刀奈求める楯無き者   作:乱麻@PINK

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ぷるぷる、僕熟練したIS乗りじゃないよ!(白目)


14.はじめてのじっせんくんれん

更衣室で着替えて一人第二グラウンドに向かうと、そこにはクラスメイトや四組の生徒達が既に待機していた。

この授業の担当は千冬さんだ。遅刻をしたら何があるか分からないから、当然皆遅刻はしない。

流石に整列はせずばらけているが、それは千冬さんが来れば軍隊の様に整列する事だろう。

 

「楯無」

 

名前を呼ばれ、振り向くと簪が居た。

ISの授業なので、当然ISスーツに着替えている。

さて――――当然だが、女性のISスーツは露出度が高い。

肩は丸出し、太股は丸見え。ボディラインがくっきりと浮かび上がるこのスーツは、露出度的には正直スクール水着と大差ない。

……他の女生徒ならまるで反応しないが、簪相手だとそうはいかない。

 

(マスター。心拍数が上昇しています。先程の疾走の影響がまだあるのですか?)

 

相棒が心配してくれているが、もうそれに反応している余裕もない。

直視し続けるには刺激が強い。思わず簪から目を逸らしてしまう。

 

「……楯無?」

 

目を逸らした所に、簪が不思議そうに覗き込んで目線を合わせてくる。

いつもは気にしない簪の匂いを強く意識した。俺の幼馴染も立派な女の子なんだと思うと、どうしようもなくどぎまぎする。

 

「もしかして……具合が悪いの?」

 

簪の視線は心配に変わり、そっと俺の両腕に触れた。

白魚の様に細く白い指が、微かに残る裂傷と火傷の跡を撫でる。

 

「いや、具合は悪くない……」

 

「本当?」

 

簪の言葉に頷く。どっちかって言うと、寧ろ元気です。

じゃあ何故なのか、と視線で問われる。

 

「……その。嫌いにならないでほしいんだが」

 

「うん。ならないから……教えて」

 

普通の声量で言うのは流石に無理だ。

俺はちょいちょいと手招きをして、簪を近くに寄せる。

素直に近付いてくれた簪に、そっと耳打ちをする。

 

「簪のISスーツ姿が……刺激が、強くて……」

 

「っ……そ、そうなんだ」

 

簪の顔が真っ赤に染まる。相棒も納得した様子で『マスターの男性としての正常な反応は記憶しました。次回からの参考にします』とか言っていた。そういうのはいいから、相棒。

簪は照れた様子でこちらを見つめてくる。

 

「……お姉ちゃんの事も、そういう風に見てるの?」

 

刀奈の時は……向こうからスキンシップで距離を詰めてくるから、ISスーツとか関係ない。

 

「揶揄われているのは分かってるから、あんまり反応しないようにしてる」

 

「……でも、私には素直に反応したんだ」

 

しかも刀奈とは違って密着とかではなく、唯ISスーツ姿を見ただけだからな。

同室だったら頃には着替えを見てしまったり、抱きしめたり、髪を乾かしてもらったりしていたくせに、何故今更ISスーツを見ただけでどきどきしてしまうのか。

女の子として見てるんだよ、言わせないでくれ恥ずかしい。

 

「楯無の……えっち。でも、いいよ。楯無に見られるのは、嫌じゃ……ないから」

 

そういう事を言われると、我慢が利かなくなる。

 

「授業前に何の会話をしてますの……?」

 

理性を総動員して必死に堪えていると、後ろから呆れ顔でセシリアが話し掛けてきた。

当然セシリアもISスーツを着ている。確かに出る部分は出て、締まる部分は締まった磨き抜かれた肉体だったが……。

 

「何ですの、その目は」

 

「……はぁ」

 

「質問を溜息で答えないでくださる!? そもそもあなたに需要がないだけで、私の磨き抜かれた身体は――――」

 

何か自らの身体の美しさを語り出したセシリア。

おかげで凄まじい勢いで冷静になっていった。ありがとうセシリア。

明らかに俺が話を聞いていない事に気付いたのか、ぜーぜーと息を切らしながら話題を変える。

 

「一夏さん達は……ぜぇ、まだですの……?」

 

お前イギリス代表候補生がしちゃいけない顔してるぞ。

 

「さっき、一夏がデュノアを連れて教室を出た時に生徒達に追われてたからな。もうそろそろ来るんじゃないか?」

 

「何故あなたは追われていないのでしょう。一緒に出て行っていませんでした?」

 

「そりゃ、俺だけ逆方向に走り出して廊下の窓から飛び降りたからな。流石に追ってこないだろ」

 

「薄々気付いていましたが……あなた馬鹿ですわね?」

 

ふざけるな、ちゃんと木があるのを見て飛び降りたぞ。

普通の人間があの高さから飛び降りたら骨折するわ。

 

「……楯無、手の甲に傷がある」

 

簪が俺の手を取りながら言ってくる。

そう言われて見てみると、言う通り手の甲には擦りむいたような傷があった。

 

「あ、本当だ。大方木に飛び込んだ時にやっちまったんだろうな」

 

「もう……後で医務室に行こう? これ以上楯無の身体に傷が残るのは……嫌」

 

「気を付けるよ。ありがとうな、簪」

 

はにかんで頷く簪。天使か何かだろうか。

「また始まりましたわ……」とげっそりしているセシリアを無視していると、漸く遅れていた二人がグラウンドに現れた。

その内の一人、一夏はこちらを発見すると「裏切者ぉ!」と近寄ってくる。裏切るも何も、俺はお前と同盟を組んだ覚えはない。

簪はまだ一夏の専用機の一件が踏ん切りが付いてないのか、そそくさと四組のクラスメイトの許へ戻っていった。

戻ったらやたら揶揄われて、顔を赤くしてるのは何故だろうか。

 

「って、また更識さんの事見てるのか? お前って本当に更識さんの事好きだよな」

 

「あぁ。幼馴染だし、大切だからな」

 

「食堂でも更識さんとばっかり食べてるじゃんか。そうだ、今日の昼は皆で食べようぜ!」

 

肩を組みながらそんな事を言ってくる一夏。

 

「多分簪は来ないぞ。元々人見知りだし」

 

「えぇ、お前が来るなら来そうだけどなぁ。シャルルの事も紹介したいしさ」

 

「シャルル? ……あぁ、デュノアの名前か」

 

と言うか、デュノアってフランスのIS企業の名前じゃなかったか。

偶々か、それとも本当に御曹司なのか。別に興味もないが。

そういえば真面に挨拶してなかったデュノアが、一夏の背中からひょっこりと顔を出した。

 

「えっと……雪月君、だよね。改めて自己紹介するね。僕はシャルル=デュノア。シャルルって呼んでくれると嬉しいな」

 

「あぁ……そう。俺は雪月楯無。一応、二番目の男性操縦者。よろしく」

 

「う、うん……よろしくね。楯無、君?」

 

何か急に名前で呼ばれたが、気にするような事でもないだろう。

お近付きになる事もきっとない。この怪しさ満点の転入生の素性がはっきりするまでは、警戒しておいて損はないだろう。はっきりしたらはっきりしたでもう関わる必要もないだろうし。

 

「気にする事はありませんわよ、デュノアさん。この人は簪さんかISが絡まないと誰にでもこうですので」

 

明らかに俺の適当な態度に困惑しているシャルルへ、被害の先輩であるセシリアがフォローを入れる。

いや、刀奈とも鈴音ともちゃんと真面に話せるから。

それに中学生の頃はちゃんと人と関わってたぞ。一夏の監視をする為にはそうしないとやってられなかったし。

 

「――――全員揃っているか。これからは整列もしておくように、分かったな」

 

授業開始直前に、千冬さんがジャージ姿でやってきた。中学生の時に一夏の家に行ったら何度か見たな。

クラスメイト達は軍隊の様に整列をする。この二ヶ月で大分調教されてきたな、こいつ等。

整列が終わった所でチャイムが鳴る。ぎりぎりセーフか。

 

「あれ、山田先生居ないの?」

 

「案ずるな。直、到着する」

 

俺の独り言に千冬さんが反応した。授業の準備でもしているのだろうか。

 

「本日から格闘及び、射撃を含む実戦訓練を開始する。何度も言っているが、ISは使い方次第では人を容易く殺す事も出来る。これはそれを感じる為の訓練でもある。諸君には気を引き締めて参加してもらおう」

 

『はい!』

 

「返事ばかりにならん事を期待する。……さて、今日は手始めに戦闘を実演してもらおうか」

 

千冬さんの提案に、クラス一同が『おぉ』と期待の声を上げた。

 

「丁度よく今日から全快した奴が居るな。雪月、相手はお前に頼もうか」

 

「……俺かよ」

 

どうせならワンオフの専用機持ちの一夏がセシリアの方がいいんじゃないのか。

一夏もセシリアもうずうずしている。この二人は言ってみれば修行馬鹿だ。訓練したくて仕方がないのだろう。

千冬さんは面倒そうにしている俺の方に近付いて、ひっそりと俺に告げてきた。

 

「更識によい所を見せてやれ。お前は知らないだろうが、オルコットとの決闘の際のお前を見る更識の目。さながらヒーローを見ているようだったな」

 

「……そりゃどうも。乗せられるのは癪だが、簪の息抜きになるならやってやるよ」

 

千冬さんは「分かり易くて助かる」と不敵に笑んだ。

まぁ、俺も俺で“打鉄”の稼働データを取りたいのは事実だ。

 

「で、相手は誰ですか。まさか千冬先生じゃないでしょうね」

 

「それはそれで望む所だが、別の機会に取っておこう。お前の相手は――――」

 

「お待たせしました!」

 

遥か上空から声が響いた。皆が声がした方へ視線を向けると、緑色のISを纏った山田先生が浮いている。

どうやらISの準備をしていて遅れていたらしい。

 

「あれは、“ラファール=リヴァイヴ”……。フランス製の量産型ISか」

 

「特長まで言えるか、雪月」

 

人の事をIS辞典か何かだと思ってるのか、千冬さんは。

 

「簡易的な操縦性から生まれる安定した性能と、後付武装による多種多様な装備が持ち味だ。操縦者の技量と装備傾向によって様々な状況に対応出来るいい機体だな」

 

説明しながら俺は列から抜け、グラウンドの開けた場所に出る。

 

「頼む、“打鉄”」

 

右手を前に出し、“打鉄”に願う。

展開が完了した“打鉄”のスラスターを吹かせ、山田先生と同じ高度まで浮いた。

山田先生は両腕にアサルトライフルを展開して既に準備完了。俺も左腕にシールド、右腕に近接ブレードを展開して準備完了だ。

 

「雪月君。入学試験の時は一本取られてしまいましたが、今日は頑張りますよ。お手柔らかにお願いしますね」

 

「それはこっちの台詞ですよ。あの時は明確なルールがあったから勝ちを拾えたし、俺の実力が分からなかったから奇策も成功した。今となってはそれがないのは、痛い限りですね」

 

山田先生はにっこりと微笑んでいるが、その佇まいには隙が無い。

最初に選択した装備を間違えたかもしれないな。

 

「雪月。山田先生は元代表候補生だ。甘く見ていると痛い目を見るぞ」

 

「俺がISバトルで手を抜くと思いますか。それに待機している状態を見ているだけで、山田先生の実力は推し量れますよ」

 

「そうか。それは悪かったな」

 

千冬さんが腕を組んだままこちらを見た。

 

「では――――始めろ!」

 

千冬さんの号令ともに、スラスターを全開にする。

逃げ回られたら厄介だ。速攻で距離を詰める。

 

「やっぱりそう来ましたね!」

 

刀を振りかぶる俺に対して、アサルトライフルを構えた山田先生。全力のバックブーストで距離を取りながら弾幕を形成する。

やはり、戦況判断が早い。速攻に対して瞬時に対応された。並大抵の経験値ではないな。入学試験の時は奇策が成功して本当に助かったぜ。

放たれた弾幕を掻い潜りながら、少しずつ山田先生に接近する。

セシリアの時とは違い、推力なら改造してあるこっちの方が上だ。

気の遠い作業になるが、これなら何時かは追い付ける。

 

「凄いですね……それに、操縦してる時の顔がとっても楽しそう」

 

「楽しいでしょう、実際に。空を飛ぶ事はとてもね」

 

俺は弾幕が少しでも薄くなるように右側から回り込む。

正面に位置するより明らかに右手のアサルトライフルの狙いが甘くなった。

身体の角度を修正する速度も流石だが、それによって更に射撃の照準は甘くなっている。

停止状態より動いている時の方が狙いを付けにくいのは当たり前だ。そして動いているのは狙う側と狙われる側、両方であるのが望ましいのも言わずもがな。

 

「予測射撃を掻い潜る為に緩急を付けているんですね……! ISの射撃戦における軌道理論の授業をよく聞いているのが分かります!」

 

「…………はい、勿論ですよ」

 

「今の間は何ですか!?」

 

気のせいです。そんな授業あったっけ、とか絶対に思ってませんとも。

動揺する山田先生に向かって、俺は近接ブレードをぶん投げる。

 

「えぇ!?」

 

山田先生は更に動揺したが、それでも冷静に近接ブレードを撃ち落とした。

だが、近接ブレードを撃ち落とす分弾幕は薄くなる。それに意識も俺から一瞬離さずにはいられない。

俺はそうする為に近接ブレードをぶん投げたのだ。

その弾幕が甘くなった一瞬を見逃さず、スラスターからエネルギーを放出、直ぐに再びスラスターへと取り込む。

 

「行きますよ」

 

山田先生へ向き直り、瞬時加速を発動する。

一瞬で眼前に山田先生の顔が迫る。その瞳は驚愕に見開かれており、大きな瞳に俺の姿が映っていた。

――――勝敗は、着いた。




本当はこの後のIS搭乗訓練までやるつもりでした(半ギレ)
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