フランスに到着するのは、最後の最後になります。
それまではカルデアでの幕間です。
藤丸は自分の部屋に行く前に、カルデアをマシュと共に散策することにした。ロマンからは体を休めるように言われていたが、爆発が起こった後のカルデアがどのようになっているのかを見ておくことにしたのだ。
結果として、藤丸とマシュはあまりにも傷ついたカルデアの姿を目の当たりにすることになった。瓦礫が積み重なり通ることが出来なくなった通路。まだ焦げ臭い匂いを放つ黒い焦げ跡。拭き取り切れていない血痕。死体袋の類は見当たらなかったが、死人が出ていないはずはない。恐らく自分たちが帰ってくる前に片付けておいたのだろう。藤丸はそう思い、それらを職員たちともに処理するロマンの姿を想像し、思わず吐きそうになった。
「先輩・・・!」
マシュは口を押えて屈みこむ藤丸に駆けよろうとする。しかし、藤丸は「大丈夫だよ」とだけ言うと自力で立ち上がり、先へと進んだ。マシュはその様に何か異質なものを感じ取ったが、それを口に出すことは無くすぐさま藤丸を追った。
しかし、藤丸たちが見たものは絶望だけではなかった。
藤丸とマシュが出会った職員たちは皆、苦しそうな表情を少しも浮かべることなく、平時と変わらぬ様子でそれぞれの業務に当たっていた。時折、二人が近くを通ってきた時には笑顔を見せるなど、人類絶滅の危機など到底感じさせない
カルデアにいる全ての人間が、希望を捨ててなんかいなかったこと。そして、皆が皆不安を抱え絶望に抗っていることを藤丸はあらためて気づかされた。
藤丸は、自分の心に巣食うようにして生まれた暗い何かを強い意志で捨て去り、来た道を戻って自室に行くことにした。
▽△▽
その途中、どこか時代錯誤的な鮮やかな服装に身を包んだ美女と、黒服の男・・・ルシフェルが連れ立って歩いているのを藤丸たちは目撃した。
「__いや、私も天使の姿を実際に見たことは無かったさ。伝承に従ってガブリエルの姿を書いたことはあったけど。でも、本当はこんな姿でしたって今更現れても、なかなか信じることはできないものさ」
「まぁ、天界で私のようなハイセンスな姿をしている天使は他にいないからな。大抵は前時代的な古臭いローブ姿さ。しかし、あれでは人間も共感しづらいってものだ」
やいのやいのと賑やかに話しながら、通路を往く美男美女。藤丸にはそれが一瞬、レッドカーペットを踏み進む映画スターのように見えた。それほどに煌びやかだったからだ。
「おや、藤丸君。ロマニに休んでいろって言われたんじゃなかったっけ」
美女はこちらに気づいたようで、手招きをして微笑む。藤丸はその静かな笑みに何処か見覚えがあったが、とりあえず近づくことにした。
「ちょっと、散策を・・・」
「ふぅん。まぁ、あんな爆発が起こったんだから、心配するのも無理はないね。でも、休むことはそれ以上に重要だ。今の君に課せられた世界を救うための第一の任務は、横たわること。そして温かい飲み物を飲むこと」
美女はその右手で藤丸の頭を撫で、その眼をみて頷いた。藤丸は少しこっぱずかしく思いながら、その目を逸らそうとする。しかし、その美貌故か目を離すことができない。ルシフェルを彫刻とするなら、この美女は絵画だった。
「おい、レオナルド。ロマンが呼んでるぞ」
「ん、分かった。2分で行くと伝えてくれ」
電話の画面を見たルシフェルがそう言うと、美女・・・レオナルドは手を離して立ち去ろうとする。その時、藤丸の脳内に激しい電流が走った。
(((レオナルド、絵画、ガブリエル、美女、微笑み・・・あの、あの構図は!)))
「モナリザっ・・・!?」
その藤丸の一言に、レオナルドと呼ばれた美女がピクンと反応した。そして、ゆっくりと振り返り藤丸を見る。その顔には満面の笑み。ただならぬ気配を放ちながら、再び近づいてくる美女に、藤丸は思わず後ずさりをした。
「いやー、気づいちゃったか―。そりゃねー、気づくよねー。だってモナ・リザだもんねー」
「え、いや、その、なんですか・・・?」
参ったなー、という風に頭に手を当てる美女はまるで困った様子ではなく、むしろ喜んでいるようにさえ見えた。美女は籠手に包まれた左腕に右手を添えるように置き、藤丸の方を向いて微笑んで見せた。
「その通り、私はモナ・リザ。ただし、それは半分正解だが半分は間違いだ・・・まだピンとこないなら、ヒントを出そう。万能の人、最後の晩餐、そして、このような姿ではあるが私は『男』だ」
ここまでくれば分かるだろう。藤丸はふらつきそうになった。答えは分かった。しかし、どのように受け止め、理解したものか。しかし、答えをここで言わねば部屋には戻らせぬ、という雰囲気さえ醸し出していた。
(((さっきは休め休めと言っていたのに・・・)))
「えーと・・・あの、レオナルド・ダ・ヴィンチさんでしょうか?」
その答えに、美女は・・・ダ・ヴィンチは満足そうに笑った。ルシフェルはそんな様子を見て呆れたようにため息をついている。
「その通り!芸術家にして発明家、建築医学なんでもござれの万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチとは私のことさ!それと、私を呼ぶときはさん付けじゃなくちゃん付けで呼んでくれたまえ」
そう名乗ると、ダ・ヴィンチは鼻歌を歌いながら、ご機嫌に藤丸たちのもとを去って行った。藤丸とマシュは完全にその場に取り残され、ルシフェルは退屈そうに欠伸をした。
▽△▽
数分後。ロマニは藤丸から「ダ・ヴィンチちゃん」に対する衝撃を聞いた。それに対し、ロマンは「これ以上君の精神に衝撃を与えるわけにはいかない」とその秘密を言わずにおいたが、数分後に本人の口から「モナ・リザが好きすぎて自分の姿をモナ・リザにした」と告白され、藤丸は1時間ほど自室のベッドで思考を停止していた。
しかし、考えるのをやめていたお陰か、今度は悪夢を見ることなくゆっくりと眠ることができたようだった。マシュに起こされ、藤丸とマシュは管制室に向かうと、そこではカルデア職員たちが忙しく動き回り、ロマニやダ・ヴィンチの指示の元に準備を進めていた。
「ああ、おはよう。疲れは取れたかな?」
「はい、お陰様で・・・」
「うんうん、私の計算通り、藤丸君は見事に熟睡。こうしてバイタル面で見ても、万全な状態で起床してくれた」
ダ・ヴィンチは眼鏡をかけ、発光するパネルを高速で指で叩いていく。その度に画面に図形や数式が現れては消え、現れては消えを繰り返す。藤丸とマシュはロマニについていくようにして管制室を進んでいく。すると、その途中でイーノックが他の職員につれられて合流し、藤丸と並んで歩いた。
「イーノックさん。そういえば、どこに行ってたんですか?初めに管制室に来た時から見てませんでしたけど」
「自室で記録を残していた。冬木市での出来事と、カルデアでのことを」
「まぁ、イーノックは天界でも書記官をやっていたからな」
いつの間にか姿を現したルシフェルは、藤丸に注釈を入れると、イーノックと藤丸に挟まるようにして並び、歩き始めた。その際、イーノックが天界にいた頃の話や、堕天使についての詳しい説明を行ってくれた。
「こういうのは柄じゃないんだが、アークエンジェルも忙しくてね。仕方がないから、私から君に伝えておこうと思う。まず、堕天使達の名前だ」
ルシフェルは、藤丸とマシュに七名の堕天使の名を言った。その中には、藤丸がゲームや漫画などで知った存在の物もあった。そして、特異点における藤丸とイーノック、二人のマスターによる行動の方針が決まった。
藤丸は、マシュと共に特異点の修正・・・つまり、その原因たる聖杯の回収。
イーノックは、ルシフェルと共に堕天使の捕縛を目指す。
できるならば、二人ともに特異点を修正することを優先すべきだが、仮に。
仮にもし、その聖杯が堕天使の手に渡っていたら。それは、特異点に赴いて直接確かめるしか方法が無い。故に、特異点では二手に分かれ、合流次第協力することに決めたのだ。
「向こうでは何が起こるか分からないから、できるなら一塊での行動をしたほうがいいのだろうが、聖杯の在処と堕天使の居場所が分かるまでだ。そんなに長い間離れ離れになることは無いだろう」
イーノックは、ルシフェルの説明を聞いてその表情を曇らせた藤丸を励ますように言った。藤丸はその言葉に対して感謝を述べようとしたが、ロマニの声がそれを遮った。目の前には棺のような機器。
レイシフトが始まる。
▽△▽
・・・狭いな。
藤丸はコフィンの中でそんなことを考えながら、自分を落ち着かせようとゆっくりと息を吐き、吸い、吐いた。これから特異点に向かう。あの、冬木と同じような場所へと。それが少し不安を煽るが、覚悟はできている。そこに、ロマニの声がコフィン内に伝わってきた。
「今から、向こうに着いたらまず何をすべきかを伝えておく。それは、ベースキャンプとなる霊脈を探すこと。霊脈を見つけてサークルを設置すれば、補給物資の転送も新たにサーヴァントを呼び出すことも可能になる」
(((まず、霊脈を探す。サークルを設置する・・・よし、覚えた)))
「行く先はフランスだが、言語の問題は心配いらない。よく調査し、自分の判断を信じて進んでくれ。君が信じて進んだ道なら、皆それについていくさ。__それじゃあ、始めよう。幸運を祈っている」
ロマニの声が消え、それと入れ替わるようにしてアナウンスが流れ始めた。炎の中、マシュの手を握った時に聞いたものと同じ声。
『アンサモンプログラム スタート。霊子変換を開始 します。』
『レイシフト開始まで あと3、2、1‥‥‥』
『全行程
▽△▽
瞬間、青い渦が視界を覆う。黒と藍色の奔流の中、彼方に光が__新緑と日差しが見え、一瞬の視界のブラックアウトの後、藤丸はゆっくりと目を開いた。
そこは、カルデアのコフィンの中などではなく、緑が目に優しい、木漏れ日が射す森の中だった。
「・・・レイシフト完了。どうやら、森の中のようですね」
藤丸はすぐ近くに立っていたマシュの姿を認め、周りを見回してみた。・・・森があるのみ。時折小鳥のさえずりが聞こえ、風邪は穏やかに吹き__藤丸は弾かれるようにして森を駆けた。
「先輩!?どうしたんですか!?」
「・・・風の中に、燃えるにおいが混じっていた!」
藤丸は低木や木の根を避けながら森を走る。匂いの強い方へ。その途中、白い毛の獣が滑るようにして視界の中に入り、藤丸を導くようにして一足先に森を抜けた。藤丸はそれを一目でフォウであると理解し、それに続いて同じく森を抜け・・・言葉を失った。
そこからは、焼けた村が見えた。家も麦畑も等しく焼かれ、焼かれ、焼き尽くされたようだった。既に火の手は上がっておらず、黒灰の煙が立ち上るのみ。人の家はなく、それが全員逃げることができたのか皆殺しにされたが故なのかはここからでは分からない。
その時、電子音が鳴り響き、藤丸の手に装着されたデバイスからロマニの姿が空間に投影された。
「ドクター、あれは・・・」
「・・・間違いない、A.D.1431年、フランスのドン・レミ村だ。しかし・・・これは史実には無い。1431年にドン・レミ村が焼かれたという記録はない・・・既に歴史が変わり始めている」
藤丸は顔をしかめ、灰の匂いを放つ村跡を見た。・・・もう少しここに来るのが速かったら、助けられただろうか。そのように一瞬考えたが、今更どうしようもないことを悟り、歯を食いしばった。
「フォウ、フォーウ!」
その時、マシュに抱えられたフォウが前足を空に向かって伸ばし、何かを訴えるように鳴くのを聞いた藤丸とマシュは、同じようにして天を仰いだ。
そこには、蒼穹を丸く切り取ったような光の輪が、音も無く遥か上空に浮かんでいた。それは、そのまま地面に落下すればここら一帯は間違いなく囲んでしまえるほどに、巨大な物だった。
言葉を失う三者の頭上に、光の輪はただあり続け、見守ろうとしているのか。それとも監視しようとしているのか。藤丸には、その輪が作る穴が何処かからの覗き穴のように感じた。
《イーノック》
・パラメーター・
筋力:C+(ベイル装着時) 耐久:D+(鎧装着時)
俊敏:C+(ガーレ装着時) 魔力:E
幸運:EX(D相当) 宝具:EX
尚、イーノックはサーヴァントではなく、「神の叡智と戦闘技術によりサーヴァントと渡り合える人間」というだけである。そのため、このパラメーターはあくまで指標であり、場合によっては成長もするだろう。
・プロフィール1・
身長/体重:180㎝・85㎏
出展:エノク書、??????
地域:(不明)
属性:秩序・善 性別:男性
「そんな装備で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題ない」