呪術転生 〜とりあえず死にたくないです〜 作:匿名中
色々とプロットを練っては崩しを繰り返しましたが、ある程度目処が立ったので、ぼちぼち再開します!
では、本編どうぞ!
この世に生を
最も古い記憶の時から、己が普通とは違うと認識していた。
俺の産まれた家、俺の肉体に刻まれた術式、俺を産んだ
異質だと感じる要因を挙げればキリがない。
世界の常識を知ることさえできれば、それらから俺が離れた位置に座することを自覚することなぞ簡単だ。
お前なぞ産むんじゃなかった、と。
実の親にそう言われたのが、確か五の頃。
その一言で、自分でもうまく言葉にできない、腹の底に
どこか腫れ物のように接してくる人間だけでなく、実の息子にも容易く罵倒を口にする親を前に、普通でいろと言う方が無理な話だ。
まともな感性で育ってなんかいない。
七つの時に刺客を向けてきた家のことなぞ知ったこっちゃいない。
呪霊なんぞより禍々しく、目に見えて負の感情を撒き散らす母など既に殺した。
母の血を被り、屍の上に立っているその瞬間、ようやく俺は──
「……ヒ──ケヒ」
この世界は地獄なのだと、気付いた。
♦︎ ♦︎ ♦︎
戦闘は、至極対照的であった。
自然体のまま動かない夏油と、彼の使役する呪霊の数々を相手取るために動きを止めない
初撃に限り、先手を許した夏油だが、そこからは者祓よりも二手三手早く行動に移っていた。
彼の扱う術式、呪霊操術。
呪符などを扱う式神術のようなものではなく、媒介もなしに取り込んだ呪霊を使役することができるこの術式は、前述のそれよりも展開が早く、また同時に現表できる数も多い。
加えて、取り込んだ呪霊のストックさえ尽きない限り、持続的に呪霊の展開を行い続けることが可能だ。
当然、今回の戦闘を想定していた夏油は並々ならない数の呪霊のストックを溜め込んできており、またその質も上々。
一匹一匹はそれなりの強さだが、百に及ぶ群れで襲いかかる肉食魚の二級呪霊。
一見狼のような駆体をしているが、よく見ると足が六本な上、牙はなく、口がそのまま鋭く尖ったクチバシのような形をしている準二級呪霊。
キョンシーのような見た目で、両手の隠れた袖から無数の汚れた包帯を伸ばして攻撃を行う準一級呪霊。
など、など、など。
これらが一斉に襲いかかってくる時点で足を止めての迎撃にも限界が来る。
故に、者祓は広大なドーム内を駆け回り、包囲されぬよう立ち回る。
一見、夏油が優勢。者祓がジリ貧な状態、詰み一歩手前と思われるだろう。
だが。
「ふふ、中々の術師じゃないか」
視線の先で、棍のような呪具を両手で操りながら次々呪霊を撃破していく者祓に、夏油は素直に感嘆する。
先に述べたように、夏油の繰り出す呪霊たちは近距離中距離の攻撃手段に加えて、一部は術式持ち。
それらを瞬間的に捉え、祓う順序を判断していたのだ。
近接は自ら得物とする棍で、遠距離は初撃で見たような呪具の射出で。
一度に十数の呪霊を相手にしながら、ここまでの祓う速度を維持するのはハッキリ言って異常。
経験に基づいての故か、手慣れた様子で夏油の呪霊を祓っていく。
その者祓の処理速度は、夏油の呪霊展開速度に肉迫するかのような勢いであった。
このままだと者祓を殺すよりも先に手持ちのストックが尽きかねない、と。
そう判断した夏油は少しばかりの所作を行おうとした時だ。
「──おっと」
咄嗟に横に移動した夏油の裾を掠めるように、鋭い長剣の呪具が風を裂くような勢いで飛来。直撃を逃れた夏油の背後の扉に深く突き刺さる。
それを見据えた夏油が不意に者祓に視線を戻すと、彼が呪霊を祓いながらも、鋭い視線を此方に向けているのに気付く。
「怖いね」
思わずそう呟いて、残してた中でより強力な呪霊を新たに呼び出そうとした瞬間だった。
「……ッ」
彼の持っていた棍が突然バラバラになった。否、バラバラというには少しばかり規則的すぎる。
二メートルほどあった棍が二十ほどの数に均等に分割。その一つ一つが黒い鎖で繋がれており、彼がその一つを持って手首を小さく捻ると、まるで生きているかのように空を駆けて辺りの呪霊を蹂躙した。
いくつもの衝撃音が響くのを耳にしながら、夏油は考えつく。
「仕込み多節棍か」
分割した一つ一つには呪霊を祓うに十分な呪力が込められており、それらが衰える様子がない。
どうやら、区分された棍を繋ぐ黒い鎖がそもそも呪力で作られたものであり、それらを介して呪力を回しているようであった。
「オラ、歯ァ食いしばれ」
近遠ともに呪霊を薙ぎ払った者祓は夏油に向けて短くそう言い放つと、次いで駆け回るのを辞めて夏油へと接近。
呪具の扱いだけでなく、呪力による身体能力強化も流石の一言であり、地面への一蹴で加速した者祓の体はさながら砲弾だ。
「いやいや、遠慮する」
者祓の言葉に嫌な笑みを浮かべてそう返した夏油は、右手を目の前に持ち上げて、一体の呪霊を現出させる。
甲冑であり、鬼であり、武士のような呪霊であった。
全身は甲冑だが、その甲冑の隙間の全てに人間の爛れた皮膚、腐ったような皮膚を混ぜて詰め込まれており、頭部の兜からは六本の肋骨のような形状の骨が飛び出している。
『
空洞の中で音が乱反射したような、不快な響音で鳴く呪霊は術式を持ち得ていない。
故に等級は二級以下。
だが。
「──チッ」
夏油への突撃途中に多節棍を巧みに操り、繰り出した十数もの重撃を物ともせず、やむをえず夏油に繰り出すはずだった、空いた片手で渾身の拳を打ち出す。
しかし、それも難なく受け止められてしまう。
たまらず後退しようとする者祓だが、それを許す夏油ではなかった。
「逃がさないよ」
その一言に連動するように、甲冑の呪霊の両腕が者祓の背中に回され、彼の両腕ごと抱きしめられる。
者祓は反射的に全身に呪力を回し、その腕を力づくで取り払おうとするが。
「硬ッてぇな、オイ、クソが……ッ!」
額に血管を浮かべながら者祓が振り払おうとする力より、呪霊の締め付けるような力の方が強く、ギチギチと音を立てて者祓を絞め殺そうが如くの様子。
思わず手にしていた多節棍を落としてしまう。
防御力だけでなく、この純粋な膂力。
明らかに二級どころか一級以上、特級に届き得る。
「術式を持たない代わりに、単純な呪力では特級をも凌ぐ呪霊さ。私のお気に入りの一つなわけだけども……どうだい?
呪霊の背後でそう告げる夏油だが、者祓にそれを返す余力はない。
少しでも力を緩めると一気に持っていかれると確信しているからこそ、先ほど者祓の歯を食いしばれという発言の意趣返しに一々口を開いて反応している余裕を持ちえないのだ。
「(こンの野郎が……ッ!)」
言葉にして返せない代わり、額に浮かぶ血管をさらに明確にし、呪霊に向ける視線をさらに強くする。
ギチギチと音を立てる締め付けが、少しずつ鈍い音を伴うようになった瞬間だ。
「しゃぁねぇなぁッ!」
その一言と同時に呪霊の下の地面から新たに槍の呪具が四本出現。正確に呪霊の両脇を二本ずつ直撃し、締め付ける力が弱まる。
者祓は一気に呪霊の両腕を取り払うと、続けた。
「一式・
者祓がそう唱えると、者祓の脇の下から一本の槍が飛び出す。
夏油はそれが初撃、遠距離相手に用いていた攻撃と同じと気づいた。
それと同時に考える。
亀の呪霊の甲羅をギリギリ貫通せしめた攻撃では、この呪霊に攻撃が通らないだろう、と。
だが、その一本の槍は、先ほど亀の呪霊を貫いたように甲冑の呪霊を貫いた。
「おや?」
思惑が外れた夏油は思わずそう呟くが、瞬時に呪霊がやられたと判断し、丸太ほどに体積の大きい呪霊、
対して、者祓。
彼は三体の蚯蚓呪霊からバックステップで距離を取りつつ、懐から三本のクナイを取り出すと蚯蚓の呪霊にではなく、蚯蚓の呪霊の影へと投げつける。
「四式・影縛り」
着弾と同時に者祓がそう唱えると、蚯蚓の呪霊はピタリと動きを止めた。
続けて、動かなくなった蚯蚓の影を踏みつける。
「──二式・影贈り」
その言葉を聞いた途端、夏油は横に跳んで回避行動。
瞬間、夏油のすぐそば、正確には夏油の近辺で現出させた蚯蚓の呪霊の影から長刀といった呪具が飛び出し、夏油が元居た場所を襲った。
「(これは……)」
回避の最中、夏油は突然の三つもの技の繰り出しを行った者祓を横目に捉えつつ、それらの共通点を据える。
「影を媒体……利用しているのか」
「あぁ、ご名答……だッ!」
ポツリと呟いた言葉に、者祓は肯定を口にしつつ再度槍の射出、曰く一式の凸影戎を放つ。
一目見た時から、その速度では回避は間に合わないと判断していた夏油は自ら着衣している袈裟の裾で斜めに受けると、すぐさま体ごと勢いを流し、いなして見せる。
結果、射出された呪具は受けた裾を巻き込んで貫通したものの、夏油に直撃することはなく背後へ流れた。
「チッ」
者祓は忌々し気に舌を打ちながら、少しばかり感嘆する。
式神にしろ呪霊にしろ、なにかしらを使役するタイプの術式使いは近接が不得手なことが多い。当初全く動く素振りがなかったことから、夏油もその典型と見ていたが、今の回避行動とその体捌きはそれのものとは異なる。
それだけで術者としてのレベルが垣間見えた。
「あらら、大事な一張羅が」
そんな者祓の警戒を他所に、破けてしまった裾を見やりながら余裕そうに笑う夏油は、続けて視線を者祓へと移す。
「技名を唱えてから、明らかに威力が上がった上、影を媒体にする幾つかの術式効果。一式、二式と。それが技数だとしたら、まだまだ抱えてそうだね」
あくまで最初のペースを崩さないままそう告げる夏油。
対して、者祓は何かを答えようと口を開いたが、一瞬止まった後に大きくため息をついた。
「テメェ、強えな。久々に見るぜ、一挙手一投足に強さが滲み出てくる奴はよ」
「それはどうも」
あくまで淡々と。
先ほどから笑みを貼り付けながら、感情の起伏がないような受け答えをする夏油への賛辞だが、それも彼のペースに特に波風を立てない。
続けて、者祓はもう一度ため息をついた。
先ほどの、冷静になるための区切りではなく──
「──さて」
本気を出すための区切りとして。
「『
名前の通り、術式効果を一から九まで区分して、それらを技として扱う術式だ」
術式の開示を開始。
手の内をさらすという利のない行為により、術式効果の上昇を図る『縛り』の一種。術式を扱う者以外にも、呪力に携わるものであれば目的・手段の開示などでも『縛り』として適応される。
呪霊相手ではなく術者同士の殺し合いというこの状況。
その中での術式の開示を意味するのは至極単純。
余力を残さず殺す、という意思表示だ。
「こンだけじゃあ、まだまだ弱ぇ術式だが、これに加えて、呪具を一度俺の影に沈ませることでそれらを術式効果に乗せることができる。俺ン影に今ストックしてる呪具の数は二百と少し。一度術式効果に乗せた呪具は二度も使えないっつー縛りで軒並み威力を向上させてンだ」
つらつらと開示していく者祓。
敵対する術者ならば開示が終える前に横槍を入れて邪魔を行うといった手段は、術式開示の対抗策として在る。
だが、夏油は動く様子もなく、また笑みも浮かべたまま、ただその開示内容を聞いている。
それを見て、者祓は小さく口を開いた。
「──まだ、余裕か?」
「……まぁ、まだ余裕だね」
「そうかよ」
三度目のため息。
だが、もうそこには感情はなかった。
「名乗るぜ。呪いたる器の会、幹部三字席『者祓』だ。殺してやるから、最後まで油断したまま死んでくれ」
「名乗りもしないし、死にもしないよ。押し潰そう」
戦闘、継続。
♦︎ ♦︎ ♦︎
同時刻。
東京都内の西東京市にある少年院から、冥々から報告の受けた地点である長野県へ向かう俺こと荒谷とムラマサ。
その呪力で強化された肉体で駆ける速度は常人どころか車よりも速く、山々の悪道を手慣れた様子で踏破していく。
こうした道ではない道を駆け抜けるのに慣れたのは、別に指名手配中の身になってから逃げ回ったがため、というわけではない。
呪術師たるもの、どんな環境でも対応してこそである。
流石に毒ガスが蔓延してるなどとなれば相応の対策をするが、通常の任務内で想定されるものであれば、俺でなくても大抵の呪術師であれば特に問題はないだろう。
それに、指名手配の身になってからはどちらかというと、逃げ回るよりかは身を隠す方に全振りした具合だ。
「(五条先生みたく、固定ルートでも瞬間移動できれば違うんだけどな……)」
そう思うと同時、俺とムラマサは森林の悪路を直進の末、突然の断崖絶壁の崖に身を投げ出す。
宙に飛び出した故に開けた視界。
それでも見えるのは、陽が降りたばかりに暗い空と山々に広がる緑ばかり。まだまだ山は続いているため、目的地にはまだ遠い。
幾分か放射の軌跡を描いて宙を跳んだ俺たちの身体は、すぐに重量に捉えられて落下する。
目測二十五メートル。
落下先は数々の木々。
「(……これかな)」
呪力で強化した視力と肉体。
頑丈そうな木を選別し、木の頂上に近い幹に手をかける。
もちろん、頑丈そうと言っても、高度から落下してきた人間を支えるには硬度は不十分なため、ミシミシと軋みながらわずかに反っていく。
たが、それで充分。
落下の勢いを充分減らせたため、折れる前に手を離すとそのまま地面に落ちると同時に受け身。
肉体そのものの強度を呪力で強化したために、常人ならば受け身をしようとも内臓にまでダメージがいくであろう衝撃を難なく堪えた。
少しばかり服が汚れたが、ショートカットの対価と思えばさしたる被害でもない。
横を見れば、ムラマサは俺と違って着物に一切の汚れを付けずに着地に成功していた。
流石は呪霊。呪力を孕まない衝撃なぞ効きもしない。
俺はそんな彼を見納めると、次いで口を開いた。
「もう少し速度を上げる。ついて来れるか?」
「問題ない」
そのムラマサの言葉に、俺はさらに速度を上げることを答えとした。
先ほどまである程度セーブしていた呪力を強め、身体強化に回す。
視界の端の景色の流れが早まる。
そんな荒谷を追いつつ、呪力に帯びたその肉体を背後から視るムラマサは内心で冷や汗をかいた。
「(流石の呪力出力……気を抜いたら置いていかれる)」
呪術師が基礎として行う呪力による身体能力強化。
その呪力を練り上げられる量は個々によって異なり、更にそれを身体へ回すのは基礎ながら練度が必要となる。
特級呪術師ながら、直接戦闘に関与するものではない術式を持つ荒谷は、その練り上げる呪力量とその操作方法のどちらも他の呪術師の追随を許さないレベルであり、それは高専にいた頃から(五条を除いて)最高練度であった。
荒谷自身が呪力に馴染みやすい特異体質ということも一役買ってはいただろうが、本質的には長年欠かさず続けてきた努力によるもの。
上層部から見て危険な術式であったがため、というのもあるだろうが実力的には実質純粋な呪力のみで特級認定された男。
それが荒谷明仁であった。
以前、荒谷が特級呪霊を拳一発で祓ったことを思い出しつつ、ムラマサは呪力を両足へと回して速度を上げた。
およそ、十分ほどした頃だろうか。
山を登って降りてを何度か繰り返した後、二人は整地された一般道路へと出た。
日が落ちたといっても、時間にすればまだ二十時前半。
それでも全くと言っていいほど車の気配はなく、また人の気配もなかった。
「ラッキーだな。このまま道を駆けるぞ」
「承知した」
本来なら進むべきは木々に覆われ、道らしい道もない山道。
その理由は直進することでの距離の短縮というわけではない。地図上では一般道路の道のりよりも直線の方が早そうだが、舗装された道路と荒れた山道では踏破する時間も労力が段違い。道路を走った方が時間も体力も使わずに済むのだ。
何度も言うが、荒谷は呪詛師。加えて、特級。
呪術界隈での認知度や危険度に由来する優先度も高いため、発見の可能性を抑えるべく出来る限りの隠匿行動が必須だ。
今この時に発見されずとも、呪力の残穢もここまで呪力を用いていれば隠せるようなものではなく、また窓が見つけるのも容易となるだろう。
故に、本来ならば視界の開けた一般道路よりも山道を行くべきなのだが──
「(今は時間が惜しい。速度優先だ)」
そう判断した荒谷は踏力の強さ故コンクリートをわずかに割りながら道路を進み始める──その瞬間だった。
「……ッ! ムラマサッ!」
荒谷たちの右横、道路の脇の木々の隙間を抜けて金属らしき何かが高速で飛来。荒谷ではなくムラマサへと向かう。
咄嗟に荒谷がムラマサの名を呼んだおかげか、彼は回避は間に合わなかったようだが、わずかに刀を鞘から抜き、その刀の峰で受けてみせた。
防ぐことは出来たが飛来物の勢いに負けて、道路の左脇へと吹き飛ばされるムラマサ。
足を止めて彼の方へ視線を向ける荒谷だが、次いで反対側から物音が聞こえ、反射的に視線を移して。
目を疑った。
「な……ッ!?」
そこに居たのは、高専の服を身に包む人型傀儡。
京都校二年生の
何故ここに、という疑念に思考が憚れ行動が遅れてしまった荒谷と異なり、メカ丸の行動はスムーズだった。
自身の右腕を荒谷へと向けて、呪力を溜める。
それを視認すると、荒谷のスイッチが切り替わった。
思考の流れが正常へと引き戻される。
「(コイツは……)」
彼の反対側の左腕は肘から先がなく、おそらく先程飛来した金属物体がメカ丸の左腕なのだろう。
遠距離攻撃の手段として砲撃があったのにも関わらず、わざわざ腕を飛ばしてまで最初にムラマサを狙い、この道の横へ吹き飛ばしたのは、ムラマサを荒谷から引き離す算段と推定。
つまり、だ。
「(一人じゃねぇな、当たり前だろうけども)」
その判断は見事的中。
メカ丸と相対する荒谷の背後、そこへ吹き飛ばされたムラマサの視線はメカ丸に向いておらず、別方向の敵へ向けられていた。
同じく高専の制服、糸目の男子。
京都校三年生、呪術界の御三家次期当主の加茂憲紀だ。
メカ丸の右腕がガチャガチャと音を立てて一部展開。蓄積した呪力を熱へと変換して圧縮し、それらを放つ準備を行う。
その狙いは荒谷明仁。
加茂は懐に忍ばせていた輸血パックから自身の血液を宙に散らすと、それらを術式効果で圧縮・両手で包み、僅かに両中指を空けて射出の準備を行う。
その狙いはムラマサ。
攻撃はほぼ同時であった。
「
「
片やドウッ!と轟音を立てて放たれた広範囲の呪力砲、片やキュンッ!と空気を裂くように放たれた一点集中の貫通攻撃。
故に荒谷とムラマサの対応は異なっていた。
背後のムラマサに攻撃が漏れないよう全身を満遍なく呪力で覆って受けようとする荒谷。
超高速で放たれた血液を持ち前の反射により刀で受けようとするムラマサ。
荒谷、ムラマサのどちらも特級。
各々が瞬間的に判断したそれはその場における最善手であり、防御手段としては完璧な答えだろう。
だが、それはあの男が居なければ、の話。
「ッ!?」
攻撃が着弾する寸前に辺りに響いた渇いた音。
パンッ!と両の手を叩いたかのような音だ。
それが耳に届いた瞬間には、荒谷とムラマサの位置が入れ替わっていた。
ムラマサはメカ丸の呪砲を全身に受け、荒谷は高い貫通力を誇る加茂の攻撃を額に直撃してしまった。
加茂が用いた
「〜〜ッ!」
それを額に受けてしまった荒谷は、鋭い衝撃に頭部が弾かれたような感覚に陥り、身体が後ろへ投げ出された。
彼の額は裂かれ、そこから血が溢れ出す。
傷がこれだけで済んだのは、反射的に荒谷が額に呪力を僅かながら集中させることができたからだ。
長い間感じていなかった痛みに顔が歪み、合わせて思考が澱みが生まれる。
だが、何が起こったのかは正確に理解した。
「(入れ替わりってことは──)」
瞬間、再度手を叩いた音。
俺の視界の端で、俺の額にぶつかることで弾けた加茂の血液が
「東京観光──万事、高田ちゃんの個握のついででしかなかったが……来た甲斐が、あったぞッ!」
その言葉とともに放たれた踵落とし。
十分な呪力と彼が作り上げてきた筋肉が合わさって繰り出されたそれは、俺の身体を容赦なく地面へと叩きつけ、その威力の高さ故地面に大きくヒビが広がる。
しかし、その見た目に反してダメージは少ない。
加茂の攻撃と比べて、まだ攻撃を予測できたため、呪力による防御が間に合ったのだ。
故に、反撃も速い。
「……シッ!」
地面を背にしながらも腰を持ち上げ、左脚を繰り出した。
雑な一撃ながら、そこに込める呪力により高威力を誇る。
パァンッ!と音が響いた。
「………ハァ、厄介極まる」
寸止めで止めた左脚。
先程荒谷が攻撃しようとした男は、ムラマサと位置が入れ替わっていた。
「マスター」
「ん、さんきゅ」
ムラマサに差し出された右手を掴み、お礼を言いながら起き上がると、次いで先程自分が居た道路へ視線を移す。
そこに、三人の姿があった。
「コレでほぼダメージ無しとはナ」
「特級は伊達ではない、ということだ。油断はするなよ」
「分かってル」
先程仕掛けてきたメカ丸と加茂。
その二人の一歩先に、腕を組んでこちらを見据える一人の巨漢。
「特級呪詛師・荒谷明仁。特級呪霊・妖刀ムラマサ。オマエらに会えたら、聞きたいと思っていたことがある」
二人と同じ高専の服を着てはいるが、サイズが合っていないためか前開きになっている学ラン。
それを無雑作に脱ぎ捨て、その下のシャツをも破り捨てながら一人で淡々と言葉を紡ぐ。
鍛え抜かれた肉体を晒しつつ、顔に笑みを浮かべて彼は続けた。
「どんな女が
京都校三年生、一級術師・東堂葵。
そう尋ねる彼の後ろにいるメカ丸と加茂は、心なしか疲れた表情をしていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます。
呪術アニメが始まり、トレンドにも呪術廻戦に関連する単語が続々と出てきた上、ハーメルンにも沢山の呪術二次が投稿されて狂喜乱舞しております。
アニメ化が決定してから一話投稿して、アニメが始まってしばらくして次の一話……およそ一年間……。
改めて本当に、お待たせいたしました!!!
リアルの忙しさもまだ続いているため、次の投稿がいつになるか分かりませんが、しっかり続きを決めているため時間さえあれば執筆して投稿しようと思います。
他の作者様と比べて投稿ペースは遅いですが、応援していただければ幸いです。
また、お気に入り、評価くださった読者の皆々様、本当にありがとうございます!
これからも当作品をよろしくお願いします!