そこは、木々が青々と茂る森の真っただ中だった。木の間隔はそこまで広くないが、日光のお蔭か結構明るい。
空気も澄んでいて、心地のいい場所だ。
危険な所に出なくてよかった。いきなりドラゴンの巣の中にいましたなんてことになったらどうなっていたことか……。
「おお! 今回は空中に放り出されずに済んだぞ!」
「ああ、あの時大変だったもんね師匠。魔素が薄いなんて言い出すから、正直あの時は焦ったわよアタシ……」
どうやらこのバカコンビは痛い目を見ていたようだ。それを聞いて少しスッキリした。
無事に転移も成功したことだし、どこか最寄りの街に寄ろう。
そう考えて歩き出したのだが……
「そういえば、言葉とかが分かりませんし、お金も持ってないですけど、どうするんですか?」
フラメアの言葉を聞いて、体が固まる。
やっべえぇぇぇ! 何も考えてなかった!
金銭については所持品をいくらか売ればなんとかなると思うが、言葉が分からないのは致命的だ。
シエルさんなら何とかしてくれそうな気がするけど……。
《……ふん!》
こんなだもんなあ……。
まずい、異世界に遊びに行けるってことしか考えてなかったから、その辺りの対策が全くない。
《……私の事、二度と忘れたりしないって誓ってくれますか?》
ん?どういうことだ……?
もしかして、誓えば何とかしてくれるってことだろうか。
《……そういうことを考えるからいけないんですよ。もう手助けしてあげません》
ああすまん! 誓う! 誓うから!
何とかしてくださいシエル大先生お願いします!!
《ふーんだ!》
頼むよ……シエル大先生だけが頼りなんだ……。
今度何か頼み事聞いてあげるから……。
《……ふふ、決まりですよ?》
あ、もしかして俺嵌められた?
くそう、シエル先生には叶わん。
まあ、とりあえず進もう。じゃないと何も変わらない。
「ま、まあ何とかなるさ!」
「リムル様がそう言うなら大丈夫なんでしょうけど……」
俺は誤魔化す様にフラメアに声を掛けた。
フラメアはまだ少し不安が残っているみたいだが、一応は納得してくれた。
とにかく、街を見つけよう。話はそれからだ。
そうして再び、澄んだ空気に満たされた森の中を進み始めた。
*
歩き始めてから十分ほどが経った。
この森はかなり広いらしい。一向に森を抜ける感じがしない。
心地いい場所なのはいいんだが、もしかしてこの世界、人間がいないとか……?
俺は急に不安になって、ヴェルドラに声を掛けた。
「な、なあヴェルドラ……。まさか、人間がいないなんてことないよな……?」
「なっ、何を言うのだリムル! それでは我の偉大なる武勇伝を話せないではないか!」
ヴェルドラに聞いた俺が間違っていた。
全く、ヴェルドラは何を考えているのだか……。
と、その時俺の『熱源感知』に一つ反応があった。
「……ぬ? リムルよ、気付いておるだろうが……」
「ああ、分かってる」
「な、何があったのさ師匠?」
「ななな、何ですか!? そんな不穏な雰囲気で……」
どうやら気付いたのは俺とヴェルドラの二人だけの様だ。
(ランガ)
(はっ!)
(万が一のためにフラメアを守ってくれ)
(了解しました、我が主よ!)
ランガに『思念伝達』で指示を出す。
相手の動きは俺達ほどではないが、結構素早い。
あまり油断できない戦いになりそうだ。
俺とヴェルドラはともかく、フラメアはかなり危ないだろう。一応保険にランガをつけておいたが、少し心配だ。
ラミリスは……まあ大丈夫だろう。
「ちょっと、アタシの護衛は!? アタシは無視なの!?」
「魔王だしな、自衛位はしてもらわないと」
「ちょっ、今のアタシに力がないのは分ってるでしょ!? ひどくない!?」
言い訳がましい事を喚いているが、気にすることはない。
そんな事をしているうちにも、どんどん近づいてくる。俺達は相手が迫ってくる方へ、全神経を集中させた。
もちろん背後の警戒はシエル先生がしてれている。シエル先生は完璧なのだ。
《か、完璧ってそんな……//》
……なんだか一瞬寒気がした。気のせいだよな?
そんな事より、今は近づいてくる奴の相手だ。
話が通じる相手だと助かるんだけどな……。
*
「ピイィィィィィヒョロロロロロロロロロロロロ!!!!!!!」
甲高い鳴き声が森に響き渡る。それと同時に、『熱源感知』に掛かった相手が飛び出してきた。
俺達の目の前に飛び出してきたのは、紛れもないグリフォンだった。
鷲の上半身と翼、そしてライオンの下半身を備えた、俺の数倍はありそうな巨躯を持つ魔物。
実物は初めて見るが、実際目の前にいるとかなりの威圧感だ。
その鋭い眼光で睨み付けられれば、以前の俺は恐怖で固まっていたかもしれない。
フラメアはもう既に腰が抜けて、地面にへたり込んでしまっている。
「ちょっ、ちょっとリムル、あれヤバいんじゃないの!? アタシが襲われたらひとたまりもないわよ!?」
ラミリスは……大丈夫そうだな、うん。
ヴェルドラとランガはもちろん平気だった。
俺はグリフォンと向き合い、お返しとばかり睨み返す。それと同時に『魔王覇気』を最低限の威力で解放した。
ビクリ、とグリフォンの体が震える。本能で危険を感じているのだろう。
しかしその瞳は依然として、俺達を鋭く見据えていた。
……本当はこれで敵意を無くして、あわよくば話し合いをしたかったんだがな。
まあ仕方ない。向こうがその気なら俺達も相手をするだけだ。
「よし、やるか! かかって来いグリフォン!」
「ピイィィィィィィィィィィィヒョロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!!!!!!!!!!」
俺がグリフォンに声を掛けると、意味を理解したのかしてないのか、甲高い鳴き声を再びあげて、高速で迫ってきた。
こうして、俺達とグリフォンの戦いの火蓋は切って落とされた。