Fate GO/Elshaddai   作:キョウキ

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 遅れてしまい申し訳ありません。
 一週間前には投稿するはずだったのですが、台風の影響により一週間も遅れてしまいました。

 申し訳ありません。代わりと行っては何ですが、今回は長めにしました。
 それでは第五話、始まります。


第五話 竜

 イーノック達がラ・シャリテに訪れるより数時間前。

 

▽△▽

 

「ボク達の目的は、何度も言うようになるけど、特異点の修復だ。その為にはその時代のどこかにある聖杯を回収する必要がある」

 

 カルデアの管制室にて、白衣に身を包んだ茜色の髪をした男。ロマニ・アーキマンは画面の向こうにいる藤丸とマシュに対して会話を続けていた。その近くではカルデアスタッフ達が特異点における藤丸とイーノックの存在証明・・・意味消失を避けるべく、高速で現れては消える情報を処理し続けている。

 

「特異点と言うのは聖杯によって本来の歴史の流れから断たれ、歪められた時代だ。つまり、君達がまず為すべきことは、その時代に本来は存在しない「人物」や「事象」を探す情報収集だね。そのためにも、拠点となる霊脈を探すんだ」

『了解しました』

 

 藤丸がそう応え、通信を切った。ロマンは椅子に沈み込むようにもたれ、天井を仰いだ。その口から細く長くため息が吹き出る。ロマンはお茶の入ったコップを引っ掴み中の液体を胃に流し込み、今のうちに、という風に糖分高めの甘いクッキーを口の中に詰め込み、またコップに茶を注いでグイと煽った。

 

「フー・・・」

 

 その口からまた、安堵のため息が漏れ出た。意味消失、存在消滅、痕跡消息。レイシフトにおけるありとあらゆるリスクを乗り越え、無事に4人を特異点に送り出せた。そのことをまず嬉しく思い、そしてこれがまだ一つ目の特異点であり、その序の口にやっと立てたことを素直に喜んだ

 

 だが、疲労と緊張を騙し続けて作業や指示を行っていたせいか、両目が激しく痛み、頭の中で天使がバスケットボールをしているかのような衝撃が定期的に脳を揺らした。

 

「うぅん、ん」

「眼精疲労と集中のし過ぎによる頭痛だと、ルネサンスのお医者様は診断するぜ?」

「・・・そういえば、医学も修めていたっけ」

「ふふん」

 

 服のあちこちに星屑を散らした美女。レオナルド・ダ・ヴィンチはロマンの顔を覗き込むようにして見つめていた。そして顔を上げ、その栗色の髪を手で揺らし「私は天才だからね」としたり顔(、、、、)で言ってみせた。

 

「彼らは・・・イーノック達の方はいいのかい?」

「とりあえず、最寄りの街であるラ・シャリテまでの道のりを示したからね。彼らならダイジョブだろう。それより、ロマニ、少し休んだほうがいい。ほら、今にも倒れそうだろ?」

 

 ダ・ヴィンチが身を起こしたロマンに濡れたタオルを投げ、ロマンは反応が遅れタオルを顔でキャッチした。ロマンはそれで顔と首を拭き、まだ休まなくてもいいと言おうとしたが、ダ・ヴィンチの顔を見た途端にその考えを改め、席を立った。

 

「うんうん、それでよろしい。藤丸君とマシュ、イーノックとルシフェル。四人同時の情報処理とナビゲーションくらい、この私に任せておきたまえ。ささ、毛布を被って少し寝なよ」

「うん・・・じゃあそうさせてもらおうかな。あ、あと、ついでに頼まれてくれるかな?」

「何かな?」

「藤丸君に良いニュースと悪いニュースを伝えるはずが、悪いニュースの方だけしか伝えていなかったんだ。それに、その・・・怒鳴られるのが怖いしさ。伝えておいてくれるかな?」

「あ~成程。いいとも、今回だけは任されてやろう。だけど、次回以降は君が仲介役だからね」

 

 ロマンはニコリと笑い、仮眠をとるために管制室を出て行った。ダ・ヴィンチは自身の席に着き、予備のスクリーンに藤丸たちのバイタル値等のステータスを映し出し、通信用のマイクを二つに増やした。

 

「さて、と。しっかし、何でこう離れてレイシフトしちゃったのかな」

 

 何らかの妨害?結界が張られていれば、それに弾かれるという事はあり得るし・・・。

 ダ・ヴィンチはそう思考しつつ、「彼女」に何と言われるかを想像し、少し微笑んだ。

 

▽△▽

 

 イーノックとルシフェルが近くにいないこと、ロマンが休憩中でありその間はダ・ヴィンチがナビゲートをすることを藤丸たちは伝えられた。

 

 ドンレミ村の跡地からヴォークルールに移動を開始した藤丸たちは、写真でしか見ないような広大な草原と農耕地に感嘆しつつ、しかし、それらを撫でるように吹く冷涼な風の中に薄く煙の臭いがあることに気が付いていた。それは、ドンレミ村と同じ家を焼いて出た煙なのか。それとも、炊き出しなどによる料理による牧歌的な物か。後者であることを願いつつ、土が露出した公道を進んだ。

 

 やがて、いち早く遠くに城壁と要塞の影を視認したマシュは、藤丸を抱え上げて平地を駆けた。デミとはいえサーヴァント。平地であれば馬ですら容易には追いつけぬほどの速度。藤丸は、マシュの首に手を回しつつ、その頬を赤らめている。徒歩より速いのは分かるし、疲労だって両者ともにそこまでではない。そのことは理解しつつも、藤丸は女子に抱きかかえられるということを恥ずかしく感じた。

 

 ものの数分で二人は城壁が囲む砦にたどり着いた。しかし、どうやらドンレミ村と同じくして何らかの災害、もしくは襲撃に見舞われたらしい。頑強な壁は所々が崩され、石畳は割れている。人はいるが皆その表情は暗く、多くの者が俯いている。

 

 藤丸とマシュは互いに頷き、ここで何があったのか。今、このフランスでは何が起こっているのかを把握するために、門扉の近くにいた一人の兵士に尋ねた。

 

 兵士は語った。イングランド軍の撤退。シャルル七世の死。その他数多くの人間が、老若男女、貧富の差も無く魔女(、、)の炎によって焼き殺されたこと。そして、その魔女とは三日前に火刑に処された少女・・・ジャンヌ・ダルクであることを。

 

 話を聞き終えた藤丸は兵士にお礼を言い、その場を離れてここの中心へ向かおうとしたが、その爪先に何かがぶつかり危うく転びそうになった。よろめき、地面に手をつきながら藤丸は何に足をぶつけたのかを見ると、そこにはどこかで見かけた妙な物があった。

 

「先輩?大丈夫ですか?」

「マシュ、これ・・・何かな。今見つけたんだけど」

 

 それは上から突き刺したかのようにレンガとレンガの隙間に挟まるようにしてあった。乳白色の、内側に弧を描いたような形のそれは、藤丸の手と同じくらいに大きい。藤丸がそれを掴んで動かし、引き抜いてみるとその先端は刃物ように尖っていた。

 

「なんだろう・・・牙?爪?冬木だと似たようなもので作られたエネミーがいたよね」

「竜牙兵ですね。とすると、これは竜の牙のように考えられるのですが・・・」

 

 

 マシュが何かを言おうと口を開いた瞬間、カーン、カーン、と激しく鐘を叩く音が聞こえてきた。その声を聞いた人々は俯いていた顔を一斉に上に上げ、悲鳴を上げながらその場を離れてゆく。やがて、その場に残されたのは武装した兵士と藤丸とマシュのみとなった。

 

「ワイバーンだ!ワイバーンが出たぞぉぉ」

 

 ワイバーン?

 その単語の意味を理解しようとしていたその時、その場にいる全員が激しい羽ばたきの音と唸り声に空を見上げた。

 

 そこには緑色のうろこに身を包んだ、翼を持った竜が飛んでいた。その数、実に20体以上。しかし、藤丸はその羽ばたきの音の中に、カラカラと揺れるような音を耳にし、すぐさまその方向を見た。すると、半壊した門を乗り越えて、槍や剣を装備した人骨の兵士が城壁内に侵入していた。

 

「こっちにも敵が!」

「あ・・・あんたら、何で逃げない!?襲われるぞ!」

 

 

 フランス兵の一人が二人に向けて叫ぶ。上空からはワイバーン。地上からは骸骨の歩兵。その鋭い爪と槍の穂先がマシュと藤丸を狙うが、マシュは蹴りで骸骨兵を三体ほどまとめて吹っ飛ばすと、盾でワイバーンの突進を受けそれを押し返した。そして、すぐさま盾に十字状に取り付けられた刃を用いて、ワイバーンの頭を割ってみせた。藤丸はすぐさまマシュの背に手を当て、魔力を回す。

 

「心配には及びません!戦えますから!」

「ッ・・・そうか。農民も村人も関係なく、避難を優先させろ!男には武器を握らせておけ!ラ・シャリテに逃げるんだ、急げ!」

 

 マシュの攻撃に続くようにして、兵士たちも果敢に骸骨兵やワイバーンに切りかかっていく。しかし、農民や村人たちの避難に数を割いているため、その人数は少ない。やがて、マシュ一人ではカバーすることができず、一体のワイバーンが一人の兵士に襲い掛かった。その口元には火炎。

 

 藤丸は足元に転がった槍を拾い上げ、すぐに駆け付けようとした。無論、槍術の心得はない。他の武器も同様だ。しかし、藤丸は無謀・無力だと理解しながらもその兵士の元に向けて駆けた。

 

「ひ、ひぃぃぃぃ」

「GRRRRRRRR・・・・」

 

 ガパッとワイバーンの口が開き、煌々と燃ゆる光が装填される。デバイスから撤退と特異点における人間が実物ではないことが伝えられる。藤丸は、「それでも」と呟き兵士の前に立った。ワイバーンの冷酷な目が藤丸を捉える。マシュが叫んだ。

 

「うおおおお!」

 

 突き出された槍は奇跡のように鉄のような鱗と鱗の隙間に滑るようにして刺さった。だが浅い。腐臭に似た匂いを放ちながら、ワイバーンは口を開き__その体にぽっかりと、口のように穴が開いた。

 

 その一瞬後、旗を持った鎧姿の女性が藤丸と兵士の前に立った。

 死を覚悟し、薄く閉じられた瞼の隙間からその女性の輝くような金の髪が見えた。

 

「あなたは!いや、おまえは!」

 

 兵士がその表情に恐怖の色を浮かべて後ずさる。ワイバーンのような怪物への恐れではなく、神々しい、もしくはおどろおどろ(、、、、、、)しいものへ向けられる畏怖。

 

「魔女が!竜の魔女、ジャンヌ・ダルクが出たぞぉ!」

 

 兵士は叫び、それを聞いた他の者達も同様にその場から逃げ出し、残されたのは藤丸とマシュ。そして、ジャンヌ・ダルクと呼ばれた少女だけとなった。

 

「・・・・・・」

「あ、あの・・・助けてくれてどうもありがとうございます」

 

 藤丸は沈黙し、俯く少女に向けて礼を述べると、少女はハッと顔を上げて「当然です」と少しだけ笑った。その時、藤丸のデバイスから電子音が鳴り、空中にダ・ヴィンチの姿が映し出された。

 

「やぁ、こんにちわ。皆のダ・ヴィンチちゃんだよ。まず戦闘お疲れ様。それと藤丸君、さっきのは何かな?槍持って、ワイバーンに突撃?ランサーにでもなったつもりなの?」

「あの、いや、その」

「言っとくけど、君が今そこで火だるまになってないのはただの奇跡だからね?特異点において死んじゃいけないのは君一人だけ、いいね?」

「あっ、はい・・・」

 

 藤丸がダ・ヴィンチによるお説教と特異点における人の存在についての講義を受けている間、マシュは少しでも情報を得ようと少女に話しかけることにした。

 

「あの、先程は先輩を助けていただいて・・・」

「お礼は結構ですよ。為すべきことをしたまでですから」

「ああ、ではお名前だけでも教えて頂けませんか」

 

 その言葉を聞いた少女の顔が曇った。言うか言うまいか。そういった葛藤をしばらく抱えた後、少女は意を決してその名を告げた。

 

「__裁定者(ルーラー)のサーヴァント。真名をジャンヌ・ダルクと言います」

 

 水を打ったように、その場が静まった。白熱しつつある特異点の講義も、ピタリと止まった。何処かへ避難していたらしいフォウがとてとてと戻り、マシュの足元でキュウと鳴いた。

 

▽△▽

 

 その後、ジャンヌと名乗った少女・・・サーヴァントに連れられ、藤丸たちはヴォークルール近隣の森の中にいた。時刻は既に夕方で、西に沈む太陽が森の中を水平に照らし、木の影が細く長く東に伸びている。先程までの襲撃騒ぎが嘘のように、辺りは茜色に染まって静まり返っている。

 

「・・・わざわざすみません。あそこで話すべきことでもなかったので」

「いえ、お気になさらず。それよりも__」

 

 

 ジャンヌは森の中を進みながら語り始めた。互い互いの事情を話し、藤丸たちは特異点を修復するために聖杯を探していること。ジャンヌが本の数時間前に現界したこと、兵士の語ったジャンヌ・ダルクではないこと・・・自身がもう一人存在し、竜を使役すること。

 

 そのことを聞いた通信機越しに聞いたロマンは、低く唸った。

 

「休憩から戻ってみれば、とんでもないことになっていたね・・・竜の使役。現代はもちろんのこと、中世のフランスでもまず不可能だ。とすると・・・」

「聖杯ですかね?」

「その通りだ。不可能を可能に、夢を現実に。願望器である聖杯を使えば竜の使役くらい容易いだろう。・・・ところで、マドモアゼル・ジャンヌ。貴女は、自身のことをどこまで把握していますか?」

 

 ジャンヌは顎に手を当てて数秒沈黙し、「本来持ち得ているスキルや令呪等が使えず、ステータスも軒並みダウンしている」ことを告白した。それに対してロマンはそれを、霊基が不安定であることが原因と判断した。

 

「兎に角、事態は一刻を争う程深刻なようだ。このままフランスが竜によって焦土と化せば、フランスが関与するあらゆる事象・・・特に『フランス人権宣言』、多くの国がこれに賛同し後に続いた。この権利が百年遅れれば、それだけ文明は停滞する。・・・成程、人類のターニングポイントとしては十分に過ぎるね」

「ええ、それ故に。私は(ジャンヌ・ダルク)を滅ぼさなければなりません」

 

 夕焼けの中、青い宝石のような瞳の中に意志の光が灯り、陽の色と混ざって一瞬紫に輝いて見えた。

 

「__ジャンヌさん。私達と貴女の目的は一致しています。今後の方針ですが、共に協力するというのはどうでしょうか」

 

 マシュが藤丸とロマンに提案すると、二人は賛成し、藤丸はその手をジャンヌに差し出した。

 

「ジャンヌさん。どうかお願いです。俺たちと一緒に戦ってくれませんか?確かに俺はマスターとしては未熟で、武器も魔術もまともに扱えませんが・・・」

 

 ジャンヌはそっと、その銀の鎧で包まれた手で藤丸の手を包んだ。

 

「こちらこそよろしくお願いします。あなた方と共に戦えることを、光栄に思います」

 

▽△▽

 

 日も沈み、夕闇から夜闇が辺りを包み始めた頃。

 森の中にテントを設け、そこで寝袋を用意している途中、藤丸のデバイスが鳴った。藤丸が起動させると、浮かび上がったのはロマンの姿。その表情が若干強張っている。

 

「やあ藤丸君。突然だけど、レオナルドからさぁ、何かいいニュースについて聞かされなかった?」

「良いニュース・・・あぁ、あのレイシフト前の。正直言って忘れてました」

 

 頭を掻いて申し訳なさそうに笑う藤丸に対し、ロマンは画面外のダ・ヴィンチに向けて「言うように頼んだだろう!?」と叫び「だって、ルシフェルがいないと意味が無いじゃないか」とぶつくさロマンに反論していた。

 

「あの、いいニュースについて教えてもらえるんじゃないんですか?」

「えっ、ああ、ごめん・・・。レイシフト前はこっちからも繋がったんだけど・・・特異点じゃルシフェル経由じゃないと繋がらないらしくてね。まぁとりあえず内容を言うと」

 

 そのことを聞いた瞬間、藤丸は目を見開いた。思わず叫びそうになった。それを抑えられたのは、頭の中で一つのシーンと謎の答えが繋がったからだ。そして、そのことを予め予想していたからだ。

 

 イーノックによる斬撃で光になり、上へと昇って行ったオルガマリー所長。その行動の真意と、その後オルガマリー所長がどうなったのか。あらかじめ、天界から来たルシフェルから軽く説明を受けていたことも藤丸を答えに導いた要因となった。

 

「所長は今、魂だけの状態で天界にいる。そして、ルシフェルが持つ電話を用いれば会話が可能なんだ。ルシフェルがカルデアにいたときは、こちらの通信機でも繋がっていたのだけれど・・・」

「そ、そうですか・・・よかった、無事なんですね」

「うーん・・・天界にいるってのを無事と言うべきかどうかは分からないけど、カルデアスに呑まれて消滅はしていない。所長は確かに存在している」

 

 そのことを聞いて、嬉しくなった藤丸は、早速マシュにもそのことを伝えることにした。マシュとジャンヌはテントの外で警戒に当たっている。このことを話せば、きっと喜ぶだろう。事情を知っているジャンヌさんも、きっと。

 

 竜の影により覆われるフランスの中で、暗くなるような話が多い中。藤丸は気分を一新し、速くイーノック達と合流し、竜の魔女を討つことを心に決めた。

 

 しかし、彼らとの合流。そして魔女との遭遇は早くも果たされる。

 翌日、早朝。巨竜が覆う影の中、太陽と見まごう程の火球に焼かれながら、その走馬燈の隙間の中に藤丸は二人の姿を視認した。

 

▽△▽

 それと同時刻。

 

 

「エゼキエル様から、ご報告を預かって参りました」

 

 焦土と化し、その壁面や塔に海魔の触腕が巻き付いた城塞の内部。その広間。全身をマントとフードで包んだ一人の男が、跪いて頭を垂れていた。その前には不機嫌そうに座る少女と、その横に仕える青白い肌の男が一人。

 

「__天界からの使者、イーノックがこのフランスに訪れたようです。現在いる場所はオルレアンから東南東に位置するラ・シャリテという町にいるそうです」

「・・・と、いうことらしいのですが、どうしますか?ジャンヌ」

 

 男に聞かれた少女は酷く不快そうに、その顔を歪め、

 

「あんたたちの管轄でしょう。何故私達に報告するのかしら?協力しろとでも?」

 

 頬杖をつき、苛立ちを少しも隠そうともせずその男を睨む。しかし男はひるむことなく口を開く。顔を上げ、ジャンヌと呼ばれたその少女に目を合わせた。

 

「天界からの使者が来てしまえば、協定どころではありません。早々に手を打たなければ瞬く間に我らは・・・勿論、あなた方もやられてしまうでしょう」

「ふざけるのも大概にしなさい。私達が負けるとでも?神の遣いによって?それはまぁ、なんとも身勝手な話じゃないかしら。啓示を受け、戦って、騙されて、辱められて燃やされた。その果てに復讐を誓えば、神罰が下る?ふざけないで頂戴」

 

 少女の感情の高ぶりに呼応するようにして、その体から火の粉が舞う。もう既にその憤りは今にも火炎となって放たれそうなほどに高まっている。しかし、彼女はそれを抑えた。今ここでこの男を燃やせば、間違いなく『彼女』が動く。そうなれば戦闘は必至。

 

(((バーサーカーめ・・・)))

 

 現在、オルレアンにて召喚したジャンヌの手駒(サーヴァント)は6騎。全員に「狂化」がかけられ、その戦闘力を底上げしてはいる。しかし、それとほぼ互角に戦い続けることのできる「彼女」と敵対するのはマズイ。負けはしないが、不要な疲弊をもたらす。ジャンヌは歯噛みし、小さく舌打ちした。

 

「・・・何を求めるのかしら」

「巨竜を派遣していただきたい。私達は数こそいますが、数だけでして。使者を殺すには火力と言うものが足りません。さらに言えば私達の手の内は既に知られていましょう。ですので、どうかお力を貸していただきたいのです」

 

 ジャンヌはチラリと傍の男を見ると、男に耳打ちをして椅子から立ち上がり、広間を出た。男がジャンヌを呼び止めようとしたが、青白い肌の男に止められた。

 

「これからはこのジル・ド・レェが彼女の代わりとしてお相手いたしましょう。ラ・シャリテの襲撃。私達も望むことでありますし、そのついでに脅威となる者も排除できればまさにこれ一石二鳥。喜んで協力いたしましょう」

 

 ジル・ド・レェと名乗った男は、魚のような大きい斜視眼をギョロリと動かしマントの男を見た。

 

「ありがとうございます、それでは・・・」

「しかし条件があります。相互に協力するとなれば、そちらからも相応のものを頂きたいのです。まず、そちらの本部の移動・・・場所はそうですね。パリがいいでしょう。これは彼女の、ジャンヌの要望です。そして次に兵士を派遣していただきたい。小さな村々の処理は任せます」

 

 男はジル・ド・レェの提案した要望に了承の意を告げ、立ち去ろうとした。しかし、それを呼び止められ、クルリと振り向く。ジル・ド・レェは首を傾げながら。

 

「何故滅びた村を緑化するのですか?天候が荒れている理由は、あなた達の総帥ですね?できるならば、ワイバーンの使役にいささか支障をきたしますので、あなたから抑えるように進言していただけませんか」

「・・・それは無理な願いですね。向こうではなし得なかったことを、この世界でやり直そうとしている。互いに協力するというのであれば、あの方の信念も理解していただきたいのです。そして、ご安心を。下手に人を匿ったり、助けたりはしませんから」

 

 ジル・ド・レェは男の答えに納得はしていなかったようだが、これ以上話すことは無いと判断し、男を飛竜に乗せて帰らせた。それと入れ違うようにしてジャンヌが戻ってきた。その手には焼け焦げた人間の腕が握られている。

 

「お帰りなさい、ジャンヌ。またピエール卿を焼いてきたのですか?」

「ええ。でも全然いら立ちが収まらないわ。それに、彼はもうダメね。肉体的にはまだ保ちそうだけど、心の方が折れかかっている」

「いかがいたしますか?」

「首をもいで旗の穂先にでも刺しときなさい。主がおわす天上に近づくことができてさぞ喜ぶことでしょう」

「ではそのように」

 

 ジャンヌはため息をし、椅子に腰かける。そして握られた腕を一気に燃やし、放り投げた。空中を回転しながら舞い、腕は地面につく前に燃え尽きて炭化した。ジャンヌは顔をしかめて頭の側面を叩く。

 

 __神は、__っている。全て、__えと。

 

 虫の羽音のように。ささやきのように。ジャンヌの耳には原因不明の妙な耳鳴りが付きまとっていた。それは普段は何を言っているのか聞き取れないほどにざらついているのだが、今初めて。ジャンヌはそのノイズが何と言っているのかを理解した。

 

 

 __神は言っている。全てを救えと。愛し、慈しみ、赦しを与えよ。

 

 ジャンヌは拳を握り、思いっきり自身の頭を殴りつける。痛みなど知らない。負傷も考えてはいない。その耳障りな音を消すために。すると、スイッチでも切れたかのように止まった。息を荒くし、声を張り上げてジル・ド・レェを呼ぶ。

 

「明日の早朝、すぐさまラ・シャリテにファフニールを向かわせなさい。焼くのよ燃やすのよ!何としてでも!」

「・・・承知いたしました。では、準備をいたします。各地に散らばる彼らも呼び寄せておきましょう。・・・ところで、卿の残った体は」

「ワイバーンの餌にでもしなさい」

 

 

 ジャンヌは俯き、その視線を床に向けた。そこに何か、大切なものでも落としたかのように。彼女が天を仰ぎ見なかったのは、そこには何もないと信じていたからだ。

 

 __神がおわしますならば、私には必ずや天罰が下るでしょう__

 

 

 では、神の遣いが。神罰が来たとあれば、神は本当に__。

 

「ふざけるな。ふざけないで頂戴・・・!」

 

 ジャンヌは吠えるようにして吐き捨て、剣を握った。直接、向かわなければならない。でなければ、とてもではないが正気を保っていられない。ジャンヌはそう決意し、自身がよく見えるように。神罰の姿をよく見ることができるように。太陽の下・・・神の下で自身がなすことを見せつけるために。

 

 朝焼けの中で火を灯すことを誓った。

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