未来がわかる本の鬼 作:かんりにん
私は本を読むのが大好きだ。
朝から晩まで、ご飯も食べずに寝る間も惜しんで読んで読んで読んで読んで。通学中だって本を読んで歩いていた。だからまあ、今考えれば当然の結果だったと思う。
居眠り運転の車に気づかず、そのまま轢き殺されてしまったのだから。
普通の大学生だった私は何故か過去の世界に生まれ変わっていた。私が居たのは山の中で、周りには誰もいない。しかも不思議なことにお腹も空かないし眠くもならない。最高だ。
着物のようなものを着て何も持っていなかったが、本が読みたいと思った瞬間にB5サイズの本が手のひらの上に現れた。タイトルは何も無く、どのページにも何も書かれていない。なんだこれと思った瞬間、頭の中にこの本やこの世界の私についての知識がなだれ込んできた。
「私は、鬼。この本は、鬼の特殊能力。この本は・・・未来を文として記す」
それだけ分かれば充分だ。ファンタジーものもよく読んでいたし、異世界転移というものにも理解はある。なにより私は1度死んでいるのだ。また本が読めるのなら、鬼だろうがなんだろうが構わない。早速、本に未来を記すように念じてからもう一度ページを開いた。
【江戸で犯罪を繰り返していた少年は流され、辺境の地に辿り着く。大人七人に襲われるものの、素手で全員を気絶させる】
【そこで素流道場の師範に出会い、伸され、連れていかれた先で師範の娘と出会う】
【過去に素流道場を譲り受け継いだ師範であるが、その道場を自分のものにしたかった隣の剣術道場は嫌がらせをしていた。これは3年前の話である】
1ページにも満たない内容であるが、それでも文には違いないと読み込みを続けた。この本は未来を記すが、現状把握のために過去の話も共に記載されるらしい。
【師範に道場を継いでくれないかと打診される少年。それと同時に娘との祝言も決まる。しかし】
【師範と娘は毒殺される】
【剣術道場のものが素流道場の井戸に毒を混入する】
【素手で戦っても勝てない彼らは毒に頼ったのだ】
【そして少年は剣術道場の者を皆殺し、その帰路で鬼の始祖によって鬼にされる】
文はここで終わっていた。名前も場所も時間も記載されてはいないが鬼としての直感が鋭く冴え渡り、今晩この山の麓でこの内容と相違ない出来事が起こると分かった。
もう日は暮れている。鬼は日光に当たると消滅すると鬼としての本能が告げているが、もう日光はないから好きに動くことが出来る。知ってしまったのだ。可哀想だろう。幸せになりたいだろう。だったら、私が助けてあげよう。
死んで鬼になって特殊能力を手に入れて。現実味なんて全くない。もしかしたらこれは夢かもしれない。それなら好き勝手にやってやろう。大丈夫、私は鬼なんだからきっともう死ぬことは無い。
早足で山をくだり、素流道場と剣術道場が隣接している場所を探した。数分経ち、呆気なくその場所は見つかった。
周りには誰もおらず、素流道場内にある家には2人の人間がいることが気配で分かった。そして、井戸の周りに人間が3人いることも。
気配も音も消して敷地内に入り、井戸に近づいた。井戸の周りの男どもは私の存在に気づかないまま小瓶を持って笑っている。その小瓶を開けて井戸にたらそうとした所でその男の首を掴んで持ち上げた。
「ぐっぅぅぅ!はぁ、あく、じ、かぁ・・・!?」
「ち、ちげえ!誰だてめえ!」
「くっそ、とりあえず逃げるぞ!」
毒を持っていた男は首を圧迫された事により気絶したため、投げ捨てて他の2人の首を掴んで持ち上げた。ジタバタともがいているが、鬼になった事で力が増した私の手から逃れることは出来ない。鬼って結構便利ね。
「酷いよねえ、力で勝てないからって毒殺するんだもんねえ、もうすぐ祝言あげるのに、酷いよねえ。ねえ、そう思うでしょ?少年」
「あ、あ・・・」
1人、誰かが近づいて来ているのは分かっていた。そしてそれが誰かも。ちらりと後ろを振り向くと、予想通り両腕に3本線が入っている少年がいた。この少年があの本の少年だろう。鬼になってしまう未来だった少年。
「この3人ね、貴方達に力で勝てないからって井戸に毒を入れる所だったんだよね。しかもそろそろご飯時だよね。ほら、そこの小瓶。分かるでしょ?で、少年。未来の奥さんとお義父さんを殺される所だったんだけど・・・この3人、殺しておこうか?」
片手ずつ持ち上げている2人をブラブラと揺らしながら聞くと、少年は小さく首を振った。まあ分かっていた。きっと少年は人を殺したことが無い。しかも女の子と男性は今なお生きているのだ。殺される所だったという実感がわいていないだろうし、混乱しているのだろう。
取り敢えずこの3人は毒殺未遂の実行犯として奉行所に突き出す事を勧め、私はこの道場を後にした。どうか幸せになって欲しい。
そして、本の2ページ目には違う未来が記されていた。少年は少女と祝言をあげ、幸せに暮らして寿命で亡くなるそうだ。