村を出てもうかなりの時間が経ち、もうすぐ日が暮れそうだ
だが地図から進んだ距離を考えると本当にもうすで陳留に着くが、今は見晴らしのいい草原ではなく、木々がそれなりの森の中だから夜になったら道も暗くわからなくなる
ここは一晩だけ野宿をした方がよさそうだな
「……じゃあ、総さまはお偉い人……になるの?」
「名門だけあって凄いんだよ。苺歌さん、えっと司馬懿さんはお綺麗で何でも知ってるし、まさに名門って感じがしてね。それとわたしにとってもお母様って思えるほど優しいんだ」
「……すごい。……わたしも、会ってみたい」
「この旅が終わればお屋敷に戻るし、その時にみんなに紹介するね」
「ん?母上の話か?」
「うん。光ちゃんがわたし達の事聞いてきたからね」
「まだ俺達は出会って間もないから知らないこと多いからな。ゆっくり出来るようになったらいろいろ話そうな」
「……(こくこく)」
うんうんと頷く光
なんかまるで小動物みたいな子だよな
姉上はこういう子に優しいしきっと気に入るだろう
母上は容赦ない時は怖いけど、普段はとても優しいし、父上はまず怒ったところ見たことないから、この子が家に来てもきっとみんな歓迎してくれるだろう
「それより二人とも、あともう少しの所まで来たんだが、もう日も暮れてきた。申し訳ないがここらで野宿になってしまうが構わないか?」
「わたしはもう何度も経験してるから大丈夫。光ちゃんは?」
「……わたしも大丈夫」
「そうか、ありがとう。陳留に着いたら存分にゆっくりしていいから今は我慢してくれ」
さて、あまり暗くなってきてから準備しても効率が悪い
いくら外でといっても、少しでも休めるようにするには早めの行動が肝心だな
「────誰だ」
周囲から気配を感じる
これは動物ではなく、人間でしかも俺達を的確に狙ってるものだ
「ちっ!もう少しで休んでる最中に襲えたってのになぁ!」
ここいらを縄張りにしている賊か?
早めに休もうとしたのは早計だったか……
ん?こいつら……一人残らず全員黄色い布を身につけてやがる
こいつら仲間ってことを認識するための物か?
それはどうでもいい、とりあえずこいつらのようなやつがまだ近くにいるかもしれない
ここはさっさと終わらせて陳留まで行った方が安全か
「優奈、馬に乗ってろ。蹴散らした後早急に陳留に向かうぞ」
「うん!……って光ちゃん!?」
剣を鞘から抜き、賊と見据えている時、優奈の声がした
どうやら光が馬から降りたらしいな
「光、馬に乗ってろ」
「総さま……わたしがやる、よ?」
「光ちゃん!?ここは総雅くんに任せれば大丈夫だから!」
確かに、この子は強い
でもまだ実際に見たわけじゃないからどれほどのものかわからない
相手がこの子よりも下とはいえ、少しの動きを見れば分かるだろう
「木もあるし、槍だとやりずらいぞ?」
「……へーき」
「ならせっかくだしどれぐらい強いのか見せてくれ」
「……うん」
この場は光に任せ、俺は優奈の所まで下がる
さて、どのぐらいの力があるかお手並み拝見だな
「なんだ?このガキが俺らをやろうってのか?」
自分と相手の力量も比べられないのか
愚かなものだな
「……やるよ」
光はそう呟き、思い切り踏み込み間合いを詰めて一突きする
あまりにも近すぎず、かと言って離れすぎずといった適切な距離を一瞬で見定めたか
そして自身が狙った箇所に正確に狙いを突いている
「このガキ!」
「えいっ」
森で木々が邪魔になるというのに、槍をまるで身体の一部のように扱っている
一振りの攻撃で一度に数人を薙ぎ払い、その槍捌きはまさに一人の武人としてのものだな
瞬く間に数十人といった賊共を蹴散らしていた
「それに全員生かしている……か」
「光ちゃんとっても強いね……」
「ああ」
親譲りの才能があり、自己流でここまで強くなったんだろう
だから光に足りないのは経験と指導者といったところか
これは父上か姉上に指導してもらえれば相当なものになるな
「総さま……終わった、よ?」
「よくやったな。偉いぞ」
「うん」
頭を撫でてやると喜んでるのがわかる
尻尾が付いてたら子犬のようにブンブン振っているだろうな
「戦った後ですまないが、すぐここを抜けるぞ。もしこいつらの仲間がまだいたら休まるものも休まらないからな」
「……(こくこく)」
その後俺たちは早馬で駆け、無事に陳留に着き幸いなことに宿もすぐ見つけられた
ゆっくり休めたのは久しぶりだな
「本当に数日ゆっくりしてていいの?」
「ああ。視察はするが、せっかくだからな。視察するのは俺だけでいいから二人は遊んできたりしていいぞ」
「そういう訳にはいかないよ。わたしたちも一緒に行く。ねっ、光ちゃん」
「……総さまと優さまといたい」
「二人がそういうならいいが」
俺自身、優奈と一緒にいられるのは嬉しいと思うし、光とももっと仲良くやっていきたいしな
この視察を言い訳に少し羽を伸ばすとするか
「それじゃあまずはどこから行こっか」
「この街をなるべく広範囲で動けるのなら、俺はどこでも構わない」
「総さまと優さまに任せる、ね」
「それじゃあ、光ちゃんの服とか身支度を整えよっか」
「……えっ?」
「そうだな。それと水と日持ちする食料で後は次の街まで残しておくか」
食べ物は意外と果物や軽いものでも何とかなるけども水だけはそうはいかない
けれども飲水をあまりにも長く置いておくのも身体に悪いものだからなかなか難しいものだ
「あ、あの……」
「どうした?」
「……わたしより、総さまと、優さま優先……にして」
「俺は今あるもので十分だから気にしなくていい」
「わたしもだよ。それより光ちゃんのためにいろいろしてあげたいんだ。自分の贅沢より家族の幸せだよ」
「家族……」
「俺達はそうありたいと思うが、光はどうだ?」
「……すごく、嬉しい……!」
気持ちは同じようだな
すごく嬉しそうに、目を輝かせているのがわかる
さすがにこれで困惑されたり拒否されたりでもしたらどうしようか困ったものだった
「じゃあ行こっか。最初は服からかな?戦ってもいいように丈夫で動きやすく、でも女の子らしさがわかる服とかないかな」
「そんな服があるのか……?それより優奈も欲しいものがあれば買っていいんだぞ」
「ううん、そういうわけにはいかないよ。子どもの頃は欲しいものはすぐ欲しいなんて思ってるけど、今は何にどう使うべきかわかってるよ。それに、わたしにはこれがあるから」
あれは子どもの頃に買ったお揃いの首飾り
さすがに成長したからそのままは無理だったから長さを調整してもらい、今でも俺と優奈は首につけている
「そう言ってくれるなら、俺はいいよ。でもまず服屋を探さないとな」
「来たばっかりだからまだ街の中もわからないし、聞いてみよっか。あっ、ちょうどいい人が。すみませーん」
「はい。何でしょう?」
優奈が声をかけたのは、白い服を来た俺と同年代ぐらいの男性だ
「私たちこの街に来たばっかりなんですけど、この子向けの丈夫で動きやすい服が売ってる場所知ってますか?」
「お、おい。女の子用の服探してるのにいくらなんでも男性に聞いてもわかるわけ──」
「大丈夫です、知ってますよ。俺、警備隊に入ってるのでよく道とか聞かれますので」
「──そうでしたか。ならお願いしてもよろしいですか?」
「はい。案内しますね」
優奈はどんな場合の例外もなく、人を見る目がある
街でもどの人が才に優れていたか、見分けがつき、そこは母上と姉上もとても評価していたほどだ
今回もまあ……それが役に立った……のか?
それにしても移動しつつこの街を見渡しているが、とても政が上手くいってるのが伝わる
街が賑わっている。だから経済が回っていることも示している
これが曹操殿の力……ってことか
「それにしても女性向けの服屋を知ってたりと、警邏以外にも忙しそうですね」
「警備隊はそうでもないんですけど、城の方は女性が多くて。それでみんなの対応をしなければいけませんし。それにあなたがたのようにこの街に慣れてない人達にすぐ案内できるようにしておかなければいけませんしね」
「城の方……確かに曹操殿とその配下の二人も女性だったな」
「もしかして華琳のお知り合いで?」
「いや、俺の母上を訪ねに参られたんですよ。司馬仲達と言えばわかると思いますが」
「司馬仲達!?」
「ご存知でしたか」
「は、はい。……ああ、ここのお店だ」
到着したのはそれなりに大きい店
確かにここならそれなりの種類はあるし、光に似合う服なんかはたくさんありそうだな
「それじゃあ俺はここで」
「ええ。ありがとうございます」
……なるほど、曹操殿が手に入れられたか
「どうしたの?総雅くん」
「優奈の感じたことでいい、さっきの人どう思った」
「えっ?えーっと、わたしにもよくわからなかったかな」
「どういう事だ?」
「人を見ればね、この人はこれをやれば上手くいくんじゃないかなとか、これをやれば成長するとかっていうのが何となくわかるんだけどさっきの人はそれが分からなかったんだ」
「そうか。ならほぼ確信したな。……さっきの男が天の御使いってやつだ」
「ええっ!?」
「……天の御使い?」
「光は知らなかったか。今天の御使いが来て平和にしてくれるとか、そんな噂が流行ってるんだ。それで俺はあいつが天の御使いだと思ったってこと」
まだ少し話しただけで、何ができるか、どれほど強いのかは全くわからないけど、本当にあんなやつが今のこの漢の国を平和にできるのか?
これだったら姉上や母上の方ができるって思うが……
「……総さまの御家族の方が……平和にできる」
「うん、わたしもそう思う。司馬一族は実力だって、名だって知られてるもん。それより総雅くんはどうしてあの人が天の御使いってのがわかったの?」
「そうだな。まずは警備隊の人なのに城の内情を知っていた。多少は城の中に入ることはあっても何か特別そうだったからな。次に曹操殿を真名で呼んだことだ女性が主に上にいるこの国で、男性が女性の君主を真名で呼ぶなんて将軍や身分が上な人ぐらいだしな。最後に母上の名前を出した時の異常な驚き用だ」
母上の名は大陸中で知れ渡ってるほどだから、もし曹操殿と知り合いでも納得いくだろうし、少しは驚いたとしても、そこまではいかないはず
なのにあいつは相当驚いた。それも何故ここで司馬仲達という名前が?みたいな反応とも見れた
「それと噂だと見たこともない着物を着てるんだったよな?少なくとも俺は見たことがなかった。母上が書き記した各国の詳細が載ってる本を見たけどもあんなものは載ってなかったしな」
「……それで、このことは苺歌さんや彩歌さんに報告するの?」
「ああ。だけど曹操殿の下にいるってことは少なくとも悪用されることは無い。だから屋敷に戻ってからだな。さてと、そろそろ光の服選んでやろうぜ」
「そうだね!わたしが光ちゃんを可愛くしてみせるから!」
「……よろしく……お願いします」
あの後無事にお目当ての服が見つかった……のはいいが、それを見つけるまでに光は何度も試着され続けた
その結果──
「すぅ……すぅ……」
着せ替え人形にされて慣れてない疲れが溜まったんだろう
宿に着くなりすぐに寝台に横になって寝てしまった
「全く、光はまだこういうことに慣れてないんだからな。次からは気をつけろよ」
「つい光ちゃんが可愛くて……」
「まっ、自覚してる分にはまだいいか」
「それで明日はどう回るの?」
「そうだな。今日で大通りの事はわかったし、明日は少しだけ適当に回ったら少し人が少ない方を回るか」
やはり実際にこの目で見てみるのでは得られるものが違う
それに才ある者が納める街はどこも街として成り立っている
今は母上と曹操殿が納めている街しか見ていないから何とも言えないが、全てがこうではなく、むしろ無能が納めている所もある……いや、それが多いからこの国は終わりに近づいているんだ
それを止めるには……俺だけじゃあ無理だ
屋敷に戻る時には考えがまとまってればいいけどな