スライム魔王の異世界旅行記   作: 22世紀の精神異常者

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13.束の間の休息

「お帰りー、ムコーダのお兄ちゃん!」

 

 足音の主は、ムコーダさんを見るなり満面の笑みを浮かべた。そしてムコーダさんに元気よく挨拶すると、俺達の方に視線を向けて、不思議そうな表情をして首をコテンと傾ける。

 まだ十にも満たないであろう女の子であった。

 その声に続いて、奥の方からぞろぞろと、十人程人が出てきた。

 家族と思しき集団が二組、虎の獣人と思しき見た目の筋肉質な女性、兄弟の様に仲睦まじい男二人組。

 彼らはムコーダさんに向けて、息をぴったり合わせてお辞儀をした。

 

『おかえりなさい、ムコーダさん!』

 

 彼らはムコーダさんを慕っている様子だが、いったいどこの誰なのだろう。もし仮に同居人だとして、そんな話は聞いていなかった。

 そんな俺の疑問を見透かしたかのように、ムコーダさんが紹介してくれた。

 

「彼らは俺が雇った奴隷ですよ。この家の管理とか、商会に卸す商品の管理とか、家の警備とか、畑の管理とか……とにかく色々やってもらってるんです」

「……は?」

 

 うん。今聞き間違えたかな? 

 ムコーダさんってもっとこう、全員に等しく優しく接するタイプだと勝手に考えてたけど、もしかしてそういう……?

 そこまで考えて、それは絶対にないと否定した。

 人を邪険に扱う人が『やってもらってる』なんて遜った言い方をする訳がないし、なにより目の前に並ぶ彼らの顔にネガティブな感情は見て取れなかった。皆心からムコーダさんの帰宅を喜んでいる様な、そんな感じだ。

 ……もしこれが全て演技であれば、役者顔負けだ。子供達も同じ反応だから、そんな事はないだろうが。

 

「ああ、紹介するよ。この人はリムルさん、そしてその裏にいるのがヴェルドラさんとフラメアさん。……ああ、兎獣人の方がフラメアさんね。そしてヴェルドラさんの肩にいるのがラミリスさん。後、今ここにはいないけど、ランガっていう名前の狼も連れてる。今回は訳あってこの家に一晩泊めることになったんだ。皆よろしく頼むよ」

 

 俺がくだらない事を考えている間にも、ムコーダさんは俺達の紹介を済ませてくれた。

 いかんいかん、俺も自己紹介しておかなければ。感じの悪い奴という印象を持たれるのはゴメンだ。 

 

「あ、今ムコーダさんが紹介してくれましたけど、リムルって言います。色々あってこの街に来た時ムコーダさんと知り合いまして、そのご縁……って言っても短い付き合いですけど、泊めて頂く事になりました。宜しくお願いします」

「我は“竜種”が一柱、“暴風竜”ヴェルドラである!」

「あ、あの、フラメアって言います! リムル様の付き添いです! 今晩はお世話になります!」

「……グガーーーー……」

「今ヴェルドラの肩で汚いいびきをかいてるのがラミリスだ。もしかしたら迷惑をかけるかもしれないけど、本質は良い奴だから、余程でなければ見逃してやってくれ」

 

 正直胡散臭さマックスな自己紹介だが、中々好印象の様だ。やはりムコーダさんが連れてきたってところが大きいのかな。

 

「じゃあ、もう夜だし飯にするか!」

 

 ムコーダさんの一言で、夕飯の時間をとっくに過ぎている事を思い出した。

 奴隷(には見えないが)達は皆、飯と聞いた途端メチャクチャ嬉しそうに騒ぎ出した。そんなに旨いのか、これは期待大だな。

 

     *

 

 ムコーダさんの豪邸へ入って数時間後、俺達は割り当てられた部屋のベッドに倒れ込んでいた。

 出されたのはチーズフォンデュとローストポークだった。とろりとしたコクのある熱々チーズが、新鮮な野菜に絡み合って絶妙な味わいを醸し出し、ニンニクその他の味が染み込んだジューシーな豚肉からあふれ出る肉汁が口内を満たす。

 さらにムコーダさんは白ワインも用意してくれた。とろっとした飲み心地で蜂蜜の香りが漂う、フランスの高級品だ。

 そんな豪華な料理をたらふく食べて、食後には風呂も入れてもらえた。花柄が入った大きな風呂だ。

 風呂からあがって着替えると、疲れがどっと押し寄せてくる。

 そのまま割り当てられた部屋に入り、ベッドの元へと辿りついた時点で、俺には動く気力など微塵も残っていなかった。

 糸の切れた人形のように倒れ込み、そのまま俺の意識は遠のいていった。……無理矢理遠のかせた。

 

     *

 

 眠りについてからどれだけ時間が経っただろうか。俺は唐突なシエルさんからの警告で、目を覚ましていた。

 

《個体名:フェルと個体名:ゴン爺がこの部屋へと接近しています》

 

 俺はフェルに敵対行動をとった覚えはないんだが、一体何がまずかったんだ?

 

《恐らく主様(マスター)の安全性を疑っているのかと。全く、主様(マスター)を疑うなど不遜です》

 

 まあまあ、シエルさん落ち着いて。……と、俺の部屋のドアがゆっくりと開いた。隙間からフェルが顔を出す。

 

「おいスライム。表へ出ろ」

「……え?」

「いいから表へ出ろ」

 

 俺を連れ出して何をしようというのか。俺は無害な愛らしいスライムだというのに。

 これは、あれか。ガゼル王みたいに自分で見極めないと気が済まないタイプか。

 仕方ない。付き合うとするか。

 俺はテーブルに立てかけてあった太刀を手に取り、部屋を出た。

 

「……リムルよ、災難だな」

「お前もかよヴェルドラ……」

 

 廊下にはフェルとゴン爺の他に、ヴェルドラもいた。いきなり呼び出されたのが気に障ったのか、顔を歪めている。

 俺は愚痴を零すヴェルドラを宥めて、フェル達を追って外へ出た。

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