刀奈求める楯無き者   作:乱麻@PINK

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勝ちたければ強い奴と組めばいい(暴論)


26.パートナーの行方

「あーもうっ、むっかつく!」

 

医務室に、ベッドから上体を起こした鈴音の怒号が響き渡った。

ボーデヴィッヒとの私闘の後、千冬さんの指示により解散した俺達は、負傷していた二人を医務室に運んでいた。

ISを展開していた俺と一夏、そしてシャルは鈴音とセシリアを医務室に運ぶ役目を負わされ、観客席に居ただけの簪は部屋に返された。篠ノ之は……知らない間に居なくなってたので知らん。

 

「でも二人共大した怪我がなくて良かったよ」

 

「そうでもありませんわ。楯無さんにお見せしようと思っていた隠し玉を、あろう事か未完成の状態で披露する事になったのですから」

 

鈴音の隣のベッドで同様に横たわっていたセシリアが、シャルの言葉に反応してそう言った。

セシリアは鈴音に比べれば機体や身体の方のダメージは軽かったが、精神的疲弊が酷かったので医務室行きとなっている。

 

「お前俺の事大好きだな。撃ち落としたい欲求どんだけ高いんだよ」

 

「それはもう、朝から晩まであなたが地面に這い蹲る様をイメージするのも吝かではない程に」

 

何このイギリス代表候補生怖い。

ふふ、と艶やかに笑うその姿はあらゆる異性を魅了する事だろう。内容が物騒過ぎる事に目を瞑ればだが。美人のクラスメイトにこうまでされてるのに、ちっともときめかないのは俺のせいではないだろう。

 

「大体何なのよあのドイツ! “AIC”反則過ぎでしょ!」

 

「まぁな。あれは初見喰らった時焦った」

 

武装の展開自体封じられてたら俺だって詰んでいた。

鈴音のクレーム染みた文句も無理からぬ事だろう。

 

「それはそれとして、夕食どうする」

 

「私は今日洋食、あんたは和食を攻めなさい」

 

「あいよ。中華抜きとは珍しいな」

 

『今その話題する?』という一夏とセシリアとシャルの視線を受け流しつつ、今日の夕食の内容のアポを取った。

俺達学生にとっては重要な話である。貴重な楽しみの一つだ。

 

「ところで、何で二人はボーデヴィッヒと戦ってたんだ?」

 

場の空気を変えようとした一夏の言葉に、鈴音とセシリアは息を詰まらせた。

そんなに恥ずかしい理由があったのだろうか。特に鈴音の顔は真っ赤だ。何か恥ずかしい欲求を考えてる簪に似てるな。

やがて鈴音は顔を赤くしたまま、静かに口を開いた。

 

「一夏の事、馬鹿にされたから……」

 

「お、俺の事か?」

 

あ、そういう事ね。

いつもの朴念仁ぶりで理由が分からなそうにする一夏へ、半分やけくそ気味に鈴音は告げる。

 

「そうよ! しょうがないでしょ、好きな人の事馬鹿にされて黙ってられる程、私は大人じゃないっての!!」

 

「お、おう……そうか、気付かないですまん」

 

「い……いいのよ。私の我が儘だし」

 

そしてお互い赤面しながら黙り込んでしまった。何この空気。俺の夕飯談義の方がよっぽどましだったろ。

シャルロットは「うわぁ……」と微笑ましそうに笑顔を浮かべているし、セシリアは何度かこういった現場に出くわしているのかげんなりしている。セシリアの精神的安息はどこだ。

 

「ま、鈴音はこれを機に少し落ち着く事だな。こうやって怪我してたら、理由にされた方も心配する」

 

「……そうね。ごめんね、一夏。次からは、ちょっと冷静になるわ」

 

「ありがとう、鈴。怒ってくれて嬉しかった」

 

二人は微笑み合いながら、何かいい雰囲気になっていた。確かにふられてはしまったが、こうしてはっきりと想いを告げられるようになったのは鈴音にとっては良かったのかもしれない。

 

「セシリアも一夏の事を馬鹿にされて悔しかったの?」

 

シャルはセシリアにそう尋ねた。完全に脳味噌が恋愛モードに入っている。男装しているのがよっぽどしんどいのだろう。昔は女子同士で恋愛トークとかもしていたのだろうし。

セシリアは鈴音と違い、堂々と胸を張っていた。ちなみにISスーツなのでボディラインが強調されていた。

 

「私は無論、楯無さんと“打鉄”が侮辱されたからですわ。『“打鉄”如きでは奴の実力は発揮しきれない。そしてその状況を良しとしている奴自身も、強さを腐らせるだけの愚か者だ』なんて言われれば、憤りもします」

 

「流石“打鉄”広告宣伝隊長。手袋投げる理由にまでなるのか」

 

「……楯無さん、あなたも大概朴念仁ですわ」

 

溜息を吐かれてしまった。

隣のシャルも苦笑いしているので、考えないようにしていた事を言ってみる。

 

「……もしかして、俺の事でも結構怒ってたか?」

 

「当たり前です! 生涯を掛けて撃ち落とす目標と定めた相手を馬鹿にされ、どうして穏やかでいられましょうか!?」

 

重い重い。セシリアの愛? が重い。

まぁ、俺の存在がセシリアのIS乗りとしての実力の向上に役に立っているのならいい事だ。そういう事にしておこう。

 

「まぁ、怪我しない程度にしろよ。俺が馬鹿にされるのはどうでもいいから、自分を大事にしろ」

 

「……肝に銘じておきます。ですが、次このような事態がありましたら、次こそはその無礼者を撃ち落としますわ」

 

怪我しないのなら別に構わない。そこはセシリアにも譲れない所もあるのだろう。

さて、これからはどうなるのだろう。多分この場の全員が気付いていながら、気付いていないふりをしていた。

どどどどど、と廊下から物凄い振動が伝わってきている。しかも強くなっているのでこちらに近付いてきているのは間違いない。

――――いやぁ、これ無視するのは無理じゃないか?

その振動が最高に高まった時、医務室のドアが盛大に開けられた。

 

『織斑君!!!!』

 

『デュノア君!!』

 

『雪月君』

 

ドアが開けられると同時に雪崩の様に入ってきた、数えきれない人数の女子による三人の男性操縦者の名前が聞こえてきた。

殆ど一夏とシャルの名前で、俺の名前は掠れる程度にしか聞こえてこなかったのは仕様である。

転入して一週間経っていないシャルの人気に負ける俺の人気だが、そもそも名前を呼ばれているのが驚きだった。

だが、たとえ誰の名前を呼んでいようと、続く言葉は一つだった。

 

『私とペアになって!!!!!!』

 

ちょっと言ってる意味が分からなかったのだが、先頭に立っている女子から一枚の紙を渡された。

 

「えーと……何々――――何……だと?」

 

そこに書かれていた恐るべき内容。

 

「今月末に開催される学年別トーナメントが、タッグ戦になっただと?」

 

「そうなの。だから織斑君、私とタッグを組んで!」

 

「いいや私よ」

 

「わーたーし!」

 

「じゃあ私はデュノア君と」

 

「そうはさせないわ!」

 

目が完全に獲物を狩る目になっている女子達に囲まれる一夏とシャル。完全に身動きを封じられていた。俺の周りには数名しか居ないから動き放題だった。

一夏はともかく、シャルは大分困ってそうな顔をしていた。そりゃそうだ。ペアを組めばシャルが女性である事がばれる可能性が当然上がる。

仕方がないのでシャルに助け舟を出す事にした。

 

「一夏、お前はシャルと組むんじゃなかったのか?」

 

俺のあからさまな嘘に一夏がはっ、と反応する。

 

「そ、そうだ! 悪い、俺はシャルルと組むんだ! 諦めてくれ!」

 

「えぇっ!?」

 

「なーんだ、じゃあしょうがないわね」

 

「帰ろ帰ろ」

 

一夏の一言で女子はぞろぞろと退散していった。あ、男同士が組むのはそれはそれで需要があるのか。

かなりの大人数が退散した後、残ってるのは俺の周りに居た数人。よく見れば相川と谷本が居た。

 

「雪月君は、パートナー決まってるの?」

 

「私の優勝までの道のりに付き合って。そしてその後も付き合って!」

 

成程。俺と組めば優勝に近付けると思っているのか。

確かに、クラスメイトの俺の認識は『クラスで一番ISの操縦が上手い人』らしい。

優勝までの用心棒として俺を選ぶのはある意味理に適っていた。

しれっと愛の告白をしてきた相川が居たような気がしたが、そうするなら優勝する必要ないだろ。

 

「悪い。俺は俺で当てがある。優勝する為の当てがな」

 

そう。たとえルールが変わろうと、優勝しても問題ない奴が優勝しなければならない事実は変わらない。

寧ろルールが変わったのなら、よりその重要性は高まったと言える。下手にパートナーを選んで優勝し、権利を使われたら元も子もない。

ならば選ぶのはあいつ一択。実力もありながら、俺の事を微塵もそういう対象に見ていない。

――――彼女以外に、パートナー候補はありえなかった。

 

 

          ◇

 

 

夕食時の夕暮れ時。ラウラ=ボーデヴィッヒは一人アリーナの観客席に佇んでいた。

元よりクラスに馴染む気などなく友人など一人も居ない彼女は常に一人だったが、そういった意味ではなく、存在的に一人になりたかったのだ。

孤独になって思うのは、憎い相手の事。

織斑一夏。敬愛する織斑千冬の弟にして、彼女のモンドグロッソ二連覇を逃した原因を作った汚点。

何度か接触を試みて挑発もしてみたが、挑発に乗るような事はしない。腰抜けと評するのが相応しい、とラウラは侮蔑する。

包村帯。第二回モンドグロッソにおいて、千冬の準決勝の相手だった女性。千冬との試合を棄権し、結果として千冬の現役最後の試合を不完全燃焼に終わらせた。

モンドグロッソ終了後に各国が行方を追ったのだが、篠ノ之束と同様に影すら見せず行方不明のままだ。

だが、包村帯の方はともかくとして、織斑一夏の方は直に決着が付く。

その事にラウラは高揚しながら、ゆっくりと目を閉じ――――人の気配を感じた。

 

「誰だ」

 

短く告げれば、アリーナの出入り口から影が一つ現れた。

ラウラは後ろへ振り向き、気配の持ち主を確認した。

肩程まである黒髪は男性にしては長い。両の目の色は同じではなく、左目が白で右目が赤のオッドアイ。

身長や体型が男性にしては華奢である事から、遠目から見れば女性に見えない事も無い。

 

「いやぁ、本当はもうちょっと早く話し掛けようと思ってたんだけど、どうにも孤独に佇むお前に見惚れてさ」

 

「……雪月か」

 

「かっこよかったぜ、狼みたいだった」

 

口笛まで吹いてきそうな賞賛ぶりで、雪月楯無はラウラ=ボーデヴィッヒに近付いた。

つい数時間前はアリーナでISを纏い睨み合っていた筈なのだが、今はそんな事などなかったかのように警戒していなかった。

 

「何か用か」

 

「そうだ。俺とペアになってくれないか?」

 

そうして楯無は一枚の紙を差し出した。

受け取ったラウラは暫くそれを見て、視線を楯無に向ける。

 

「学年別トーナメントの試合形式がタッグ戦になったというわけか。……何故私がお前と組まなければならない」

 

「優勝する為にお前と組みたいから。強くて俺にも無関心。パートナーとしては最高だな」

 

「私が貴様と組むメリットは何だ」

 

「お前の要望に沿うように戦ってやるよ。知らない奴と組むより、その方がお前にとっても都合がいいだろう」

 

「俺の実力は知っているだろう?」と腕を組んで自らをアピールする楯無を、ラウラは訝しんだ。

付き合いはあまりにも浅いが、自らの実力を理解しているだけで、誇示するような人間ではなかった筈だ。

自分と組もうとするのは他の理由があると、ラウラは睨んだ。

そういえば、とラウラは思う。条件の中に『無関心』という単語が入っていた。興味が無かったので聞き流していたが、クラスメイトが数名固まって『優勝すれば好きな男子と付き合える』と噂をしていた。

優勝するとすれば、その権利を奪う事になる。余程女子に優勝させたくはないのだろう。自分が知らないだけで他の賞品もあるのかもしれない。

 

「……いいだろう。ならば、一つだけ誓え。――――織斑一夏は、私の獲物だ」

 

その言葉を言うのを知っていたように、楯無はあっさりと了承した。

 

「いいぜ。じゃあ一夏達と戦うまでは普通に連携取っていくか。申請しとく」

 

話はこれで終わりとばかりに、楯無は踵を返して去っていく。

忙しない男だ。普段は呑気な割には、今回の事には衝撃を受けていたのだろうか。

ラウラもその場から離れようとして、足を止めた。アリーナの入り口に新たな人影が見えた。

 

「夕食の時間になってもアリーナに屯する生徒が居ると聞いて来てみれば、お前だったとはな」

 

「教官……」

 

突如現れた織斑千冬に、ラウラは佇まいを直して敬礼をした。

その様子を見て、嘗て教導していた時の様に「織斑先生と呼べ」と千冬は注意する。

 

「ここに来る途中雪月とすれ違った。学年別トーナメントはあいつと出場するらしいな」

 

「はい。先程奴に交渉され、条件付きで了承しました」

 

「お前、あいつとの模擬戦でやられたそうじゃないか。強かっただろう?」

 

意地悪そうな笑みで告げてくる千冬を見て、ラウラは素直に驚愕した。

あの千冬がこんな風に一生徒の事でラウラに語り掛ける事などありえない。

思わず返答が遅れてしまう程、目の前の光景は異常だった。

 

「ですが、奴は自らの実力を十全に発揮してはいませんでした。生徒として――――それも経験の浅い男性操縦者としては不可思議な強さ。……本日新たな専用機を使っていましたが、あれは……まるで――――」

 

「あいつはISに関しては嘘は吐かん。たとえ自らをどんな虚構で飾ろうともな。……お前があいつと組むに当たり、必要なのはそれだけだ」

 

「早く戻れ。食堂が閉まってしまうぞ」と付け足して、千冬は去っていく。

アリーナの空中を見つめ、ラウラはあの時の感覚を思い出す。

黒い装甲。自由を象徴する二つの翼。隙の無い佇まい。

ラウラの知る限り、それ等を合わせ持つのは一人しか居ない。

 

「包村、帯……雪月、楯無――――」

 

標的である女性の特性を持つ男性の名を唱え、ラウラはその場から立ち去った。




ここから何回かは日常回をしたい所存
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