【月光の神】ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか 作:クックダッセ
今回で精霊編終わると思ってたんですけど、5000文字ほど行ってしまったので、前編とさせてもらいます。
後半は年末までに投稿したいな…(自信なし)
一人の少女は幸せだった。
「お母さん!見てみて、さっき奥の森にあったお花で冠作ってみたの!どう?似合う?」
山吹色の髪を一つにまとめ、それは可愛らしい容姿をしたエルフの少女が家で母親に興奮しながら、花の冠見せていた。
母はこうするともっと可愛いわよと、レフィーヤから花の冠を受け取り、レフィーヤの頭に乗せることにした。
「うわ!ねえねえ!お父さん似合う?似合う?」
ああ、レフィーヤ似合うよ。そう言って父親は一人用の椅子に座りながら、優しい笑顔で笑いかけた。レフィーヤは嬉しくてクルクルと回り始める。レフィーヤは故郷の村に暮らして15年の時が過ぎていた。故郷では魔法の勉強を怠らなかった、レフィーヤはというよりはこの村の人々は神の恩恵を授かっていないが、勤勉なので大抵のモンスターなら対応できる人外集団と言っても過言ではない。
そしてレフィーヤは家の中で騒いでいると、外から同胞の声が聞こえてきた。それは火龍が攻めてきたというものだった。レフィーヤの父と母はレフィーヤを匿うように机の下に逃げ込んだ。
「あれ?村から歓声が上がってる?」
そうみたいだね、村のみんなが倒してしまったみたいだ。そうレフィーヤの父が呟いた。母も歓声に変わった瞬間机の下からレフィーヤを出し、洗い物を始めるのだった。
レフィーヤの村はどんなモンスターに攻められても対処ができる村だった。ゴブリンの大群だとしても、ミノタウロスが来たとしても、村のみんなは対処できるようになっていた。そんな村にレフィーヤは存在している。いつかはその人たちと肩を並べて戦えるようになりたいと願っていた。
ー■■■■るなー
「うっ!」
レフィーヤの頭に亀裂が走ったような痛みが来る。レフィーヤは膝をついてしまっていた。それについては父も母も見てないふり、いや見えてないようだった。
ー■を■■るなー
足に力を込めてと立ち上がる、しかしレフィーヤの頭はどんどん痛みが増していく。まるで何かに気づかせるように。レフィーヤは頭痛を我慢し、ふらふらながらも外の空気を吸おうと、ドアに向かう。
しかしドアに向かう途中ドアを開けたらもう両親に会えない気がした。だから少しレフィーヤはドアに向かうのを躊躇した。
ー目を背けるなー
頭痛は治った。そのおかげか先ほどの声がはっきりとレフィーヤに届いていた。『目を背けるな』そう言われた。何も背けてなどいない、何も失ってはいない、これが現実だ。目を背けるも何も後ろめたいことはない。
レフィーヤは心の中完結させて、ドアに向かうのをやめた。両親の方へゆっくりと歩み出した。
******
少年は英雄に憧れている。
『まずは問おう!君にとって英雄とは?』
ベルは真っ黒な世界にいた。平衡感覚はある、視覚もできる。だってベルの目の前にはベルよりも少し背の高い若い青年がいたから。顔は認知できない、顔は真っ黒になっており、どんな顔なのかもわからない。彼との距離は10Mくらいだろうか、ベルはその場に立ちながら口を開く。
「僕にとって英雄とは、誰もを救うことができる英雄です。悪を倒し、みんなを笑顔にするそんな英雄に僕はなりたい」
『まあ、そうだろうな、そうだろう!それが英雄の理想像!誰もを救うことができて、善民を助け悪を挫く。それこそが英雄の理想像、そういうことなんだろう?』
「はい、僕が思う英雄です」
その青年はカラカラと笑いながら、ベルの問いに答えた。まるで面白がるように、ベルがそう答えるということを知っていたかのように対応していた。
『だがな、ベル。その悪が救いを求めていても君は同じことを言えるのか?』
「どういう......ことですか?......」
『わかりやすく説明しよう、英雄は悪を挫く、それは絶対だ。しかし君は英雄は皆を笑顔にするとそう言った。そこで矛盾が生じるんだ、英雄は悪を笑顔に、救えてないと』
その青年はベルに問い直すようにそう答えた。確かに青年の言ってることは間違ってはない。英雄は皆を救う、笑顔にするとそう言った。しかし悪は救わなくていいのか?悪いものは切り捨てられるしかないのか?ベルは必死に言い返そうと声を出そうとするが、青年の声に打ち消される。
『まあ、言いたいことはわかる。悪人は悪いことをしてるなら当然切り捨てられてもいいだろうと、では違う問いを』
その青年はまた問い直す。まるで腹の内を探るように、彼は問い詰めていく英雄とは何かを。
青年が指を鳴らすと世界が変わった。遺跡のような場所に移動したと言うよりは遺跡を映し出したと言った方がいい。
『ここには君と後ろには君の大切な人、そして目の前には君たちを殺そうとする悪人がいる。君は大切な人を守るために人を殺せるか?』
ベルの後ろには、傷だらけで座り込んでいるアルテミス様とレフィーヤがいた。そして今にも殺意を出し、殺そうとしている悪人顔の男がいた。
「■■■■■ッッ!!」
「ッッッ!?」
襲いかかってきた。そこまで強いわけではない、Lv.1のベルでも対応できるほどだから。敵の片手剣を、背中に背負っていた黒幻を瞬時に取り出し、鍔迫り合いを起こしていた。
(この相手は僕でも倒せる!けど僕に人を斬れるのか....?)
『さあベル、君は何を選択する?』
「くッッ!?」
一瞬ベルは迷った。その一瞬が命取りだった。ベルは鍔迫り合いに負け、右に投げられるように飛ばされる。そのままベルの方には目をくれずアルテミスとレフィーヤの方へ殺意を持って駆けていく。
「ッッッ!?神様!!レフィーヤ!!」
ベルが叫んだその瞬間、二人はベルの眼前で首を飛ばされた。彼女らが偽物だと感じることができないほど最高に作り上げた幻だった。ベルは両膝を落とし、そのまま地面に手をついた。
『君は愚かだなベル・クラネル。今のが夢でよかったと思っているだろう、君は。まあこれは夢なんだが、君は私に言ったはずだ.....英雄になりたいと』
ピクリと四つん這いになっていたベルの体が動く。何かに気づかされるように、ベルの体は動き始めようとしていた。そのまま青年はゆっくりと笑い、指をまた鳴らした。
『今から私は3つの試練を課す。それを乗り越えなければ、永遠に何もない夢の中を彷徨ってもらう、二度目はないぞ、ベル』
ベルの心臓は緊張を紛らすため、ドッドッドと心臓が悲鳴を上げていた。
******
幸せだった、両親が作ったホットパイを食べ、他愛もない世間話を繰り広げる。幸せのはずだった。母親に口元についたホットパイを拭われ、父親はそれをみてゆっくり笑う。
でもレフィーヤの心の中には今でもモヤがかかったようだった。何か違和感を感じる、しかしこの違和感を認めてしまえば、この空間が壊れてしまうようで、レフィーヤ自身認めることはできなかった。
「ああ、幸せだなぁ」
レフィーヤは一言呟いて、この空間を壊さないように優しい世界に浸るのだった。
******
『まず一つ目だ、ベル。心して答えろ』
ベルよりも少し背が高い黒い人影が喋る。ベルはこれの試練を乗り越えられるか不安でしかなかった。ベルはごくりと喉を鳴らす。
『もしだ、喋れる
ベルは理解するのに数秒かかった。
(怪物が人の心を持ってて喋れる?)
そんな馬鹿げたことあるはずがない。怪物は人に災いを齎すもの。人と共存できるわけがない。そう普通の人なら考えるだろう。だがベル・クラネルは違った。数秒驚いたあとベルは口を開く。
「僕は助けます」
『
「助けます!!」
ベルは食い気味に答える。拳を握りしめ、人影に訴えるように。
『....』
「僕たち、人だって
『一つ目の問い、聞かせてもらった。次の問い、先程の戦いを見せてもらおう』
人影はパチンと指を鳴らすと、先程同様に遺跡を映し出され、ベルの後ろにはアルテミスとレフィーヤが傷だらけで座り込んでいた。そして目の前には、悪人顔の片手剣を持った男が殺意を出しベルを、いやアルテミスたちを見ていた。確実に殺気がベルではなく、大切な
『精霊の力はすごくてな、神アルテミスやレフィーヤの姿かたちそっくりの幻想作れる上に、幻想が殺されると現実も
「ッッ!?」
「■■■■■ッッ!!」
その瞬間、ベルは大きく踏み込み、黒幻を抜く。それは敵がもうアルテミスたちを狙っているからだった。
無条件反射だった。その青年の声を聞いた瞬間。身体がもう動いていた。確かにあの青年があそこまでの力を持っているのかという疑問もある。しかし万が一の可能性がないわけでもない。
『さあ、見せてくれ、ベル。お前が見せる結末を』
******
永遠にこの空間に居たかった。痛い思いもしない、心も痛むこともない。記憶でも幸せな人生を送ってきたと訴えかける。けど心が違うと叫んでいた。本当のお前は何を知り、何を学んだのかと。
たくさん涙を流し、身体も心もボロボロになった。もう挫けそうで、眠ってしまいたいと何度も思った、しかし光があった。
親を亡くしてから、親代わりをしてくれた人。少し抜けてるところはあるが尊敬できる女神。
そしてまだ弱々しいけど、いつか自分すらも飲み込んでしまうほどの光を放つ少年。
-起きろ-
−起きろ‼︎–
ー目を背けるな!ー
『君は誰?』
『私は?』
『そう、あなたは誰』
『…レフィーヤ・ウィリディス』
『それだけ?』
『…違う』
『……』
『私は!!レフィーヤ・ウィリディス!!一度は故郷を燃やされ、両親も惨殺され!!帰るところをなくした!!けど私には帰る場所がある!!』
『私は!!冒険者、レフィーヤ・ウィリディス!!』
幸せの空間を作り出していた、今は亡き家がひび割れる。村のざわめきも聞こえなくなる。
割れる。
レフィーヤは自分が食べていたホットパイがガラスのように消える。
割れる。
今まで過ごしてきた家がガラスのように消え、黒い空間に立っていた。
割れる。
レフィーヤは振り返ると、黒い空間にレフィーヤの両親が微笑ましそうに、そしてどこか悲しそうに、見つめていた。
たくさん伝えたいことがあった。今自分が何をしてるのか、これから何をしたいのか、昨日したこと、今日これからすること、明日何をするのか、これから食べるご飯の話。
たくさん、たくさん、たくさん話したいことがあった。けど、今目の前にいる人たちは亡霊だとしても、本来ならいない存在。あの時伝えられなかったことを言おう。
「…..行ってきます」
震える唇を噛んで、震える両手をぎゅっと胸のまえで組んで、涙ながら口にする。
『いってらっしゃい!』
満面の笑みで送り出してくれた。初めて両親の声が聞こえた気がした。そしてガラスのように消える。
「あぁぁぁあぁぁぁぁッ!!」
レフィーヤは膝を崩し、堪えきれなかった涙を流す。彼彼女が本物であろうが偽物であろうが、きっとこの想いは本物だから。ありがとうと最後レフィーヤは心の中で呟き、涙を拭い立ち上がる。
立ち上がると、黒い空間から人影が現れる。精霊シルフだった。
「いい趣味ですね、こんな夢見せて」
「仕方ないと割り切りなさい、これが試練だもの!」
苛立ちを隠しきれなかったレフィーヤは目の前のシルフに嫌味を垂れる。シルフは悪びれる様子もないで自慢げにふふんと腰に手を当てながら答えた。その態度にイラッとしたレフィーヤが眉を細める。
「怒る気持ちもわかるわ!けど、さっき会ったあなたより今のあなたの方がいい顔してるわよ」
「....体のいいこと言わないでください」
「それで、試練に打ち勝ったわけだけどあなたは精霊の力を得る権利があるわ」
ゴクリと喉を鳴らす。
精霊の力、古代では最強と言われていた存在。それが今神の恩恵を授かる。それは通用するのか、レフィーヤは疑問を覚えていた。
「私は貴方の中に残り続ける。誇っていいわ、貴方自身の力で試練を乗り越え精霊の力を得た、その力は借り物なんかじゃない。貴方自身の力なのだから」
そしてシルフは人の形から、黄金色の人魂のように変化した。その人魂はレフィーヤの胸の中に吸い込まれていく。
レフィーヤは自覚した。私の中に入ってきたものは人知では理解できないもの。身体に入ってきた瞬間わかった。神の恩恵にも刻まれずとも使えるこの力を試したくなった。
「いかないと、ベルのところに...」
新たな力を得たレフィーヤは涙を拭い、歩き出す。
魔法とかの詳細は後編で…
今回のお話の意図とかも後半の後書きで描きたいと思います。
前半の補足だけ失礼します。
前回ベルはダンジョンへと書いていたんですけどとある青年に介入され、本来の試練とは異なる試練をさせられてます。なのでこんな意地悪な質問ばかりされてます。精霊もまた介入できるんですけど、彼がどういう選択するか見るために見てます。
後半もよろしくお願いします。