「……さて、と。取り敢えずまずは――」
「ダンジョンだなリムルよ! 日が傾き始めておるからな、急ぐぞ!」
「バカお前、こんな時間に行くわけないだろ」
町に入ってさっそく暴走しはじめるヴェルドラを引き留めながら、俺は近くを通りかかった人に声を掛けた。
「あのー、すみません」
「ん、なんだ?」
「俺達、この街に来たばかりでまだ宿も取れてないんですよ……良かったら、場所とか教えてもらえますか?」
……何で門番さんに聞かなかったんだろうな、俺。
《それは
言わないで下さいよシエル先生……。
一人で百面相を始めた俺をいぶかしげに見てきながらも、彼は懇切丁寧に場所を教えてくれた。
「ああ、それならこの道をまっすぐ行って三つ目の分かれ道を左に、そんで――」
そんな感じで言われた通りに行った先には、そこそこ大き目の宿があった。
ちょうどダンジョンの探索を終えて帰ってきたと思われる男性たちの後に続いて、俺たちは中へと入る。
内装は凄く落ち着いていて、なかなかに心地よかった。何というか、昔テレビで見たログハウスみたいな、そんな感じ。
木の匂いと夕飯の匂いが入り混じって、俺の鼻腔をくすぐる。
前を歩いていた人たちが飯のにおいがする方へと流れていくのを見送りながら、俺たちはロビーに向かった。
「“ノームの洞穴”へようこそ! 本日はどのようなご要望でございますか?」
「三人止まるんだが、あー……どの部屋が空いてるんだ?」
「三名様ですと、二人部屋と一人部屋を一つずつ、もしくは四人の大部屋一つですね。今はどちらも空いていますので、お好きなほうをお選びください」
「じゃあ、大部屋で頼む」
「かしこまりました。何日間のご利用ですか?」
「んー……一応一泊かな……一泊で」
「かしこまりました。大部屋を一泊で、お値段が銀貨二十枚になります」
「えっ」
金額を言われた瞬間、ヴェルドラが変な声を出した。そして、若干慌てた様子で俺に年話を飛ばしてくる。
(お、おいリムルよ……我ら、この世界の金なぞ持っておらぬのに、大丈夫なのか?)
(ああ、うん大丈夫)
だが、俺はいたって冷静である。
挙動不審なヴェルドラを軽くあしらって、俺は服のポケットに手を突っ込んだ。
そして、その手を引き抜くと、そこには銀貨の詰まった革袋が握られていた。ジャラジャラと音を立ててちょっとうるさい。
俺はそれを受け付けのお姉さんに手渡すと、彼女は中身を出して確認し、暫くしてから「銀貨二十枚、丁度お預かりします」と言って部屋の鍵を渡してきた。
「部屋はあちらの通路の一番奥、右手側にございます。では、ごゆっくりどうぞ」
「ああ、ありがとう」
そういって、俺はロビーを後にする。フラメアたちもそれに続いてくるが、ヴェルドラだけ少し不安そうにしていた。
……おかしいなぁ、こっちに来る途中で、ムコーダさんからお金貰ったって言ったはずなんだけど。いや、自分をカッコよく見せる方法ばっかり考えてたから聞いてないか。
そんなことを考えながら部屋に入る。ベッドとランプと机だけという、必要最低限が用意されたシンプルな部屋だ。
「ねえちょっと、リムル」
「なんだラミリス」
「この宿ケチ過ぎない? アンタが作った国の宿はもっといろいろあったわよね?」
「……そこに触れちゃダメだろ」
……悪く言えば備えが悪い部屋だ。
いやまあ、ムコーダさん曰く「各種サービスは追加料金を払う必要がある」ってことだから、仕方ないと分かってはいるけども。
俺は別に構わないが、ラミリスからすれば不満なんだろうなあ。
それはどうでもいいとして、問題はフラメアだ。
今日は少し無理をさせてしまったので、彼女はかなりぐったりしている。いつもピンと立っている耳も、今はへなへなと折れ曲がっていた。
「……はぁ……疲れました」
「ん、お疲れフラメア。ごめんな、高いとこ苦手だってのにあんな無理させちゃって」
「ああ、いや、大丈夫です……無事に何事もなくつけたわけですし」
「ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいよ。とりあえず、今日はもうゆっくり休め。明日からダンジョンに潜るつもりだからな」
「は、はい」
「あ、そうだ。一応これ飲んどいてくれ」
そういって、彼女に回復薬を一瓶渡す。中身は俺の国の特産品である中位のポーションだ。フラメアの体力回復の助けになるはずだ。
最初は「そんなに気を使わなくても大丈夫です」と遠慮していたが、何回か言うと「じ、じゃあ……」と受け取って飲んでくれた。
飲み干した彼女は幾分か顔つきが穏やかになり、「ありがとうございます」と俺に空瓶を渡してきた後すぐに寝入った。
やっぱり限界だったらしい。
……どうしよう、ダンジョン探索は延期したほうがいいかな。
《
(知ってる)
《これは本当におやつ抜きにした方が良いのでは?》
(そうだなぁ……そうすっか)
いや、うんこれ無理だな。一日ずっとヴェルドラを抑え込んでいられるとは思えない。
フラメアにはなるべく負担がかからないようにして頑張るしかないか。
俺はこっそりドアの方に向かうヴェルドラを抑え込み、ベッドに縛り付けてから、軽くランガの調子を見たり、ラミリスの愚痴を聞いたりしたのち、明りを消して寝た。