刀奈求める楯無き者   作:乱麻@PINK

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いやほんと無理があると思う。


13.お前が男は無理がある

「うぉぉおおおお!!」

 

「はぁぁああああ!!」

 

一夏と鈴音の咆哮が、朝のアリーナに響く。

“雪片弐型”と“双天牙月”がぶつかり合って火花を散らす。何度も打ち合う事で、まるで二人で連弾を奏でているようだった。

 

「あら一夏さん、周囲がお留守でしてよ!」

 

上空で待機していたセシリアが滅茶苦茶な事を言いながら“ブルー=ティアーズ”を操り、四つの銃口から一度だけビームを一斉射する。

標的である一夏はハイパーセンサーで周囲を確認。鈴音の斬撃を防ぎながら、ほんの数十センチだけ飛んだ。

そのまま身体を捩じり、ビームの二発を躱す。身体を捩じった回転による“雪片弐型”の斬撃で残ったビームを切り払い、尚且つ鈴音への牽制とした。

 

「……今の、凄い」

 

アリーナの観客席で朝練を一緒に見ていた簪が感想を漏らす。……何となく元気が無さそうなのは、気のせいじゃないだろう。

まぁ、確かに今のは見事だった。訓練ではなく実戦で行えたら言う事なしだ。

――――“ゴーレム”の襲撃から四日が経ち、暦も六月に入った。

無人機の解析はあまり進んではいないらしい。まぁ俺がISコアを抜いたせいなんだけど。

一夏は一夏でこうして特訓馬鹿になっている。自分が“ゴーレム”を倒すチャンスを見逃してしまったせいで、周囲を危険に巻き込んだ事をよっぽど気にしているようだった。

鈴音とセシリアはこうして一夏の特訓に付き合っている。朝と放課後、一夏の体力が続く限り、模擬戦だったり攻撃を捌きながら相手に張り付く特訓をしていた。鈴音と一夏の関係はどうなったのかは分からないが、今の所は険悪な様子はない。

俺はと言えば、“ゴーレム”戦での傷はナノマシンのおかげでほぼ完治した。千冬さんの言った通りだ。“打鉄”の修理も、元々訓練機という事で代えのパーツが豊富だった事もあり終わっており、朝練前に受け取った。

 

「織斑さん……努力してるんだね」

 

簪が感心したように呟く。

そういえば、簪は一夏の訓練風景を見るのは初めてだったな。

 

「元々負けず嫌いだしな。……あいつが挫折した所は見た事がない」

 

まだまだ粗削りではあるが、その分勢いがある。

このまま折れなければ、何時かは世界最強の太刀筋に辿り着く事だろう。

……そんな事に微塵も興味はないが。

 

「さて、あいつらには悪いけどそろそろ行こうぜ。引っ越しもあるし、いつも遅刻ぎりぎりはごめんだ」

 

「……うん」

 

ISも使えないのに朝練に駆り出された俺だが、「何か気になった事があったら言ってくれ!」と一夏が誘ってきたので見てただけだ。気になった事はないです。

おかげで俺の怪我の調子を心配した簪が同伴してしまった。いつも“打鉄弐式”の開発で疲れているんだから寝かしておいてやりたいのだが、本人がどうしてもと言って聞かなかった。……最近、簪の押しに異常に弱くなっている気がする。

アリーナの廊下を歩きながら食堂へ向かっていると、簪がちらちらとこちらを見ている。

 

「心配しなくても、もう怪我は大丈夫だよ」

 

過保護な簪に、苦笑いしながら答える。

襲撃があったあの日、寮の部屋に戻ってから簪はずっと俺にべったりだった。

朝と夜は当然として、昼には一組まで迎えに来る始末。簪に引っ張られるのではなく引き摺られたのは初めての経験だった。

――――あぁ、悪くなかったぜ。寧ろ最高だった。

 

「……本当?」

 

「本当」

 

「本当の本当……?」

 

「本当の本当。ありがとな、心配してくれて」

 

実際、両腕をあまり使うなというのは日常生活じゃ無茶がある。簪が色々と手伝ってくれて本当に助かった。

怪我の治りが早かったのも簪のおかげだろう。

ずっとべったりだったおかげで、周りからは『通い妻』だの『新婚夫婦』だの言われたが、正直嬉しいので大丈夫です。簪は顔真っ赤だったが。

 

「心配するのは……当然。だって、楯無は直ぐに無茶をするから……」

 

『マスターの事は私も注意しておきます。簪さんも引き続き、見ていてあげてください』

 

「うん、“黒雷”」

 

「分かった分かった、気を付けるよ」

 

相棒と簪が仲がいい事で大変喜ばしいが、あんまり簪に迷惑が掛からないようにしないとな。

……まぁ、こうしてずっと一緒に居られるのも今日までか。

二日前。寮の部屋割りが変更される事になった。俺は一人部屋になるようだ。すっかり慣れてしまったが、今の俺の寮の部屋は男女混合部屋というイレギュラーだ。やはり道徳上良くないので、変えられるものなら変えてしまいたいのだろう。

そしてそれと同時に、簪という『更識』の護衛と監視が解かれる事を意味していた。

これが何を意味するのかは分からない。俺の経歴を知った千冬さんの中で、俺の認識が多少変わったのだろうか。……もうちょっと不審がらせた方が良かったかな。

そんな連絡が山田先生からあったのだが、当時の俺は両腕を使えない怪我の真っ最中。せめて怪我が治るまでと山田先生に盛大に駄々をこねた簪により、引っ越しは数日先延ばしになった。

――――そして、俺の怪我が治った今日がその引っ越しの日。

朝飯を食べ終わったら、簪の荷物を新しい部屋に運ばなければならない。

 

「……これ、渡しとくよ」

 

ポケットからある物を取り出して、簪へ渡す。

 

「これ……」

 

簪も、それが何だか分かってるようだ。

当然だろう。それは今日自分が手放すものだったのだから。

 

「俺の部屋の鍵。どうせ簪の分は余るんだし、渡しても問題ないだろ」

 

「……いいの?」

 

自らの手の平の上にある鍵と俺を何度か見て、訊いてくる簪。

 

「良くなかったら渡してない。髪……毎日乾かしてくれるんだろ?」

 

「う……うん! そうだよね、約束したもんね」

 

先程までの元気の無さは幾分かましになったようだ。

やっぱり簪は笑顔でいてくれた方がいい。簪の笑顔を世界中に配信すれば、この世界から戦争が無くなるに違いない。

 

(なぁ相棒。やっぱりナノマシンで簪の笑顔を投影とかしてくれないかな)

 

(マスター。やはりマスターは簪さんと刀奈さんに関わると別人格になるのでは?)

 

 

          ◇

 

 

「皆さん、今日は何と転校生を紹介します! しかも二名です!」

 

朝食を食べ、簪の引っ越しを手伝った後。

いつも通り登校してホームルームを聞いていれば、何やら転校生が来るようだった。しかも二人。

何故二人共一組に転入してくるのかは謎だったが、その疑問は直ぐに解消された。

教室がざわつく中、山田先生が呼ぶと、教室に二人の生徒が入ってくる。

そして何故か、二人が入ると同時にそのざわつきが止んだ。

 

「シャルル=デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

転校生は金さんと銀さんだった。完全に髪の色の印象だ。首の後ろで結われた金髪と、そのまま下ろされた銀髪が対になっていた。

どうしてだか両方ともズボンを履いている。珍しい事もあるもんだ。

……珍しいで済めばよかったのだが、どうも現実はそう甘くはないらしい。

 

「お、男……?」

 

クラスメイトの誰かが呟いた。

それに頷く形で、金さん――デュノアは爽やかな笑顔で自己紹介を続ける。

 

「はい。僕と同じ境遇の方が二人居ると聞いて、本国より転入を――――」

 

デュノアがそこから先を告げる事は叶わなかった。

クラスメイト達は突然三人目の男子生徒が現れて大混乱と大歓喜である。

 

「三人目! しかもうちのクラス!」

 

「美形! 守ってあげたくなる系の!」

 

「凄い、死んでない!」

 

二つ目までは分かる。だが最後のはどういう意味だ。いつも特訓で精魂尽き果ててる一夏と、常日頃目が死んでる俺への批判か。

残念ながらこれからはもっと目が死んでる可能性が高くなるぞ。帰っても簪が必ず部屋に居るとは限らなくなってしまったからな。

……まぁ、それより。男性操縦者の先輩として声を大にして男性操縦者のデュノアへ言いたい事が一つ。

 

(無理があるだろ)

 

(無理が過ぎます)

 

俺と相棒の意見は完全に一致した。何がとは言わないが、無理がある。男性操縦者ってどこにでも居るんだな。

だが、別に好きにしてくれればいい。どうせ俺か一夏のデータが欲しいからだろうし、邪魔にならないのなら別に干渉はしない。

まぁ……本当に厄介そうなのはもう一人の方か。完全にクラスに馴染む気がない。ナイフの様に鋭い眼光は、千冬さんを思わせる。

 

「ラウラ、挨拶をしろ」

 

ラウラと呼ばれた銀さんは、佇まいを直し千冬さんを『教官』と呼んで敬礼をした。

その挨拶からして、間違いなく軍隊の出身だろう。それも千冬さんが指導していたらしいドイツ軍の。千冬さんを思わせるどころか関係者だった。

 

「ラウラ=ボーデヴィッヒだ」

 

銀さん――ボーデヴィッヒを見ていると、何故か左目が疼く。

目としての機能は完全に失われている筈の左目が疼いた事なんて一度もない。

思わず左目を手で覆うって俯いてしまう。あいつ……一体何者だ?

それはそうとして、ひゅん、と音が聞こえたのは気のせいじゃないですよね。

 

「あっぶね!」

 

案の定投擲されていた出席簿をぎりぎりの所でキャッチする。

千冬さんの方に視線を向けると、目で「話を聞け」と言ってくる。

……いや、話も何も銀さんは名前以外何も告げてないんですが。

 

「貴様が織斑一夏か」

 

「ほら、お前の教え子何か一夏とやってるぞ」と千冬さんを目で煽ってみる。……こっわ。密かに額に青筋浮かべてる世界最強こっわ。

一夏は自らの名前を呼ばれ、銀さんに向けて手を差し伸べている。弟を見習ったらどうですかお姉さん。

だが、銀さんは握手をする気などないようだった。

 

「貴様が……!」

 

銀さんは右手を振り上げ、一夏目掛けて振り下ろす。

しかし、一夏も咄嗟に左腕でガードした。不意打ちにも対応する中々の反応だ。

 

(ちゃんと話を聞いてなかったから名前は分からないが……野蛮だな銀さん。金さん教壇で呆然としてるぞ)

 

(マスター。彼女はラウラ=ボーデヴィッヒ。ドイツの代表候補生です)

 

相棒曰くボーデヴィッヒは舌打ちをして手を下ろす。

 

「認めない……貴様のような軟弱者があの人の弟など、認めるものか……!」

 

あの人の弟……何となく分かった。ボーデヴィッヒは千冬さんが大好きなんだろう。

多分、千冬さんがドイツ軍の教官をしていた頃に世話になったとかそんな感じだ。

本当に居るんだな、あぁいうの。俺が真面目に『包帯の乙女』続けてたらそういうファンも出来たのだろうか。一夏もまた面倒な事に巻き込まれたな、ご愁傷様。

そろそろホームルーム終わらないかな、とぼけーっとしていると、ボーデヴィッヒはこちらにも振り向いた。

……絶対面倒くさい事になるな、これ。

 

「となれば、貴様が雪月楯無か」

 

恐らく、俺は今とてつもなく嫌そうな顔をしているのだろう。

 

「そいつは二組に居る。実は俺が織斑一夏だ」

 

「そんなわけがあるか!」

 

ボーデヴィッヒが教官よろしく何かを投擲した。冗談の通じない奴だ。ならばこちらも教官の出席簿でガードしてやろう。

そう思って出席簿でガードすると、そのまま出席簿に何か刺さった。

出席簿を貫通したギザギザの刃。……軍人だからって学校でナイフを常備させるのはどうかと思う。

 

「……これは流石にやり過ぎじゃないか。せめて俺もビンタとかにしてくれよ」

 

下手に弾いてたら、他のクラスメイトに危害が及ぶだろう。

出席簿に刺さったナイフを抜きながら、千冬さんの方に視線を向ける。元教え子の教育どうなってるんだ、教官。

あと出席簿が駄目になったのは俺のせいじゃないからね?

 

「私は貴様も認めない。見ていて不愉快な程、あの女に似ている」

 

「あの女? ってか、俺に関しては完全に言い掛かりか。ドイツの軍人ってのは随分と自由なんだな」

 

似ている相手を認めないんじゃなくて、先ずは本人に喧嘩を売ってほしい。

本当にどういう教育したんだ、と千冬さんを睨む。

千冬さんはごほん、と咳払いを一つして、

 

「トラブルはあったが、ホームルームを終わる。各人は着替えて第二グラウンドに集合しろ」

 

おいちょっと待て世界最強。あんた元教官としても担任としてもそこの問題児をどうにかしろ。何しれっとホームルーム終わらせて授業しようとしてんだ。

いくら何でも、一生徒としてこのクラス崩壊になりかねない要因を放っておくのは許さないぞ。

 

「今日は四組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」

 

簪に会えるので許した。




楯無君は誰に似てるんでしょうね(すっとぼけ)
きっと千冬さんに因縁があって、嘗て決着が付かなかった相手だったりするんでしょうね(目逸らし)
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