も、きっちりしてる。
「失礼いたしました。私はアリーゼ・ローヴェルと申します、女神様!」
赤髪の人───ローヴェルさんもぺこっと頭を下げる。
「もちろん、ただでとは言いません。金銭もお支払いしますし、旅の心得もありますので護衛もさせていただきます」
神様は少しだけ二人を見つめていた。
なんだか、心の中まで見てるみたいな目だった。
それから荷台を指差す。
「金銭もいらん。オラリオまでなら同じ目的地だ。座れ」
「「ありがとうございます」」
二人が荷台に乗り込んでくる。
神様がレフィーヤに合図を送ると、馬車はまたゆっくり進み始めた。
しばらくすると、アリーゼさんがいきなりこっちを振り向いた。
「それで兎君!!名前は!?」
「ベ、ベル・クラネルです! ち、近い……!」
「あら失礼!ベル・クラネル……うん!覚えた!ベル、よろしくね!」
笑顔がまぶしい。
近いし、綺麗だし、勢いもすごいしで、僕の心臓が落ち着かない。
しかも隣から、神様がちょっと怒ってるような気配がする。
……うん。これ絶対気をつけたほうがいい。
「ローヴェルさんとアーデさんは、旅をしてたって言ってましたけど、観光でオラリオに?」
僕がそう聞くと、仮面の奥から穏やかな声が返ってきた。
「いえ。私たちは観光ではなく、英雄の都と言われるオラリオを次なる拠点として構える予定です」
「拠点、ですか?」
「ええ。言ってしまえば、オラリオを救済します」
「ええっ!?」
思わず声が裏返った。
オラリオを、救済?
なにそれ。
いや、言葉の意味は分かるけど、意味が分からない。
僕が混乱していると、神様が先に反応した。
「お前、【
「その二つ名はあまり好きではありませんが、そうです」
「じゃあ、その隣は【
「そうです!」
アリーゼさんが元気よく答える。
「神様、ご存知なんですか?」
「ああ。何年も前から、いろんな町や村を回って困ってる人を助け、都市外に潜む凶悪モンスターなんかを討伐している人物たちだ」
僕は目を丸くした。
そんな人たち、全然知らなかった。
っていうか、都市の外にそんな凶悪なモンスターっているんだ……。
僕が思わずアーデさんのことを見つめていると、その視線に気づいたのか、彼女がにこっと微笑んでくれた。
どきっ、と胸が跳ね顔を赤らめると、神様が僕の太ももをつねり「ぎゃっ!?」と情けない声を出してしまう。
「都市外の脅威になるモンスターは、できる範囲で片付けてきたので、次はオラリオのダンジョンそのものを救済します」
リリルカさんがさらっと言う。
すごいんだけど、やっぱり話の規模が大きすぎる。
ダンジョンそのものを救済って、どういうことなんだろう。
僕には全然想像がつかなかった。
「そ、そういえば、アーデさんとローヴェルさんの主神様はどこにいらっしゃるんですか?」
なんとか別の話を振ると、なぜか二人はそっちじゃなくて違うところに食いついた。
「リリって呼んでいいわ」
「アリーゼでいいわよ!」
「え、えっと……じゃあ、リリさんとアリーゼさんで……」
なんだろう、この距離感……。
特にアリーゼさんは本当に距離が近い。近い。顔が近い。
そのたびに神様の視線が痛い気がするし、僕どうしたらいいんだろう。
「それで私たちの主神の話だったわね。はっきり言うと、三年前からステイタス更新してないの」
「え!? 三年も更新なしでここまで!?」
思わず大声が出た。
だって三年だ。
三年もステイタス更新なしで、あちこち旅して、救済して、戦ってきたってことだよね……?
「元主神ならいるけどね……あの忌々しい神め」
「ヒッ!?」
急にリリさんの声が低くなって、僕は肩を跳ねさせた。
「お前の主神は何をしたんだ……」
神様も半眼になってる。
でも僕がおそるおそるリリさんを見ると、何事もなかったみたいに微笑んでいた。
……き、気のせい?
「【
「三年前の時点でLv.5です」
「私もLv.5です!」
「つ、つよおおおおおお!?」
思わず叫んだ。
いや、強すぎる。
僕もまだ詳しいわけじゃないけど、都市の外じゃダンジョンみたいにずっとモンスターと戦えるわけじゃない。
神様からも、都市外でLv.2でもかなりすごいって聞いてた。
それなのにLv.5???
お、おかしい。
いや、すごい人たちってことなんだろうけど、それにしたってすごすぎる。
その後も、神様とリリさんは色んな話をしていた。
都市外にはどんなモンスターがいたのか、とか。
今の外の情勢はどうなってるのか、とか。
町や村のこと、とか。
僕も聞いていたけど、途中からちょっとよく分からなくなってきた。
話の規模が大きいし、知らないことも多いしで、頭が追いつかない。
アリーゼさんは理解してるのかしてないのか、「ふふんっ!」って誇らしげにしていた。
……たぶん雰囲気で乗ってる気がする。
逆にリリさんは、オラリオのことや、僕たちのことも聞いてきた。
【アルテミス・ファミリア】のこと。
レフィーヤのこと。
そして、僕のこと。
僕はそのたびに、しどろもどろになりながら答えるしかなかった。
そうして話しているうちに、遠くにオラリオの外壁が見えてきた。
「ふぅ。お互い良い情報交換でしたね、アルテミス様」
「ああ。それで、オラリオに来たらファミリアを探すのか?」
神様が静かに聞く。
「まだ決めていないのが現状です。でも話を聞く限り、探索系のファミリアに入るのがいいでしょうね」
「私たちはオラリオで一番強いロキ・ファミリアに志願してみようかしら!」
アリーゼさんが元気よく言う。
「確かにそれがいい。お前たちのLvであれば入れると思うぞ」
神様が頷くと、アリーゼさんはさらに嬉しそうに身を乗り出した。
リリさんの笑顔がちょっと引きつってる気がする。
……なんというか、二人ともすごい人たちなんだけど、思ってたよりずっと賑やかだ。
「それでベル。貴方は英雄を目指していると聞いたけれど、師はいるのかしら」
「師、ですか? 一応、同じファミリアのレフィーヤから教えてもらってますけど……師っていう師はいないです」
そう答えた瞬間、リリさんがにっこり笑った。
「なら、ベル。私が師となり教えて差し上げましょう。これは決定事項です」
「へっ……?」
え。
いま、なんて?
「まあ師匠がいても、関係なかったですけどね」
「アーデ! 今回はいつになくやる気ね! バーニングしているわ!」
「勝手なこと言わないでください!!」
リリさんが淡々と答え、アリーゼさんが茶化す。
そして、レフィーヤが怒鳴っていた。
神様は深いため息をついた。
アリーゼさんはきらきらした目でリリさんを見てる。
当のリリさんは自信満々に微笑んでるだけだ。
僕はというと、完全に置いていかれていた。
な、なにこれ……。
荷台の上が一気に騒がしくなる。
さっきまで神秘的な祠にいたはずなのに、今はもう別の意味で頭が追いつかない。
か、
揺れる馬車の中で、僕は赤くなったり青くなったりしながら、ただ近づいてくるオラリオの外壁を見つめることしかできなかった。
「では行きましょうか!ベル!」
「ちょ、引っ付かないでください!?」
「おい!【
リリがベルの腕にくっつきオラリオ観光をしようとする。それをアルテミスは許さんとばかりにリリをベルから剥がそうとする。
アルテミスは「やっぱりこいつだけ乗せずに置いて行けばよかった」と騒ぎながらオラリオを闊歩する。
「アリーゼさん、リリルカさんって普段からこんな感じで人懐っこいんですか?なんか意外で…」
「いえ、私も驚いているの。アーデがここまで心許す相手いるなんて」
アリーゼは3人の光景を物珍しそうに見ていた。いまだに3人は暴れてるというか、まあ主に暴れてるのは二人だが。
「何ならアーデは下品な男の子がいたら『テメェらそんな汚ねえ口で喋りかけるんじゃねえよ。テメェらの股にぶら下がってる汚ねえもんぶち抜いてやろうか』とかいう……」
ここまで喋ったところでアリーゼが後方に吹っ飛ばされた。
神速だった。
突如消えたアリーゼにレフィーヤは驚き正面を見ると、笑顔のリリルカ・アーデが立っていた。
「私がそんな下品な事言うわけないじゃない、ねぇ?」
「は、はい!リリルカさんはそんな事言いません!!」
聖女の一端が見えた気がする瞬間だった?