Fate GO/Elshaddai   作:キョウキ

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 遅ればせて申し訳ありません。七話目です。
 今回は基本的にルシフェル視点でのお話です。それと、滅茶苦茶に長いです。上手く書けたかどうかは分かりませんが、楽しんでいただけると幸いです。

 それでは、特異点Fのラスト。どうぞお楽しみを。
 あ、所長は救済します(これが一番書きたかった)。


第七話 真実

「・・・ああ、もうすぐこの特異点?じきに解決するよ。それで、そっちの様子だが、ミカエルの調子はどうだ?・・・そうか、まだ無理か。しかし、どうするべきか。ミカエルが動けなければ、堕天使のための牢獄を作り出せないんだが・・・」

 

 薄闇の中、水が滴る洞穴内を私は通話をしながら歩いていた。空気はひりつくように冷たく、むしろ痛くさえある。時折、洞穴の奥深くから岩の砕ける音や、鋭く風を切る音等がここまで響いてくる。しかし、私にとっては音も空気の冷たさも意味をなさない。何せ、この身体に耳はなく、肌すらないのだから。

 

 本質的に「傍観者」として存在するのが、私だ。

 

「堕天すれば肉体を得られるわけだが、私にはどうしてもそのメリットというものが分からないな。まぁ、分かるつもりもないがね」

 

 彼は私のそんな言葉を聞いて、唸るように頷き、イーノックの様子を見てくるように言った。そして、そのまま通話を切った。私は指を鳴らして瞬間移動し、目的である大聖杯の直前にある空間に降り立った。

 

 その空間は、一言で言うならば崩壊していた。

 砂塵が未だに宙を舞い、時折跳ね上げられた小石がパラパラと降り注いでいる。至る所にヒビが走り、穴は開き、特に中心部分は一部天井の崩落も起きたらしく、巨大な岩がゴロゴロと転がっている。

 

 私は辺りを見回して、すぐにイーノックのことを見つけた。出口・・・つまり、聖杯が存在する場所への通路の脇に、ぐったりと壁に寄りかかって座っていた。

 

「イーノック、大丈夫か?」

 

 私がそう言うと、イーノックはハッと顔を上げ、そして頷いた。その純白の鎧は半分ほどが砕け、アーチは穢れを吸いこみ褐色になっている。どうやらそんなに負傷はしていないようだが、まさかセタが使えないとはいえイーノックをここまで追い詰めるとは。

 

「立てるか?」

「大丈夫だ、問題ない・・・」

 

 イーノックはアーチを杖代わりに立ち上がり、すぐに藤丸達を追うために聖杯のある場所へと急いだ。

 

(((サーヴァント、か・・・)))

 

 

 突然だが、私の能力について説明をしておこう。

 私は、端的に言うと、時間を操れる。時を止めるも、戻すも、その先へ行くのも自由自在。ただし、世界には干渉できない。干渉するには神による許しか堕天による受肉意外に方法はない。

 

 そんな私は、あくまで第三者の観客としてあらゆる場所のあらゆる時間を鑑賞しているわけだが、「魔術」や「魔法」「神秘」というものにはまるで縁が無い。

 

 つまるところ、興味が無いのだ。私は人間らしいものを好む。「根源」に至る為の魔術も、それを使った争いも、どれもヒトからカミへと進む道のりだ。要するに、見てても面白みに欠けるから見ていなかったわけだが、まさかこうして魔術に疎いことが巡ってくるとは思わなかった。

 

 

(((仕方ない。これが終わったら、あの娘にでも聞いてみるか)))

 

 そう考え、聖杯のある空間へ移動した。

 

▽△▽

 

 私が移動したとき、それはちょうど最終局面だったらしい。

 黒鎧の騎士が剣を掲げる。黒いエネルギー体が炎のように剣にまとわりつき、巨大な炎の刀剣を創りだした。

 

『これで、終わりにする__』

 

「魔力反応増大!宝具が・・・聖剣が来ます!」

 

 

 マシュが盾を構え、藤丸とオルガマリーがその後ろに隠れる。イーノックは攻めようと騎士に踏み込もうとしたが、異様な力の収束を察知してすぐに退いた。キャスター、クー・フーリンは防壁のルーンを用いて全員を覆っている。が、その額には大粒の汗。

 

「くそっ、連戦の疲労がここで祟るか・・・!」

 

 

 黒炎の剣はさらに長く、大きくなっていき、ついにそれが振り下ろされる。

 

『光を呑め。約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!』

 

 

 剣が振り下ろされた瞬間、、濁流のような火炎がイーノックらを包んだ。

 闇のように黒く、穢れすら内包しているにも関わらず、その豪炎の輝きは目も眩むほどであった。

 

 その瞬間、様々なことが起こった。

 最初に、キャスターのルーンが力負けし、砕け散った。防壁によって抑えられていた濁流がすぐさまマシュの大盾に迫った。しかし、大盾はそれ自体が一つの要塞であるかのような強度で濁流を防いでいる。頑丈な盾だ。ベイルと違って防ぎ守ることを主軸としているからなのか、それとも違う何かがあるのか__。

 

 そうこう考えているうちに、濁流はさらに勢いを増す。もはや、崩れ去るのは時間の問題だろう。だが、心配はいらない。何故なら、最終的には勝つのだから。時を戻しさえすれば、イーノックの魂はそれを記憶して最善の道を選び取ることができる。

 

 勝つまで戦う。

 イーノックに与えらた、神の寵愛。

 

「・・・ここまでかな」

 

 

 あと数秒の内に限界を迎える。そう判断した私は、指を鳴らす準備をした。恐らくだが、次の「一回目」ではイーノックは聖剣に圧されることなく、騎士王に肉薄。接近戦に持ち込むだろう。それから先は、私も知らない。イーノックが関与する未来だけは私にも分からないかからね。

 

 さて、時を戻すか。次で決着をつけてくれるとありがたいんだがね。

 

 

 そう思ったその時、藤丸がマシュの盾を抑えた。

 巻き込まれただけの脆弱な人間。勘だが、イーノックを窮地から救うことのできる存在。その腕は震えていて、俯かせた顔からは涙がこぼれる。盾に触って分かったのだろう。すぐ向こう側に、死があることを。

 

「いやだ・・・死ぬ、のは・・・!」

 

 か細い声が、私の耳に届く。恐らく、間近で聞いていたマシュにも届いたのだろう。

 それが一体、彼女にどのような変化をもたらしたのかは私には分からない。しかし、彼女は明らかに変わった。期待する者の顔ではない。立ち向かう者の顔をしていた。

 

 一瞬後、巨大な白亜の城壁が前方に展開。光の奔流は、その城壁に触れるなり消し飛び、逆に押し返されていく。

 

『バカな!光が、聖剣が掻き消されて__』

 

▽△▽

 

 暴風と熱の残響が、空間を支配する。

 勝敗は決した。騎士王は聖剣に寄りかかるようにしてかろうじて立っているような状態だ。その息は荒く、先程までの覇気も無い。

 

 一方、こちらはと言えば。

 ・・・やれやれ、全く人間というのは面白い。

 全員が見事に無傷だ。腕が吹き飛んでいたり、半身がなくなっていたりもしない。全員が五体満足で、騎士王の前に立っている。

 

 イーノックは騎士王が動けないことを確認し、すぐに浄化を行い倒そうとしたが、キャスターによって止められた。キャスターはイーノックと短いアイコンタクトを取った後、騎士王のもとに歩み寄った。彼なりのケジメか。騎士王と幾つか短い会話を行った後、杖を槍のように構え、一思いに心臓を貫いた。

 

▽△▽

 

 それからしばらく時間をかけ、聖杯がある大岩を登り、ついにその黄金の杯と相対した。天井まで立ち上る白の中に金が混ざった優し気な光は、まるで今さっきまで行われていた戦闘なぞ全く関係が無いようだ。

 

「あの、所長?これ、どうするんですか・・・なんか触れなさそうなんですけど」

「確か、サーヴァントが触れれば実体化するはずよ」

 

 オルガマリーは確認を取るようにキャスターを見ると、キャスターは頷いた。しかし、自分が触れて獲得するのではなく、最大の功労者であるマシュにその権利はあると言った。

 

 

 イーノックはそのやり取りを遠くから眺め、いつでも敵襲があれば対応できるように、アーチは展開したままだった。私は、イーノックに近づき話しかけてやることにした。

 

「どうだ、イーノック。堕天使は見つけられなかったが、兎も角ハッピーエンドだな」

「・・・・・・ああ」

「?」

 

 マシュが聖杯をその手に取ると、聖杯はかすかな光を発してマシュの胸に吸いこまれていった。それとほぼ同時に、キャスター・・・クー・フーリンの体が光に包まれる。どうやら騎士王を倒したことで、「座」への退去が始まったのだとか。

 

 キャスターは、別れを惜しむ藤丸の頭に手を乗せ、くしゃくしゃと撫でた。

 

「坊主も頑張ったな。マスターとしてはまだまだ未熟だし、至らねえところもあるにはあるが、航海者として必要なもんを全部持っている。運命を掴む天運、それとそれをものにする度胸だ」

 

 その向こう見ずさを忘れるなよ。その言葉を最後に、クー・フーリンは消えていった。しかし、こうも唐突に出現してあっさりと去るとは。かのアイルランドの光の御子も、サーヴァントともなればこのような扱いを受けるのか。

 

「お前は今もこうして生きているから、サーヴァントになることも無いな」

 

 ほんのジョークのつもりで、イーノックにそう言ってやると、なにやら深く考え事をしているようでその耳には届いていないらしい。

 

「どうしたイーノック」

「・・・ああ、いや。考え事をしていた。それで、何の話だ?」

「・・・何でもないよ。それより、何を考えてたんだ?」

 

 イーノックは、藤丸とオルガマリーが会話をしている様子をチラリと見ると、背を向けて私に語った。

 

「ここには、堕天使の痕跡と言うものがまるで見つからなかった。恐らく、この特異点にはいないという事なのだろう。だが、魂が全く飛んでいなかったのは何故かと」

「そういえば、そうだな」

 

 町は燃え、廃墟と化し、エネミーやシャドウサーヴァントが闊歩する魔境と化した冬木。そこにいた人間がすべて死んだとなれば、その魂はこの冬木市内を彷徨っている筈なのだ。仮に、冥界の連中がその魂をすべて回収していたとする。そうなると、今度はその冥界の魔物がいないことが気にかかる。

 

「ふむ・・・だとすると、魂は何らかの手段で消滅。もしくは、元々存在していなかったか・・・」

 

 

 そんなことを考えている時、私は大岩の奥からこちらに歩み寄る人影に気が付いた。

 深緑色の帽子と服。焦げ茶色の髪。私は、その男のことを知っていた。無論、向こうは私のことを知らない。見えていないのだから。

 

「イーノック。あれは、レフとかいうやつじゃなかったか?」

「!、レフ教授・・・?」

 

 イーノックがそう呟くと、三人も反応し、イーノックと同じ箇所へ視線を集める。

 アルカイックな笑みと細長い目。カルデアでもよく見た人物。イーノックの元上司に当たる人物。

 

「嘘・・・レフ、レフなの!?」

 

 オルガマリーがレフに駆け寄ろうとしたのを、マシュとイーノックが止めた。確かに、今のレフは異様な気配を放っていた。巨大、と言ってもいいだろう。人外のそれ、山のような威圧感が靄となって足元を漂っている。

 

「いや、まさか君達がここまでやるとは。計画の想定外にして、私の寛容さの許容外だな。48人目。マシュ・キリエライト。・・・正体を隠してこそこそ(、、、、)していたハドラニエル」

 

 レフは流れるような口調で語っていく。その異様な様子に、オルガマリーは口元を抑えて絶句し、マシュも藤丸も少なからず衝撃を受けている。それはイーノックも例外ではないが、かなり前から私とイーノックはレフの言動や行動を見ていて若干の違和感を感じ取っていたため、そこまでショックではなかった。

 

「レフ__!?レフ教授が、彼がそこにいるのか!?」

「おや、その声はロマニ君かな。君も生き残ってしまっていたか__まったく」

 

 

 どいつもこいつも、統率の取れていないクズばかりで吐き気が止まらないな。

 

 

「!?・・・」

 

 オルガマリーが、その言葉を聞いて思わず後ずさった。全身が緊張しているのが分かるほどに震えている。フォウを抱える腕が強張る。今にもレフの元に行きたい。しかし、あの彼は違う。そのことが、オルガマリーをその場に拘束していた。

 

「特に、オルガマリー。自分が死んだことにも気づいていない、哀れな哀れなちっぽけな小娘」

 

 見開かれた十字の瞳孔がオルガマリーを見据える。何を言われているのか、全く理解できないという風にレフを見つめる。彼は口を開く。

 

 あの爆発は君の足元が起点だ。私がそこに仕掛けた。嘘よ。君が何故この冬木という特異点に来られたと思っている?嘘、やめて。レイシフト適性のない君が、どうやって?やめて、言わないで。レイシフトするだけなら肉体は必要のないことは知っているね。嫌、そんな。そんなことはないと言いたいのだろうが、君は知っている。絶望の淵で思い知った。やめて。じゃあ、今の君は何か。教えてあげよう、ただの未練がましい残留思念(、、、、)だ!だから、カルデアには戻れない。ちがう、ちがう!だって、カルデアに戻った時点で。嫌、いやぁ!肉体のないただの亡霊である君は、消滅するしかないんだ!

 

 

 

「・・・ふむ。だがそれだと、あまりにも君が哀れだ」

 

 レフは手を大きく振り、中空に巨大な穴を空けた。その向こうに見えるのは、太陽のように赤く染まるカルデアス。思わず私も引き込まれてしまいそうなほどの熱量と重力を持った、情報の暗黒空間。

 

「これが、お前たちの愚行の末路。人類の生存を示す青色は欠片も無い。全てが赤く染まっている。どうだい、よく見るんだオルガマリー・アニムスフィア!あれは、君のせいでこうなったんだ」

 

 

 その声が届くやいなや、オルガマリーは走り出した。制止するマシュとイーノックの手を振り払い、一直線にレフの元へ駆けていく。

 

「わたしは・・・私は、失敗していない!私の責任じゃない!私は、死んでなんかいない!何をさっきから滅茶苦茶なことばかり言って!あなたはどこの誰!?私のカルデアスに何をしたの‼」

「アレは、君のではない」

 

 

 駆けていくオルガマリーの体が徐々に宙へ浮いていく、足が地面から離れ、その指先はレフの鼻先2㎝程までで止まる。レフはその手を思いっきり叩き、カルデアスの方へと押し込んだ。その肉体は空中から地面へ落下するように徐々にカルデアスへと近づくスピードを増していく。

 

 藤丸とマシュはオルガマリーをなんとか掴もうと全力疾走で追いかけたが、あと少しのところで届かない。オルガマリーの断末魔が響く。間に合わなかったか。時を戻してもいいが、イーノックが死んでいない状態で戻してしまうのは危険だ。それのせいで、魂が余計な経験を積んで事態をさらに悪化させかねない。

 

 その時、私の横を猛スピードで駆け抜けていく人影があった。イーノックだ。その手には完全浄化されたアーチが一振り。

 

「マシュさん!私が飛んだあと、その盾を私の言う通りに空間に固定してください!」

「イーノックさん!?」

 

 イーノックは大きく踏み込み、アーチを構えて跳躍・・・いや、飛翔に近い。1秒とかからずオルガマリーの元へ到達。イーノックはさらにアーチに浄化の力を送りこみ__。

 

 一刀のもとに、オルガマリーを切り裂いた。

 その途端、カルデアスに落ちていくオルガマリーの魂が青と金の光に包まれ、まるで吊り上げられるかのように上へ上へと昇って行った。天井、ではなく天上__天界へ向かったのだ。

 

 しかし、このままでは今度はイーノックがカルデアスに吸いこまれる番だ。

 さて、何を見せてくれるのか。

 

「マシュさん、私の真後ろに!」

「は、はい!マシュ・キリエライト、指示に従います!」

 

 イーノックの後方にマシュの大盾が現れ、イーノックはそれを踏みつけた。私はここで、イーノックが何をしようとしていたのか分かったよ。

 

 イーノックは、水泳選手のように盾を壁として蹴り、自力で藤丸たちの元へ戻ってみせた。オルガマリーの魂の消滅を防ぎ、かつ自分もカルデアスに呑まれることなく帰還を果たす。流石だよ、イーノック。相変わらず私を退屈させない八面六臂の活躍。私は思わず拍手喝采を送った。

 

 

 あまりにも素早く、それら一連のことが起きたために、妨害することが叶わなかったレフは、忌々しそうにイーノックのことを睨んだ。イーノックもその視線に気が付き、睨み返して見せる。

 

「・・・まあいいだろう。あんな小娘がどうなろうと、計画に支障はなし。・・・ロマニ。友として最後の忠告をしておいてやる・・・カルデアは、用済みとなった。この時点で人類は滅んでいる。もう観測すべきものは無い」

 

 レフは改めて三人を見た。三人もレフを見ていた。それから数秒後、洞窟が崩壊を始めた。大きな振動が波のように押し寄せ、岩盤が紙のように裂け始める。

 

「特異点の崩壊が始まったようだな。・・・さて、私はここらで失礼させていただくよ」

 

 レフは背を向けて、やってきた時と同じように歩み始める。藤丸がそれをすぐに追おうとしたが、マシュがその腕を引っ張って止めた。次の瞬間、藤丸の目の前に巨大な岩が堕ちた。弾かれた小石が藤丸の頬を切り裂く。

 

「__これは人類史による人類の否定だ。お前たちは進化の暴走で自滅するのでもなく。神による洪水によって滅ぼされるわけでもない。自らの無意味さに!自らの無能さゆえに、何の価値も無い紙屑のように燃えて死ぬ!」

 

 崩落する岩の雨の中、イーノックは藤丸とマシュに覆いかぶさるように降り注ぐ岩から身を挺して守っている。

 

「ドクター!レイシフトの実行を!」

「やってる!だけど、間に合わなかったらごめん!その時は意識を強く持ってて、そうすればサルベージは」

「少し黙っていてくださいドクター!怒りで冷静を失いそうです!」

 

 もう失っていると思うのだがな。そう思っていると、岩を縫うようにして駆けてきたフォウが藤丸たちの元へたどり着いた。そして、私の方を向いて「ンキュ」と短く鳴いた。

 

 ・・・まさか、私のことが見えて。

 

 そう思った瞬間、電車の窓の向こうの景色のように辺りの全てが高速で流れ、青い大渦の中を光に向けて吸いこまれていった。

 

▽△▽

 

 次に目を覚ました時、私は死ぬ。彼女は・・・オルガマリーはそう思いながら目を閉じ耳を塞ぎ、全ての現実から逃避するようにうずくまっていた。もう、見たくないものはすべて見た。聞きたくないことも全て聞いた。もう、目も耳もいらない。どうか、一人にしてほしい。彼女はそう切に願い、そして、数多の情報に肉を焼き切られることを恐怖していた。

 

 しかし、一秒経ち。一分経ち。体感で15分ほどそうしていても、なんの痛みも感じない。それどころか、心地よい暖かさまで感じている。彼女は泣きながらにその眼を開いた。

 

 涙のせいでぼやけて見えるが、そこは一面の白い世界だった。雲の上というわけではなく、ギリシャや古代ローマの建築物を思わせる柱や神殿が存在する純白の世界。彼女は驚きと共にハンカチでその涙を拭い、よろよろと立ち上がった。

 

 何度見ても、ピュアホワイトの世界に建築物があるだけ。紅く染まるカルデアスも、悪魔のような嘲笑を浮かべるレフの姿も無い。白と薄灰色の影が支配する場所で、色があるのは彼女一人。絶望と恐怖の次に彼女の心を支配したのは安心と困惑だった。

 

 そこに、糸のような金の長髪の白ローブの男が近寄ってきた。

 

「貴女は・・・」

「!」

 

 オルガマリーは突然声をかけられたことに驚き、緊張の糸が一気に切れたことでふらふらとへたり込んでしまった。さらに、腰が抜けたようで自力で立ち上がることができない。それを見かねた長髪の男は引っ張り上げようとその腕を伸ばす。

 

「大丈夫ですか?その、ここには来たてのようですので声をかけたのですが・・・」

「・・・・・・」

 

 オルガマリーは何も言わず。否、何も言えないままその左腕を伸ばした。それに、長髪の男は困ったように笑い、

 

「すみません。できれば右腕を伸ばしていただけると・・・」

 

 そこで、オルガマリーは男のことを始めてしっかりと見た。

 彫刻のように整った顔立ち。満月を思わせる、優しげな金色の瞳。そして・・・肩から先が存在しない右腕。差し出された左腕。・・・オルガマリーは左手をひっこめ、右腕を伸ばし、その左手を掴んで立ち上がった。

 

 

「・・・だいぶ、お疲れのようですね。よろしければ、すぐそこで休んでいきませんか?」

「・・・・・・」

 

 オルガマリーは、デートに誘われる婦女子のようだと思いながらも、コクコクと頷き、手を引かれるままに男の後をついて行った。そこで、オルガマリーは半分泣きながら男に聞いた。

 

「あなたの名前は・・・?」

「ミカエルと言います。さぁ、今はこちらへ。話は、その後でもいいでしょう」

 

 ミカエルの言う通りに、その後をついていくオルガマリー。しおらしい。そう思いながら、彼女は胸の内から湧き出る感情のままに泣き、ミカエルはオルガマリーが無き止むまで抱きとめ、その胸を貸していた。

 

 

 

▽△▽

 

 特異点F 炎上汚染都市 冬木/炎上浄化義人 イーノック

 副題:《古の旅人》

 

 =定礎復元=

 

 

To be continued




「帰ってきた、私の光が・・・!おお、ジャンヌ!」
「__そんな紙切れのような信仰なんて・・・私、悲しくて悲しくて・・・気が狂ってしまいそうなくらい、笑ってしまいそう」
「七つの特異点、その一つ目・・・フランス、オルレアン」
「イーノック。この時代に起きたことも、その先に起きたことも。お前とは関係のないことだ」
「私はこの期に及んで、まだ迷いを抱えている・・・」
「恋バナをしましょう!」
「神は言っている、"全てを救え"と」
「__神がおわしますならば、私には必ず天罰が下るでしょう__」
「すまない・・・」
「これより逃げた大嘘つきを退治します」
「ヴィヴ・ラ・フラーンス!」
「あなた、まるで遠慮が無いのね」
「話の途中だが、ワイバーンだ!」
「汝は竜、罪ありき!」
「ア マ デェ ウ スゥゥゥゥ!」
「来いよ処刑人!ギロチンなんて捨ててかかってこい!」
「私は言ったわよ。もう一人の私に」
「私はこんなにも、子供たちを愛しているのに!」
「再びオルレアンを解放し、竜の魔女を排除する」
「マスター適正者、48番。藤丸立香。その覚悟はあるか?」


「それが、自分にできることならば!」

▽△▽

 NEXT

 第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン/暴走狂的慈悲 ■■■■■
 副題:《救国の聖女》/《■■■■■の慈悲》
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