グリフォンは、その巨体に見合わぬ素早さで迫り、鋭い前足を振り下ろしてきた。
それを軽く横に跳んでよける。そして振り下ろされた足に対して、刀を横薙ぎに払った。
一閃。
しかし僅かにグリフォンの反応の方が早く、振るわれた刀は足に浅い切り傷を付けるだけだった。
グリフォンは足から血を垂らしながら、再び特攻を仕掛けてくる。
その巨躯をもって、俺達に向かって全速力で突っ込んできた。
それは正に神風の如く。如何なる攻撃を受けても止まらない、そんな威圧感がある。
咄嗟に地を蹴り、グリフォンの突進を紙一重で躱した。
眼前を、視界を覆う巨体が通り過ぎていく。その速度は遅くなるどころか、むしろ速くなっていた。
グリフォンはそのまま、ヴェルドラに攻撃を仕掛ける。
ヴェルドラが余裕の表情を浮かべて正拳突きの構えを取る。
が、しかし。グリフォンはヴェルドラの拳の攻撃範囲すれすれのところで舞い上がり、空中から急降下して蹴りを入れる。
フェイントをかけられるとは微塵も思っていなかったのか、呆けた表情になったヴェルドラはその蹴りをもろに食らっていた。顔に。
ヴェルドラは蹴られた勢いで吹っ飛ばされ、木の幹に盛大に体を打ち付けていた。
「ヴェルドラっ! 大丈夫か!?」
「痛ったああぁぁぁーーーーーっ!!! 貴様、よくも我の美貌に傷をつけてくれたな! 許さんぞ!」
……大丈夫そうだ。あんな呑気な事を言っているうちは気にしなくてもいいだろう。
というかそもそも、ヴェルドラは精神生命体だから痛覚はないよな? あいつ、どんだけふざけてるんだ……。
っと、まずい。戦闘中に気を抜くのは致命的だ。
ヴェルドラを吹っ飛ばして一度動きを止めたグリフォンが、こちらに視線を向けてくる。
そしてまた高速で特攻して来た。さっきよりも速い。
《相手のグリフォンに予備動作は確認できません。恐らく真正面から突破しようとしてくるでしょう》
ん? そうか。フェイントが見られたから通用しないと思っているのかな。
まあ、何か他に隠し玉がない限り通用しないのは事実なんだけどさ。
それに、俺の外見が軽装の若い女の子にしか見えないから、高を括っているのかも。
『未来攻撃予測』でも、真正面から突っ込んでくる動きに光っている。
よく見るとしゃがめばギリギリ躱せそうだ。一回素通りさせて背後を……
《ですので、真正面から受け止めてください》
……え? シエル先生、今何と?
《真正面から受け止めてください》
ちょっと待って、何言ってるの?
確かに死にはしないだろうけど、それしたらスプラッタ状態になっちゃうよ?
体があっちこっちに飛んでっちゃうよ?
冗談だよね?
《否。本気です》
うわあ……。シエル先生が鬼だ。
でもシエル先生は、無策な事は言わないから、きっと何か素晴らしい案があるのだろう。
《否。真正面から受け止めて、力づくでねじ伏せてください》
策もクソもなかったよチクショウ!
仕方ない、人間の姿だと最悪そのままグリフォンにへばりついてしまいそうだし、久々に他の種族に擬態しよう。
あの突進を受け止められそうなのは……
俺はすぐに擬態を始める。体が黒い霧に覆われ、肥大を始めた。
やがて黒い霧が散ると、俺の体は数倍にまで大きくなっていた。
丸太の様に太い四肢。がっちりと引き締まった胴体。そして厳つい豚の顔。
それを見たグリフォンが、一瞬怯んで動きを鈍らせた。咄嗟に身を捻って脇を通り抜けようとするが、もう遅い。
俺は両手でグリフォンの前足を握り、突進を真正面から受け止めた。
かなりのスピードが出ていたので、かなり押し込まれる。踏ん張った足元が、どんどん削れていく。
だが、しっかりと受け止めきった。
グリフォンは俺の手から逃れようと、必死にもがいている。だが俺の、
俺はそのままグリフォンを地面にたたきつけた。ボギィ、とかなり痛々しい音がする。
「ピイイイィィィィィィィィィィィィィィィィィ!!!!!!!!」
何だかちょっと可愛そうになってきた。っていうか何でひよこみたいな声出してるんだ。
初登場時の威厳はどこに行った……。
いたたまれないので傷を癒してやろうと、グリフォンに近づく。
と、その時。グリフォンが
「……オ、オレ、ムレノ、オサ……フェンリルサマニ、ミトメラレタ……オレ、ムレ、マモル、ナノニ……」
「なっ……」
正直驚いた。まさか言葉を話せるなんて思っていなかった。
それより、聞いたことない言語のはずなのに、なんで理解できるんだ?
《私が
おお、流石シエル先生。……あれ? ちょっと待て。
もしかして、俺最初から遊ばれてた……?
《ふふ、約束は忘れていませんよ?》
あああぁぁぁーーーっ! やられたあぁぁぁーーーーーーっ!