Fate GO/Elshaddai   作:キョウキ

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遅れてしまい申し訳ありません。
だいぶ期間が空いてしまいました。許してください、な(ry


第五話 キャスター

 私は指を鳴らして鉄塔からイーノックの元に戻った。どうやら彼らとイーノックは無事接触を果たし、共に行動することを選んだようだ。これで、今現在イーノックに協力してくれる人間は四人。

 

 48人目のマスター候補、藤丸立香。

 盾を持ったサーヴァントの少女、マシュ・キリエライト。

 フィニス・カルデア所長、オルガマリー・アニムスフィア。

 カルデア医療部門のトップ、ロマニ・アーキマン。

 

 ロマニだけはこの場におらず、藤丸が身につけている装置からのホログラムを通して様々な指示や支援を寄越してきている。一度だけ彼のカルデアでの生活を覗き込んだことがあったが、何とも現代に生きる若者らしい堕落的かつ勤勉なものだった。まぁ、彼もまたイーノックを救う存在であると私の勘が囁いているがね。

 

 私は、イーノックが索敵のために彼らに背を向けていることをいいことに、イーノックに話しかけることにした。

 

「イーノック。どうだ、何か感じることはあるか?」

「前も同じことを聞いてきたな。・・・そうだな、空気に何か混じっているのか・・・呼吸をする度に妙な感覚が体を流れる」

「それは多分、魔力ってやつだ。私も、その魔力のせいなのか。若干上手く力を扱えていないように感じる」

 

 私は腕を伸ばしたり、首を回したりして自分が本調子じゃないことをイーノックに伝えてみせたが、イーノックはどうにも茫然自失としてこちらの方を見ていない。軽く腕を窓の外に伸ばし、人差し指で虚空をつついているようだ。

 

「どうしたんだ?イーノック」

「・・・『セタ』を使えない」

「なんだって?」

 

 私がそう聞き返したとき、ちょうどオルガマリーがイーノックに集まるよう呼び掛けてしまったので、私とイーノックの会話はここで途切れてしまった。しかし、それとほぼ同時に私の携帯が着信音を鳴らしたため、ある意味いいタイミングなのかもしれない。

 

 私は携帯をポケットから取り出し、耳に当てた。

 

「やあ君か。こっちは中々いい流れだよ。協力者も見つかったしね。・・・それと、少し問題があってね。・・・何だ、知っていたか。そうだよ、『セタ』だ。アレがあると無いとではだいぶ違うんだが」

 

 異界、セタ。契約の天使として覚醒したイーノックが持つ、最大火力。

 宙に浮かぶ小島のような姿をしており、下部には砲台を備えてある。完全装備の天使を数百人集めても、セタの前には小石も同然だろう。それ程の圧倒的な力を有する存在だ。

 

 他にも、保有者であるイーノックに対して、物質操作や時間操作による肉体の再生。そういった異能の力も授けてくれている。のだが・・・。

 

「セタを持ってこられない様なら、その異能だって使えやしない。まいったな・・・今回ばかりは時を巻き戻さずにアイツらを捕まえられると思ったんだが」

 

 そう愚痴をこぼすと、彼は私になだめるような言葉をかけてきた。

 

「仕方ない。気味の意志は絶対だからね。それで、セタについてだが__」

 

 

 おぞましい気配を感じて、私は窓の方向を見た。

 そこには、炎のような瞳を持った鬼女が殺意を纏いながらそこにいる。

 

「・・・ん?ああ、すまない。来客だよ。それでセタだが・・・何?後で話すだって?ミカエルがどうした?おいちょっと待ってくれ」

 

 そこで通話が切れてしまった。どうやら向こうで何かがあったらしい。声が若干焦っていたところや、ミカエルの名を出したことを考えると、大方ミカエルが危篤の状態にでもなったりしたか。まぁ、アイツのことだ。死にはしないだろう。

 

(((さて、問題はこっちかな)))

 

 私はその場から少し離れ、鬼女とイーノックがジリジリと距離を詰める様子を見守った。イーノックは完全に戦闘状態で、弓なりの刃・・・アーチの両端の柄を掴んで、いつ攻撃が来ても防御できるように。そしていつ隙が出来ても攻撃ができるように、攻防一体の構えで相手の出方を窺っている。

 

 イーノックの背後にいる三人は、マシュの持つ盾に守られるように、身を寄せ合って少しづつ鬼女から距離を取っていた。私はと言えば、冥界のそれとは違う、影の存在に惹かれてその姿を観察していた。

 

(((アイツらの手先か、魔術王の手の物か・・・そういえば、カルデアの彼らは魔術王が関与していることを知らないんだったな。話してやるべきか、どうするべきかな・・・)))

 

 そんな風に考えながら、私はぼんやりとイーノックと鬼女との戦いを観戦することにした。

 

 

 イーノックは素早くステップを踏み、鬼女を切りつけようとするが、後方に跳ばれ避けれらてしまった。なかなかの反射速度だ。イーノックの攻撃速度に反応できるとは。鬼女は長物・・・影に覆われてよく判別できない・・・を薙刀のように振るい、イーノックの首を刈り取りに行く。

 

 イーノックは思い切ってアーチを上方に投げると、素手でその長物を受け止めた。そして、足払いをかけて体勢を崩すと、素拳で顔面にパンチを打ち込み、強烈なキックを何発も打ち込んで見せた。

 

 鬼女は吹き飛ばされるも、体勢を立て直し、フラフラとしながらも長物を構えた。イーノックも先程投げたアーチをキャッチし、同じように構える。今のところ、イーノックが一枚上手と言ったところか。まぁ、そうでなきゃ困る。セタが使えない以上、イーノックの戦闘技術と身体能力が頼りだ。こんな奴相手に手間取ってもらっては先が思いやられるのでね。

 

「あなた・・・サーヴァントではなさそうですが・・・」

「・・・生憎、私ではあなたに勝てそうもないわ」

 

 そう言った途端、鬼女の姿が消える。いや、違う。目に見えないほどの速度で天井に向かって飛び、その天井を蹴って跳ぼうとしている。その眼が捕らえているのは・・・藤丸立香。

 

「!、しまった!」

 

 イーノックも鬼女が何をしようとしているのか気づいたらしく、藤丸の方に向かう。だが、遅い。鬼女はその足に十分な力を溜め、弾丸のように藤丸に向けて突っ込んでいった。

 

(((これが屋外であれば、また結果も変わっただろうが、起きてしまったことは仕方がない)))

 

 一秒後、藤丸は死ぬ。このままでは、それは変えようがない。

 イーノックは最高速度で藤丸の元に追いすがろうとしているが、距離的に間に合わない。アーチを投げてもダメだろう。オルガマリーは、何が起こったのか分からず硬直している。今この場では役に立たないだろう。ロマニ・・・この場にいない。

 

 そこで私は、大盾を持った少女。マシュと目があった。彼女は鎧に包まれた体を小刻みに振るわせ、藤丸とオルガマリーを守っている。ただ、こちらに向かってくる鬼女に対して酷く怯えている。

 

 ・・・たまには天使らしく、立ち向かう者にアドバイスでもしてみるか。

 

 

 私は時間を止め、マシュの背後に回り、その耳に向かってささやきかけた。

 

「このままでは、君ごと藤丸も所長も死んでしまうだろう。だから、君が守らなくてはならない。一瞬でいい。敵の攻撃を防ぐことだけを考えろ」

 

 時間が止まっているため、マシュがこちらの声に反応することはない。だが、声は届いている。マシュの中に生じた一つの思考や判断として、私のアドバイスはしっかりと届く。さて、時を戻そう。

 

 

 私は指を鳴らし、時間の流れを元に戻す。オルガマリーと藤丸の目が驚愕に見開く。その時、マシュ体の震えが止まる。その眼には勇気が漲り、恐怖と迷いを押し流した。私はそれを見て思わず笑みを浮かべる。フフ、イーノック以外の人間に声をかけるなんて、一体何百年ぶりだろうか。

 

 次の瞬間、マシュの盾に鬼女が激突した。あまりの衝撃に踏みとどまろうとするマシュの足がズリズリと後方に動く。だが、盾は巨大な壁のように鬼女の攻撃を受けきってみせた。それどころか、その衝撃を押し返し、攻撃後の衝撃で動けない鬼女に対して、盾による重い打撃を打ち込んだ。

 

 そこに、イーノックがアーチによる斬撃で鬼女を浄化した。

 

 煙と化し、その魂を介抱された鬼女は、一瞬。本来のあるべき姿を取り、そして消えていった。

 

▽△▽

 

「し、死ぬかと思った・・・」

 

 藤丸は緊張によってか、その場に尻餅をつくようにして座りこんだ。マシュは盾を一度地面におろし、右肩を左腕でさすっている。サーヴァントと言えど、あの鬼女・・・聞くところによると、マシュと同じようなサーヴァントらしい・・・の攻撃はだいぶ応えたようだった。

 

「サーヴァント反応消失・・・か、勝てました」

 

 マシュは煙と消えた鬼女の残骸を確認すると、すぐに藤丸に向き直った。

 

「先輩!その、怪我はありませんか!?

「ああ、大丈夫だよ。マシュが守ってくれたおかげだ」

 

 藤丸は、ゆっくりと体を起こしてマシュの顔を見た。その口元には笑み。愛想笑いでも何でもない、安堵の笑みが浮かんでいる。普通なら、一つ間違えたら死んでいたことに恐怖し、泣いてもいい所なのだが。

 

「・・・ありがとう、マシュ。マシュがいてくれたから、俺は生きている」

 

 そう言ってみせると、マシュは顔を赤らめ、うつむいてしまう。やれやれ、生きていることを喜ぶのは、ここを脱出してからのほうがいいと思うのだが。それに、目の前で惚気ている様を見せられるこっちの気持ちにもなってほしいのだが。

 

「・・・すまない、私が仕留め損ねたせいで、君達を危険に晒してしまった」

 

 イーノックはアーチの刃をしまい、酷く落ち込んだ様子で藤丸たちの元に近寄った。彼らをあの鬼女の攻撃の標的にしてしまったことが、よっぽどショックなようだ。どれ、何か気の利く言葉でもかけてやろうか

 

「そんなことはありません。イーノックさんがあのサーヴァントにダメージを与えてくれなかったら、私はあの攻撃を受けきることはできなかったでしょう」

 

 ・・・そう思ったが、マシュに慰めの言葉を先取りされてしまった。

 

 イーノックはその言葉を聞いて、少し微笑んだが、アイツのことだ。きっと、しばらくは心の内でそのことを気にするだろう。まったく、全員助かったのだからそれでいいじゃないか。

 

 そこで、私は一つの違和感に気づいた。

 こういった命の危険に直面すれば、真っ先に取り乱すであろう人物の声が聞こえない。端的に言えば、オルガマリーの声が聞こえないのだ。

 

「イーノック、あの娘・・・オルガマリーの姿が見えないんだが」

 

 私がそうイーノックに語り掛けた瞬間、建物の外から悲鳴が聞こえてきた。間違えようもない。オルガマリーの悲鳴だ。

 

 その声を聞き届けた藤丸とマシュ、イーノックと私は建物の外へと急いだ。 

 見ると、フォウを抱えたオルガマリーが、髑髏面のサーヴァントに捕らえられている。命まではまだ奪われていないようだが、それもいつまでか。

 

「下がってください、先輩!あのサーヴァント、先程のサーヴァントと同等の魔力です!」

「同等だって!?」

「すぐにその手を放すんだ。さもなければ」

 

『さもさければ、どうするんだ?』

 

 髑髏面のサーヴァントがその左手でオルガマリーの口を押える。悲鳴を出せなくなったオルガマリーは、抱えているフォウと同じように震えることしかできない。イーノックは、アーチを構え、すぐに切りかかろうとした。

 

 だがその時、近くの瓦礫の影から強力な蹴りによる不意打ちを受け、アーチを取り落とす。攻撃の正体は、オルガマリーを襲おうとした髑髏面のエネミー。ただ、体格が違うため、別種の存在だと思われる。

 

 その髑髏面のエネミーが、至るところからその姿を現す。物陰から。ビルの屋上から。木の上から。その数、実に五十は優に超える程の大群。対するは、マシュと非戦闘員の藤丸、そして武器を失ったイーノック。実に分かりやすい、絶体絶命の例と言えるような状態だ。

 

『我らが前に立ちふさがるものは皆塵と化す。今度こそ、聖杯をわが手に!』

 

 

 リーダー格と思われる髑髏面のサーヴァントがそう言うと、周りを取り囲むエネミー全てが戦闘態勢に入った。このままでは、当たり前のように全滅するだろう。イーノックは時を戻しさえすれば、何度でも「一回目」を体験し、最期には勝つだろうが、後の三人はもうどうしようもない。

 

 その時だ。

 突如として私達の周りを半透明のドーム状の物が覆ったんだ。一瞬、流石の私でも何が起こったのか分からなかったよ。半透明のドームは、恐ろしいほどの硬度を誇るらしく、エネミーが投擲した短刀や剛腕による攻撃でも傷一つつくことが無い。

 

 その強固さに私が感心していると、アルファベットのBに似た文字が空中に浮かび、軽薄そうな男の声が聞こえてきた。

 

『聞こえるかな?今、アンタらに防壁のルーンをかけた。おとなしくしていてくれよ』

「ほう、ルーン・・・つまり魔術か」

 

 私はもっぱら魔術と言ったものに関わりはないので、この時この魔術をかけた男がどういったやつなのか気になってね。イーノックに外に出てくるよう言い残し、瞬間移動で髑髏面のサーヴァントの隣で魔術師の姿を探すことにした。男はすぐに見つかったよ。

 

 ちょうど、私達が拠点にしていた建物の五階あたり。割れたガラスの向こうに木の杖と思われるものを持った青髪の男がそこにいた。男は中空に指でまたBを描くと、

 

『聞こえるか?すぐにそいつから離れろ』

 

 という声が、オルガマリーのすぐそばから聞こえてきた。オルガマリーはその声に素直に従い、電流のような魔術を用いてサーヴァントの手を放し脱出すると、そのサーヴァントを巨大な藁でできた手が掴んだ。

 

 

 

「我が魔術は炎の檻。茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める杜__」

 

 オルガマリーが十分に離れたことを確認すると、男は巨大な藁の巨人をそこに召喚してみせた。胸の部分は鉄でできているようで、その中に髑髏面のサーヴァントが閉じ込められている。

 

 藤丸の装置から電子音が鳴り、ロマニの姿がホログラムで現れる。

 

「この反応は魔術?だが、こんな大魔術!できるとしたら一人、いや、一騎!」

「焼き尽くせ、木々の巨人!゛灼き尽くす炎の檻″(ウィッカーマン)

 

魔術師(キャスター)のサーヴァントだ!」

 

 

 防壁のルーンもろとも、髑髏面のエネミーを全て燃やし尽くし、藁の巨人は巨大な炎と化して消えた。後には焼け焦げた匂いと炭が残ったが、防壁のルーンによるドームは無事で、オルガマリーも火傷することなく助かったようだ。

 

 ガラスが割れるようにして、ドームが崩れ、そこに青髪の魔術師が近づく。

 

「・・・やれやれ、助けてやったのに、随分と不審がられるじゃねぇか。ま、仕方のないことだわな!」

 

 イーノックはその男の姿を見るなりアーチを構え、マシュもまた盾を持って藤丸を守っている。オルガマリーはまだ助かったことへの自覚が無いのか、瓦礫の山の近くで座りこんでいる。

 

「んじゃまぁ、自己紹介といこうか。俺の真名()はクー・フーリン!よろしくな、どこぞの時代の漂流者さんよ!」


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