おにてん! 転生トラックに轢かれた俺は鬼滅の刃に転生憑依しちゃった!? しかも鬼で!? 作:はやせこういち
手持ち無沙汰に開いた書。
そこから視線を外す事もなく、鬼舞辻無惨は問いかけた。
「で?」
「悲鳴嶼行冥、不死川実弥と思われる人間は殺害済みです。無惨様のおっしゃっていた鬼と戦闘中の所を、強襲致しました」
猗窩座の言葉に、無惨は特段興味を示さなかった。当然である。
相手は呼吸を使えず、いやその存在すら知らない。鬼殺隊でもない人間を殺す事など、造作もなかった。
たかだか身体能力が良いだけの木偶の坊、たかだか特殊な血を持つ小童が相手だ。上弦を相手にすれば、一溜まりもない。
――竈門穪豆子が十二歳、つまり鬼滅の刃開始時の年齢になるまで、しばらくの猶予がある。
その間、鬼舞辻無惨は徹底的に鬼殺隊戦力の削減を図った。
いずれ柱になるであろう逸材も、経験あってのものだ。
鬼と素手で相対した男は、いずれ確かに岩柱の名を冠しただろう。それは黒死牟が殺した。
極めて稀な血を持った男は、いずれ確かに風柱の名を冠しただろう。それは猗窩座が殺した。
出身地すら分かっているのだ。相手を見つける事は随分と簡単だった。
特に、今の無惨には便利な道具がある。
「無惨様がおっしゃっていた蛇柱なる者は、現在調査中です」
「伊黒小芭内は影が薄い。が、八丈島にいる事は分かっている。それに、鳴女の血鬼術があればいずれ見つかる」
――無惨様は更なる高みに昇られた。黒死牟の言葉が猗窩座の脳裏を過ぎる。
まるで未来を見通しているかのような振る舞いに、猗窩座は言い様のない高揚感を抱いた。
仏教の言葉に、天眼通というものがある。常人には見る事の出来ぬ事柄を、自由自在に見通すというではないか。無惨の口ぶりは正にそれだった。
無惨は、既に産屋敷の所在まで把握していた。鳴女の血鬼術があれば容易いものと言えよう。
全く便利な鬼で、こんな事なら早くから血を大量に与えていたものをと、無惨自身歯噛みしたほどだ。
「――そうだ。もっと早くから気づいていれば、産屋敷や鬼殺隊に頭を悩ませる事はなかった。何故気づけなかった? そうだ。お前のせいだ、夢幻」
猗窩座を退室させた後、微かな苛立ちが無惨を襲った。ささくれ立ったそれは些細なものであったが、許せる無惨ではない。
無惨が床を踏み鳴らす。いや、踏みつけているのは床ではない。
鬼の頭だ。まるで蹴鞠のような扱いを受ける度、凹んで、縮んで、形を変えて、苦しみの表情を浮かべている。
無残だった。その鬼は、無惨によってこうなってしまった。
地べたに這いつくばったそれが上弦に名を連ねる者だとは、それこそ夢にも思うまい。
夢幻。それが男に与えられた名である。
「た……たたんじ……」
夢幻の言葉には意思が見受けられない。
一方、その場から離れた猗窩座もまた、夢幻の事に考えを巡らせていた。
およそ、上弦らしからぬ、鬼。恐らくは、無惨様の血に耐えられる才能がなかったのだろうと、猗窩座は考えていた。
肉体こそ猗窩座や黒死牟に比するものがあったが、頭がおかしくなってしまっている。時折人の言葉を取り戻す事があったが、それも猗窩座に理解出来るものではなかった。
所変わって、無惨と夢幻。普段から無惨は鬼に手厳しいが、とりわけ上弦の伍には更に厳しい。
無惨の手刀が、夢幻の頭をかち割る。
「夢幻。夢幻。夢幻。起きろ。この私が呼んでいるのだ。起きるがいい」
無惨の手が、脳みそをいじくる。
するとどうした事か。それまで虚ろだった夢幻の眼が意志を取り戻す。それと同時に鳴り響いたのは夢幻の悲鳴であった。
「ああああああああああああ!? れれれれれれれれれれれれれれれ!????????」
「喋るな」
夢幻の口が顔半分ごと、捥がれた。だが、悲鳴が止まることはない。
鬼舞辻無惨をも凌ぐ再生速度が夢幻の長所だった。
「それがチートという奴か?」
「ここここここおこここ、こんなチートいらないいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」
「夢幻。私を焦らすな。私が今、何を必要としているか分かるな? 私の必要としている事を、話せ」
「ひ、必要? 必要って、何をひつよう?」
「私の欲しているものが分からないのか?」
無惨の眼差しが、夢幻に向けられる。上幻の鬼の瞳は、一瞬にして恐怖で染め上がった。
夢幻は、鬼舞辻無惨のパワハラに耐えられない。
夢幻は必死に考え込んだ。無惨の欲している情報、情報、情報、情報!?
「な」
「早く話せ」
「な! な、なきめの、血鬼術は! ば、ばばばば、ばれる、可能性が」
「もっとしっかり思い起こせ」
「あああああああああああああああ!! た、炭治郎! 炭治郎! たんじろおおおおおおおおおおおお!!!!!! 早くこいつを煽りの呼吸でコロ、オギョ?!」
鬼が叫ぶ。
夢幻――いや、早瀬幸一はチートを持っていた。いわゆる、オリ主最強設定である。
再生速度といった鬼としての強度――並びに血鬼術においては、あの黒死牟さえ辿り着かぬ高みに座すと言っていい。
だが、夢幻の神様転生ギフトはそれだけだ。それが致命的だった。
『鬼だけど鬼滅の刃で気楽に生きる』をやるにしても。
『鬼だけど鬼殺隊やってます』をやるにしても。
早瀬幸一は鬼舞辻無惨の知覚の及ばぬ所に行くべきだったのだ。
それを、最優先するべきだった。
或いは、前世の記憶を忘れるべきだった。
未来の柱達は、この鬼のせいで死ぬ事となる。
この短編が完結する前に蛇柱過去編入ったら、
その時点で2話の追記修正します。伊黒小芭内は死亡します。