スライム魔王の異世界旅行記   作: 22世紀の精神異常者

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17.出発の前に

 ムコーダさん宅で朝食を食べ終えて十数分後。俺達は玄関先でムコーダさん達と別れの挨拶をしていた。

 これから俺達はこのカレーリナを離れ、ブリクストへ向かう事となる。ムコーダさんが紹介してくれたダンジョンに行くためだ。

 

「楽しんできてくださいね、リムルさん!」

「おう!」

 

 ムコーダさんと笑顔で握手し、家の外へ。ヴェルドラもゴン爺たちと別れを済ませ、俺の後についてくる。

 フラメアは既に挨拶を済ませていたらしく、外で俺達の事を待っていた。流石フラメア、真面目だからか行動が早いな。俺も見習った方がいいだろうか。

 

主様(マスター)には難しいのではないでしょうか》

 

 ……辛辣だなあ。いや、実際俺には無理だと思うけどさ。

 ランガは俺の陰の中で休憩中、と言うより謹慎中だ。結局あの後お咎めをどうするか決められず、もううやむやになりかけている。

 そして、ラミリスはと言えば。

 

「グゴーー……」

 

 ヴェルドラの頭の上で、大口を開けていびきをかいている。……本当にだらしないな。魔王の称号が泣いてるぞ。

 ムコーダさんたちも、呆れて苦笑いを浮かべている。

 

「はは……ラミリスさんは中々ワイルドだね」

「うん、そんな気を使わなくていいよ。こいつ元ニートだから」

「……失礼かもだけど、なんか納得しちゃいますね」

 

 そんなくだらない言い合いをした後、俺は蝙蝠からいただいた羽根を展開した。

 そう、俺は昨晩気付いたのだ。ムコーダさんの家に戻る途中で、ゴン爺から何気なく『空は飛べぬのか? もし飛べるのならその方が早く動けるじゃろう』と言われて、確かにそうだと気付いてしまったのだ。

 俺には能力(スキル)で空を飛べるし、ヴェルドラは言わずもがなだ。ラミリスも勿論飛べる。問題はランガとフラメアだが、ランガは俺の陰に入っていればいいし、フラメアは俺が抱えればいい。

 どうして気付かなかったんだろう、ってくらいだ。気付かせてくれたゴン爺には感謝。

 

「あっ、えっと……リムルさん、もしかして空を飛んでいく感じですか……?」

「え? うん、そうだけど」

 

 と、俺が羽根を出したのを見て、ムコーダさんがちょっと不安そうに声を掛けてくる。一体なんだろうか。もしかして問題でもあるのか?

 そんな事を思っていると、ムコーダさんがばつが悪そうに言った。

 

「朝フェルから昨日の夜の話を聞いたんだけど……ヴェルドラさんが飛んだら騒ぎになっちゃうんじゃないかなって」

「……ああ、そういう事か」

 

 ムコーダさんが心配していることが何となくわかった。要するに、俺達の行動が騒ぎになるかもしれないという事だ。

 ……確かに、そこは考えてなかった。マズいマズい、早速問題を起こしたらこれからの旅行が大変なことになってしまう。

 と言っても、どうすればいいのだろう。『空間支配』で移動するという手もあるが、いかんせん行ったことがないからどこにつなげばいいか分からない。

 ……ああ、でもヴェルドラは竜形態にならなくても飛べるか。

 

「なあヴェルドラ」

「なんだ、リムルよ?」

「お前、そのまんまで飛べるよな?」

「む? 当たり前だろう。我にその程度の事出来ぬはずがない」

「じゃあそういうことで」

 

 よし、これで問題はない――

 

「な、まさかこのままで飛んでいけと言うのか?」

「え、そうだけど」

「嫌だぞ、我は絶対に元の姿で飛ぶからな」

 

 大ありだった。

 

「なあ、頼むからそれは控えてくれ」

「駄目だ。我の偉大さを知らしめるためには、我の姿を見せるのが一番だからな! クアーーーッハッハッハ!」

「…………はあああ」

 

 平常運転のヴェルドラである。全く、いつもいつも迷惑かけやがって。

 うーん、しかし困ったな。こうなると空を飛んでいくのは無理かもしれない。

 と、俺が悩んでいるとムコーダさんが声をかけて来た。

 

「ええっとですね……俺が取り次ぎますから、一応ギルドマスターに話を通しておいた方がいいんじゃないかなって思うんですよ」

「え? いいのか?」

 

 まさか、こんなところでも世話になるとは。やっぱり来たばかりだから分からない事も多いし、助かるな。

 結局、俺はムコーダさんに頼って、ギルドマスターに取り次いでもらう事にした。

 

「な、別にそんなもの必要なかろう! さっさと行くぞリムルよ!」

「……おやつ無しな」

「よし、早速ギルドに行くぞリムルよ!」

 

 ……はあ。

 

     *

 

 俺達はムコーダさんとその従魔と一緒に、冒険者ギルドへと向かった。

 どうやらムコーダさんは完全に覚えられている(フェンリルと古竜(エンシェントドラゴン)を連れていればそうなるのは当たり前か)らしく、すぐに出て来たギルドマスターに「頼みがある」とムコーダさんが言ったら、すぐに奥の部屋に案内された。

 現在、俺達はムコーダさんと一緒に、ギルドマスターと向き合う形で座っている。

 

「それで、頼みってーのはなんだ?」

「ええっと、実はですね……」

 

 そんな感じで始まる説明を聞いて、最初は真面目な顔をしていたギルドマスターの表情が、次第に困惑の色に染まり、説明を終えた時には完全に参っていた。

 

「……なあ、今の説明によれば、ここにいる嬢ちゃんと兄ちゃんは、お前の従魔ですら勝てないレベルの実力があるって事になるんだが?」

「ええ、そういう事になりますけど……どうなんだ、フェル、ゴン爺?」

『うむ……認めたくはないが、我が勝てるかと言われると怪しいところだ』

『儂も、そこの奴には敵わんのお……ちと規格外すぎる』

「…………はあああぁぁぁぁ……なんでお前はこうとんでもない事を次々やらかすのかねえ……」

「な、なんかすいません……」

「まあ、お前が悪い訳じゃないし、責めるのは間違ってるからな。もう何も言わん。それと、ブリクストの方には通達しておくから、別にドラゴンに乗っていっても構わねえよ」

 

 一応、許可はとれたらしい。ムコーダさんには多大な迷惑を掛けてしまったが……。

 本当に申し訳ない。

 まあ、これで何も問題は無くなった訳だ。早速、ブリクストへ向かうとしよう。


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