Fate GO/Elshaddai   作:キョウキ

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 お待たせいたしました。十話目です。
 今回は少しばかり短めです。お許しください。

 それでは、どうぞ。

(2020/02/03)
 サブタイトルを変更させていただきました。
 (百合の花⇒自問)
 一部を加筆・修正させていただきました。



第十話 自問

 草原を高速で駆けながら、エゼキエルはイーノックのいる森に向かって進んでいた。彼女が物見の先兵として送り込んでいた「息子たち」の内の二匹が、マルタとの戦闘音を察知して居場所を特定したのだ。あの二匹には、フーラやウーラといった名前はない。彼らが覚えているのは、名前でもなく寵愛でもなく、たった二つの命令。それは、イーノックを襲え。そしてその場所を知らせろ。それ以外の目的はなく、目標はない。

 

 エゼキエルは自分に問う。まだイーノックを恨んでいるか?

 それに対して、己にかけられた狂化と偽りの霊核が答える。

 

「ええ、恨んでいるわ。恨んでいますとも。あの子たちがどんなに苦しい思いで死んでいったのか、彼には分からないのだもの!」

 

 だが、エゼキエルはそう言いながら、心の奥底に妙な違和を感じ取っていた。本心ではないような、偽物であるかのような。だが、そういった疑念を感じ取った数秒後には、必ずイーノックに向けての呪詛と、家族と自然への愛が機械的に押し寄せてくる。

 

(((ああ、イーノック・・・)))

 

 理由も分からない罪悪感と憎悪に身を焼かれながら、エゼキエルはついに森を視界に捉えられる位置にまでたどり着いた。

 

▽△▽

「__ふっ!」

 

 鈍い音を立ててマシュの盾と鉄仮面が激突する。そのまま互いに力を押し付け合い、ギャリギャリと鉄と鉄が擦れる音が辺りに響き渡る。藤丸は近すぎず、また離れすぎないように、マシュに魔力を送り続けていた。その甲斐あってか、マシュの膂力が僅かに豚の使役獣を上回り、使役獣が一瞬後ずさる。その隙を逃さず、マシュは盾をその場に固定すると、軽やかに回り込んで痛烈な踵落としを当ててみせた。

 

 穢れによる強化を受けていても、身に纏っている鎧の類は関係が無いのか。攻撃が直撃したところから容易くひび割れ、破壊することができていた。イーノックも、マシュが使役獣の一頭を抑え込んでいたお陰で、狂ったように突進を繰り返す使役獣の攻撃を避け、幾度となくアーチによる切りつけを食らわしていた。

 

 他のサーヴァント達は、いつでもこの場から離れられるように。また、再度襲撃してくる可能性があるサーヴァントや使役獣に備えて、警戒を行っていた。今にもはじけそうな焦燥感が全員を包む。さらにそこへ、追い打ちをかけるような情報が藤丸のデバイスからもたらされる。

 

「マズイぞ、サーヴァント反応、一気に加速!予想到着時間は、あと3分!」

「藤丸君!限界だ、マシュに頃合いを見てイーノックを回収するように命じて!」

 

 ロマンとダ・ヴィンチがほぼ叫ぶように警告する。藤丸は次々と状況を変えていく戦況を見定めようとするが、彼は軍師ではない。この状況で下手に命令を下せば、取り返しのつかないことになるのでは。その恐怖が一瞬、藤丸を支配しかけたが、燃えるような焦燥感と使命感と恐怖と、様々に混ざり合った感情がそれを押し流した。

 

「マシュ、イーノックさん!使役獣を互いに衝突させることはできますか!?」

「マスター・・・はい!やってみせます!」

 

 藤丸の命令を聞いたマシュは、再びイーノックに向かって突進を始めた使役獣の一体を盾で押さえ、そのまま押し合ってその場に留めた。使役獣は二体とも、参戦したマシュと藤丸に構うことなくイーノックに攻撃をし続けていた。マシュがこのように進路を妨げ、防いでも、使役獣は一切回り込もうとはしない。文字通り、イーノック以外を見ていなかった。

 

「イーノックさん、私が合図します!攻撃をこちらに誘ってください!」

「分かりました。・・・さあ、私はここだ!」

 

 イーノックは突進を布のようにヒラリと躱し、徐々に突進する方向をマシュが押さえている使役獣と向かいうように調整していく。予測到着時間が一分を切った頃、マシュが合図した。

 

 イーノックに向かって、これでもかと助走をつけて突っ込んでいく使役獣と、マシュによる拘束を逃れ、背後から挟み撃ちにかかる使役獣。二体は互いの姿を視認しつつも無視し、鉄仮面で押しつぶそうとした。しかし、鎧の一部が鉄仮面に触れるほどにまで引き寄せたイーノックは、軽やかに跳躍した。耳を塞ぎたくなるような衝突音と衝撃が木々を揺らした。アマデウスは特にその音を嫌い、思わず屈みこんでいたが、そこをマリーに抱えられて馬車の中に押し込められた。

 

 

 既に、遠くに視認できる範囲までエゼキエルは近づいていた。風が徐々に強まって行き、遠雷が鳴り始める。雲一つない晴れた夜空を、一瞬で墨色の雲が多い、雨が降り始めた。藤丸は清姫に、イーノックはマシュに抱えられて馬車の中に逃げ込んだ。

 

「さあ、行きますわよ!」

 

 エゼキエルが紫電を纏った拳でガラスの馬車を殴りにかかる。馬車の後輪がその拳にかすり、キラキラと輝きながら割れる。しかし、エゼキエルは諦めることなく、既に空中を駆ける馬車にしがみついた。それと同時に嵐のような暴風が吹き荒れ、飛行能力を失ったワイバーンや木々が風の渦に巻き込まれては疾る雷に焼かれていった。豪雨は一瞬にして視界を奪い、雹すら降り始めた。

 

「う、うわああああ!」

 

 藤丸が叫び声をあげる。ガラスの扉を隔てた向こうに、嵐をバックに、べったり(、、、、)と張り付いたエゼキエルがいたのだ。稲光の逆光により、その表情は見えないが、歪んだ笑みと濁った瞳はかろうじて見えた。先程の使役獣とは比較にならない穢れが、全員に恐怖を植え付ける。しかし、何もせずに怯える者は一人としていなかった。

 

 最初に清姫が動き、火炎でエゼキエルの視界を封じると、エリザベートが槍を突き刺して馬車から離そうとした。しかし、炎に巻かれながらもエゼキエルは槍を掴んで防いだ。次にアマデウスが左腕を五線譜で封じ込めると、マリーの放った魔弾が直撃し、バランスを崩したエゼキエルは嵐の中に叫びを上げながら消えていった。

 

▽△▽

 嵐が収まり、光帯に照らされた紺碧の夜空をガラスの馬車がゆっくりと駆けていく。流石のエゼキエルもここまで上空に上がれば追っては来られないのか、イーノックは使役獣とエゼキエルが纏う「穢れ」と、己の「浄化」の力。そして、冥王「ベリアル」について説明を始めた。若干説明に誤りがあるところもあったが、大方は合っていたので、私は特に口出しをしないでおいた。

 

「ベリアル・・・新約聖書にも登場する、高名な悪魔だ。『無価値な者』という意味の名を持ち、ソドムとゴモラの街を堕落に陥れた」

 

 通信を通して、ロマンがベリアルという存在についての説明を行っていく。イーノックはそれに応えつつ、外見的な特徴や能力、目的などを語って聞かせた。そして、かつて自分がタワーで封印を施したことも。

 

「恐らく、封印が完全ではなかったか、誰かが封印を解いたのか。どちらにせよ、浄化されて契約も消えたエゼキエルがあの力を使えるという事は、まぁそういうことなのだろう。・・・あー、それと、Dr」

 

 私はロマンに、エゼキエルを観測して得られたデータの幾つかを提示するように求めた。ロマンはそれに応じ、エゼキエルの霊基数値やクラス、ステータスがデバイスを通して送られてきた。

 

「やはり、あのエゼキエルはサーヴァントだったか」

 

 聞いたところによると、英霊というのは、あくまでも「死ななければなれない」存在と考えていいらしい。マシュのような例外があるにはあるが、元が天使だからなのか。私に押し付けられたルーラーのクラスは、特に私の能力を制限したりはしていない。

 

「しかし、あのエゼキエルといいその使役獣といい、正気を失っているように見えたがな」

「ああ、まるで、私を殺すという事に捕われているようだった」

 

 イーノックも、天界にいた頃の彼女と堕天した後の彼女を知っているから、私の言葉にうなずいてみせた。そう、かつての世界には、彼女なりではあったが、愛があった。家族に対する慈愛と、自然に対する無償の愛が。しかし、滅ぼされて無理矢理緑化された村には、愛などなかった。

 

 ただ、自然がその力を持って、人の世界を蹂躙するという、害意や狂気と言えばいいのか。

 

「どちらにせよ、アイツはここで倒さなくちゃならない。黒いジャンヌのこともあるが、藤丸」

 

 私は向かい合った席に座る少年を見た。疲れが今頃来たのか、かろうじて起きているような状態だ。本来ならすぐにでも眠ってしまいたいほどに疲れているようだが、何とか私達の話を聞こうとする意志が感じ取れる。大した子供だ。私は思わず笑みをこぼした。

 

「最終的に、私達と君達とで、二手に分かれることになるだろう。私達はエゼキエルを連れ戻す。君達は黒いジャンヌ・・・ジャンヌ・オルタだったかな?それを討伐する、いいかな?」

 

 藤丸は頷き、そして目を何度か擦ると、まるで糸が切れたかのように姿勢を崩し、眠り始めた。倒れるようにして横になったので、そのことにマシュは驚いたようだったが、すぐにダ・ヴィンチがバイタルや生体反応が正常であることを示したので、落ち着きを取り戻した。さっきまで、一騎のサーヴァントと二体の使役獣と相対していたとは思えない、普通の子供の寝姿だった。

 

「やはり、普通か。イーノック、お前は藤丸をどう思う?」

「どう、とは?私にとっては、守るべきヒトの一人。決して損なってはいけない__」

「素敵な旦那様(ますたぁ)の候補の一人です」

 

 清姫が、イーノックの言葉に被せるようにしてそう言ってきた。あまりにも唐突だったので、私は一瞬何を言っているのかと面食らったが、続いてマリーが、

 

「そうだわ!こんなに女の子が集まっているのだもの!私に言い考えがあるわ!」

 

 このあたりで、私は姿を消しておくことにしたよ。年頃の少女の「いい考え」に巻き込まれて無駄に疲れるのは御免なんでね。イーノックはこれから何が起こるのかを理解しておらず、キョトンとした表情で彼女らの盛り上がりを見つめている。

 

「ルシフェル、何が始まるんだ?やけに盛り上がっているようだが」

「まぁ、悪いことではないさ。ただ、アドバイスをするならば、聞かれたことには正直に答えるんだな。変に濁したりすると後が面倒だからな」

 

 

 私はそう言い残し、透明化して馬車の壁をすり抜けると、屋根に腰を下ろして眼下を流れる景色を眺めることにした。普段は瞬間移動か、もしくは徒歩での移動が多いからか、こうして空飛ぶ馬車に乗って景色を眺めるという事はかなり新鮮だったよ。

 

 屋根の下では早速、マリーによる「恋バナをしましょう!」という宣言の下、それぞれが自分の甘い思い出を語り合っている。ついにその矛先はイーノックに向けられたようで、ぎこちなく、ボソボソと語りだしたようだ。

 

 まだ夜は明ける気配はなく、彼女らの会話も終わる気配を見せない。後でイーノックにどんな話をしたのか聞いてみたが、イシュタールと出会う前のナンナの頃の話から、今に至るまでの話をおよそ30分ほど語って聞かせたようだった。さらにはロマン、ダ・ヴィンチ、カルデアのスタッフも藤丸のデバイスを通して参加したようで、思いのほか盛り上がっていたようだったな。

 

 ただ、イーノックは、自身の初恋については語らなかった。

 天界にまで追いかけてきた彼女の話を。別れの時、あの路で彼女を待ち、そして何も言わずに去ったことを。恥ずかしがっているからなのか、忘れてしまっているのか。

 

「・・・たまには、聞いてやるのもいいかもな」

 

 私は呟いた後に自嘲的に笑い、その笑みも呟きも夜風に乗って何処かへ消えた。

 

▽△▽

「唄え、唄え、我が・・・ガフッ」

 

 薄暗い廊下に、咳の混じった歌声が響き渡る。それは本来は荘厳、流麗なものであるのだが、「竜殺し」との戦闘により負傷し、上手く歌うことができなくなっていた。彼の名はファントム・オブ・ジ・オペラ。〝オペラ座の怪人″という名前で広く知られる黒いジャンヌに召喚されたアサシンのサーヴァントだが、他の者同様に狂化が施されていた。

 

 だがその狂気も竜殺しとの戦闘により剥がれかけ、今の彼は汚染された精神と付与された狂気、自らを律する正気の最中で揺れ動き、浮遊して動くこともできずに敗走していた。

 

「ああ、クリス_ティーヌ。おお、我が愛 我が歌姫__」

 

 レンガ造りの壁に手をつき、血を吐き出す。しかし、そこで彼は歩みを止めた。目の前から白髪の青年がこちらに向かってきていたからだ。何も持たず、コツコツと乾いた足音を立てて、自分には一切視線を向けずに通り過ぎる。ファントムは確かにそう思った。否、正確にはそう思おうとした。

 

 次の瞬間。ゴトリ、とファントムは自分の頭が落ちる音を耳にした。

 

 白髪の青年は、首を失って消滅を始めるファントムの肉体に構うことなく、切り落とされたファントムの頭を両手で掲げ、首の断面を注意深く観察した。当然、首も体同様に消滅を始め、光の粒となって消えていったのだが、青年はため息をつくと、外に出るためにまた廊下を歩き始めた。

 

「見事な手並みです、ムッシュ・ド・パリ。自分の欲望に駆られる気持ちは分かりますが、私からの命令を遵守しなさい」

 

 通路の影から姿を現したのは竜の魔女、ジャンヌ・ダルク。彼女は敬愛とも軽蔑ともとれる曖昧な表情で青年の行動を称えた。青年は丁寧に頭を下げた。

 

「ええ、勿論です。竜殺しの処刑、ですね。礼を言います。技術向上の機会を与えてくれただけでなく、再びあの方に。彼女に、会えることに」

 

 その言葉を聞いた竜の魔女は満足そうに笑うと、ただ「行きなさい」とだけ言い残してその場を去って行った。

 

 青年は残忍な笑みを浮かべながら、自身の頭に彼女の「これから」と「最期」を思い浮かべる。自分の口づけ(、、、)によって白百合が嬌声を上げる様を。だが、彼の心の内には不安があった。今の技量で足りるか。否。彼は己に問い、そして答えた。

 

 より、研鑽が必要だ。もっと多くを、  ければ。

 

 

 丁寧に、傷つけぬように、百合を手折るために。

 処刑人、シャルル・アンリ・サンソンは、今一度残忍に笑った。

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