刀奈求める楯無き者   作:乱麻@PINK

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普通にエターなってました


35.翼の秘密

「色々、大変だったねぇ……」

 

定食のサラダを一口食べて、シャルがしみじみとそう言った。

“暮桜”擬きを沈黙させた俺達はそのまま教師達の保護を受け、学生寮に帰宅――――と言うわけには勿論行かず、今回の件についての事情聴取が待っていた。“VTシステム”のダメージがあるラウラは医務室にて、それ以外の俺と一夏、シャルはそれぞれの教員が個別の部屋に案内して事情聴取を行った。

因みに俺の相手は千冬さんだった。ここまで来ると逆にやり易くすら感じた。実際お互いに遠慮なしに進めたおかげで、三人の中じゃ一番早く終わった。

だがしかし、それで解放してくれないのが千冬さん。身内という事で未だ学園内に残っていた楯愛の元に連れていかれ、倉持技研に大人しく戻るように説得をする羽目に。

護衛として着いていたらしい刀奈も、生徒会長として来賓達への対応に追われていなくなってしまっていた。故にあの自由な妹をどうにか出来るのは俺だけというわけだった。

夏休みになったら一緒にデートをする事やら、ビデオ通話の連絡を頻繁に入れる事やら、色々な約束を交わしてどうにかご機嫌を取り、漸く帰る事を了承してくれた。俺よりよっぽど交渉事が上手な妹だった。

そうして解放された頃には既に夜になっており、食堂で夕食を取っている生徒は俺達の他に数人しかいなかった。

 

「まさかトーナメント中止だなんてな。折角決勝戦まで行ったのに、決着を付けられなかったのは残念だ」

「何言ってるんだ、優勝はお前達だろ」

 

ラーメンのスープを飲み干して残念そうに言う一夏へそう答えると、一夏は目を剥いた。

シャルも似たようなリアクションをしているのだが、こっちはこっちで何だか違う驚きを抱えているような。

 

「あの時教員は試合は中止だとは言ってなかった。つまり、まだ試合は続いてたって事だ。先にISを解除したのは俺とラウラ。結果だけ見れば試合放棄だろ」

 

別に俺は他の女生徒が優勝しなければ誰が優勝しようと構わなかった。

ラウラとペアを組んだ条件を満たす為にこのトーナメントを勝ち上がっていただけで、言ってしまうならこの決勝戦が始まった段階で俺の目的は果たされていたのだ。

勝ちが欲しかったのならくれてやる。二人はラウラに勝つ事だけを見据えて、その為の努力を積んできたのだから。

まぁ、当然ながら一夏は納得いっていないようだった。俺の屁理屈を聞いた後、悩ましそうに頭を抱えている。

シャルはシャルで自らの頬に両手を当ててどこかにトリップしていた。こいつ、やっぱり戦闘の時に頭でも打ったんじゃないだろうか。

 

「ボーデヴィッヒはあの“零落白夜”で沈められた。その後の楯無の攻略もシャルルと詰めてたんだ。あとはそれがどこまで通用するかの世界だったのに……!」

「それを俺の目の前で言うのか……。俺、ラウラが墜ちたらさっさと降参してたぞ。決勝のカードが俺達四人になった時点で、俺の目的は達成してるし」

「何でだよ、楯無なら俺とシャルルでも一筋縄じゃいかないだろ。寧ろ勝ち筋の方が少ない……悔しいけど」

 

今度はぶすーっとした表情で拗ね始めた一夏。相方は変わらずトリップしたままだ。

勝ちに貪欲なのはいい。何かに執着し、その為に努力して諦めないその姿勢は素晴らしいと思うし、それが一夏の真っ直ぐさを最も活かせる分野なのは分かっている。

唯、もう終わった事をここまで引き摺られると後々が怖かった。

 

「ま、対戦相手が認めてるんだから、今回はお前達の勝ちって事にしとけ」

 

結果に関しては納得してもらうしかない。俺は豚の生姜焼きの最後の一切れを口に放り込む。

しっかりと咀嚼して味を楽しんでいると、食堂に山田先生がやってきた。一夏の事情聴取担当だった筈だ。

誰かを探しているように周囲を見渡していたが、どうやら俺達に用があったらしい。俺達を見つけると、三人で囲んでいるテーブルの傍までやってきた。

 

「三人とも、ここに居ましたか。事情聴取お疲れさまでした」

 

なんて言っている先生が一番疲れているだろうに、俺達を気遣ってくれる。

俺としては公式に事情聴取してくれるだけ気が楽だった。世界最強との非公式タイマン事情聴取を入学一ヶ月にやらされるのは心臓に悪過ぎた。

山田先生の表情は楽し気だ。とっておきの事柄を秘密にしている子供の様にも見える。何か朗報でもあったのだろうか。

 

「今日は何と! 男子の大浴場解禁のお知らせです!」

 

つまり、こういう事らしい。

本当は大浴場の解禁は来月からだったらしいが、ボイラーの点検は既に終了しており、俺達の労う為に今日から特別に使わせてくれるそうだ。

確かに銭湯レベルの大きな浴場で風呂に入れるのは魅力的だ。現に一夏は大はしゃぎしている。

まぁ、俺としても嬉しいのだが。

 

「一番風呂は譲る。実はこの後、千冬さんに呼び出されてるんだ」

「千冬姉に? 取り調べは終わったんだろ?」

「取り調べはな。多分、お説教だと思うぜ。生徒の身で勝手な事したからな」

 

夕食が乗っていたプレートを持ち上げて、席から立ち上がる。

多分お説教ではないだろうけれど、こう言っておかないと一夏は多分嫉妬する。ハイパーシスコンだもん、こいつ。

盛大なブーメランが首を掻っ切った気がしなくもないが、痛くも痒くもない。妹は可愛くて大切。これは世界共通のルールだった。

 

「そうか……シャルルは?」

「僕も、今日は疲れちゃったから。軽くシャワーで済ますよ。大浴場は今度からのお楽しみだね」

「お、じゃあ約束だ!」

 

永遠に来ない今度の約束をして、二人も席から立ち上がった。

 

 

          ◇

 

 

一夏とシャルと別れ、俺は第三アリーナの管制室へ来ていた。セシリアとの決闘をした後に千冬さんに呼び出された場所だ。

当然そこには世界最強が待っている。こんな時間には当然他の人間は居ない。二人だけの甘くない時間の始まりだ。と言うか果し合いと言われたらその方が納得出来る。

 

「来たか」

「呼ばれましたから。事情聴取はもう終わりましたよね」

「表向きはな」

 

短く返された言葉に、やはりなと納得した。そして同時に嫌な顔を隠す事もしなかった。

 

「今から一時間前の話だ。ドイツの地図にも載っていない山奥に設立された研究所が、何者かに襲撃されたらしい」

「らしいって、随分と不確定な情報を気にするんですね」

 

そうは言ってみるが、公表されていないだけで事実なのだろう。

IS学園の情報網に流れてきた裏の情報。ともすれば機密事項と言えるそれを俺に話したという事は、俺に関する何かなのは間違いない。

そして、実際にそれは合っていた。ISコアが形成しているネットワークから、『ドイツの研究所が襲撃を受けた』と、ドイツの他の研究所にあったISのコアから流された情報を相棒が受信していた。

恐らくドイツの闇の部分は今頃てんやわんやだろう。

 

「犯人捜しながら、多分想像通りだと思いますよ。研究所レベルの防衛機能とプロテクト、物理と情報をこの短時間で単独突破出来るのなんか世界中探したって一人しかいないだろ」

 

俺の推測に、千冬さんは顔に手を当て「やはりあいつか……」と呟いていた。

 

「別に今回はいいんじゃないですか? 世間的に見れば、いい事の部類に入りますよ」

 

だって、地図に載っていない研究所で研究しているものなんか絶対に真面じゃない。

――――そう。たとえば“VTシステム”の様な、条約に違反するような代物とか。

言うなれば、兎の尾を踏んでしまったのだ。彼女の親友を模した紛い物を軽々しく創り出してしまった。結果としては恐らく世界の為であっても、彼女にとってのドイツの罪状はそれだけだ。

起きてしまった事は仕方がない。弟よりかは切り替えが利くのか、千冬さんは溜息一つで遺恨を断ち切った。

……いや、違うか。千冬さんにとっての本題はこれじゃなかったのだろう。

咳払いで無理矢理に会話を切り替えると、普段の鋭い目つきで俺を射貫く。

 

「さて、世間話はこれで終わりだ。お前も疲れているだろう。質問は簡潔に済ませよう」

「今の世間話かよ……。まぁ、それは助かりますね。些か、今日は色々あり過ぎた」

 

俺の首元のチョーカーを見ながら、千冬さんは短く問う。

 

「そのIS――――第何世代だ?」

 

予想は出来ていた。たとえ観客の目は多数誤魔化せても、ずっとアリーナの様子を監視していた千冬さんの目は誤魔化せない。

流石は世界最強。あの翼を見ただけで、何か引っ掛かったようだ。

隠す事は不可能だ。織斑千冬に詰め寄られて平然としているのは、どこかの兎くらいなものだろう。

俺はお道化るように両手を広げ、世界最強の観察眼を賞賛する。

 

「初めて第四世代型ISの性能を目の当たりにした感想はどうだ? 世界最強」

「やはり……か。束製のISと聞いた時点で、真面な性能をしているとは思っていなかったが」

「そう。束姉が開発した、攻撃、防御、機動、その全てに対応した特殊装備、“展開装甲”。それを搭載したISは、各国が目下開発中の第三世代の次のステージ、第四世代へ分類される。ま、“黒雷”の“展開装甲”は未完成な上に機動能力だけに機能を限定してるけどな。俺達には必要ないし」

 

“展開装甲”を形成しているエネルギーが不安定なせいで、移動するたびに“展開装甲”が剥がれ落ちる。それが俺が移動した痕跡である黒い帯の正体だ。

完成系の“展開装甲”は束姉が新たに開発している機体へ搭載される事だろう。

その機体が誰に渡される事になるかは……まぁ、大方予想は付いてるけれど。

 

「その姿が映らない程の驚異的な機動性。ギアを上げた後は私でも目で追うのがやっとだった」

「あれをハイパーセンサー無しで追えてる時点で人間辞めてるぜ。……あれはギアじゃない。上位のIS乗りなら誰でもやってる、瞬時加速だよ」

 

俺の言葉に、千冬さんは怪訝な表情を浮かべる。

 

「瞬時加速だと? あれの理屈を理解していないお前ではないだろう」

「そう。瞬時加速は放出したエネルギーをスラスターから取り込み、それを圧縮して放出する事で一気に加速する技術だ。一般的に連続使用は出来ないし、直線移動しか出来ない。無理に曲がろうとすれば、たとえISに乗っていても骨折等の負傷をする事だってある」

 

但し、と俺は一間置いて。

 

「放出用のスラスター、そして取り込む用のスラスター。その二つが独立して動き、無限に繰り返す事が出来たら?」

「無理だな。それが出来たとして、スラスターに送る分のエネルギーが持つ筈が――――まさか」

 

ご推察の通り。そう言わんばかりに口角を上げた。

 

「俺と“黒雷”の単一仕様能力。嘗て相対した千冬さんなら、知らない筈はないよな」

「……あぁ。包帯の乙女が得意としていた高機動戦。それを支えたのが、スラスターのエネルギーを外部から取り込むと同時に、高機動に耐えうるバリアを形成する単一仕様能力。その名も――――」

「“雷速黒閃”。“黒雷”の名前の由来だ。まぁ、俺達は一度も第二形態移行していない。これを本来であれば第二形態から発現する単一仕様能力として捉えるかどうかは、好きにしてくれ」

 

“展開装甲”をスラスターとし、本来のスラスターをエネルギー吸収口として使用する事で、放出と吸収を同時に行う機構を形成する。第一世代の“黒鉄”の時点では機体構成上不可能だった機構だったが、相棒が新たな姿に生まれ変わった事で可能となった。

俺の左目のナノマシンをハイパーセンサーとリンクさせて、IS同士の戦闘によってフィールドに放出されていったエネルギーを見る事が出来る。それが一定以上あるのなら、吸収したエネルギーを放出する事により、再び吸収する事が可能になる無限機構の完成だ。

 

「何? 第二形態移行をしていない、だと? “黒鉄”時代もか」

「そうだ。相棒曰く、俺と相棒の間にはそんなもの必要ない、だそうだぜ。俺も同意見だけどな」

 

俺自身も相棒にこれ以上の力を求めてもいないし、相棒こそ俺にこれ以上を齎す理由もない。

俺にとって相棒は、彼女を救う翼なのだ。相棒もそうである事を望んでくれている。

話はこれで終わりだろう。そう視線で問うと、千冬さんは何も言わなかった。

そのまま踵を返しても止められない。ならばこのまま帰らせてもらおう。

――――いや、そういえば一つだけこちらにも用件があった。

 

「……ラウラの容体、診てやったのか?」

 

振り返らずに問うと、「これから行く」と返事があった。

……まぁ、ラウラの捌け口になってくれと缶コーヒー一本で買収してきたぐらいだ。

嘗ての教え子が自らに憧れ、研鑽を重ね、その末に嘗ての自分を模ってしまった。その事実に対して、千冬さんも思う所は少なからずあるのだろう。

 

「説教は今度代わりに俺が受けてやる。……少しは褒めてやれよ。世界最強の背中を追って軍の部隊長にまで昇りつめた、頑張り屋で寂しがりな兎をさ」

 

きっと、お前に褒められる事が、ラウラにとっての一番の救いだろうから。

返事も聞かず、俺はその場を後にする。




次回は多分お風呂に入る
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