スライム魔王の異世界旅行記   作: 22世紀の精神異常者

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昨日はお休みしてしまい申し訳ございませんでした


15.決闘(後半)

 フェルの挑発に乗ってから暫く経ったが、少なからず俺の方が優勢になってきた。

 挑発を受けた時、フェルに対する遠慮というか、そういった感じの気持ちが薄れた。その時から、自分の『全力』が幾分か強くなったからだ。

 まあおそらく、無意識の内に抑え込んでいたのだろう。今までも何度もあった事だ。

 あれから途端に冷静になった事もあり、攻撃精度も上がった。

 そんなわけで、俺は今かなり優勢になっている。

 一秒に何十回も太刀を打ち付け、その一筋一筋が、少しずつフェルの体に傷を負わせる。

 途中巨大な竜巻をぶつけられたが、魔力弾で相殺した。

 最初は隙がないように見えていたのだが、今は攻撃の合間にあるコンマ〇,〇一秒程の隙も正確に突ける。

 ついでに言えば、最初は反射的に避けていたフェルの攻撃であるが、俺には『万能結界』の恩恵で大胆な攻め方も出来る。……まあ、避けるに越したことはないのでしっかり回避行動はとるが。

 そんなこんなで俺はフェルを追い詰め――決着の時が来る。

 

「――ッ!」

 

 一瞬ではあるが、フェルがバランスを崩して前のめりになった。

 当然その隙を見逃すようなへまはしない。俺は即座に側面へ回り込み、首筋へと太刀を振り下ろした。

 それを避けようとフェルも動き出すが、もう遅い。

 俺の太刀は吸い込まれるようにフェルの首へと落ちていき――

 

 

 ――あたる直前で、ぴたりと止まった。

 

「……これで、俺の勝ちだな」

「……」

 

 俺は此方に顔を向け、恨めしそうに睨んでくるフェルに笑みを向け、太刀をしまった。

 ……この時、俺は完璧に油断していた。

 

「じゃ、早く屋敷に――ッ!?」

 

 カレーリナの方へ体を向けながら、フェルに声を掛けたその時。

 フェルが勢いよく俺を押し倒した。

 当然試合は終わったものと思っていた俺は、反応できずに押さえつけられてしまう。

 

「……我は人間ではない。今でこそ主に従っておるが、長き時を自然の中で生きた相手に、剣を首筋に突き付けただけで終わりだなど、甘いな」

「……そうかもな」

 

 そうだ。フェルは人間ではなくフェンリル――魔物だ。知識があるとはいえ、人間の当たり前が通用するわけがない。

 そもそも、野生の生物は人間と違って生き延びる事に尽力している――目の前のフェンリルは滅多なことで傷を負う事もないだろうが――訳だ。気を抜く方が悪い。

 そう考えれば、今回は俺の負けなのかもしれない。まあ、仕方ないか。

 

「まあ、貴様に害意はなさそうだ。付き合ってもらって悪かったな」

「あ、ああ、いいよ。疑いが晴れたなら」

 

 フェルさんの警戒も解けたので、もう屋敷に戻って寝よう。

 そう思ってヴェルドラの方を向いた。

 

「いだだだだだだだだだだだっ! おいお主、少しは老体を労われ! いだっ!」

「クアーーーーッハッハッハ! 我がヴェルドラ流闘殺法は最強なりーっ!」

 

 ……これはどう反応すれば良いのだろう。

 

     *

 

 あの後、半ば暴走気味だったヴェルドラを抑えつけてゴン爺さんを開放し、カレーリナの街へと向かって歩き出した。

 ゴン爺さんはヴェルドラに腰をやられたらしく、今はフェルさんの背中でへばっていた。

 まったく、ヴェルドラの奴は毎度毎度余計なことをしてくれる……。

 

「すまぬの……お主の世話になるとは思わなんだ」

「爺が動けないのなら仕方なかろう。全く、余計なことをしてくれる……」

「……な、なあリムル……これ、我は悪くないよな……? あの古竜(エンシェントドラゴン)の腰が弱かっただけだよな……?」

「いや、その理屈はおかしい。そもそも古竜(エンシェントドラゴン)の腰がそんな簡単に砕けてたまるか」

「なっ!? わ、我は……」

「お主のせいじゃろ」

「う……」

 

 これはゴン爺さんにかなり恨まれてるな……。ヴェルドラを見るその瞳は見るだけで射殺せそうなほど冷たい。

 まあ、俺は関係ないからいいか。悪いのはヴェルドラだ。

 

「どうして我が悪者なのだ……! 助けてくれリムルよ……」

 

 あー聞こえない聞こえない。

 俺は後ろから聞こえる謎の音(ヴェルドラの悲鳴)をスルーして歩き続けた。

 

「……そういえばスライムよ、何故貴様はあの時力を抑えたのだ……」

 

 ふと、フェルさんがそんな事を言い出した。

 ……確かに、考えてみればもっと簡単に勝てただろう。だが、俺はあの時確かにあれが全力だと思っていた。

 別にスキルの事が頭から抜けていたわけではない。ただ、何故かそれを使うという発想に至らなかった。

 もしかして、俺かなり理性飛んでた……?

 

《私が主様(マスター)の思考に制限を掛けました》

 

 何だか幻聴が聞こえてきた。

 

《私が主様(マスター)の思考に制限を掛けました》

 

 頭がおかしくなったのかもしれない。シエル先生がヤバい事言ってる。

 

《……私が主様(マスター)の思考に制限を掛けました》

 

 嘘だと言ってよ、シエル先生! 

 何!? 何でそんな事したの!?

 

主様(マスター)は最近追い込まれることが無かったので、その所為で戦闘技術がなまっていないかの確認です》

 

 ああなるほど……確かに最近は大して動いてないな……。

 マイの発表を見に行く途中で遊んだ……もとい学生を教育したのと、偶に迷宮で疑似魂を使って遊び……もとい実験をしたくらいか。

 うーんでも、未だにハクロウに修行つけられてるから問題ないと思うんだけどなあ。

 

《……私が主様(マスター)のカッコいいところを見たかっただけです》

 

 ん? なんか言った?

 

《否》

 

 ……何だったんだろ今の。まあいいか。

 俺達は出た時同様壁を飛び越えてムコーダさんの屋敷に戻り、ベッドに倒れ込んだ。




恐ろしく無理矢理な展開になってしまった

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