アリーナへ飛び立った楯無を待っていたのは、先にカタパルトで出撃したラウラと対戦相手の鈴音とセシリアだった。
「あら、思えばきちんとその姿を見るのは初めてですが、随分と撃ち落とし甲斐がある翼ですわね」
「そういや楯無とまともにやるのは初めてね。ぼこされる準備はいい?」
楯無を視認した二人は不敵な笑みを浮かべて挑発をする。
中国とイギリスの代表候補生二人に挑発をされ、楯無は嫌そうに顔を顰めた。
「いやいや、お前らの目的はラウラへの雪辱だろ? 俺の事は構わず、ゆっくりどうぞ」
「残念。私の目的は最初からあなたですわ。勝利は当然頂きますが、先ずはあなたへのリベンジと参ります」
「……ま、それはそれで仕方ない。セシリアの意地、見せてもらうぜ」
セシリアの熱に中てられたのか、先程の顰め面から一転し満更でもないように口端を釣り上げた。
自らを目標に技術を研鑽し、新しい扉を開いた少女が居る。IS乗りとして悪い気はしなかった。
そんな火花を散らす二人とは別に、相手を燃やし尽くさんとする勢いで睨む少女が居た。
手に保持している“双天牙月”の切っ先をラウラへ向け、鈴音は吠える。
「この間は世話になったわね。借りは百倍で返すから、覚悟しなさい!」
「ふん、好きにしろ。貴様に勝たなければ織斑一夏と戦えないのなら、相手はしてやる」
「一夏一夏って、あんたねぇ。そうやって目の前の相手に集中せずにいたら、足元掬われるわよ?」
「掬ってみせてから言う台詞だな、それは。先日の無様から鑑みるに、期待出来そうにもないが」
互いに挑発を交わし、一触即発の状態。
その緊張感を保持するかのように、試合のアナウンスが流れる。
アナウンスに従い所定の位置に着いた楯無とラウラは、回線を使わずに静かに会話を交わす。
「鈴音を舐めて掛かるなよ。あいつはやるって言ったらやる。親友として保証する」
「相手の手強さを保証してどうする。……だがまぁ、その忠告は聞いておこう。今の私は貴様のパートナーだからな。勝つ為に必要な警戒はしておいてやる」
「そうそう。友達の言う事は聞いておくもんだ」
緊張の欠片もない軽い調子で告げるその言葉に、ラウラは意外そうに目を丸くした。
「友達……? 私と貴様が、か?」
問われ、楯無は自信無さげに頷いた。
「山田先生に言われた。……ま、もうお互い知らない仲じゃなし、間違っちゃいないと思うぜ」
「そうか……そうだな」
仇敵に瓜二つの楯無の姿を横目で見た後に、ラウラは小さく笑った。
掴み所無く相手を流しながらも、決してISに関しては嘘は吐かない。自らの存在を証明するにはそれだけで十分であるかのように、空を飛ぶ事だけには真摯であった。
背中を預ける友としては、不満はない。この男の実力は身を以て知っている。
「イギリスの新技に撃ち落とされるな、あれは中々に手強いだろう」
「俺の為に新技開発なんて光栄の限りだな。ま、無様を見せるつもりはない。二人が見てるからな」
楯無のハイパーセンサーには、二人の水色の少女がしっかりと映っていた。
更識刀奈と、更識簪。お互い遠く離れた観客席に座って、雪月楯無を見つめている。
それだけで楯無のやる気は十分だ。この学園での自らの相棒との初舞台として、これ程整った状況も無い。
「……随分と仲良さそうじゃない」
互いに通じ合ったように口端を釣り上げる二人を見て、鈴音は青筋を立てながらセシリアを引かせていた。
中学生まで一夏や鈴音以外上辺だけの友人しかいなかった親友が、最近は随分とまぁ友人が増えたものだ。
しかも男性操縦者同士のシャルルはともかく、今度は自分と因縁のあるラウラとまで。
“双天牙月”を握る手に力が籠る。標的はラウラだった筈だが、ついうっかり楯無の方へ特攻しそうだった。
「はぁ……鈴さんは意外と独占欲が強いんですのね」
「何か言った?」
「いえ何も。そろそろ試合が始まりますわ、準備はよろしくて?」
両者ともに構えに入り、ハイパーセンサー上に試合開始までのカウントが表示される。
楯無は自らの主兵装である近接ブレード、“黒夜”と“雷切”の二刀を呼び出してそれぞれ右手と左手に握る。
この感覚は久し振りだ。左目のナノマシンが“黒雷”のハイパーセンサーと同期していき、自らの身体と機体が溶け合い、一つの翼になっていく。
カウントが零になった瞬間、四人は弾けるように散開する。
「狙いは――――!」
「あんたよ!」
親友二人が敵同士でありながら呼吸を合わせ、スラスターを全開にして戦場を駆ける。
両チーム共に前衛は決まった。雪月楯無と凰鈴音。当然、両者共に接近戦を得意とするIS乗りだ。
――――ただし、両者が激突する事は無い。お互いがお互いを当たり前の様に無視をして、敵チームの後衛を務めている相手へ向かって一直線だった。
チーム戦のセオリーを無視した爆弾作戦。当然、観客席からは驚きの声が上がるが、その中には納得している者も居た。
「この試合、先に後衛を仕留めた方が勝つよ」
更識簪の左隣に座っていたシャルロット=デュノアが、予言めいた事を呟いた。
その言葉に右隣に並んで座っていた織斑一夏と篠ノ之箒が視線を向ける。
「オルコットさんの偏向制御射撃と、ボーデヴィッヒさんの“AIC”。この二つは現状では攻略がかなり難しい。集団戦において、自在に曲がる射撃がどれだけ有効に働くかは想像するまでもないし、パートナーが居るとしても“AIC”で動きを止められる事は一対一の時より危険度は段違いだ」
「つまり、楯無と鈴に全てが掛かってるってわけか……」
「しかし、近付くには骨が折れるだろう。そしてその度合いは――――」
「……セシリアの方が、上」
箒の言葉を引き継いだ簪の言葉の通り、ラウラのレールカノンの妨害を受けつつも直線距離で進む鈴とは対照的に、攻めあぐねる楯無の姿があった。
レーザーライフルを三発、セシリアが連射する。
冷静さを保った瞳でそれを確認した楯無は、直線移動で二発を避け、最後の一射はバレルロールで避けた。
大きく旋回行動を取りながら、セシリアと睨み合う。
(――――全ての射撃が繋がっている)
楯無が抱いた率直な感想だった。
“打鉄”はおろか、現存するIS全てを凌駕する機動性を持つ“黒雷”であっても、バレルロールを使わなければ最後の一射は避けられなかった。
(回避する先に射撃を置かれた。一射目と二射目は進行方向に沿った程度の精度だが、最後の三射目はそれによって導き出された最適なポイントだった)
全てが本命ではなく、計算され尽くした射撃。
その技術が本命なのかそれとも別の副産物なのかは分からないが、嘗てのセシリアにはなかった技術だ。恐ろしい速度でセシリア=オルコットは成長していた。
楯無の口角が思わず上がる。
「驚いたぜ。一月前とは別人だな」
「ありがとうございます。ですが、まだまだ本命はこれからですわ」
機体名と同じ名の遠隔兵器――“ブルー=ティアーズ”が、四機切り離された。
銃口が下を向いたまま青い光を放ち、勿体ぶる事も無く放出される。
「来るか……!」
「さぁ、踊ってくださる――――私と“ブルー=ティアーズ”が奏でる円舞曲を!」
放たれた四本のBT粒子はセシリアの意思に従い、自由自在に軌道を変える。
三本は楯無に向かい、最後の一本はラウラへ突き進む。
三つの青い光に絡めとられないように飛び回る楯無を確認して、鈴音はパートナーの仕事ぶりを誇るように口端を釣り上げる。
「こっちの相棒の方が後衛としては優秀みたいね!」
「距離を詰められれば嬲られるしかないのだから、それぐらいは当然だろう」
“双天牙月”を連結させながら、ラウラの迎撃を掻い潜り自らの得意レンジである近距離まで接近する。
だが、ラウラは遠距離特化のセシリアとは違い、全距離に対応する事が可能だ。ここまで接近を許したのも、嘗て鈴音を近距離で圧倒した経験に基づいたに過ぎない。
即座に両腕のプラズマ手刀を展開。鈴音を迎え撃とうし――――異常に気付いた。
「ま、前衛もこっちの方が上だけどね!」
――――鈴音の両腕には連結された“双天牙月”がそれぞれ握られていた。
鈴音は速度を維持したまま駒の様に回転し、ラウラへ突撃する。
「二つが駄目なら増やせばいい、三つと言わず四つあげるわ!」
「ちぃ――――!」
二倍に増えた連撃。その圧倒的な手数をラウラは捌く。遠心力に任せた攻撃のおかげで精度が甘いのが幸いした。
このまま耐えて反撃の機会を窺う。ラウラ=ボーデヴィッヒにはそれが可能なだけの技量がある。
――――これがタッグ戦でなければ、だが。
「そこかしら?」
殆ど存在しない鈴音の攻撃の合間を縫うように、セシリアが操作するレーザーがラウラを掠めた。
先程放たれた青のレーザーによる、自在に曲がる援護射撃。
堪らずラウラは間合いを取り、鈴音の射程から離れようとする。
「させないっての!」
左手に持っていた“双天牙月”をラウラに向かって投擲し、間合いを詰めながら“龍咆”をエネルギーをチャージする。
「学習しないな、それでは相手の時間を与えるだけ――――」
「釣りだっての。学習してるに決まってんでしょ」
弾かれた“双天牙月”を掴みながら、鈴音は“龍咆”のチャージを止めて近接攻撃を続ける。
再び“双天牙月”を投擲し、それと同時に突きを放つ。
即座に対応しようとプラズマ手刀を振るうラウラ。その一閃を、青い閃光が遮った。
鈴音の突きを防ぐ筈の手刀を弾かれ、青龍刀が腹部に直撃する。
「がっ……くっ!」
意外にもこの試合において初のダメージを受けたのはラウラ=ボーデヴィッヒだった。アリーナ中央のモニターには各人のシールドエネルギー残量が表示されており、ラウラのエネルギーががくんと減った。
しかし被弾しながらも“双天牙月”の片方を自らの後方へ弾き飛ばし、何とか追撃を捌いていく。
「ラウラ!」
「問題ない! 貴様は撃ち落とされんように集中しろ!」
ラウラの言葉通り、自在に曲がる三本のレーザーに囲まれる楯無は未だに回避し続けていた。
バック宙やバレルロールを組み合わせ、空を泳ぐように軌道を描ぐ楯無の操縦技術に舌を巻きつつも、セシリアは一つの仮説を立てる。
(――――やはり楯無さんは、集団戦が苦手……!)
個人では世界最強に匹敵する程の操縦技術を持つ楯無だが、それだけで全ての状況をどうにか出来る程ISバトルは甘くなかった。
楯無のみが狙われる一対多や単体を狙えばいい多対一はともかく、同数同士の戦闘ともなれば連携が非常に重要になってくるのは明白だ。
その点において前衛と後衛をはっきり分けているセシリアと鈴音のペアは、両前衛気味の楯無とラウラのペアより有利と言える。
セシリアを近距離に押し込めれば立場は逆転するが、偏向制御射撃を使いこなす相手に向かって地道に歩を進めるのは得策とは言えなかった。
(遠距離装備は無し……と見るのが妥当ですわね)
“打鉄”の搭乗していた頃に使っていた遠距離武器を使ってくる素振りは欠片も見られない。
一番最初に近接ブレードを選択し、以降も装備を切り替える事も無い。
両肩部後方の非固定浮遊部位であるシールド“避雷針”以外は、“白式”と同様の近接武装のみなのだろう。
(それでも、あれが楯無さんの専用機。訓練機であれだけの動きをする人の専用機を軽視するわけには参りませんわね)
偏向制御射撃で楯無の移動先に回り込むように三本のレーザーを配置し、牽制を続ける。
「あなたの為に習得した偏向制御射撃が奏でる円舞曲……如何ですか?」
「最高だぜ、セシリア……! 唯、俺だけと踊ってくれないのは不満だな。俺に夢中になってみないか?」
「私としても是非そうしたいのですが、これはタッグ戦ですわ。二人きりの円舞曲はまた後程、必ず」
互いに視線と共に情熱的な言葉を交わす。ISバトルに於いて、入学時から二人は撃ち抜き、撃ち抜かれる間柄にある。
『……ふーん』
観客席からこのやり取りを半目で眺めている姉妹の視線には、残念ながら楯無は気付かなった。
セシリアの射撃を躱し続ける楯無と、鈴音の猛攻を捌き続けるラウラ。防戦一方の二人だが、遂に試合は動く。
「――――くっ!」
三本のレーザーの内、一本が“黒雷”の非固定浮遊部位であるシールドを掠めた。
射線で動きを封じ、本命を通す為の一撃が遂に機能する。
僅かにバランスを崩す楯無だが、即座にスラスターを吹かして横軸に回転しつつ体勢を立て直した。
だが、その一瞬の隙を見逃すセシリアではない。彼女はイギリスから専用機を任される程の代表候補生である。
「待っていました……!」
ライフルを構え、狙いを付け、トリガーを引く。
自らが驚く程スムーズに行った動作で放たれたレーザーは、楯無へと突き進み――――腹部に着弾した。
嘗ての決闘の時の様に受け流すのではなく、紛れもない直撃。
だが、アリーナの各人のエネルギーを示すモニターに異変は無い。
その答えは、不敵な声と共に齎された。
「――――こっちもな。今だ、ラウラ!」
合図を出す楯無の腹部には“避雷針”が抱えられていた。
着弾時のバランス制御の回転の際に抱え、手持ちの楯として使用したのだ。
(釣られた――――!?)
たとえ複数のレーザーを組み合わせても、操作しているのは一人であり、視点もまた一つである。
故に回転している相手の細かい動きを完全に把握する事は不可能だった。
合図を受けたラウラは急激なバックブースト。鈴音との距離を強引に取り、ワイヤーブレードで牽制を重ね追撃を逃れた。
セシリアはライフルとビットを同時にする事は未だ出来ず、楯無を狙いライフルを使用した時点で偏向制御射撃での援護は途絶えている。
再びビットでの攻撃に転じようするセシリアだが、それは叶わない。
「そろそろ俺だけを見てくれよ!」
回転していた際にスラスターでエネルギーを圧縮していた楯無が、“黒夜”と“雷切”を連結させて一振りの大剣として瞬時加速でセシリアへ迫る。
「“インターセプター”!」
恥も外聞もなく、反射的に武装名を呼んでコールする。
手元に現れたショートブレードで咄嗟に楯無の大剣を受け止めるが、これで完全に動きは封じられた。
偏向制御射撃による変幻自在の援護はもうない。故にここからがラウラの反撃である。
「どうやら前衛も、こちらの方が優れているらしいな」
雄々しく翳された右手が、鈴音の動きを止める。
ドイツが誇る第三世代型IS“シュバルツェア=レーゲン”。その代名詞たる“停止結界”――“AIC”。
一対一では絶対的な効果を発揮する網が、遂に鈴音を絡めとった。
一人での脱出は不可能に近い。パートナーであるセシリアは楯無によって押さえられている。
“シュバルツェア=レーゲン”のレールカノンの銃口に光が猛る。身動きが出来ない相手を射貫く事など造作もなく、万が一外れる事などありえない。
観客席からも諦観の念が感じられる程の絶体絶命の危機に――――鈴音は、笑っていた。
「――――そう?」
言葉と共に訪れた異変に、ラウラは目を剥いた。
「なっ――――」
ハイパーセンサーが行う視界補助により確認した、自らの後方から遅い掛かる一つの武器。
“双天牙月”。先程投擲され、ラウラによって後方へ弾き飛ばされた一振り。
連結された“双天牙月”は無線の遠隔操作によりブーメランの様に所有者の手元に戻ってくる性質がある。
その軌道上に敵機が居れば、当然その質量により攻撃手段にもなり得る。
「仕込みなんかとっくに終わってんのよ!」
「ちぃ……!」
咄嗟に躱すラウラだが、多大な集中力を要する“AIC”を維持する事は不可能だった。
自らを縛っていた力場が解除されたのを肌で感じた瞬間に、僅か一年足らずで中国の代表候補生にまで上り詰めた才女は戻ってきた獲物を無視して衝撃砲を展開する。
「爪が甘い……素人がッ!」
追撃に発射までにウェイトのある空間圧兵器を選択した鈴音を、ラウラは躊躇いなく罵った。
ここに来て勝ちの目を芽を捨てた。これを爪が甘いと言わず何と言うのか。
余裕の笑みでワイヤーブレードを射出しようとしたラウラだが、“黒雷”のハイパーセンサーと同期する左目を持つ雪月楯無には視えていた。
「ラウラ! チャージ終わってるぞ!」
楯無の叫びと共に、ラウラの脳裏にはある瞬間が過る。
連結した“双天牙月”を両手に持った怒涛の攻めを展開し、セシリアの援護射撃が始まった瞬間。
あの時も鈴音は衝撃砲を展開し、フェイントとしてチャージを行っていなかったか。
「もう遅いわよ!」
予め溜められていたエネルギーにより通常時の半分以下の時間で放たれた不可視の弾丸。
攻撃を仕掛けようとした体勢にカウンターとして放たれたタイミング。
幾つもの悪条件が重なり、ラウラは回避する間も無く直撃する。
「ぐ、ぁ――――!?」
衝撃砲自体の威力は必殺ではない。安定した出力と連射性が持ち味の武装だ。
しかし直撃すれば体勢を崩すには十分であり、今の距離で体勢を崩すという事は決定的な隙を晒す事に繋がる。
もう我慢の必要はない。力強く鈴音は跳躍し、一跳びでラウラとの距離を詰める。
着地の勢いも加えた一刀。そこから連なる連撃は、龍の怒りの如き荒々しさでラウラのエネルギーを根こそぎ削りきる事だろう。
空中でセシリアを圧倒しつつ斬り結んでいた楯無はその未来を予測して――――。
「――――悪い、セシリア」
そう呟いて、セシリアの眼前から消え――――鈴音の一撃を受け止めた。
「は……?」
間の抜けた声は鈴音のものだ。楯無の後方に居るラウラも驚愕の表情を隠せない。
何故。空中でセシリアを押さえていた筈なのに。どうして自分の前に居る。
だが、これは現実だ。セシリアの眼前から鈴音の眼前まで、楯無の移動した軌跡を示すような黒い帯が引かれていた。
瞬間移動じみた出来事にまだ対応出来ていない地上の二人を他所に、セシリアは冷静に今の一瞬を思い出した。
(今……一瞬ですが、“黒雷”のウィングスラスターが中央から二つに割れ、黒い何かがそこから展開されたような――――)
「ラウラ、ワイヤー!」
呆気に取られている自らのパートナーへ、楯無は短く指示を出した。
現実に引き戻されたラウラは直ぐ様ワイヤーブレードで鈴音の動きを封じ、レールカノンの標準を絞る。
楯無はレールカノンの射線を確保するように鈴音の背後に回り、すれ違いざまに一閃。
そのままレールカノンの発砲と同時に背中を掬い上げるように斬り上げ、鈴音のシールドエネルギーを削りきった。
「う、そ……」
呆然の内に削りきられた鈴音からセシリアへ視線を移し、楯無は大剣を分離させながら宣誓する。
「さっきは離脱して悪かったな。次はお前だぜ、セシリア」
「いいえ。では是非とも、私と二人きりの円舞曲を踊っていただけますか?」
機体からビットを射出するセシリアからの願ってもない提案にうずうずした様子で相方の様子を窺うIS馬鹿へ、ラウラは「好きにしろ」と返事をした。
その返事に目を輝かせながら空に飛び立った馬鹿は、そのままの流れでセシリアの偏向制御射撃に突っ込み、躱しながら距離を詰めていく。
残されたのは中国とドイツの代表候補生。お互いにパートナーの軌道を眺め――――中国代表候補生は無事にひっくり返りながら悔しがった。
「あぁぁぁ悔しい!! 何よあと一歩だったのに、楯無空気読みなさいよぉぉおおおお!!」
地面に寝転がりながら子供の様に手足をばたつかせて暴れる鈴音を、ラウラは一瞥する。
確かにあと一歩だった。セシリア=オルコットの援護を受けていたとは言え、ラウラから初撃を奪い、“AIC”を攻略した。
簡単な仕込みではなかった。予め衝撃砲をチャージしておき、“双天牙月”の軌道上にラウラを誘い込む必要もあった。
「……楯無の試合運びを、読んでいたのか」
ラウラの言葉に、鈴音は動きを止めた後に呆れたように答える。
「あったり前でしょ。あんなのんびりしてたらタイミング計ってんのばればれだっての」
「……のんびりして避け続けられるような攻撃ではなかったように思うが」
「避け続けられないから急ぐんでしょうが。ほら、四本に追っ掛けられるようになったら露骨に急いでるじゃない」
鈴音が指差した空で、楯無は“ブルー=ティアーズ”の弾幕を掻い潜りながらセシリアへ直進していた。
その動きは明らかに先程とは違い、一歩間違えれば直撃する紙一重の距離で向かっていく。
「楯無の近接技術ならセシリアは十秒持たないわよ。なのに態々大剣にしたのは受け止め易くして、捨て身の行動を取らせないようにしたって所ね」
至近距離まで辿り着いた楯無は二刀でセシリアに斬り掛かる。
先ずは一刀で彼女の主兵装であるライフルを切断。もう一刀でセシリア自身に斬り掛かろうとした瞬間、自爆覚悟のミサイルを放つ。
しかし反射的に行われた楯無のサイドブーストによって空振りに終わり、近距離での緊急回避札は全て失われた。
「……全て貴様の言った通りだ。“AIC”を確実に決められる状況を奴が作り、私が片方を確実に仕留める。それが私達の作戦だった。見抜かれているとは思わなかったが」
「はん、私はあいつの親友よ。舐めないでよね」
追い詰められたセシリアを斬撃が襲う。
世界最強と剣戟を交わした腕前が容赦なくエネルギーを削り取り、“ブルー=ティアーズ”を機能停止に追い込んだ。
勝敗を告げるアナウンスがアリーナに響き、ここにBブロック決勝戦は終わりを告げた。
「……勝ったのは我々だが、この試合の立役者は貴様だろう、凰鈴音」
楯無が最後に割って入らなければ、ラウラは鈴音にやられていた。
その事実を受け入れ、ラウラは鈴音へ手を差し伸べた。彼女は強さには真摯である。
鈴音は数秒事態を理解出来ていなかったが、恐る恐るラウラの手を取る。
足元を掬うという目的は果たした。何時か一対一でリベンジは果たすが、今日の所はここで矛を収めるべきだろう。
「『鈴』って呼びなさいよ。フルネームの呼ぶのとか疲れるでしょ、ラウラ」
「そうか。では、これからはそう呼ぼう、鈴」
鈴を引っ張り起こすと、ラウラは空へ視線で上げた。
最後の一撃が勢いが付き過ぎた為に“ブルー=ティアーズ”のスラスターを破壊してしまった楯無が、セシリアをお姫様抱っこで抱えていた。
お互いが今の試合の感想を言い合い、楽しそうに談笑している。
「今戦っていた相手とあんな風に談笑するとは……ISに関しては嘘は吐かない、か。不思議な男だ」
「いや……あいつは色々気を付けた方がいいと思うわ。特に口説きとあんまり変わらない発言とか」
ラウラの呟きに、観客席からのとある姉妹の楯無へ向けられた視線を感じ取った鈴音はげんなりと答える。
兎にも角にも、学年別トーナメント一年生の部、決勝戦のカードは決まった。
織斑一夏とシャルル=デュノア。雪月楯無とラウラ=ボーデヴィッヒ。
奇しくも男性操縦者が勢揃いするカードは、明日行われる事となった。
何か書き終わったら二話分の文字数になってました(白目)
ちなみに“双天牙月”は一回地面に転がってから手元に戻ってきてます。そ、それぐらい出来るでしょ(震え声)