グリフォンと別れて暫く歩き続けたが、やはり本当にこの森は広い。
歩けど歩けど周りは木々ばかりで、ボーッとしていると方向感覚が狂いそうだ。
それに、気付けば日も落ち始めている。この辺りで一度落ち着いた方が良さそうだ。
丁度近くに川も流れている。野宿には最適だ。
「よし、今日はここで野宿にするぞ」
皆にそう声を掛けて、近くの木の根元に座り込む。そして『胃袋』から鍋と鉄板、そして皆大好き――と言っても基本魔物しか食べないけどな――魔黒米を取り出した。
それを川岸にセットしながら、フラメアに声を掛ける。……なんかちょっと元気ないな。大丈夫かな……?
「フラメア、ちょっと頼みたい事があるんだけど、今大丈夫?」
「はい、大丈夫ですよ」
「じゃあさ、お米を炊くための薪を集めてきてほしいんだけど」
「分かりました!」
薪集めを任せたら物凄い笑顔になって飛び出していった。さっきまで元気がなかっただけに、びっくりした。
いったい何だったんだろうか。
まあいいや、準備を進めよう。
二、三回程度魔黒米を研いで、水に浸して放置。研いだ水を捨てる時に米粒が少し流れ出たのはご愛嬌。
もちろん水とは魔素水の事だ。徹底的に魔素水で統一することで、普通の水で研いだ時よりも魔素の保有率を少しだが上げることができる。
この世界の魔素はどうにも馴染まないので、これはこの世界において数少ない魔素供給方法なのだ。
《そもそもこの世界に“魔素”という存在がないみたいですね。各個体が体内に魔力を有しており、その魔力を利用しているようです。
おおう……そもそも魔素がないだと?
大量に魔黒米を持ってきてよかった。元の世界でもそうだが、いきなり
魔黒米を魔素水に浸している間に、タンパク質の確保だ。
川はそこそこ深いので、魚は泳いでいるはず。
川を覗き込むと……いた。紫色のマスみたいな魚だ。
結構数がいるな、これなら川の中に粘鋼糸を張り巡らせれば十分取れる。
早速試してみると、いやこれが素晴らしい結果になった。
たった数分で五匹も取れたんだ。しかもそのうち一匹は他の紫の奴と違う。
マスの様な見た目であるのは変わらないが、他のと比べて一回り大きいし、何より金色に輝いている。
結構おいしそうだ。……毒とかないよね?
《紫色の個体がバイオレットトラウト、金色の一回り大きい個体はキングトラウトです。どちらも可食です》
よかった、問題ないみたいだ。
とりあえず今かかった奴だけ下処理してしまおう。
包丁……はないから俺の太刀を使うか。
しっかりと鱗を取って、両側の鰓を切る。そして内臓を全部取り出して、粘鋼糸に絡ませて川に浸けておく。
これで問題ないはずだ。
五匹とも下処理をした後もう一度即席の網を見ると、今度は七匹も掛かっていた。キングトラウトが二匹、バイオレットトラウトが五匹だ。
これも全部下処理を済ませて、後はフラメアが帰ってくるまで待っていることにしよう。
と、木の幹にもたれかかっていると、
「なあリムルよ、我は何をしておればよいのだ? 暇を持て余しておるのだが……」
「そうよそうよ、さっさと漫画を用意しなさい! これは命令よ!」
「うーん……そうだな、ヴェルドラにはテントを張ってもらおうかな」
「了解しt「アタシは? ねえアタシは?」
「ラミリスは……うん、大人しくしてろ」
「ちょ、なんでそんなにアタシの扱いが雑なのよ! もーちょっと労わってくれても良くない!?」
「あー聞こえない聞こえない。あ、ごめんヴェルドラ、これテントね」
なんか段々ラミリスが面倒なヤンキーの取り巻きみたいな感じになってきた。正直、心底ウザい。
ヴェルドラはこういう旅行の経験がないのか、メチャクチャ楽しそうにテントを張っている。なのにこのちみっこい妖精ときたら、ワガママばっかりだ。
でも、こいつにできる事なんて……と、そこまで考えて、俺の中で超絶名案が浮かんだ!
「飯ができるまでランガと遊んでたらどうだ?」
「はあ? なんでアタシがこんな犬っころの相手しなきゃならないのよ!」
「……ランガ、遊んでやってやれ」
「了解しました、我が主よ」
「……え? 何その親の仇を見るみたいな目は……ちょ、待って、死んじゃう、死んじゃうから待って! いやああああぁぁぁぁーーーっ!!!」
ふう、これで面倒な奴を追い払え……ゲフンゲフン、満足させてやれた。
俺はフラメアが戻るまでのんびりするとしよう。
*
三十分ほどして、フラメアが戻ってきた。
結構時間がかかったなと思ったら、両手から溢れんばかりの薪を持ってきた。
余裕があるのは在り難い。有効に使わせてもらうとしよう。
まずは真っ直ぐな枝を十本選んで、簡易的な櫛にする。そして下処理済みの魚に刺して、塩を……あっ。
「塩がない……」
「えぇ……」
フラメアに哀れむような視線を向けられた。胸が痛い。
仕方ない、塩は我慢しよう。美味しいとまではいかなくても不味くはないだろう。
そんな事より米を炊かなければ。
鉄板の四隅に石を置き、下に隙間を作る。そこに薪を入れて、火をつけた。最初は強火、沸騰したら火を弱めて十五分位そのままにしておく。
米を炊いている間に、周りに魚を刺した櫛を刺して、魚を焼いていく。
飯の匂いを嗅ぎつけて、皆が集まってきた。ラミリスはランガの背中で伸びている。どうやら途中で力尽きたらしい。
気付けば日もすっかり落ちている。焚火の火が俺達の姿をぼんやりと浮かび上がらせた。
「うーん、いい匂いですねえ……」
「そうだな……」
穏やかな雰囲気が俺達を包む。
皆焚火の火を見つめて、言葉を紡ぐ事無く黄昏ている。
とても良い心地だ。優しい風が吹き抜けて、火の粉が弾ける音が響く。
「グゴーーーーーー……」
……あのバカ、全部台無しにしやがった。