スライム魔王の異世界旅行記   作: 22世紀の精神異常者

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9.邂逅

 俺の身長の倍近くある門をくぐると、そこには『異世界』と聞いて真っ先に頭に浮かぶような中世ヨーロッパ風の街並みが広がっていた。

 木製の骨組みに白い煉瓦造りの民家が並んでいる。基本二階建てで、所々に塔の様なものが建っている。

 シエル先生曰く《主様(マスター)が元いた世界で言うとエストニアの街並みによく似ている》らしい。どこから知識を仕入れているのか、ちょっと怖くなってくる。

 道は幌馬車が三大横並びで通れるほど広く、石畳で舗装してあるので歩きやすい。

 あちこちで出店が開かれていてとても賑わっている。やはり過ごしやすそうという印象は間違っていなかったようだ。

 

「――っと、観光する前に冒険者登録しなくちゃな」

 

 見慣れない街並みに目が移ってしまったが、今はとにかく身分証代わりのギルドカードを手に入れることが先決だ。

 実はさっき街に入るとき、門番に「ギルドカードの提示を」なんて言われてしまった。

 当然この世界に来たばかりの俺達が持っているはずもなく、三人分で銀貨十五枚払えという事になったんだが、お金も勿論持っていない。

 『遠い異国から旅をしてきた』なんていうベタな言い訳をして俺達の世界の金貨を二枚渡して、今回だけ特別に見逃してもらえることになったんだ。さらには登録料の銀貨十五枚もくれた。

 いやーあれは焦ったね。もしかしたら街に入れずに旅行が終わるかもしれないなんて、そんなの御免だ。あの門番さんが良心の塊で本当に助かった。

 

「お、おいリムルよ、あの屋台の串焼き旨そうだぞ」

 

 ちなみにヴェルドラはすでに解放してある。ずっと騒いでて五月蝿かったからな。

 

「お金ないのにどうやって買うんだよ」

「うぐ……さっきの様に金貨を渡せばよかろう」

「バーカ、こっちの金じゃねえんだから無理だよ。むしろさっきの門番さんが優しすぎるくらいだ」

 

 そんな事を言いあいながら、俺達は冒険者ギルドへと向かっていった。

 

     *

 

 道がうねっていて分かり辛かったが、無事に冒険者ギルドへたどり着いた。木造の扉を開けば、そこにはレストランよろしくテーブルが並べられており、そのほとんどが埋まっていた。皆酒を飲んでいるようだ。かなり騒がしい。

 無遠慮な視線が俺達の方へ向けられる。邪な考えをもっているのか、頬を緩めて薄気味悪い笑みを浮かべているものもいた。

 その奥にはカウンターがあり、女の人が暇そうに頬杖をついてボーっとしている。

 俺達はそこへ向かい、受付担当であろうその女の人に話しかけた。

 

「冒険者登録ってここでいいのか?」

「間違いありませんよ。新規登録ですね、ではこちらの登録用紙に記入をお願いします。書けない所は空欄でも構いません」

 

 声を掛けた瞬間、先程までのやる気のなさそうな顔を引き締めて営業スマイルで用紙を手渡してきた。……その笑顔が若干引きつっていたり台詞が棒読みだったりするのは突っ込まないでおこう。俺は空気が読める男なのだ。

 話がそれた。

 用紙には一応名前と武器(俺の場合は太刀だな)、そして従魔の旨を書いた。ランガは俺の従魔って事にしておいた方がいいからな。

 チラッとヴェルドラの用紙を覗くと、年齢の欄に千歳なんて書いてやがった。

 

「おいヴェルドラ、年齢を書くにしてもそれはまずいだろ」

「ん? 別に問題なかろう。我は偉大なる竜種の一柱だぞ、知らぬ者などおらぬ」

「お前さ、ここが異世界だってわかってるの?」

「……あっ」

「もー何やってんのさ師匠!」

 

 頭が痛い。これから帰るまでずっとこんななのか……?

 それはそうと、ヴェルドラがしれっとラミリスを従魔扱いしている。しかもラミリスに内緒でだ。

 ラミリスが気が付いた時の反応が楽しみだな。

 フラメアの方を見ればもう書き終えている。結構待たせていたようだ。

 いかんいかん、早く登録を済ませなければ。そう思って登録用紙を受付の人に手渡した時だった。

 入口の扉が開き、それと同時に騒がしかった酒場が一瞬にして静寂に包まれた。

 その数秒後、入口の方から強烈な殺気が俺達に向けて放たれる。獣の唸り声も聞こえてきた。

 恐る恐る振り返ると――いた。フェンリルとスライムを連れた男が。ただ、従魔はフェンリルとスライム以外に、ドラゴンが二体。

 スライムと男の人からは感じないが、フェンリルと二体のドラゴンから強烈な殺気を感じる。

 

《気を付けてください主様(マスター)……小さいドラゴンはピクシードラゴン、素早いですがそれほどの脅威ではありませんが、残りの二体、フェンリルと古竜(エンシェントドラゴン)は覚醒魔王に匹敵する力があります。戦闘になればこの街が跡形もなく消し飛ぶレベルです》

 

 なっ……!? ヤバい。これは想像以上にヤバい状況だ。

 こんな人がたくさんいるところで喧嘩を売られるのは色々問題になる。かといって見逃してくれそうかと言われれば、答えは否だ。

 とにかくここは穏便に、波風立てない様に話し合いで片を付けよう。

 

「あー……えっと、どうしてそんなに殺気立ってるんです?」

『決まっておろう。先程グリフォンに、貴様らが人類を滅ぼそうとしていると聞いたからだ』

「だから、それは確定じゃないんだからそんな言い方するなよ! わざわざ騒ぎを起こさないでくれよフェル!」

『フン、どうせすぐ本心を表すに決まっている。おい、そこのスライム。さっさとこの街から出ていけ』

 

 げげっ、俺がスライムだってバレてる。こっちに来てから誰にも話してないのに……ああ、あのグリフォンか。

 こんなことになるなら言わないでおいた方がよかったなあ。

 酒場で飲んだくれてた人も、さっきまで古竜(エンシェントドラゴン)に向いていた視線をこちらに向けている。

 まずいな……下手に動けばここが消し飛びそうだ。

 

「な、なあ……何で俺達にそんな突っかかってくるのか知らないけど、とりあえずギルドカード作っていいか……?」

『好きにしろ。それが終わったら町の外に来い。貴様らの化けの皮を剥がしてくれる』

 

 一応ここに来た目的は達成したが、大変な事になったな……。

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