わたしのせかい、クリスマス短編じゃァ!結構急いで書くハメになってしまった……計画的に書こうね!
なお、今回のお話は本編とは関係ないパラレルワールドなお話です。キャラクター同士の好感度が本編終了レベルまで上がってたり、菜緒ちゃんがイコンについて理解してたりするけどそういうものだって思ってネ!
クリスマス短編:ブラックサンタを追え!
十二月二五日。クリスマス。本来はキリストの降誕祭を行う日であるが、キリスト教の他に仏教やら神道やらなんでもありの日本ではサンタクロースがプレゼントを配る、というだけのイベントとなっている。それは神保町とて例外ではなくて──
「メリークリスマース!」
トーマが叫びクラッカーを炸裂させる。神保町の一角に存在するイコン達の拠点である書店も、今日は綺麗に飾り付けされ、浮かれた雰囲気に包まれていた。
「今日ばかりは楽しまないとねぇ。そういえば結季奈ちゃんとは今日どうなの?」
「どうって?」
「特別な日だよー?二人きりじゃなくていいの?」
センチュリオンと宇琳がからかうようにトーマに声をかける。対してトーマはふてくされたような顔をし、センチュリオンに向けてもう一度クラッカーを炸裂させた。
「まったく、浮かれているな」
そんな様子を見て月姫が呟く。
「あら先生。今日はお仕事いいのかしら?」
「クリスマスくらいのんびりしてもいいだろう。最近イコンの出現もないしな」
「呑気なことだな」
今度はシグが詰まらなさそうに息をついた。それを目ざとくみつけたトーマがシグに声をかける。
「どうしたのシグ。いつにもまして不機嫌そうだね」
「別に」
「別にってなんだよ」
「あぁもううるせぇな!その鼻眼鏡を視界に入れるな!」
「えぇー、気に入ってたのにぃ」
ぶつくさ言いながらトーマがかけていた鼻眼鏡を外す。
「だいたいお前キリスト教徒だろ。真面目に降誕祭祝わなくていいのか?」
「まぁ、日本じゃあんまりそういう感じじゃないみたいだからね。なんだっけ、〝壕に入ればゾウに従え〟だっけ?」
「〝郷に入っては郷に従え〟な。なんで象の発言力が増すんだよ」
「あ、あのっ!」
するとその時、入口の方から声がした。聞き慣れたこの声は──
「菜緒か」
シグがそう呟き、階段を下りていく。それにトーマが続いた。一階の入り口にはシグの予想通り相澤が息を切らしながら立っていた。
「やぁ菜緒ちゃん、どうしたの?」
「え、えっと……その……今日クリスマスじゃないですか……」
「うん」
「わ、私……図書館で読み聞かせのボランティアやってて……今日……その図書館のクリスマス会があるんです」
「へぇ!面白そうじゃないか!」
しかし目を輝かせるトーマとは対照的にシグは顔をしかめさせる。
「その準備の段階で……何かあったな?」
シグがそう言うと相澤が首を縦に何度も振る。目を合わせず言葉も発しないが意思疎通が成立したことにトーマは驚き、口をあんぐりと開けシグの顔を見やった。
「何があったんだ」
「プレゼント交換の企画があるんですけど……そのプレゼントが全部無くなっちゃって……」
「全部?プレゼントが?」
「雑な管理してるからだろ」
「ちょっとシグ」
面倒くさそうに言い放つシグをトーマが小突く。しかし相澤は今度は首を横に振り続ける。
「管理はかなりしっかりしてたはずです。プレゼントが置いてあった部屋には鍵がかけてあったままですし、職員さんが言うにはその部屋にはプレゼントが置かれてから誰も近づいてなかったらしいんです」
「密室だったわけか……」
「それと……これが」
そう言って相澤がハガキ大の小さな紙を取り出した。二人がそれをのぞき込むと、マジックペンで書かれたらしき文字が躍っている。
『メリークリスマス!プレゼントは私が貰っていく!』
汚くも綺麗とも言い難い微妙な文字にシグの表情もなんとも言えないものに変わる。
「……なんだこりゃ」
「犯人の犯行声明……かな……」
「たぶんそうだと思います」
「また変な奴がいたもんだな」
シグが紙を受け取り、裏返す。すると今度は筆記体で書かれた文字が並んでいる。
「ブラックサンタ……三世?」
「ブラックサンタ三世!?」
シグがそう呟くのと同時に結季奈が階段を駆け下りてきた。
「ブラックサンタ三世って……あのブラックサンタ三世!?」
「ええ……イコンかもしれないって思って」
結季奈は驚いたように相澤の前に飛び出しその名を反芻する。結季奈のあまりの驚きようにシグとトーマは置いてけぼりをくらう。
「えーと……その、結季奈?ブラックサンタ三世っていうのは……」
「ちょっと待って」
と、結季奈がスマホを取り出してなにやら検索しはじめる。数分の後、検索結果を二人に押し付けた。そこには、一冊の絵本の表紙が映し出されている。
「これは?」
「〝おうさまサンタのクリスマス〟。一九九七年初版の絵本だよ。一国の王様が貧民街の子供の為にプレゼントを用意するんだけど、それが盗まれちゃうってお話で──」
「で、そのプレゼントを盗む悪役っていうのが」
「そう。ブラックサンタ三世。先代の王様に捕まった怪盗の子孫って設定で、その恨みを晴らすために王様に復讐しようとしたってキャラクターだったはず……」
「とにかく」
シグが結季奈のスマホを押し返しながら口を開いた。
「今回の件はそのブラックサンタ三世ってのがイコン化して起こした可能性があるってわけだな?」
相澤が頷く。
「多摩川を狙ってこないあたり黒幕とは関係の無さそうなイコンだが……どうする」
「イコンが出現している以上放っておくわけにはいかん。シグとトーマはそいつを追え。現場検証には暇な奴を行かせよう」
すると今度は月姫が現れた。階段を下りながらいつもの調子で言うが、その頭にはしっかりとサンタ帽が乗っていた。
「……」
「頼んだぞ」
***
「しかし探せったって手掛かりも何もねえんじゃやりようがないだろ……」
それから数十分後、シグ、トーマ、結季奈、相澤の四人は寒空の下、神保町へと繰り出した。
「こういうイコンは原典の行動をなぞることがあるんだよね、結季奈、そのブラックサンタ三世って原典でどういうことをしたの?」
「ええと……まずお城のプレゼントを盗み出して……」
「その段階はもう終わっただろ」
「わかってるよ。その次は……」
「確か……橋の近くの小屋で王様に見つかるんでしたよね?」
ふと、四人が顔を上げると目の前には俎橋があった。
「橋……」
安直だとは思いつつ目を向ける。日本橋川にかかる九段と神保町の境界はいつものようにどっしりとその姿を見せつけて──見せつけ──
「結季奈」
「うん」
俎橋の傍に見慣れない小屋ができている。橋を通る人間は皆まるで見えていないかのように素通りしていくが、四角い建物に紛れて立つレンガ造りの建物はあまりにも浮いている。
「流石に露骨過ぎないか?」
「どうだろうね……」
そう言ってトーマが小屋に近づき、窓から中の様子をうかがう。
「中は……普通の民家……かな……?」
違和感に満ちている外観の割に内部は落ち着いており、西洋風の家具が小奇麗に並んでいるのが見えた。日本の家屋にしては珍しく、部屋の奥には暖炉が備え付けられており、その傍には飾り付けこそされていないがクリスマスツリーが立っていた。
そしてその傍に──
「!」
明らかに数の多いクリスマスプレゼントが転がっている。色とりどりの包装紙に包まれ、大小様々なサイズが転がり、乱雑に積み上げられている。
「菜緒ちゃん、これって……」
「あれです、無くなったプレゼントですね……」
息をひそめて二人が言葉を交わす。盗まれたプレゼントは存外早く見つかったが、今度はこれをどう取り返すか、という問題が出てくる。
「どうしようか。流石に乗り込んで持ってくってのはまずいよね?」
「それ以前に鍵がかかってる。壊してもいいが、騒ぎになるのは面倒だぞ」
そう言ってシグがドアノブを乱暴に回すが、扉が開くことはなかった。
「やっぱりブラックサンタ三世を見つけるしか……」
と、そこまで言ってトーマの動きが止まる。その視線につられて全員が振り返ると──
「な……なな……」
黒いサンタ衣装に身を包んだ小さな子供が四人を凝視していた。
「なんだお前ら!」
「おい多摩川」
「うん。彼がブラックサンタ三世だね……」
「……おいお前。盗んだもんを返せ」
「……や、やなこった!」
そう言うとブラックサンタ三世は飛び上がり、シグに体当たりを仕掛けた。存外に俊敏な動きにシグは不意を突かれ、それをもろに喰らってしまう。
「うっ!」
「トーマ!」
とっさにトーマが鞭を抜きふるう。しかしブラックサンタはそれすらもかいくぐり、トーマの足をはらって転ばせた。
「うわぁ!」
そしてそのまま四人の間を走り抜け、角を曲がって姿を消してしまう。
「くそ……追うぞ!」
シグが鼻を押さえながら走り出す。残された三人も慌ててそれに続き、ブラックサンタが消えていった角を曲がった。
「どこ行きやがった……」
角を曲がってもブラックサンタの姿は無かった。シグは小さく舌打ちすると、右腕に液晶デバイスを出現させ、小さな無人機を呼び出す。
「手分けして探した方がよさそうだね……」
「だな。空からの情報はこれと菜緒のスマホから確認できる。お前は菜緒と探せ。多摩川、お前は俺とだ」
シグの提案に三人は黙って頷く。かくして神保町を舞台にブラックサンタの追跡劇が幕を開けた。
***
「……確かにこれは……イコンでもなければ無理だな」
一方その頃、プレゼントが盗み出された図書館では。職員らに事情を話した月姫達が現場を調べていた。
「鍵はしっかりとかかってて……窓も空いてないわ。人間にはまず不可能ね」
そういうセンチュリオンの手にはブラックサンタ三世の原典である絵本が収まっている。ブラックサンタ三世が生まれ出た原典では無いが、相手の情報を得るために用意されたものだった。
「尺の都合か、奴がプレゼントを盗み出す描写は〝不思議な力を使って〟という一文で済まされている。おそらくこの一文を再現して力を行使したんだろう」
イコンの再現性──イコンは原典で描写されていることであればそれがどんな非現実的であろうと実際に再現してみせることができる。ブラックサンタがプレゼントを盗み出したのはこの再現性を利用したものだろう、というのが月姫の見解であった。
「困りましたね……これでは手掛かりも何もありませんよ」
「待て」
その時不意に月姫のスマホが着信音を響かせる。耳元に端末を持ってくると、結季奈の焦ったような声がすぐに飛び出してくる。
『先生!ブラックサンタいました!』
「何?もう見つけたのか。それで、どうした?」
『今追いかけてます。そっちは?』
「駄目だ。手掛かりなし。こっちから得られそうな情報は無いな」
『わかりました……何かわかったら連絡してもらっていいですか?』
「無論だ。そっちも何か進展があったら頼むぞ」
そこまで話して通信が切れる。月姫は小さく息をつくと、センチュリオンから絵本を受け取り、内容に目を通した。
「……もし奴が原典の行動をなぞろうとしているのなら……」
***
「……駄目だって。あっちに手掛かりはないみたい」
「そうか」
場所は戻り神保町。先ほどの角から大通り出てきた結季奈とシグが短い言葉を交わす。
「あんだけ目立つ格好してりゃわかると思ったんだが……やっぱり大通りには出てこないか……?」
偵察機から得られる情報を元に、ブラックサンタの居場所を特定しようとするシグだったが、意外にも有用な情報は得られない。冬の装いで道を歩く人々に紛れて小柄な、しかも黒いサンタ衣装を着ている者が現れれば目立ってわかるだろうと思ったが、やはり大通りにはいないのだろうか。しかしそうなるとそれ以外を広範囲でカバーしている偵察機が手掛かりも掴めないというのも妙な話であった。
「原典だとこの後の展開はどうなるんだ」
「ええと……王様に見つかったブラックサンタは逃げ出して、王国中を逃げ回るんだけど、逃げながらまだプレゼントを盗もうとして、本屋に入るんだったかな」
「本屋……よりによって本屋か……」
シグが頭を抱える。神保町は国内有数の本屋街。本屋などそこら中にある。
「盗もうとしたものは」
「絵本」
「絵本……じゃああの店か」
シグが首を回す。その視線の先には一件の本屋があった。ブラックサンタの小屋程ではないが、四角い本屋に紛れて少し浮いた雰囲気の絵本専門店だ。
「まぁ絵本盗むんならここからだよね……それか三省堂」
「あっちには菜緒達を張らせておこう。その後の展開は」
「王様を出し抜いて……あっ!」
「どうした」
「出し抜かれた王様は罠にかかって泥まみれに……」
と、結季奈が言い終わらないうちに突然大量の泥がシグに降りかかる。あまりに突然のことに結季奈は口をつぐんで固まってしまう。
「やーいやーい引っかかった!」
ぎこちない動きで結季奈が振り返ると、嬉しそうに小躍りするブラックサンタが目に映った。
「……あのー……シグ?」
瞬間、突然上空に三機の戦闘機が現れる。そして何の躊躇いも無しにブラックサンタへ向けて機銃掃射を始めた。
「うわっ!?」
「ちょ、シグ!人!人いるから!」
「うるせぇ!」
シグが泥を払いながら右腕の液晶に指を走らせる。次々現れる無人機に周囲の人間が驚いたような声をあげた。
「え、ええと……て、手品ショー!手品でーす!」
必死に結季奈が声を上げごまかすが、シグの攻撃は激しさを増していく。しかしブラックサンタはそれをなんとかかいくぐり、また道の角へ消えていった。
***
「うーん……こっち来るかな?」
「どうでしょう?確か彼が次に盗もうとしたのは絵本ですから……」
丁度その頃三省堂書店前では。トーマと相澤が三省堂を見上げながら言葉を交わしていた。
「そういえば菜緒ちゃん、どうして絵本のこと知ってたの?」
「ちょうど今日のクリスマス会で読み聞かせをする予定だったので……練習してたんです」
「そうだったんだ……面白いお話だった?」
「はい。とっても優しいお話で、私は好きです」
そんな相澤の言葉にトーマが不思議そうな顔をする。
「優しいお話?プレゼントが盗まれるのに?」
「あ、いえ。このお話の結末って、最後は皆でパーティーをして終わるんです」
「ふんふん」
「ブラックサンタ三世の正体は町の子供で、一人でクリスマスを過ごすのが嫌だから事件を起こしてかまってもらいたかった、っていうキャラクターだったんです。それを知った王様は、国を挙げてクリスマス会を開いて、皆でパーティーをする、っていう終わり方をするんです」
「へぇ……じゃ待てよ、ひょっとして……」
「?」
「クリスマス会開けば一気に結末まで行けるんじゃない?」
***
「なに?クリスマス会の準備をしろ?」
『うん。多分それで一気に結末まで行っちゃえば解決するんじゃないかな?』
場所は変わりまた図書館。電話の向こうでクリスマス会の開催を提案するトーマの言葉に月姫は眉をひそめた。
「それは私も考えたが、その為にはプレゼントが必要だ。途中にプレゼントを取り返すイベントがあるだろう。それを経ないことには……」
『要はプレゼントがあればいいんでしょ?』
「そうだが……」
『プレゼントはあるよ。皆をつれて神保町に来てほしいな』
何故か自身満々な調子のトーマの声に月姫の怪訝そうな顔はさらに困惑の色を強めた。
「で……」
そしてまた神保町。月姫に連れられイコン達や図書館の数人の職員達が俎橋に集まっていた。
「プレゼントの件はどうするつもりだ?」
「プレゼントはこの家の中にあるよ。まぁ中には入れないんだけどさ」
「お前……まさか」
「そう。ここでクリスマス会を開催する。国を挙げてのクリスマス会なんて実際には難しいからね。さ、飾り付けをしよう!」
***
「あのガキ……どこ行きやがった……」
トーマ達から少し離れ、絵本専門店の裏でシグが悪態をつく。それに続いた結季奈はスマホに耳を当て、誰かと何かを話していた。
「え?うん……うん……あー……わかった。ねぇシグ」
「あ?」
「トーマが解決案を見つけたっていうから俎橋まで戻ってきてほしいって言ってるんだけど……」
「解決案?なんかあんのか」
「うん、確かにこの案なら上手くいくかも」
「そうか……わかった。さっさと終わんならそれに乗ろう」
「終わらないよ」
ふと、二人の会話に別の声が割り込んでくる。顔を上げると、二人の前にまたブラックサンタが立っている。
「まだ物語の半分もなぞってないんだ。まだクリスマスは終わらない!」
「見つけたぞクソガキ……!」
「あ!シグ、待って!」
結季奈の制止も聞かずにシグが飛び出す。
「泥の次に王様はバナナの皮に……!」
言い終わらないうちにシグが足を滑らせ、空中で派手に回転する。そして頭から墜落する。それを見るとブラックサンタはひとしきり笑い、また姿を消した。
「……」
「……なんだよ」
***
「そう!そこはそうして……あぁ忠雪、それはツリー用の飾りだよ」
ブラックサンタの小屋はトーマの指揮の元イコンと職員らによって綺麗に飾り付けられていく。窓の中に見えるプレゼントに負けない色とりどりのモールやボール、星やハートの飾りが軒先に並ぶ。
「本当にこれで大丈夫なのー?」
「大丈夫さ。ほら、そこもうちょっとしっかり結んでくれる?」
「トーマ!」
すると、そこに結季奈がシグを伴って現れる。
「あぁ結季奈!……ってどうしたのシグ」
「うるせぇ……」
「まぁいいや。飾り付け手伝ってくれる?」
シグは疲れ切った顔で液晶を雑に触り、綺麗な服に瞬時に着替えると相澤から受け取ったタオルで顔を拭き始めた。
「よし、いい感じだね」
結季奈とシグも加わり、飾り付けは進んでいく。ただでさえ浮いていたブラックサンタの小屋は視覚的な派手さも加わりいよいよ違和感の塊のようになっていった。
「おお……こうしてみると綺麗ねぇ」
「馬子にも衣裳……みたいなものですかね」
「うーん完璧!最高の飾り付けだよ!……後は中のクリスマスツリーだけなんだけどなぁ……開けてくれるかな?」
飾り付けを済まされた小屋のを見ながらトーマがそう言う。
すると、後方から小さく息を飲む音が聞こえた。
「……なんで」
「誰だって一人ぼっちは嫌でしょ?」
トーマが振り返る。それにつられてその場にいた者が振り返ると、やはりそこには、ブラックサンタが立っていた。
「今からここでクリスマスパーティーが開かれるんだ。君も飾り付けを手伝ってくれないかな?」
笑顔でトーマがそう言う。トーマとブラックサンタの視線がぶつかると、ブラックサンタのつけていた付け髭が音もなく落ちた。その下からは、一人の子供の顔が現れる。
「なおちゃーん!」
更に別の声が響く。声がした方を見やると、数人の子供たちが手を振りながら歩いてきている。
「あ、皆……ここだよ!」
恐らくクリスマス会の参加者達であろう。相澤が手を振るとその中から数人が走り出し、相澤のもとへ駆け寄ってくる。
「さぁ、参加者は揃った!夜まで時間がないよ!次はクリスマスツリーだ!」
「……いいの?」
ブラックサンタが遠慮がちに言葉をかける。
「もちろんさ」
そう言って、トーマがポケットから小さな包みを取り出した。
「ちゃんと君のプレゼントもあるよ」
すると、小屋のドアがガチャリと音を立てて開いた。
「よし!最高のパーティーにしよう!」
***
「メリークリスマース!」
それから数時間後。無事にクリスマス会は開催された。場所は図書館からブラックサンタの小屋へと移り、少し狭くはなったがそれでもパーティーは大きな盛り上がりを見せた。
相澤の読み聞かせ、宇琳の人形劇、プレゼント交換やセンチュリオンのボディビルなど、様々な催しに子供たちの嬉しそうな顔が曇ることは無かった。
「今日は厄日だったな……」
そんなパーティーを横目に、シグが小さく呟く。泥だらけの姿ではなく、洒落た配色のセーターに身を包み、金色のジュースの注がれたコップを握っている。
「先輩」
「あ?」
ふと、そんなシグに声がかけられる。顔を上げると、相澤が立っている。
「今日はありがとうございました」
「あぁ」
「それで、その……」
「?」
そこで相澤は口をつぐみ、かわりに小さな包みを突き出した。
「なんだ」
「く、クリスマスプレゼント……ですっ」
「……」
シグが笑うように小さく息を漏らす。そうして包みを受け取った。
「そうか。じゃあありがたく貰っておこう」
「……!は、はいっ」
相澤はそんなシグの反応に急に顔を赤らめ、すぐにまた子供たちの輪に戻っていった。
「若いわねぇ」
「眩しいよ……」
そんな二人の様子を見てセンチュリオンと宇琳がにやにやと笑う。
「……」
「どうだい、楽しい?」
小屋の隅、楽しげな空気の中、不意にブラックサンタにトーマが声をかける。突然声をかけられたブラックサンタは驚いたような声を上げたが、同時に小さく頷いた。
「それはよかった」
「……なぁ」
「?」
「……ありがとう」
「いいんだよ。それにパーティーはみんなでした方が楽しいからね」
そう言ってトーマが笑う。それに対してブラックサンタも子供らしい笑顔を浮かべた。
「……さて、じゃあ僕もちょっとサンタさんになって来よう」
「?」
「こっちの話さ」
怪訝な顔をするブラックサンタをよそにトーマは優しくそう言い、彼に背を向けた。そうしてドアに手をかけ、小屋の外に出る。
「結季奈」
「あ、トーマ」
するとそこには結季奈がいた。一人ぼんやりと立つ結季奈にトーマが声をかける。
「どうしたのさ一人で」
「いや、ちょっと風にあたりたかっただけ」
「そっか……ねぇ結季奈」
「?」
「いいものがあるんだ」
そう言ってトーマが背中に回していた手を体の前に持ってくる。そこには、綺麗に包装されたプレゼントが握られていた。結季奈はそれを受け取ると、丁寧に包装をはがす。その下からは、一冊の本が現れた。
「これ……」
「その本、欲しがってたでしょ?」
「トーマ……」
トーマが笑う。対して結季奈も恥ずかしそうに笑った。
「……ありがとう」
「どういたしまして」
「……でもね、」
「?」
「……三巻はもう持ってるんだ……」
「うっそぉ!?」
トーマが素っ頓狂な声を上げた。対して結季奈がまた笑う。
「そんなぁ……苦労して見つけたのにぃ……」
「いいよ。ありがとう」
ふと、二人の間に何かが降ってくる。
「あれ……雪だ」
「ほんとだ……」
そう認識すると、はらはらと雪が降り始めた。
今宵は聖夜。美しいホワイトクリスマスになりそうである。
メリークリスマス!少し早いけど来年もよろしくお願いします!