3-1
曇っているせいで目に見える景色全てが暗くなっているのか、それとも影という影が主張しないからか、双眼鏡越しに見える世界はどこかのっぺりと白んでいる。
アオバは一人、蓋の内側から景色をただじっと見つめて、時計を見ながら十分おきに「異常なし」という言葉だけを繰り返していた。
『西北西。そろそろ向こう側の哨戒ヘリが見える頃だ。見えるか?』
通信機からの声に従いながら、アオバは返答する。
「見えた。一機だ。いつもと変わらないコース」
『了解した。次いで東、農作班が帰ってくる頃だ。確認したら報告後、戻ってきてくれ』
「あいよ」
双眼鏡を手慣れた動きで滑らせながら、アオバは応じる。
そして泥まみれの人だかりがぐったりと歩いているのを見つけて、それを教えて、蓋を閉じる。蓋の鍵を内側から閉めることも、通信機を所定の場所に戻しておくことも忘れない。
気がつけばアオバは、もう見張りとしては一人前になっていた。回収班でも途中から置いてけぼりにされることもなくなって、たまに農作班に加わるまでに体は大きくなって、腕に力こぶもついた。
いつになっても漂ってくる生臭くてじめじめした空気を感じながら、発生元である仮設住居群を見下ろして、階段をゆっくりと降りていく。
向かう先はいつもどおり、巨大空間だ。
もう、走っている最中のトロッコへ飛びこむことも、誰かに叱られるなんてことも、なくなった。
アオバはいつも、このトロッコに揺られる度に思うことがあった。
――去年のこと。キオの体が機械だと知らされる前日から、ずっと抱き続けていたこと。
……未だキオは、この地下世界から出たこともなければ、青空を画面越しでしか見たことがない。
たまに日焼けして腕が二色になってしまうアオバとは違って、キオの肌はいつまでも、一年中どの季節でも真っ白なままだ。
今も見上げているコンクリートの天蓋。アオバはこの向こうに青空が広がっていることを、地下に潜る前から知っていた。
しかしキオはそのことを忘れて、目覚めてから三年間……いや、キオの時間感覚でならそれ以上の期間を、確認できないままだ。
どれだけアオバが青空のことを語っても、そしてその映像や写真を見せたところで、キオが直接見られない以上、キオはそれを夢のことのように思っているのかもしれない。
まるで子供のころに揃って聞かされた童話や童謡のように、皆が口裏を合わせて吹聴しているのではないか……そんなことをキオが思っていても、おかしくはない、と。
もし本当に、そんな風に疑心暗鬼になっているのだとしたら今のキオは、どれほど辛く鬱屈とした気持ちを抱きながら、この閉塞感ばかりが満たされるコンクリートの天井を見上げていたのだろう。
キオの首に繋がれたケーブルは最早、アオバの目には犬のリードのようにすら見えなかった。
それこそこの地下施設全体が、キオを閉じこめておく鳥籠のような……。
アオバは歯噛みし、トロッコから降りて階段を登り始める。