虹の彼方に、フェアリーテールの祝福を   作:在田

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 キオの首に背中の装置が接続され、その装置から図太いケーブルで繋げられた、計六つとなる一際大きな機械。

 それら全てが同じ――縦に伸びた八角形の板を、薄く、弧を描くような流線型に歪めたような形状。

 〈信仰の葉〉(ビリーヴス)とアリスは名づけている。

 

「準備はできているな」

 

 少し離れた位置にいるアリスが小型の端末を手にしながら問いかけ、キオは口を横一文字に閉じたまま首肯する。

 

「いつもどおりだ。

 微睡みの中へと潜り、覚醒状態を保ちながら眠れ。

 そのまま〈信仰の葉〉に意識を寄せろ。それは君の肉体の延長であり、また自らの手足よりも精密な制御を可能とする翼であると思いこめ」

 

 いつもよりも切迫したアリスの誘導一つ一つに従っていく。つい先ほどまで見えていた〝自らとは違う世界〟を、目を閉じることにより隔絶する。

 真っ暗な暗闇の、その全てが自分であると故意的に誤認し、目を開いたらそこにいる自分を存在させないように、暗闇と自分とを溶かして念入りに混ぜていく。

 それは夢を見るような状態に近い。

 意識しない意識を、境界線の一つすらも残すことなく暗闇と混ざり合った混沌(カオス)の生成。

 

 内側から小さな部品だけを作り出し組み上げていくことで、まるで生まれ変わるように、全く別の姿を持っている全く新しい自分を造成。

 新しい自分は六つの翼を持ち、翼の使い方を生まれながらに熟知しており、その翼が抱く風の量も流れも、その全てを内包した空間そのものでもあることを形成。

 一度その翼をはためかせれば、その翼によって動かされる空気が螺旋状を描く。

 螺旋の流れをとある場所に――自分の中心でありながら自分を取り囲む空間の外縁でもあるその一点に、収縮させる。

 

 ……再びキオが目を見開いた時には、床に設置されていたはずの〈信仰の葉〉はキオを取り囲むように宙へ浮かび上がったまま、それぞれが均等な間隔を保持している。

 地下に風など吹いていないのに、キオの周囲だけは〈信仰の葉〉によってもたらされた、風などよりもさらに強烈な粒子の流動で、とめどない風の流れを感じる。

 

「……成功だ。キオ、君の背中にはマイクロブラックホールが生成された。ただ今より電源ケーブルを解除する。異常を確認次第、あらかじめ君に教えている手順を踏まえてブラックホールを消滅させるんだ。

 〈信仰の葉〉が起動したままの状態では、君の領域の内側に生身の人間は入れない」

 

 キオが応じずとも、アリスはキオの思っているとおりのタイミングで、装置の後ろから伸びているケーブルを、領域の外から引き抜いた。

 それなりの反動があったにも関わらず、キオは直立姿勢のまま微動だにしない。

 莫大な重力そのものであるブラックホールを〈信仰の葉〉によって制御しながら、ブラックホールから取り出した電力と重力波によって〈信仰の葉〉を統制していることの証左であり、キオが自らの脳内で描く力場のコントロールが、ほぼ完璧にできているからこそできる芸当だった。

 口を開くことなく、キオはアリスへと視線を向けて、それを受け取ったアリスが通信装置でエレベータの上階へと連絡する。

 

「青い鳥を解き放つ」

 

 合図に従って、閉じていたエレベータの天板が開かれ、外の光がトンネルの中へ射しこむ。

 遙か遠くに望む光を見上げ、ようやくキオは、〈信仰の葉〉を周囲に纏いながら、ゆっくりと歩き出す。追従するように〈信仰の葉〉も動き、やがてキオは、エレベータの昇降台の上に屹立した。

 キオが一度だけアリスを振り返り、口ずさむ。

 

「それじゃ、行ってくるね」

 

 アリスはその言葉に返答しなかった。

 ……いや、できなかった。

 口を開くよりも先、爆発にも似た空気の奔流が地下の中で吹き荒れ、思わず腕で顔をかばってしばらく。風が止んだころにそこを見たところで、すでにキオが飛び立った後だった。

 

 

 ごお、と空気がうねる音が聞こえたと思ったら、開いた穴の中から尋常ではない速度でそれが飛び出し、そのまま宙へ身を投げ出した。

 後れた突風が吹き上げる中、アオバはそれへと視線を向けた。

 

 確かに言われていたとおり、先ほどよりも大量の機械に文字通り囲まれたキオの姿がそこにあった。

 遠くてその表情までは伺えないながらも、宙を自由に飛び回っている姿だけで、アオバは満足だった。

 黒い雲が運ばれてきたせいで暗くなってきた空の下。妖精のような姿に両手を振ってすぐ。

 それは目に見えない速度で空の彼方へと消えてしまい、見えなくなった。

 振っていた両手を降ろして、アオバは再び静かになった地上で、目元を拭う。

 

「行ってらっしゃい、キオ」

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